▼第二十章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」第二十章「魔王」
私が彼と出会ったのは、時空管理局本局のとある廊下だった。私は、彼といくつかの言葉を交わし、廊下を後にした。
後に知った事だが、その後彼は己の宿命と決着をつける為に、ある場所へ向った。
その男の名は、アル=ヴァン・ガノン。
かつて、自分の出身世界を救った英雄。その一方、その世界を破壊しかけた犯罪者といわれる男。
彼の身体は、傷つきぼろぼろになっていた。それでもなお、彼は剣を取る。
全ては、己に課せられた宿命を断ち切るために。深い怒りと共に、魔王アル=ヴァン・ガノン。
彼に秘められた過去とは
私がアル=ヴァン・ガノンという人物を追い始めたのは、ある一つの本を入手したことがきっかけだった。
それには、あるモノの情報が書かれていた。
老王。
それは、アル=ヴァン・ガノンの出身世界である「魔界アルデバラン」の初代魔王バンプ・クライアントの身体の一部の事だった。
彼は、魔界では何も無かった場所から、この魔界を創り上げたという「全知全能」の力を持つ神話的な存在。
誰もがその名を知っている。だが、彼が存在していたのは三千年前にの事。彼がどのような姿をしているか、詳細を知る人物はあまりに少ない。
本当に存在していたかどうかさえ、不確かな存在。
だが、アル=ヴァン・ガノンとその友人達は、彼の実在を確信している。実際に、彼らは彼と会い。そして、言葉を交わしているからだ。
彼が亡くなったあと、自らの力を後世に受け継がせる為、身体の各部分を切断。それを騎士達に受け継がせた。それが、老王。
それ以外に、彼が行ってきた事、実績などの全てがこの本に記されていた。
このバンプ・クライアントの七代目の後継者。それが、アル=ヴァン・ガノンだ。
アル=ヴァン・ガノンは、幼少時代では家族三人暮らしていた。
だが、とある時魔界に住む魔族とそれに対立する魔物との、戦争が始まったのだ。
彼の両親は、優れた騎士として戦地に駆り出され、戦場にその命を散したと言われている。
幼くして両親を亡くした彼は、魔界騎士団通称『ゲヘナ騎士団』に引き取られ、とある才能を見込まれ七代目魔王としてその役目を真っ当する事になる。
─────エイムズ 壁画の間──
「ば、バンプ・クライアント…」
ベアトリーチェが発した球体から出てきた男の名を恐る恐る口にするフェイト。
それを聞いた男は、少し驚いた表情を彼女に見せて微笑を浮かべる。
「おや、執務官殿。我の名を覚えていてくれているとは、光栄だ。」
彼の言葉に、フェイトは耳を疑った。
自分が『A,V事件』で魔界を訪れ、彼と出合った当時、自分はまだ執務官にはなっていない。にも関わらず、彼は自分が執務官になっている事を知っている。
何故。という疑問が彼女の脳裏に過る。
「おいおい、老王の心臓を捜してこんなところまで来てみりゃあ、どっかで見た面じゃねぇか!」
そう話すアル。
アル自身。フェイトと同様、先ほどの疑問を思っていたが、今は何故彼が此処に存在しているのかが気になっていた。
そんな彼の言葉を聞き、バンプ・クライアントは両手を横に広げて口を開く。
「これは、これは。随分と大きくなられたな、七代目。」
一見嬉しそうな表情だが、どこか嘲笑う口調が聞き取れる。
アルをあえて’七代目’という呼び方で話す事に、アルは嫌味を感じた。確かに、自分は歴代の魔王で七代目だが、自分の名で呼ばれないのが辛い。
「一つ聞く。何故、フェイトが執務官になっている事を知っている?あの時(A,V事件)、フェイトはまだ執務官にはなっていない。にも関わらず、貴様はその後フェイトが執務官になったという事を知っている。どういう事だ?」
眼を細くし、鋭い目線と共に言葉を送る。それを聞くと、彼はなるほど。といった表情を見せ、口を開いた。
「ふふ。あの時(A,V事件)の私は、私ではない。言わば、彼は’複製’だ。」
「複製?」
顔をしかけるフェイトだが、彼の話は続く。
「お主の影が使用としたロストロギア、『バレン』を使用し我を作り出しただけの事。あのモノは、決して蘇らせる機能は備わっておらん。」
「という事は、あの時俺達が戦ったあんたは…」
「うむ。我ではない。ただの偽者といったところか。」
アルの訪いに、淡々と話を進めながら応える。
これによって、『A,V事件』でバンプ・クライアントは、事実上関係なかったという事になる。
だが、アルとフェイトは再びある疑問へとぶつかる。それは、先ほど彼がアルへ送った言葉にある。
大きくなられたな。彼はそう言った。だが、今話した彼の話は、あの時の私は偽者。という事は実際、ここにいる彼とアルは過去に会った事が無いという事になる。
「待て。なら、何でさっき俺の身体について、あんな事を話した。『A,V事件』であんたと実際に会っていないと言うなら、あの時の俺の身体なんて分かるわけが無い。それに、あんたは三千年前に死んでいる。にも関わらず、何故俺が七代目の魔王と分かった?」
一つの真実が崩れ、積み重なっていた真実が次々へと崩れ去っていく。
彼の訪いに、バンプ・クライアントがピタりと動きを止める。少し俯き、今まで笑みは消えて険しい表情へと変わり、口を開く。
「我は、悪魔で防衛プログラム。心臓へと送られる情報によって、我は全てを知る事が出来ている。」
