▼第十三章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第十三章「心の邪気」


彼女が家を後にしてから、リビングに沈黙が満ちる。

何を話せば良いのか、今回の任務を知らないリバルが居る中で打ち合わせをして良いのか、それともフェイトに何か話しかければ良いのか、頭を捻って考えるが、結局考えは纏まらなかった。

そして、その静寂を破ったのはミルクティーを啜る音だった。

音を聞いて反射的に音の方へ目を向けると、眼を閉じて非常に落ち着いた表情でミルクティーを口にしているリバルだった。

「何やら打ち合わせがあるようですから、私は席を外す事にしましょう。」

そう呟くと、ティーカップをソーサーに優しく置き、立ち上がる。

「ぁ、いやリバル、大丈夫だから別にわざわざそんな事しなくても…」

その様子に、フェイトが少し慌てて彼女を引きとめようとする。

「いえ、私はアルさんの部屋でのんびりとさせて頂きますので。」

軽く頭を下げて嘲笑うような微笑を浮かべ、アルの部屋、寝室へ入っていった。

結局彼女を引き止めることは出来ず、リビングは二人っきりになり、困った表情を浮かべる。

「もう、アルも何か言ってよ。」

「駄目だ。リバルは、そう簡単に自分の意思を曲げない奴だからな、俺が言ったって無駄だよ。」

頬を膨らませ、アルに必死に話すが彼は呆れた表情を浮かべ、ミルクティーを口にしながら話す。

リバルは、常に冷静沈着でしっかりとした女性として、周りからはよく言われている。だが、彼女は女性に比べればかなりの頑固者。自分が決めた事はやり通し、外野からの意見も一切聞かない程の頑固者である。

それをアルは、魔王として生き始めてからよく知っている。

それに比べて、フェイトは彼女との付き合いはないとはいかないが、機動六課で一年間共に戦ってきたが、それほど親しく話した覚えは無かった。

そして、アルの言葉を最後に少しばかりまた沈黙が、リビングに広がる。

「じゃあ、再調査の日にち、決めようか。」

今度沈黙を破ったのはアルだった。そろそろこの沈黙に耐えられなくなったのだろう。

お互い、残り少ないミルクティーを飲み干し、顔が強張った表情へと変わる。

「今日、レキとワタルが今回の調査したモノと、銀色の髪をした悪魔、レイルとの戦闘データも解析している。今日中に終わると思うが、一日ぐらい空けといた方が身体を休めると思うから、再調査日は明後日にしようかなと思ってる。」

しわを寄せて、自分の意見を述べる。

「うん。そうだね、私もそんな感じかなって思ってたんだ。」

フェイトもアルに近い考えを持っており、彼の意見を否定する理由は無かった為、微笑みながら首を縦にコクりと頷いた。

日にちが決まり、後は無限書庫で得た老王や老王の心臓についての情報を話す必要があると思い、口を開いた。

「今日、ヴィヴィオに頼んで無限書庫まで一緒に行って、色々と調べてきた。」

そして、モニターをいくつか展開する。そこには、今言った無限書庫での調べたものを整理したものだ。

それを全て話すかのように、アルは丁寧に一つずつ彼女に話し始めた。


─────Devil Tear──


夕方のDevil Tearは、夜とは違う静けさを放ちながら構えている。その店長、マスターを務めているレキはデータ解析が終わり、店に戻り一人、カウンター席に座って水割りが入ったグラスを傾けていた。

静寂の中で微かに聞こえるのは、グラスを傾けた時に氷がグラスと擦れる音だけである。

店内は灯りは点けておらず、夕陽の光だけが店内を照らしている。

そんな薄暗い店内、レキはカウンターの隅に置かれている写真立てをちらりと見つめる。そこに映るのは、いつ撮ったか忘れてしまったゼスト隊の集合写真。

少しばかり見つめた後、グラスを再び傾けると通信が彼の元に入る。

グラスをカウンターへ置くと、モニターに指を触れると、回線が開く。モニターには、映像というより真っ暗のままだ。これが、以前アルが此処を訪れたときに話した匿名の者だった。

「珍しいな、夕方に連絡を入れるなんて。という事は、王様はお昼寝中かな?」

ほろ酔いしたレキは、にやけた口をしながら肘をカウンターに付け、手のひらで顎を支えながら話す。

「ああ。自宅には誰も居ない。打ち合わせをするなら、早めにやっておく必要があると思ってな。」

モニターからは、何処か聞き覚えがある声が流れる。打ち合わせというのは、匿名が今回の悪魔と金髪の女性の出現によって、匿名側としても何かあるのだろうか。

「エイムズの調査、ご苦労だった。情報によると銀髪の悪魔と金髪の女。あの二人は何者だ?」

匿名が訊いているのは、レイルとベアトリーチェの事だろう。

「自称、遺跡調査と観光巡りだそうだ。あれは、嘘だな。現在、エイムズは局員以外立ち入りが禁止されている。にも関わらず、彼らがエイムズに居続けても管理局は動かない。これほど怪しいものは無いだろ?」

