▼第二十三章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第二十三章「迫る危機」


時空管理局の局員として働き始めたアル=ヴァン・ガノン。

だが、すぐして彼は約五年間拘置所で収監の身となり、五十年の国外通報されてしまう。

その原因とも言える事件、『A,V事件』のことを振り返ってみよう。

事件は前代未聞の魔界の象徴であるゲヘナ城が占領される事によって始まる。

新暦66年、魔界アルデバランゲヘナ城をたった一人の男が占拠した。

首謀者はアル=ヴァン・ガノン。

そして、彼によって蘇った亡霊達。

彼らは人質とロストロギア『バレン』を確保すると、時空管理局に要求を突きつけた。

その要求とは、初代魔王バンプ・クライアントの身体として受け継がれている全ての『老王』。

だが、首謀者のアル=ヴァン・ガノンは本物のアル=ヴァン・ガノンではなかった。

その頃本当の彼は、ミッドチルダを訪れていたのだ。

首謀者はアル=ヴァン・ガノンではなく、’影’であるシャドーだったのだ。

新人局員となったアル=ヴァン・ガノンは、親衛隊の二人と高町なのはを始めとする友人達を集め、リンディ・ハラオウン提督が率いる臨時部隊を立ち上げ、魔界アルデバランを目指す。

暗黒の空へと変わる魔界アルデバランでアル=ヴァン・ガノン達は、驚くべきものを発見する。

『闇の書事件』で消えたはずのもう一人の自分と義理の父、テイク・クライアント。

自分の姿をしたもう一人の自分は、アル=ヴァン・ガノン本人の’影’から誕生したシャドーだったのだ。

『闇の書事件』で現れた’影’は、アル=ヴァン・ガノン本人の影ではなかった。

シャドーは、ゲヘナ城に保管していたロストロギア『バレン』を使用し、テイク・クライアントを蘇生させたのだ。

殺した義理の父との再会、そしてシャドー。

『老王』をめぐり、ふたりの運命は複雑に交錯する。

シャドーは、アル=ヴァン・ガノンの老王を奪い。そして、残りの老王を引き継ぐ者たちを抹殺し、全ての老王を集めて全知全能の力を持つと言われているバンプ・クライアントに生まれ変わろうとしたのだ。

そして、蘇生されたテイク・クライアントは八神はやての守護騎士ヴォルケンリッターと、深い因縁があった。

テイク・クライアントは、魔界を襲撃したヴォルケンリッターと剣を交え、闇の書の破壊に成功している。

もちろん、転生した騎士達はその事は知らない。

様々な想いが交差する中、アル=ヴァン・ガノンとシャドーは全く同じ姿をした敵と決着をつける為、剣を握る。

呪われた運命を断ち切るために。

全てを終えたアル=ヴァン・ガノン。

だが、最初に言ったとおり彼は、時空管理局にから約五年間の収監と五十年の国外通報を宣告される。

軌道拘置所へ姿を消していくアル=ヴァン・ガノン。

己が犯した罪を償う為、彼は五年という長き時間をそれに全うする。

しかし、彼の過酷な運命はこれだけでは終わらなかった…


─────エイムズ 森林地帯──

──どおん

後方から爆発の音が響いている。その爆発は遥か遠い。

だが、地面から伝わってくる震動が爆発の凄さを物語っている。

(今のは?)

後ろを振り向いて森林の遥か向こうを見つめながら、会話を聞き取られない為にレキは念話で話す。

(遺跡方面からだな)

手を顎に当て、頭を回転させながらも淡々とそれに答える。

「始まりましたか」

遺跡での状況を知らない二人は、首を傾げる。もちろん、それはレイルにとっては全てが順調に事が進んでいる。

だが、彼の表情はどこか苦い。

「老王の心臓が覚醒したと?」

顎に当てていた手は既に下に下ろされ、ワタルの表情は強張っていた。

彼の問いにレイルはコクりと頷いてみせる。

遺跡に居るのはアルとフェイト。もちろん、自分達より優れた魔道師と騎士であるため、心配する事はないと思われるが老王の心臓が覚醒した事によって、一体何が起きたのか心配だった。いや、心配などしていないで今すぐ助けに行ったほうが良いのではないかという、危機感すら抱いている。

