▼第十八章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」第十八章「対峙」
真っ白で殺風景な部屋で、アルは一人の男と対峙していた。
外見は自分に良く似ている。だが、自分ではない。そう、約十年前『闇の書事件』で初めて出会ったあの男と。
「シャドー。」
アルは、自分の目の前に居る男の名を呟いた。その表情は、まだ信じられない要す。
シャドー。『闇の書事件』で初めてアルの前に現れたもう一人の自分。その正体は、彼の影が実体化したものだった。
『闇の書事件』では、彼が今真相を求めているバンプ・クライアントの影(亡霊)。『A,V事件』でアルの影が実体化したモノと刃を交え、死闘の末彼らを撃破し消滅したはずだった。
だが、再び彼はアルの目の前に現れた。微笑を浮かべながら…
「どうした王様、そんな驚いた顔をして。」
シャドーは、自分そのものと言えるアルに対し、王様とわざわざと呼び方を変えて話しかける。
「どうしたではない。何故貴様が、ここに居る。」
険しい表情を浮かべながらも、心の中は冷静だった。
彼がいずれ、自分の前に現れるとは分かっていた。
だが、何故この時に現れたのか、きっと今回の件について何か知っているのではないか。そんな変な期待を持ちながら、彼に問いかける。
「それはこっちの台詞だ。ここは俺の部屋だ。どうして、あんたが居るんだ?」
俺の部屋。
(光を消さない限り、影は消えることは無い。)
『A,V事件』で彼が最後に言った言葉が、アルの脳裏に蘇る。
彼は何時しか、再び自分の影として蘇った。という事は、この部屋は自分の中、それとも自分の影の何処か、考えても考えは纏まらなかったが、ここが異世界や誰かの体内でも結界の中でもなく、自分の中の何処かで造られたモノと分かった。
「という事は、お前が望んで俺をここに呼んだ訳ではないという事か。」
独り言のように呟きながらも、彼に問いかける様な口調で話す。
「そういう事。しかし、あんたにはもう一度会いたいと思っていた。それに、話したいこともあったし。」
それを聞き眼を細めて、彼の話を聞き続けた。
「何をだ?」
「老王の心臓の事についてさ。」
にやけた表情でそう話すと、アルの細い眼が見開く。
心のどこかで予想していたかも知れないが、まさか本当に口にするとは思えなかった。
「貴様の狙いも、老王の心臓か。一体何を企んでいる?」
彼のにやけた表情に対して、アルの表情は険しくなる。
数多くの彼の陰謀や計画を知っているアルは、目的が同じとは言え、容易に協力を要請する事は危険と感じていた。
「目的はただ一つ。奴を抹殺するだけだ。」
久々に聞いたシャドーから放たれた、殺伐とした言葉。
その中で話した『奴』という単語。老王の心臓に関わる者の名と思える為、少しばかりか興味が沸く。
「奴、奴とは誰だ?」
新たな質問を問うと、シャドーは上に向けられた指先をアルに向って掲げ、それを左右に振って彼の問いを受け入れようとしない。
「──駄目だ。それ以上は話せん。」
そう話すと、彼に向って背を向ける。
「だが、王様が困ったときは、助けてやっても良いがな。」
にやけた口で呟くと、彼はゆっくりと部屋の壁に向って歩いていき、壁を通り抜ける様に、彼の姿は消えていった。
そして、アルは再び部屋に一人となった。
困った表情で頭を掻くと、バリアジャケットの左袖をめくり上げ老王の左腕を見つめる。
人と腕と変わらない肌と色を持ち、今考えるとこの腕に破壊する力を秘めているとは考えると、やはり自分は人間と少し違った者なのだと思えてしまう。
心の中でそう考えていると、突然老王の左腕が朱色の光にうっすらと包まれる。
そして、その光は老王の腕全体を包み込むと、突如強烈な光が目の前に広がる。
再び、ここが何処なのか分からない空間へと、転送されたアル。
先ほどの真っ白で殺風景な部屋とは違い、殺風景というのには変わりないが、赤く染められた部屋が辺りに広がる。
すると、目の前にベアトリーチェの姿を捉える。周りを見渡し、落ち着かない様子をしている。
先ほどの部屋で、驚く事は無くなり平然とした表情で、彼女の元に歩み寄る。
「ぁ。」
歩み寄ってくるアルに気付いた彼女は、見つめたまま小さな声を漏らす。
「ベアトリーチェさん、でしたっけ?」
壁画の間で出会った彼女。お互い名乗りあったが、念のために名を確認する。
その問いに、ゆっくりコクりと頷いて応えるベアトリーチェ。
「何故、こんなところに?」
「そう言うあなたも、何故ここに?」
アルの問いに、問いで返す。
お互い、ここが一体どこなのか分からない状況。だが、今お互い疑問に思っている事は、何故自分以外の者がここに居るのかという事。
「まぁ、色々と訳ありで。実際、自分もよく分かりません。」
シャドーと遭遇した真っ白な部屋でさえも、実際どこなのか分からずにここに来てしまった為、分からなくても無理も無い。
彼女の問いに、困った表情で応えがそれを聞いたベアトリーチェは、少し俯いてしまう。
(彼女が居るとしたら、何故フェイトが居ない?)