そう話すと、真っ暗なモニターから微かに、ふふふ、と笑う声が聞こえる。

「と言うと、彼らに何かあるという事だ。もしかしたら…」

グラスを傾けながら、彼の言葉を聞くとグラスを傾けるのを止め、カウンターに置くと顔が強張る。

「もしかしたらって、まさか。」

匿名が話したのは、レイルとベアトリーチェが今回の件に多く関わっているのではないか、というものだった。

確かに、エイムズという世界は、植物などの生き物は例外とし、人間はおろか鳥などの生き物は存在しない。自称、遺跡調査と観光巡りの者とは言え、エイムズに居るというのはあまりにも不自然だ。

「明後日、再調査に行くと王様が仰っていた。その際に出来る限り、確かめてみたらどうだ?」

何処か怪しげな口調で、勧める匿名。

レキは、再調査の際再び彼らと対峙し、戦うことになると予想していた。というより、自ら彼らを見つけ出し、叩きのめすつもりだ。

彼らが今回の件に大きく関わっているかどうかは、その後でも可能だと思った。

「そうだな、もし彼らが今回の件に関与して、心臓について何か知っていて、まさかとは思うがその心臓を持っていたとすれば…」

「まぁ、まずは彼らと再度接触しないと話しにならん。王様がお目覚めになる前に、失礼させて貰うよ。では、良い朗報を期待している。」

そう言い、少し強引でもあったが通信は切れた。匿名側にも、何かあるのだろう。

モニターも消し、再びグラスを手に取り、一気に飲み干した。怪しい笑みを浮かべながら…


そして、アルの自宅にはヘレンが帰宅していた。

レキからの連絡によって、陸士108部隊の隊舎を訪れていた彼女。

疲れた表情を浮かべ、リビングへ向うとソファーで昼寝をしているアルの姿があった。心地良さそうに寝ている彼の表情を見て、疲れた表情が一瞬解れる。

それでも、彼女はため息を零しながら寝室へと向い、私服に着替える。

すると、ヘレンの気配を察したのか、アルが目を覚ます。まだ寝足りないのか、眠そうな表情をしながら起き上がる。

少しして、私服に着替え終えたヘレンがリビングに戻ってくる。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

起こさないつもりだったのだが、起こしてしまったのかと思い、申し訳無さそうに話す。

「いや、少し寝すぎた。お前が出かけてから、一時間ぐらい話してフェイトを見送って帰宅したら急に眠くなってきてな。気付いたら寝てた。」

そう話しながら、洗面所へと向って顔を洗い、眠気を吹き飛ばした。

そして、リビングに戻るとあることに気付いた。リバルの姿がない。

「あれ、リバルは?寝る前までは居たと思ったんだが…」

「アルが寝ちゃって、あきれて帰っちゃったんじゃないの?」

少し驚いた表情で、辺りを見渡す。だが、何処にも彼女の姿は見られなかった。

そんなアルを見て、少し呆れ顔で話すヘレン。

「まぁいいか。で、ヘレン。ワタルと会ってきたんだろ?何してきたんだ、結構疲れているようだけど。」

そう訪うと、ヘレンは何かを思い出したか、とても暗い表情を浮かべる。余程何かあったのだろう。

嫌な表情を浮かべながら、彼女はゆっくりと口を開いた。

「模擬戦をしてきたの。ワタル君、何か焦っていたような感じがしていたけど、何かあったの?」

それを聞いたアルは、顔が強張る。

レイルとの戦闘によって、致命傷を二度も負ったワタル。

ヘレンが話した何か焦っていたような感じがした、というのを聞いて彼に対して不安を抱く。

「まぁな、だけど心配するな。」

詳しい事は話さなかった。今回の件については、リバルやヘレンにもあまり話していないからだ。

「そう、なら良いけど。聞いたよ、明後日また調査に行くんだって?」

その瞬間眼を見開き、驚いた顔でヘレン顔を見つめる。

誰かに盗み聞きされた?盗聴か、それとも何かが漏れたのかと思い、焦りを感じた。

「おい、それを誰から聞いた?」

両手で彼女の両肩を押さえ、問い詰めるアル。

だが、それに対してヘレンを首を傾げてこう答えた。

「リバルだけど。」

それを聞いた瞬間、やっぱりというのと、聞かれていたのかという思い、呆れた表情でため息をして両手を話した。

フェイトとの打ち合わせの際、彼女はアルの寝室へと入って行き、扉を閉めていた為何をしていたかは分からないが、盗み聞きされていた。

「老王についての調査らしいね。私は何も出来ないけど、頑張ってね。」

「ああ、大丈夫さ。単なる調査だ。」

そう話すと、ソファーへ腰掛け、ポケットにしまっていたタハゴとジッポーライターを取り出し、タバコを口に咥えて火を点ける。

悪魔と金髪の女性、レイルとベアトリーチェ。アルはその二人へある疑いを抱きながら、タバコの煙を味わった。



次回予告

「Devil&Woman」


あとがき

ご愛読、有難う御座います!
今回も苦手なほのぼの系でありますが、やはり難しいものですね
気付いたら、お姉さんみたいなキャラへと変貌しているヘレン。
StS編だと、全然違うような気がしてなりませんw( -ω-)
匿名が今回、初登場です。今までは名前だけでしたから。
とは言え、名前と言っても匿名ですがw(・∀・)
さて、次回は悪魔と女性のお話。
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