▼第二十二章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」第二十二章「語られる真実」
『P,T事件』が解決し、魔界へと帰還したアル=ヴァン・ガノン。
それから、約半年。
アル=ヴァン・ガノンは、再び時空管理局に召喚される。
現場に向った彼に待ち受けていたのは、未確認の騎士と自分と同じ姿をした謎の男。
私は、アル=ヴァン・ガノンの足跡を追ううちに、あるひとつの謎にたどり着いた。
彼が持つ魔剣と老王を狙おうとする、謎の存在。それは、誰もが身体の一部と言って良いモノ。
影。
’影’というモノの存在を最初に知ったのは、第97管理外世界の海鳴市における事件。
『闇の書事件』
事件の発端はアル=ヴァン・ガノン同様、『P,T事件』を解決し自宅で平和な日々を過ごしていた魔道師、高町なのはが未確認の騎士に襲撃されることに始まる。
時空管理局はすぐさま応援として、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア 、アル=ヴァン・ガノンを海鳴市へと送り込んだ。
そして、アル=ヴァン・ガノンは驚くべきものと対峙する。自分と同じ姿をした男。
男の名は、シャドー。
戦場と化した海鳴市。騎士の圧倒的な力を前に、高町なのは、フェイト・テスタロッサのデバイスが大破し、アル=ヴァン・ガノンの老王も奪われてしまう。
しかし、残りの力を振り絞り、高町なのはの集束砲で結界を破る事に成功し生還する。
全ては、ここから始まった。
騎士達が手にしていた謎の本。『闇の書』と言われるものだった。
闇の書とは、主と共に旅をして各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージ。魔力の源であるリンカーコアを蒐集することで、空白となっている頁を埋めることが出来る。頁は全部で666頁あり、全ての頁が埋まる事で闇の書が完成となる。
そして、未確認の騎士は闇の書とその主を守るために生み出された魔法生命体だった。
守護騎士ヴォルケンリッターとの戦闘は、場所を変えながらも刃を交え、そして再び海鳴市で対峙する。
当時安定性がなく、ヴォルケンリッターが使用としていたデバイスに設けられていたシステム『カートリッジシステム』を導入し、生まれ変わったデバイスを手にした高町なのはとフェイト・テスタロッサ。
それにより、実力はほぼ同等。
ここでの戦いも、相手側の撤退により逮捕までは行く事が出来なかった。
そして、物語とは思わぬ方向へ進む。
学校に通っていた高町なのはとフェイト・テスタロッサの友人、矢神はやてが入院し、見舞いする為に病院を訪れる。
だが、そこで待っていたのは彼女と笑顔で話す騎士達だった。
闇の書の主は、八神はやてだったのだ。
事態を重くみた二人は、ヴォルケンリッターへ必死の説得をするが説得も虚しく、海鳴市は再び戦場と化してしまう。
事件の裏側を操る者によって、闇の書はついに完成し起動してしまう。
それによって、八神はやてはこれまでの歴史と同様に「闇の書の意志」に肉体を奪われてしまう。
しかし、それもある男の計画通りだった。
今度はシャドーが、八神はやての肉体を奪った「闇の書の意志」の精神に侵入し、肉体を奪ったのだ。
高町なのはとフェイト・テスタロッサ、アル=ヴァン・ガノンはシャドーを止めるため、八神はやてを救うために立ち上がる。
肉体を奪われた八神はやては、輪廻を繰り返そうとする闇の書の意志を説得し、新しく「リインフォース」の名を与えることで、それまでとは異なる道を示す。
追い詰められたシャドーは、八神はやてとリインフォースによって切り離された防衛プログラムに寄生し、暴走を開始する。
暴走するシャドーの前に立ちはだかる魔道師と騎士達。
彼の本当の目的を知る事も無く、防衛プログラムと共に消え去った影。
だが、事件はこれでは終わらなかった。
はやてと共に防衛プログラムの破壊に大きく貢献したリインフォースだが、自分が存在する事で、遠からず防衛プログラムを再生して暴走してしまうこと、そして元のプログラムが既に存在しないため、暴走しない状態には戻せないことから、自らの消滅を望んだのだ。
雪が降り積もる冬の海鳴市。
はやてとその仲間達に別れを告げながら、彼女は消えていった。
また一つ、事件が終えアル=ヴァン・ガノンは再び、魔界へと帰っていく。いくつもの出会いをし、様々な思いが胸から込み上げる。
だが、そんな彼に対し運命は、さらなる戦いの道を突きつける。
魔王の戦いは、終わらない。
─────エイムズ──
白き光は空中に佇む金色の光と漆黒の光と対峙する。
二つの光は、一斉に白き光に向って飛ぶ。光がすれ違うたびに発生する衝撃波で、周囲の樹木が大きく靡く。
