▼第十四章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第十四章「Devil&Woman」


─────エイムズ──


生き物の鳴き声も響く事も無い、静寂が支配する世界に一つの魔法陣が現れる。

すると、瞼を閉じた男女が魔法陣に集合する光と共に現れる。レイルとベアトリーチェである。

生き物が存在しないこの世界で、食事は予め何か持ち込まないと不可能だ。その為、わざわざ二人は世界転移で最も時間が掛からず、人間が住んでいる場所に転移して食事して戻ってきたところだ。

めんどくさいと思うが、この二人にはもうそれが普通となってしまっている。

二人は、瞼をゆっくりと開け、周囲を確認するとゆっくりと歩み始める。

「ねぇ、レイル。ちょっと聞いていい?」

彼に顔は向けず、ただ前方に映る綺麗な草原とそれに繋がる山々を見つめている。

それをレイルは、瞼を閉じてただ無言で聞き入れる。

「あの人達は、また来るのかな?」

その問いに、簡単に応える事は出来なかった。

恐らく、いや、必ず彼らは再びやってくると、レイルには予想がついていた。

それをベアトリーチェに素直に話して良いのだろうか。

だが、気にする様子もなくベアトリーチェは、彼の返答を待った。

「来ますよ、必ず。」

瞼を再びやっくりと開くレイル。その瞳は、闘志が宿っていた。

それを聞いたベアトリーチェだが、嫌な顔一つもせず彼をリードするかのように前方を速歩きで歩く。

「じゃあ、あの時なんでレイルは先に襲い掛かったの?」

彼女の問いが続く。前にも同じ事を訊かれた覚えがある。此処を去る時、しっかりと説明しようと話したが、彼女は我慢できなかった。

自分を狙う者と自分達がどんな関係で、狙われる理由が知りたかった。

顔が強張りながらも、ただ前を見つめながら歩く。

「──死神。」

彼が口に出したモノは、「死神」という単語。

呟いた彼の声に、ベアトリーチェは何か疑っている表情で彼の方を向く。

「死神?」

死神が何だと言うの。

レイルの言葉の意味が、分からない。

神話やタロットに登場する死神が、何だと言うのか。

「あの二人は、死神です。」

ベアトリーチェは、立ち止まっておもわず目を見開き、彼の顔を見つめてしまう。

何を言えば良いのか分からず、驚きが身体を縛りつけ、口や身体が動かない。

だが、レイルは立ち止まるが話すのは止めなかった。

「私は以前、あなたに話した通り、人の姿をした悪魔です。そして、その悪魔を殺し、生きる糧と変えて生きている者。それが、死神です!」

何処か悔しそうな表情を浮かべながら、絶叫に近い悲鳴をあげる。

その悲鳴に、ベアトリーチェを縛り付ける驚きが吹き飛び、我に還る。

「時空管理局という組織は、確かに次元世界から質量兵器の根絶やロストロギアの規制。各次元世界の管理。ですが、何故そのような組織に死神が居るんですか。」

死神に殺される、狩られる。

殺される恐怖がレイルに襲い掛かる。いや、殺されるのではなく、ベアトリーチェと一緒に居れなくなるという恐怖。

「私達は、いつも悪魔から追われ、逃げて、逃げ続けてきたけど。今度はそうは行かないの?」

レイルは瞼を閉じ、歯を食いしばりながら首を横に振る。

彼が殺されれば、次は自分が襲われる。悪魔ではないが、何をされるか分からない。

逃げても、次元世界を管理する組織に所属しているなら、追跡も十分に可能。逃げなれない。

「だから、殺される前に彼らを殺そうとしたのね。」

ようやく、分からなかった事を知る事が出来、嬉しい反面知らなかった方が良かったものも分かってしまい、表情は複雑だ。

だが、あれほど荒々しくしていたレイルだが、心の中ではほっとしていた。

確かに、死神という存在は恐ろしい事には変わらないが、負けるつもりは無い。数々の悪魔と渡り合ってきた彼は、負けるつもりなど少しも無かった。

そして何よりも、軽い芝居のお陰で彼だけが知る真実を話さず、最悪の事態にならずに済んだ事だ。

「大丈夫です。次、彼らが現れたとしても、私は負けません。あなたの為にも。」

そこには、もう死神に恐れていたレイルの顔は無かった。

何故なら、彼は恐れないと心に誓っている。笑顔で応えるベアトリーチェに、何処か嘲笑うような笑顔で応えた。


─────陸士108部隊 隊舎──