レイルの顔は、厳しいと悲しみが入り混じった複雑な顔をしていた。刃を交え、どんなに辛い状況に立たされてもそんな表情を浮かべる事は無かった。

「もう誰も、彼女を止める事は出来ません…」

「何、どういうことだ?」

その言葉の意味を即座に理解することは出来なかった。

レイルの表情は、悲しみに溢れていた。瞼を力強く閉じ、唇を噛んで何かを必死に堪える。

そして、ワタルの問いにも答えることができない。

「レキ」

淡々とした口調でその名を呼ぶ。振り向くとそこには、腕を組んで瞳を細くし眉を寄せて一人考え込むワタルの姿。

(さっきの遺跡まで戻れ。王様やフェイト執務官が気になる。通信も念話も繋がらない)

レキの顔やその方向に顔を向けることも無く、ただ正面を向いて俯き加減で念話を話す。

いずれ、悟られる事だがいかに相手に気付かれないようにするかが問題。気付かれるのが分かっているなら、少しでもそれを遅らせる事に越した事は無い。

レキは、それに返答する事も無く、朱色の光が身を包み、一本の光となって鉛色の空となったエイムズの空を翔けて行った。


腕を組むのを止め、俯いていた顔が起き上がったのは、レキが二人のもとへ向ってからどれぐらいになろうか。

あれからレキの念話での報告もない。あそこでは念話など通信が使用できなくなっていると憶測できる。

だから、本局で自分達をサポートしているシャーリーに現場の状況を聞くことは出来ない。

だからこそ、今は自分が成すべき事に集中する事が最善だと判断する。

「そんな悲しそうな顔をするな。そんな顔をしたって、お前さんから色々と聞きたいことが山ほどあるんだからな」

依然として、レイルの顔は悲しみに溢れている。ベアトリーチェが覚醒するまでは、あれほどの笑みを浮かべていた彼だが、今はその物影はない。

「老王の心臓。彼女が覚醒した訳ではない。心臓が覚醒したんだろう?」

問い掛けるがレイルからの返答は無い。それと同時に、彼女が『老王の心臓』を所持している。または、彼女の心臓が『老王の心臓』というのが分かる。

手を内ポケットに忍ばせ、中からナイフを一本取り出してレイルに向って放つような仕草を見せる。だが、そんな仕草にレイルは表情一つ変えることは無い。

眉尾が少し下がり、困った表情ほ浮かべるワタルは、ナイフを内ポケットへと納刀すると地面にあぐらをかく。

「彼女に何があった?」

「……それは言えません。全ては、ブレイ・ガノンと時空管理局が関わっているとしか…」

(やはりな)

予想は的中していた。

ミッドチルダでレキと話したとおり、時空管理局が今回の件について関わっていた。

だが、時空管理局の上層部が関わっているのか、それとも一部の局員なのかは分からない。

それを聞いて、うんうん、と頷いてみせる。

(──待てよ…)

突然、思考が途切れる。

時空管理局が関わっているとは言え、何故ベアトリーチェは時空管理局の存在を知らなかったのかが引っ掛かる。

仮に彼女の心臓が『老王の心臓』と考えると、彼女が時空管理局の存在を知らずに時空管理局が関与する事は難しい。

「なら、実際に現場に行った方が良いな。任意同行して貰うが、いいな?」

レイルの瞳が細くなり、顔が強張る。

樹の株に座り、俯き加減だった彼は返事を返せずその俯いていた顔から鋭い目線がワタルに向けられる。

殺気混じった視線に、ワタルは視線を送るレイルの瞳に視線をやる。

二人は黙ったまま、ただお互いをにらみ合う。それは、同時にワタルへの応答も含まれていた。

ぎん。

お互い光を放った瞬間、ワタルが斬りかかった刃は、交わった太く強靭な刃によって停められていていた。ワタルの表情が歪む。無言という名の答えによって、任意同行は拒絶され再び臨戦態勢へと突入する。そして、お互いは離れあってそれぞれの武器を構える。

「あなたをベアトリーチェの元に行かせる訳にはいきません」

「それは、管理局からの指示だからか?」

ワタルの前に立ちはだかるレイル。それに対して問い掛けるが、レイルは口を閉じる。

センスフォルムへと形態を戻した絶影を握り締め、震え始める。口が三日月のように、にやりとしており顔を歪ませる。

「ならば、薙ぎ倒して進むだけだ」


─────エイムズ──


選択を迫られているアル。

彼の目の前には、数本の触手によって自由を奪われて苦痛の表情を浮かべるフェイトと、こちらを勝ち誇った顔で見つめるバンプ・クライアントの姿。

「さあ、老王と魔剣を我に渡すのだ」

魔剣と老王を取るか、フェイトを助けるか、選択の余地は無かった。

フェイトを助けるが、魔剣と老王を失う事になる。それは自分にとって大きな代償となる。

だが、そんなことなど考えている余裕は、アルには残されていなかった。『A,V事件』での記憶が重なり合い、身体が震える。

「あ、アルっ!」

自由を奪われながらも、必死にアルの名を呼ぶ。

それから、数秒ほど。

エクスキューショナーを握っていた右手は、ゆっくりと解かれる。地面に触れた途端、金属音があたりに響き渡る。

それと同時に、バンプ・クライアントの背中から新たな触手が現れ、それに目掛けて一直線に放たれる。刃に絡みつく触手は、彼の手中へと渡ってエクスキューショナーをゆっくりと握り締める。