バンプ・クライアントとの剣戟は、時間と共に激しさを増す。
「うおおおっ!」
攻撃を魔剣から老王へと変え、絶叫に近い雄叫びと共に老王の強靭な拳が唸りを上げる。
正面から低空飛行で姿勢を低くして放たれたのは、全てを破壊しようかとする一直線の拳。
新形態へと姿を変えた老王の拳に、バンプ・クライアントは右腕の魔力刃を消して両手で防御障壁を展開し、それを食い止める。
「ぐ──」
バンプ・クライアントが小声こぼした言葉と同時に、防御障壁は強い衝撃波と共に砕き散る。
次の一撃を繰り出そうとしたとき、顔面に素手の一撃が入る。瞬時に繰り出された攻撃に怯んでしまい、左手で顔を覆う。
そうもしている間に余った魔力を含んだ左の拳が襲い掛かる。無防備だったアルは、慌ててデバイスで防御するように構えなおす。
しかし、デバイスで防御とは言え、とても防げるものではなかった。凄まじい衝撃に共に、エクスキューショナーが悲鳴を上げ、少しばかり吹き飛ばされる。
追撃をするために地面を踏み込むが、上空から金色に輝く魔力の槍が降り注がれる。
表情一つ変えることもなく、それを見つめながら再び右腕に魔力刃が生えると横に薙ぎ払い、その際に発生した衝撃波がぶつかりあう。
爆発がバンプ・クライアントの周りを覆い隠す。
爆煙からすぐさま姿を現し、プラズマランサーを放ったフェイトの元へ飛翔魔法で宙を翔る。
迎え撃つ為、ライオットブレードを上段の構えで空間を切り裂くような一直線の斬撃が魔力刃と火花を散しながら絡み合う。
そこで競り合う事も無く、フェイトはバルディッシュを引くと新たな一撃を繰り出す。
その際に、魔力刃と化している右腕に電流が流れ込む。それは、フェイトのライオットブレードの刀身に伴う高圧電流が放電され、右腕が感電したのだ。
「っ!?」
言葉にならない激痛に、左手で感電した右腕を必死に覆うが、それと同時に無防備になる。
それが狙いだった。
再び、上段の構えから放たれる斬撃に、バンプ・クライアントは慌てて手甲でその一撃を防御する。
斬撃を受け止められたフェイトは、前に詰め寄る事は無く後ろに下がる。そして、その後方から物質を原子レベルまで分解した際に生まれる緑色の光と共に、後方へと下がるフェイトを凄まじい速さで駆け抜けていく。
「ロード・オブ・クラッシャー!」
全速の一撃。この機に放つのは必殺の一撃しかありえない。
フェイトが離れた瞬間を狙った一撃は、回避する時間を与えない。
感電していたせいか、バンプ・クライアントに次の手は残されていなかった。
後ろに引かれていた左の拳は、バンプ・クライアントの胴体へと鋭い一撃を放った。
「かはっ!」
一撃を受けた彼は、魔力を爆発させて驚異的な速さと威力を持った一撃により、そのまま一切の減速無しに残骸と化した遺跡の壁へと激突する。
多少の砂煙が起きるが、俯きながらも彼からははっきりと苦痛を浮かべる表情で、力を無くした人形のように両腕をぶらりと垂らしている。騎士甲冑にもひびが入っており、所々砕けている場所が見られる。
そんな彼を見つめながら、二人はデバイスを構えるのをやめ、彼の元へと歩み寄る。
(ちっ、隠し玉まで使わせやがって…)
隣に居るフェイトと歩みながら、息を荒いアルは心の中で呟く。
ロード・オブ・クラッシャー。エクスキューショナーを原子レベルまで分解し、老王の鎧化の一部として再構築され、魔力を送り込んでそれを爆発させて爆発的な威力を持った打撃を与えるもの。確かに、一撃必殺と言って良いこの技は、魔力を爆発させる事で自分の魔力も大量に失われる為、乱発できる技ではない。
二人が足を止めると、バンプ・クライアントはゆっくり顔を上げてこちらを見つめる。
「そろそろ話してもらおうか、あんたの目的はなんだ?」
刃を交える前には、答える必要は無いと話していた彼だが、仕方無さそうな顔を見せる。
「我は、先ほどお主らに話した通り、バンプ・クライアントによって造られた防衛プログラム。老王の最後の砦。そして、時空管理局によるプログラムの書き換えにより、ある一つの使命を課せられた」
「時空管理局だとっ!?」
「この小娘の身体を使い、完全なるバンプ・クライアント。いや、ブレイ・ガノンの復活。」
(──なるほど)
アルはそれに対し、どこかで納得している自分が居た。
これまでの時空管理局に対して自分は、どこか危機感を覚えていた。
『A,V事件』後の自分に対する処罰、『戦闘機人事件』、そして『J,S事件』。など少なからず魔界からの出身者が何らかで関わっている。
プレイ・ガノンを復活させること。それは、即ち自分が抹殺されることを意味する。
(確かに、これらの防衛プログラムに関しては関与していないと、言い逃れは簡単にできる。そして、局員での暗殺とは違い、プレイ・ガノンにより俺が戦死すれば、時空管理局に火の粉が飛ぶ事は無い。全く、冗談じゃない…だがっ!)
