▼第十九章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第十九章「邪気解放」


─────エイムズ 上空──


時は少しさかのぼり、壁画の間から逃走したレイルを追いかけているレキとワタル。

上空を飛翔魔法で飛んでいるレイルは、身体を左に傾けると旋回するように降下していき、森林地帯へと姿を消した。

「このままじゃ、逃げられるぞ!」

「そろそろ仕掛けるか。」

慌てた口調で焦りを見せるレキの言葉を聞き、二人も彼を追いかける為に降下していく。

そして、森林地帯の地上に降り立つとすぐに、ワタルは絶影を前に掲げて口を開く。

「封鎖領域、展開」

結界を展開する魔法を発動させ、半球型の結界が展開されていく。

それは、逃走をしていたレイルを追い越し、彼と二人が丁度入りきる範囲まで広がった。

結界に気付いたレイルは、ふと足を止める。

「結界。どうやら、私は追い込まれた獲物のようですね。」

そう呟き、両手を強く握り締めると、手の甲から太くて鋭利に尖った大きな爪が一本生える。

そして、ゆっくりと今まで来た反対方向に向き、彼らを迎撃する為に歩き始めるのであった。

二人は、結界を展開し終えると、それぞれの派系形態へとデバイスの姿を変え、再びフードを被り森林の闇の中に消えていった。

レイルは、ゆっくりとした歩調で森林の道なき道を歩いていた。首と顔を左右に動かす事は無く、瞳だけがあらゆる所を見つめ、狩猟者を探す。

歩いていると突然、ピタりと足を止める。何かと思い、足元に眼を向けると足元にひかれた黄緑色のセンサーが、足に通っている。

(トラップ!?)

油断していた訳ではないが、迂闊だった。光によって黄緑色は、少しばかり見にくい。

そう心の中で呟いくも、左右から紫の魔力弾が数発迫る。反射的に後ろに後退すると、お互いに魔力弾はぶつかり合い、綺麗な光となって消える。

だが、それだけでは終わらない。今度は背後から、朱色の魔力弾が三発が森林から現れる。振り向くと、魔力弾はすぐそこまで迫っており、レイルは再び後ろに後退すると魔法陣を展開し、それを受け止めると小さな白煙が彼の周りを包み込む。

白煙が晴れる前に、レイルは魔力弾が現れた方向へ魔力弾を数発お返しする。それは、相手にダメージを与える為ではなく、森林の奥に潜む狩猟者をおびき出すためである。先ほどの、トラップによって現れた魔力弾の色は紫。だが、今の魔力弾の色は朱色。よって、それはトラップによって放たれた魔力弾ではないという可能性がある。

レイルの予想は正しかった。白煙が晴れると、森林の奥から全力疾走でこちらに迫ってくる男が現れる。彼の両手にはリボルバーナックルが付けられている。

レキは、お返しとして放たれた魔力弾を姿勢を低くしてそれを回避すると、カートリッジをロードし、排莢するとシリンダーを高速に回転させ、彼に急接近し殴りかかる。それを、手の甲から太くて鋭利に尖った大きな爪で迎え打つ。鋼の拳と大きな爪がぶつかり合い、激しい火花を散す。お互い引くことも無く、少しばかり間ができるが、レイルのとっさに爪を引いて回し蹴りを繰り出す。頭部に回し蹴りを受け、左の樹木へと吹き飛ばされ身体が激突し、地面に倒れ込む。

だが、レイルは何かに気付くように慌てて後ろに振り向く。すると、すぐ目の前までに迫っていた銀色の脚甲が、彼の顔面を捉えていた。とっさに何か行動をしようとしたが、それさえも狩猟者は許さなかった。まず右足が顎を蹴り上げ、そして左足の回し蹴りで彼の頬を捉える。そして、蹴った左足を一旦地面を踏み、縮ませるように足を引いて上げると。

「レイヌ、カートリッジロード!」

すると、踵に小さく設けられていたボルトアクション方式のカートリッジシステムから、ロードすると同時に排莢し、彼の腹部に瞬間的な攻撃力を強化された足裏が直撃し、吹き飛ばされ一旦地面に叩きつけられ、弾むように宙を舞い再び地面に叩きつけられ、その場に倒れ込む。蹴り終えた左足は、地面を踏むと脚甲全体から白い蒸気が吹き出る。