隊舎の近くに設けられた訓練スペース。すっかり日が沈み、夜の訓練の為に設けられているライトが訓練所を照らす。

その中央付近に、上半身裸であぐらを組んでいる男性が一人。その男は、身体中から汗を引き出し、息も荒くとても辛い表情だ。

男はゆっくりとあぐらを崩し、立ち上がる。側に置かれていたタオルを手に取り、首に掛けると訓練所を後にする。

隊舎に戻り、シャワーを浴びて制服に着替えた彼は、フロアに設けられている椅子に腰掛ける。

背もたれに寄りかかり、瞼を閉じて深呼吸し、瞼を開けると目の前に紙コップを持ち、こちらに差し出している女性の姿が眼に入る。

「お疲れ様ですワタルさん。どうです、久しぶりのこっちでの訓練は?」

女性は、制服姿のギンガ・ナカジマだった。

ワタルは、笑顔を浮かべながら紙コップを受け取り、コップを口にする。清水のすっきりとした味が、口の中に広がる。

「有難う御座います、ギンガさん。わざわざ模擬戦のために使わせて貰っちゃって。」

そう、彼は今日ヘレンを呼び出して、模擬戦を行っていたのである。

既に此処、陸士108部隊を除隊している彼だが、今回は部隊長ゲンヤ・ナカジマに特別に許可を得て利用していた。

「いえ、それを言うなら父に言って下さい。」

笑みを浮かべながら、言い返す。

「にしても、ヘレン二尉と模擬戦なんて、どうかしたんですか?」

デスクワークしながら、ちょこちょこ、と窓を覗いて見ては、模擬戦の様子を伺っていた。

機動力がとり得の二人が模擬戦を行うという事は、かなりスピード感が高い模擬戦なるというのは分かっていた。それが、ワタルがヘレンを呼び出した理由でもある。

銀髪悪魔レイルは、自分と同じ機動力で勝負している。その為、機動力を主に戦っている者同士が戦うことは、長いこと生きていた彼にも、そんな経験は無かった。

だから、ヘレンを無理やりでも呼び出した。機動力を主にして戦っている者同士、どう戦えば良いのか生み出す為に。

「はい。今行っている任務で、丁度今日と明日は休みとなっていますが、自分と同じ機動力で戦う相手と戦いまして、どうやり辛くてしょうがなかったんです。ですから、その対抗策を考える為に、今日は訓練所を借りて、ヘレン二尉まで来て貰って模擬戦をして貰ったわけです。」

「で、何か考えは出ましたか?」

ギンガの問いに、まるで勝利を確信したかのような笑顔で首を力強く縦に振った。

機動力が高い相手への秘策、それは今までのワタルの戦いを大きく変えるものだった。

その考えを生み出すまでは、悲惨だっだが、勝利の為なら手段を選ばない彼の考えは、ヘレンとの模擬戦で勝利へと導く事に成功する。

だが、それがレイルに通用するとは限らない。彼に効果的ではなかったらと考えると、諦めて以前と同じように戦うと考えていた。後は、気持ちの問題だと。

「大丈夫です。この俺の速さに付いていける奴なんて、居ませんよ。」

そう言い、空の紙コップを握りつぶし、椅子からゴミ箱へ投げ込み、紙コップは吸い込まれるかのようにゴミ箱の中に入っていった。

ヘレン本人が話していた、焦りはもう彼には無かった。自信に満ち溢れる表情は、普段の彼の表情だ。

だが、心の中では早く刃を交えたい思いと緊張感が彼の心を引き締める。

そんな嬉しそうな表情に、ギンガも自然と笑っていた。



次回予告

「美女と野獣」


あとがき

今週は書く余裕が限られてましたから、SSは当日に書き始めて当日で書き終えました。
書きなぐりですね。ちょっと久しぶりに、挫折しかけましたが、無理やり仕上げましたw
今振り返ると、やはり短いですね。SSにしては…
レイルとベアトリーチェのサイドでは、ほんの一時の会話だけですからね。やってしまった感がたっぷりです(ナニ
一通り、休日に書くものは書いてしまったので、あと一日どうしようかなととても悩んでますw
シリアスサイドでは、頭の中で色々と描けてますので、スラスラっと書けそうですが、ほのぼの系ですからね、大変です、、、
あと、一章二章を書けばシリアスに突入ですから、頑張りますw
次からシリアスに突入前、という感じてもいいんですよね。そうすると、休日の一日がほとんど書かない事になってしまいますが、それは考えて判断します。
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