壁画の間で共に居たのは、彼女とフェイト、そして自分の計三人。にも関わらず、この空間に居るのはフェイトを除いた二人だけである。
辺りを見渡しても、フェイトの姿を見つける事が出来ないため、彼女に対しての不安が募る。
「あの」
俯き加減でも、見上げるようにアルに話しかける。
「はい?」
「あなたの隣に居た女性は、居ないんですか?」
アルが考えていた事は、彼女も同じだった様だ。
再び、腕を組みながら周りを一巡りするが、彼女の姿はない。
「あぁ、気付いたら自分一人でしたから。どこに居るのか、検討がつきません。」
不安な思いをしているのは分かっているが、この状況ではポジティブな言葉さえ出てこない。
だが、これ以上不安を抱かせない為に、アルは優しく彼女の両肩に手を置く。
「一緒にここから出る方法を探しましょう。そう気を落とさないで下さい。」
と、少し無理がある言葉だが、これが今この状況でアルが彼女に言える精一杯の言葉だった。
それを聞いた彼女は、少し驚いた表情で彼の顔を見つめ続けて、はい。とゆっくりと頷いた。
だが、その方法を探す必要は無かった。彼女が返事を返したとき、再び老王の左腕が光り始める。
(ん、またか。)
先ほどと同様に、老王から放たれる光はアルの身体を包み込み、アルの意識はぷつりと途切れた。
だが、彼女は違った。
ベアトリーチェは、その老王の左腕から放たれる光を見ると突如、心臓が熱くなる。
今まで経験した事が無い熱さと痛みに襲われ、両手で服の胸辺りをしがみ付くように握って、その場に倒れ込んでしまう。
そして、その熱さと痛みに耐えられずに、彼女も気を失ってしまう。
彼女は知らなかった。まさかこれが、これから続く悲劇の序章だったとは。
壁画の間で、アルはゆっくりと意識を取り戻し、瞼をゆっくりと開ける。
目に映るのは、こちらを心配そうに見つめるフェイトの姿。それを見たアルは、驚いた表情で眼を見開く。
「あ、大丈夫!?」
意識を取り戻したアルに対して、慌てた表情だが嬉しいそうな笑みを浮かべて話しかける。
「ありがとう、フェイト。俺は一体?」
自分が覚えている範囲では、ベアトリーチェに何か話そうとした時に強い閃光に包まれ、真っ白の空間に転送された事。
だが、少しばかりか自信がない為、側に居てくれた彼女に問い掛ける。
「アルと私が、彼女と話をしている時に、アルが何か話そうとしたら突然、二人とも倒れちゃって…」
その時を思い出し、不安げな表情で状況を説明する。
「そうか、心配を掛けた。もう大丈夫だ。」
不安げな表情に対して、微笑みを浮かべてフェイトを安心させようと、ゆっくりと立ち上がる。
しゃがんでアルとベアトリーチェの容態を見ていたフェイトは、アルと共に立ち上がると気を失っているベアトリーチェの様子を伺う。
「フェイト。俺は気を失っている間、シャドーと会ってきた。」
「シャドー?シャドーって、あの?」
気を失っている間、アルに何があったかは分からない。だが、耳を疑わせるような言葉に、驚きを隠せない。
フェイトの問いに、アルはコクりと頷いてみせた。
「信じられないかもしれないが、奴は存在する。あの時(A,V事件)奴が、最後に話した言葉。それは現実となった。そして、今回の奴の狙いは、俺達と同じ『老王の心臓』だ。」
「そんな。でも、何の為に?」
「分からない。でも、奴を抹殺する。彼はそう言っていた。だが決して、それは誰なのかは教えてくれなかった。」
今考えれば、シャドーはアルによって撃破され、消滅したモノ。
そんな彼が、復活したとは言え撃破された者に情報提供などするわけがない。それ程生易しい者ではないと、アルは改めて痛感する。
無論、彼がもし情報提供をするとしても、情報自体は信用できると思うが、何かしら利用されるに違いない。
これから、調査や事情聴取があると思われるが、その中でシャドーの出現に何か強い不安感を抱く二人だった。
次回予告
「邪気解放」
あとがき
お久しぶりで御座います。今回も、ご愛読有難う御座います。(´-ω-`)
一週間空けて、二週間ぶりの更新となりました。
試験勉強の真っ最中なのですが、休憩を挟んでいるときに、ちまちまと
書いていましたので、それほど時間を潰す事も無く、完成しましたw(*・ω・)
今回は、シャドーが登場という事で懐かしい感じがします。
元と言えば、初期のSSからシャドーは登場していましたから
StS編では、ケロベロスに枠を取られてしまいましたので、久しぶりの登場ですw
やはり、老王や魔界に関しては彼が当時しないといけない感じもしますからね
今後、どう関わってくるか楽しみにしていてください!(`・ω・´)
これから、また試験勉強はあるのてせ、忙しくなってきます。
まぁ、身体を壊さないよう気をつけながら、頑張っていきます。
では皆さん、次回をお楽しみにです〜