樹木に激突し、身動きが取れなかったレキだが両手を使って立ち上がり、走り出そうとする。

「レキ。」

ワタルが少し離れた場所から手を伸ばし、こちらに向って手のひらを見せて首を横に振った。尋問するというのに、戦闘不能にするまで危害を加える必要は無い。彼が口を開いてくれれば、それに越した事無い。それを見たレキは、しかたなさそうな表情を浮かべ、ゆっくりと歩いているワタルと一緒に、地面に倒れ込んでいるレイルのもとに歩み寄った。

彼のもとに着き、足を止めるとレイルは軽くため息を漏らすとゆっくりと身体を起こし、こちらを微笑を浮かべながら見つめる。

「流石は死神、完璧な狩猟でしたよ。」

「別に俺らは、てめぇを狩りに来た訳ではねぇ。そろそろ、色々と話してもらおうか。」

それを聞き、一旦瞼を閉じると手の甲から生えていた大きく鋭い爪は、身体の中へと消えていくと、再び瞼を開けて立ち上がる。そして、辺りを一巡り見渡し、樹の株を見つけるとそこに腰掛ける。

「お前、老王の心臓について、どこまで知っている?」

単刀直入の問いに、少し驚いた顔を見せる。彼らが一時帰還し、多少の事は調べている事は予想がつく。その為、でたらめは通用しないと判断し、口を開く。

「場所やある程度のことなら、全て。」

それを聞いたワタルは、首を縦に振ると片手を顎に当て、考え込む。

(やはり。だが、あまり深くまで聞き出すのは危険だな。)

彼が恐れたのは、真実と嘘が混ざり合った回答だった。確かに、彼は全て知っていると考えて良いかもしれない。だが、彼が全てを話すとは限らない。ワタルは、それを恐れた。

一方レキは、老王の心臓の事以前の前に、ある事が気になっていた。

「おい。老王の心臓はさて置き、何で金髪の連れを置いてきた。」

それは、ベアトリーチェの事だった。実際に彼女と眼を合わせた訳ではないが、彼の眼が薄暗い壁画の間の奥に隠れている彼女を捉えている。それはワタルも、彼女の存在に気付いていた。

(やはりお前も?)

(ああ。気になってしょうがなくてな。)

それを聞かれたレイルは、驚きを隠せない。レイルは、それについてゆっくりと口を開いた。

「王様と、彼女を出会わせるために。それには、私達のような部外者は居てはならない。」

最後の意味深な言葉に、首を傾げるレキ。自分たちは部外者。という事は、アルはベアトリーチェと出会う為に必要な人間とされている。彼の頭の中では、ここまでしか考えられなかった。

だが、それもあるがこの事について、彼は何か企んでいるとしか見受けられない。老王の心臓について、先ほど聞いたとおりある程度の事は知っている。そして、ベアトリーチがアルと出会う必要がある、という何か老王との関連性が高いと思われる。だったら、話は早い。まずは、アルに連絡を取る。そして、レイルを先ほどまで居た壁画の間まで任意同行してもらい、アルと彼が話し合う必要があると、ワタルは考えた。

しかし、もう遅い。

「何か考えているようですが、もう遅いですよ。もう、動き出した歯車は止められない。」

何か考え込んでいる二人を見て、レイルが話す。その表情は、とても満足気だった。


────エイムズ 壁画の間──


沈黙が辺りを包んでいた。

意識から目覚めたアルは、フェイトと共に居るが未だベアトリーチェは眼を覚まさない。彼が意識を失っている間に、彼女とどこか知らない場所で遭遇している。その為、より不安が大きい。

