▼第二十五章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第二十五章「涙の剣戟」


二人の王は、エイムズの大地に足を踏み対峙していた。

以前と変わらず、アルの目は見開いて一筋の涙が流れている。

お互いに騎士甲冑は傷だらけで、腕や足様々なところから傷が見られ、出血している。

「これほどやるとは、流石は魔王ということか」

苦痛の表情を浮かべるバンプ・クライアントは、構えを解く。

その仕草に、少し顔を歪ませたアルも彼に続いて構えを解く。

「お主らが我の存在理由を聞いたが、それは前にも言ったとおりだが本当の我、ブレイ・ガノンを復活させる事にある」

渋い表情で、突然と口を開いて話し始める彼に流石のアルも不思議に思ったのか、眉が寄り合って見開いていた瞼が細くなる。

だが、それでも彼の涙は止まらない。

「だが、我の存在理由はそれだけではない。───魔界アルデバランを滅ぼすことにある」

「!?」

細くなっていた瞼も、その言葉に再び見開く。それで、ようやく流れ続けていた涙がピタりと止まり、涙を拭った。

アルはしばし言葉に詰まり、それからようやく思い出したような表情で口を開く。

「何故だ。魔界には、貴様の同士も居るというのに滅ぼすとは、何が狙いだ?」

理解できない事に問い詰めようと、落ち着いた口調で問う。そんな彼に対して、苦笑いするバンプ・クライアントはエクスキュヘショナーを肩に担ぐ。

「全ての魔族を抹殺し、我の…いや、ブレイ・ガノンが本当に望んだ悪魔だけの魔界を創り上げる。」

「魔族を生み出したのは、ブレイ・ガノン。にも関わらず、彼はその魔族を抹殺しようとしている。一体、どういうことだ?」

アルの問いは続く。魔界アルデバランでは魔族と悪魔の比率は、四対一。圧倒的に魔族のほうが多い。

そして、現在魔族と悪魔は無くなることのない紛争を繰り返している。魔族に対して憎しみや怒りを抱くなら、それらの事だと思われる。

「現在、悪魔は本来の居場所を失い、魔族との戦いを取り返している。それは、許される事ではない。そもそも、魔族がこの魔界から現れたのはブレイ・ガノンが子孫を残すために、一人の女性の間から授かった子。それが第二代目魔王であり、魔族の始まりでもある。だが、今の魔族は我の同士である悪魔を滅ぼそうとしているのだ。だからこそ、今こそ魔族に鉄柱を下すのだ」

「貴様が魔族を生み出したと言っても過言ではないというのに、あんたは人の命を何だと思っているんだっ!」 

バンプ・クライアントの言葉に顔を歪ませ、左腕を力強く横に振ってそれに反発して抗議する。

だが、そんなアルの言葉にもバンプ・クライアントは顔を歪ませ、人差し指を指す仕草をする。

「そう言うお主も、12年前魔界でのあの悪夢を創り上げた張本人ではないか。そのお主が、そんなことを言えるのか?」

その言葉に、アルは言葉を詰まらせる。

12年前。魔界での戦の際に起きた、アルの一騎当千。原因不明の暴走を始めたアルは、今の彼に施されている刺青と同じモノが発生し、迫り来る悪魔数百匹虐殺した悪夢。

その彼の行為に、同士の魔族も恐怖した。あの時の光景が、脳裏に鮮明に蘇る。

「それは…」

思わず俯いてしまう。

「ふん。やはり、お主も我らと同じ血を引く者。戦いからは逃れられぬということか…」

意味深にも思える言葉に、アルは顔をしかめながら一つ引っ掛かるものを感じた。

それは、忘れかけていた自分の本当の親の事。そう、その両親はどこの出身だったのか…

「同じ血を引く者…まさかっ!?」

信じたくはなかった。ましてや、自分が義理の父と同じを血を引いていたなんて。

彼の言葉をようやく理解し、目を見開いて驚きを隠せない。

「何故、何故だ…俺はクライアント家の者から生まれていない、ぞ。」

だが、そうは言うものそれが本当に真実なのか、アルは自信を持てなかった。

何故なら、親心がついていたときには両親は戦に駆り出され、両親の顔すらも覚えていない。そんな両親が、本当にクライアント家の者ではないという証拠はない。

「本当にそうなのか?」

バンプ・クライアントの問いに、アルは応えることが出来なかった。

その様子に勝ち誇った様子で、エクスキューショナーを腰に納刀すると一人で淡々と語り始めた。

「ならば、教えよう。それを語るには、はるか三千年前ブレイ・ガノンの時代までさかのぼる。当時、彼は既に二代目魔王クリス・クライアントを授かり、平穏な日々を過ごしていた。だが、彼は二代目に万が一の場合を想定し、子孫を残す為にもう一人の女性との間で子を授かっていたのだ。今後、その代もクライアントと同様にガノン家として、クライアント家を影から支えていった。二代目は、見事に三代目とその代を受け継がせたが、その後問題が発生した。三代目には、生殖器が備わっていなかったのだ。よって、今まで闇に存在を消されていたガノン家の子を利用し、子孫繁栄のためにその子を四代目として代を引き継がせていった。」