心の中に芽生えたのは、怒り。
全く関係の無い女性の命を使い、己の使命のためにそれを果たす事が許せない。
しかし、所詮彼は防衛プログラム、プログラムが己に課せられた使命に背く事はできない。
「だが、彼を復活させるために、お主が古くから受け継いできた老王と魔剣が必要とする。だから、お主には消えて貰う。」
左手を前に掲げ、ゲヘナの魔法陣を展開する。
そして、残った右手が音を鳴らす。
すると、囲むように魔法陣がいくつか現れ、魔法陣の下にある大地が緑色の光となり大きく凹み、ベアトリーチェが覚醒する前に現れた黄土色の騎士が複数その姿を現した。
「グランベリアル」
その姿を捉えたフェイトは、その名を呟いた。
ゲヘナ語で大地の騎士という意味をし、大地を利用して生み出すインスタント兵器。
それと同時に、二人何故あの時に現れたグランベリアルに気付かなかった事を悔やむ。
「行け」
その小さな囁きとも言える一言で、グランベリアルは一斉に地面を蹴る。
黄色に近い黄土色の光が、荒野と化したエイムズを翔ける。それに対して、金色の光が迎え撃つように光と光がぶつかり合う。
勝敗はあっけなくついた。ぶつかり合い、速度を落として足を止めたフェイトは、後ろを振り向く。
そこにはすでに、ライオットザンバーの斬撃により砂と化したグランベリアルの姿があった。
(っ!?)
予想外だった。
まさかこうもあっ気なくやられるとは、思いもしていなかった。
情報によれば、彼女は数々の事件に関わり執務官して、優秀な実績をおさめており『J,S事件』での彼女への評価は高い。
今まで彼女と刃を交えてきたが、彼女は眼中に無いと考えていたが、今の光景を見てその考えはあっ気なく砕かれた。
彼女は大きな妨害となる。そんな危機感が彼の脳裏に刻み込まれる。
「なるほど。」
再び魔法陣を展開し、三体のグランベリアルを造り出しやや上空へとその場所を移す。
そして、右手の人差し指で二人が居る場所へと指を指し、周囲に現れた魔力弾が放たれる。
だが、それらは彼らにあたる事は無く、その手前の大地へと直撃し、砂煙が舞い起こる。
「ちっ!煙幕のつもりか?」
左腕で顔を覆い、フェイトの元へと駆け寄るアル。
顔を覆いながらも、二人はデバイスを構えて砂煙が晴れるのを待った。
だが、それは大きな隙となる。
上空から魔力弾を放ったバンプ・クライアントは、それを放った直後地上へと全速で降下し大地を踏むと、魔法陣を展開する。
左腕を後ろに引き、何に差し伸ばすように力強く後ろに引いた腕を前へと伸ばす。
それと同時に、彼の背中からは騎士甲冑を破り、その腕が指す方向へと一本の触手が放たれる。
「ぐあっ!」
砂煙の中から現れた一本の触手は、フェイトがそれに気付いた時には首に巻きついていた。
驚きと、首を強く絞められ、フェイトは苦悶の声を上げた。
右手でデバイスを持っているため、残った左手で必死に掴むが触手は後方へと引っ張られ、それと同時にフェイトの身体も持っていかれる。
「フェイトっ!」
隣に居たアルは、触手によって持っていかれるフェイトに対して、必死に手を差し伸べる。
だが、フェイトも同じく彼の手を掴もうとするが、あと少しのところで砂煙の向こうへ消えていった。
少し間ができ、砂煙が風に流されて視界が回復する。
アルの目の前には、触手によって手足と首を絞められていながらも、抵抗を続けているフェイトと微笑を浮かべながらこちらを見つめているバンプ・クライアントの姿があった。
その時、アルは『A,V事件』での記憶が重なり合う。
人は違うが、触手で人質を取ったバンプ・クライアントと重なり合う。あの時に、自分の愚かな選択で大事な人を失った。
辛い記憶が蘇り、自然と眉間のしわが寄り険しい表情へと変わる。
(あの時と、同じ状況…)
「さあ、老王と魔剣を我に」
フェイトの命か、老王と魔剣か。アルに選択の余地はなかった。
次回予告
「迫る危機」
あとがき
どうも、ご愛読有難う御座います。
今回は、食事に出かけて少し遅れてしまいました。(;-ω-)
今回のSSについてですが、「A,V事件」についてリメイクした内容を元に書いているので分からない人ですが、勘弁してくださいw
「A,V事件」でのSSがリメイクされた際、またこのSSを読み返してみてください。
今日はとくに書く事が無いので、今回はこの辺で失礼します。( ・ω・)
では、また次回もよろしくお願いします。