フェイトも彼女が不安になり、彼女の元まで歩み寄り、彼女の身体を手で起こして容態を確認する。顔色は決して悪くなく、これと言って異常なところは見られない。

一安心するフェイトだが、アルは決して安心などしていなかった。彼の手はエクスキューショナーの柄を握っており、その表情は険しい。

「アル?」

彼の異変に気付いたフェイトは、ベアトリーチェを抱かかえながらもアルに言葉を送る。そして、アルはふと口を開く。

「何かが、来る。」

再び辺りが沈黙に包まれる。

少しはがりしてその沈黙を破ったのは、何処からか聞こえる足音だった。その足音は、金属音が鳴り響き徐々にこちらに迫ってくる。

そして、足音をたてていたモノが壁画の間に姿を現す。その姿は、全身を黄土色の鎧に包まれ、同じ色の鋭利な槍を持った一人の騎士だった。

「誰だ、貴様は?」

相手が武器を所持している為、エクスキューショナーを鞘から引き抜く。すると、フェイトに抱かかえられていたベアトリーチェがゆっくりと瞼を開ける。

「っ!大丈夫?」

少し慌てた表情で、彼女の容態を心配するフェイト。何故なら、彼女の息が荒かったからだ。それだけではなく、胸を強く握り締め何か痛みを耐えているの様に見える。

「は、早く、離れてください!」

苦しみながらも、必死に話した彼女の言葉に理解できず、顔をしかめる。

そして、身体の中に残っている力を振り絞り、無理やりフェイトの身体を両手で押して彼女の元から、転がるかのように離れる。

一方、黄土色の騎士は、アルの目の前に立ち止まり突如と膝を付いてしゃがみこみ、口を開く。アルは不思議そうな表情を浮かべ、それを見下ろすかのように見つめている。

「今、長き眠りからお目覚め下さい。我が王よ、我らにご指示を!」

その時だった。

騎士がそれを喋り終わった途端、ベアトリーチェの容態が急変する。

彼女の中にあった何かが目覚め、胸。心臓部分が突如と熱くなる。その熱さは想像出来ないほどの熱さで、ベアトリーチェはその強烈な熱さに言葉を発する事すら間々ならなかった。

苦しむ彼女に、フェイトはどうすれば良いのか分からずただ眼を見開き、見つめていることしか出来なかった。

「アル!」

彼女の言葉に振り向くアル。そこには、熱さに苦しみ、身体が痙攣を起こしているベアトリーチェの姿だった。

アルは、すぐさま黄土色の騎士の胸倉を掴み、騎士を間近まで引き寄せ険しい表情で口を開く。

「貴様、彼女に何をした!?」

アルの問いに、騎士は口を開こうとせず、舌打ちすると騎士を突き飛ばす。

そして、突如ベアトリーチェから魔法陣が展開される。その魔法陣は、ゲヘナの魔法陣と全く変わらないものだった。魔法陣を展開する光を見た二人は、驚きを隠せない。

すると、ベアトリーチェは意識を失い、身体がピクりとも動かなくなり、何かに操られるかのように宙に浮くと黒き球体が彼女から発せられ、その球体は彼女自身を取り込んだ。

黒き球体は、徐々に大きく膨らみ始め、フェイトも恐る恐る後ずさりしてその場から離れる。

空は鉛の空へと変わり、暗雲も所々現れ始め、壁画の間には強風が舞い込んで来る。

球体はある大きさまで膨らむと、膨張が止まり魔法陣の大きさが変化し、巨大な魔法陣へと変わる。

そして、球体が砕けると騎士甲冑を身に纏った男が姿を現す。その男は、ゆっくりと降下して床を踏みしめると、俯いていた顔をゆっくりと上げ、こちらに向って微笑を浮かべる。

その顔を捉えた二人は、度肝を抜かれた。その男の顔を見たフェイトは、顔を引きつっていながらも口を開いてこう呟いた。

「ば、バンプ・クライアント…」



次回予告

「魔王」


あとがき
ご愛読、有難う御座います。そして、前回の更新と同じようになりますが、お久しぶりですw
身体はすっかりよくなったので、こうして更新できたのですが、実際前回も更新したかったのですが
前回のあとがきで言っていた、身体を壊したくないと言っていましたが、見事に体調に悪くなった為
更新を断念しました。。・゚・(ノД`)・゚・。
いまとなっては、ようやく良くなった感じですが、もう少しでクリスマス。そして年末。
これ以上体調は悪くしたくないですね。しっかりと、体調管理していきます…(´・ω・;)
そして、今回の更新についてですが、急展開がありましたので、次回は急展開の前というより、補足みたいな場面を書こうかなと思います。
そうしないと、少し急展開すぎて内容がいまいち、分からない人も居るのではないかと心配ですのでw
次は27日。コミケに近いですが、用事はないと思うので大丈夫だと思いますけどね。
健康第一。これに限ります…(´-ω-`)
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