「魔剣エクスキューショナー。やはり、これを握ると魂がたぎる!」

万年の笑みを浮かべ、エクスキューショナーへ視線をやる。

そして、触手がばらばらとほどけていき、全てがほどけると自由を取り戻したフェイトは、苦しさでがくんと姿勢を崩す。

「くうっ!」

崩れた姿勢を立ち直し、バルディッシュを握りなおして地面を蹴る。

しかし、それはすぐ停める事になる。地面を蹴った途端、無数の魔力弾がフェイトの周囲に出現する。

それは、警告。アルを助けようとすれば、無数の魔力弾が自分に放たれる。当然、全てを避けたり防いだりする事などできない。

「アル、逃げてっ!」

悲鳴と変わらない声をあげるフェイト。

聞こえているはずだが、アルは表情一つ変えることはない。ただ、迫り来るバンプ・クライアントの瞳を見つめる。

助けたいのに、助ける事ができない自分に、顔が歪む。

そして、バンプ・クライアントは見上げようにこちらを見つめているアルの目の前で足を止め、左腕へと手を伸ばす。

そっと、左腕に触れる。

(っ!?)

言葉にならない激痛がアルの身体中に広がる。

(助けて…)

「な、何だ?」

ふっと、耳元に聞き覚えのある女性の声が響く。それは、何度もこだましてアルは、その声の持ち主をベアトリーチェだと思い出す。

だが、思い出した途端、左腕を持ち上げられ老王から光が放たれる。

「うああああああああああああああああああああああ!」

身体全身に激痛が伝わり、雷に撃たれたように背筋を反らす。まさに、フェイトから見れば轟音と共に光が包まれている為、雷が撃たれたかのように見える。

「アルーっ!」

絶叫を叫び、目の前が真っ白になりかけた時、光は徐々に消える。そして激痛も消え、左腕を使って突き飛ばされたアルは光を失ったような瞳をしてその場に倒れこむ。バンプ・クライアントが握った老王の左腕は、鎧化は解かれて本来の左腕へと姿を変えていた。

一方、バンプ・クライアントの左腕には、先ほどアルの左腕に施されていた鎧化が彼の左腕に施されている。

フェイトは、居ても立っても居られず、慌てて地面を蹴る。彼女の周囲を囲っていた魔力弾は、放れることも無く彼女が走り出すとそれは小さな光となって消えていった。

仰向けに倒れているアルを抱き抱えて、容態を確認するが外傷はあまり見られない。外相が少ない事に安心し、身体を抱きしめる。ぴくりとも動かないアルの身体を…

「大丈夫だ。命に別状はない。今のでリンカーコアが中破しただけだ。」

二人に背を向けながら、肩を震わせる。それは、恐れからくる震えではなく、耐えられない笑みからきたもの。

「貴様…」

アルの身体を抱きしめながら、バンプ・クライアントの背中を睨みつける。

彼女の視線に振り向いて嘲笑して見せる。明らかな挑発である。

「ふん。執務官殿、まだ我と戦う気か?魔剣と老王を得た、この我に」

嘲笑しながら、バンプ・クライアントは顔を歪ませてエクスキューショナーの剣先を向ける。

すでにフェイトの表情に悲しみは浮んでいない。浮かべられるはずがない。今の彼女は、歯軋りと共に怒りに支配され、怒り狂っていた。

「許さない…」

アルの身体をゆっくりと地面へ置いて立ち上がり、バルディッシュを構える。

バンプ・クライアントは、大きな力を得て勝ち誇ってみせる。そして、フェイトに対抗するように笑い狂った笑みをして、エクスキューショナーを構え見せた。

「我の力の前に屈服するがよい…!」



次回予告

「魔王暴走」


あとがき

どうも、ご愛読有難う御座います。
今回も諸事情で更新が大幅に遅れてしまいました。すみません!
SS本を読んで、書き方を色々と試しているのですが今回はどうでしょうかね。
少し、何か不安を抱いているんですが、どうですかね…(汗
次回は、どんな書き方を試してみますかね、いや多分今回と同じ書き方になりそうですが…w
とにかく、物語が急激に進み始めたので、次回もお楽しみに。
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