(やはり。)
自ら、自分を防衛プログラムと話す彼に、アルはそう心の中で呟く。
ベアトリーチェの突然変異に近い変化によって、バンプ・クライアントと姿を変えた為、『闇の書事件』で融合事故から暴走した闇の書の意志が頭の中で重なり合う。
それは、フェイトの同じように考えており、防衛プログラムの限界もある為、あの時同様に彼をもし説得する事になるとそれは不可能に近いという事を意味する。
「という事は、やはり彼女の心臓が?」
質問が絶えず続くが、それに対しても彼は嫌な顔を見せず、コクりと頷いて見せる。
彼の応えにより、彼女の心臓が’老王の心臓’という事が明らかになった。だが、何故彼女の心臓が’老王の心臓’なのかという事は分からぬままだ。
「では、何故今になってプログラムが起動を?」
アルに変わってフェイトが質問する。
『闇の書事件』とは、大きく違うものがあるが、彼がプログラムという事を自ら明かしたため、一体何を目的としているか疑問を抱く。
その訪いに、バンプ・クライアントは万年の笑みでゆっくりと口を開く。
「お主らに、それを話す価値は無い。」
「どういうことだ?」
笑顔で話す彼に、アルは警戒心を抱き荒い声で訪う。
その笑みは、どこか危険なモノを感じさせるものだった。その為、フェイトも知らずにバルディッシュを構えている。
彼の訪いに、バンプ・クライアントは応える事も無く、白い魔法陣を展開する。それを見たアルは、フェイトに続いてエクスキューショナーを構える。
そして、笑みは無くなり、真剣な眼差しで口を開く。
「それを知ったところで、お主らはここで死ぬのだからな。」
ぼそ、と小さく呟くと地面を力強く蹴り、こちらに高速で迫ってくる。右腕には、白く半透明な魔力が包みこみ、手先は伸ばして魔力で造られた鋭い刃をしている。
アルもすかさず、彼に対して地面を蹴って迎え撃とうとするが、機動力に優れているフェイトが彼より速く前に出て刃と刃が強烈な金属音と共に絡み合う。
「っ!これは…」
激突した時に生じた衝撃波が、彼の右腕を襲う。
確かに、デバイスを持たない彼は、身体全身を使って戦わなければならない。だが、そのように身体を使って戦う事で身体への負担は、デバイスで戦闘している者と比べれば、比べ物にならない。
初撃の衝撃に少しばかりか、顔をしかめていたがそれはすぐに消え、笑みへと変わり彼女を弾き飛ばして距離を置く。その様子は軽々しく見え、弾き飛ばされたフェイトは、その場で彼を凝視している。防衛プログラムとは言え、侮れないと彼女は痛感した。
「今のは、『剛足』か?」
魔法陣を展開しながら、アルは片腕を刃へと姿を変えている彼に訪う。
その間に、彼の左腕は変化を始め、手先から鎧化してそれは肩まで続き、老王の左腕をビースト形態へと姿を変えた。その様子に、バンプ・クライアントは驚きを隠せず、大きく目を見開く。
「プログラムに老王を再現する事は不可能。これは我自身のモノだ。」
「だったらっ!」
彼の言葉を最後まで聞いていただろうか。アルは、『剛足』を利用していないという事が分かると、すぐさま地面を蹴って彼の元へとエクスキューショナーを振るう。
身体のどこを狙っているか分からない太刀筋に、一瞬バンプ・クライアントの動きが止まる。
だが、その読めない太刀筋がアルの剣術と言って良い。
読めない太刀筋に、バンプ・クライアントは慌てて受けの体勢をしてその一撃を防御する。
重い音が、響いた。
バンプ・クライアントの魔力刃がたわんで悲鳴をあげる。防御が間に合っていなければ、身体が真っ二つになっていると思わせるほどの重い一撃だ。
一瞬崩しかけた体勢を立て直して、反撃にでようと弾き飛ばそうとするが、アルは自らエクスキューショナーを引く。そして、再びエクスキューショナーを振るう。彼が先ほどのフェイト同様、弾き飛ばしてくるとは予想していた。ならばと思い、アルはヒットアンドアウェイを考え付いた。
だが、バンプ・クライアントは二度目の斬撃を後ろへのバックステップで簡単に回避し、彼の間合いを取ることも無くすかさず右腕を横に振るう。
魔力刃から放たれた斬撃に、アルは慌てて左手を前に掲げて防御障壁で防御する。斬撃は爆発を起こし防御障壁は、ガラスのように簡単に砕け衝撃で後ろに後退する。
「アルっ!」
少し離れたところから、自分の名を呼ぶフェイトの声が鳴り響く。
その声に、横目を向けて笑みを浮かべて応える。そして、二人は近くまで近寄り、彼に向ってデバイスを構える。
残った爆煙が、壁画の間へと流れ込んでくる強風あわられ、押し流されていく。
煙が消え去った後には、真剣な眼差しでこちらを睨むバンプ・クライアントの姿があった。
次回予告
「魔王と魔剣」
あとがき
まず一言。あけましておめでとうござます!
そして、大晦日で更新できなくてごめんなさい!
諸事情により、更新することができませんでした。くだらない諸事情ですがww
コミケでお疲れの方もいますが、自分も行ってきて疲れてます(´・ω・`)
しかし、更新が年末ぼろぼろだったので、大晦日ですれば良いのかな?と思ったので頑張ったのですが、結果できませんでしたw
とまぁ、慌てて仕上げたSSを最後まで読んでいただいて有難う御座いました(;-ω-)
では、今年もどうか『レキの執行部屋』をよろしくお願いします。