長く続いた語りに、彼も軽い深呼吸をする。そして、再び口を開く。

「そして、お主の義理の父。第六代目魔王テイク・クライアント。彼もまた、生殖器を持たない身体をしていた。当時にガノン家での子はアル=ヴァン・ガノン、お主だけだったのだ。その為、七代目はお主に選ばれたということだ。これは嘘ではない、受け止めるが良い。それが真実だ。」

全てを知ったアルは、そのまま膝を地面につけて崩れてしまう。彼の目は大空へと向けられていた。

鉛の空は、アルに何も語ろうしない。

手に力が入らず、握られていたバルディッシュが地面に転がり落ち、彼の瞳から再び光が消えた。

「そんな馬鹿な…俺は、俺は呪われた一族の血を引いているというのか…?」

光のない瞳は、両手を震わせながら土やほこりなどで汚れた手のひらを見つめる。

身体全身を流れる血液。その中に、自分の運命を狂わせてきた呪われた血が流れている事に、思わず自分の手で身体を抱きしめ歯軋りを起こし、恐怖した。

「………ルっ!アルっ!」

微かに耳元に聞こえる声。女性だろうか、必死に自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

アルは、その声の方向へとゆっくりと身体を震わせながら向けた。そこには、死んでしまったかと思われていたフェイトが全身傷だらけでうつ伏せになりながらも、自分の名を叫んでいた。

「………あ、ああっ!」

信じられなかった光景に、彼の瞳の向こうから熱きものが溢れてきた。それは、止める事は出来ず手で口を覆い涙を流した。

生きていた、フェイトが。

良かった…嬉しい。

ただ、そんな想いが身体中を駆け巡った。そんなフェイトを目にし、バンプ・クライアントは驚きを隠せず苦笑いする。

「アルがどんな事をしたって、どんな血を引いていても、アルはアルだよっ!だから、戦って!」

アルは、ふと我に帰った。

そう、今まで過去に犯した罪をフェイトや仲間達は受け止め、支えてくれた。また、新たな罪といえる事実が分かったとしてもフェイトは、自分を受け取れてくれたのだ。

そんな彼女に、さらなる感謝の思いが溢れた。思わず、俯いて必死に堪えながらも涙を流す。

(ああ、そうだ。俺は俺だ。過去にどんな罪を犯そうとも、どんな血を引こうが俺はアル=ヴァン・ガノンだ)

「ありがとう。フェイト…」

小声で俯きながら呟き、バルディッシュを手に取りゆっくりと立ち上がる。

(まさか、あれを受けといて生きているとは…我も詰めが甘いな)

バンプ・クライアントは、フェイトに標的をあわせることはなく、戦意を取り戻したアルに警戒していた。

そして、涙を流しながらも顔を上げ、右手で持ったバルディッシュの剣先を彼に向ける。

「バンプ・クラアント。いや、名も無きプログラムよ。俺は、ある野望の為に人の命を弄ぶ貴様とブレイ・ガノンを許さないっ!そして、捕まったレキも助け出す!」

それを俯いて聞いた彼は、ゆっくりと顔を上げて顔を歪ませて笑みを見せた。

狂気、邪念、憎悪などと言ったモノがそのまま顔に映されたような、危険な顔を浮かべていた。

そして、彼も腰に納刀していたエクスキューショナーを鞘から取り出す。

「ならば、我の本当の姿、見るが良い!」

瞼が千切れると思わせるほど、大きく見開いて巨大な魔法陣を展開する。

それは、展開されると大きな光を放ち、彼の真上の鉛の空から集束砲と思わせるような光の筒が彼に向って降り注がれた。

どおん

爆音と強烈な光が、彼から放たれる。

降り注がれた光が消え、彼は魔力光に包まれてそれが消えると、白髪だった彼の髪は灰色へと変わり、アルの瞼にも設けられているそこから生えるような刺青。

騎士甲冑も変わり、黒に染まったアルのバリアジャケットと同型の物を着ている。

だが、何よりも感じれたのは神々しさ。こちらを見つめる瞳は、神秘的とも言えるかもしれない。

無言の彼は、何も喋ろうとせずただ、剣を構えた。そして、こう呟いた。

「許せとは、言わん。だが、逃げる事ができるなら、いますぐ此処から立ち去れ」


─────エイムズ──


森林の中で、金属音が剣戟と共に鳴り響く。

それぞれの刃がぶつかり合う度に、衝撃波が周りの数多くの樹木が靡いていた。

そして、再びぶつかり合うと激しい火花が散る中、お互いの顔もぶつかりあう。

「管理局が何を考えているかは知らないが、俺の弟と王様に何かあったら承知しねーぞっ!」

何も知らないワタルは、ただ目の前に映る敵を倒す事に専念していた。

だが、後に後悔する。何故、彼を無理やり振り切って助けに行かなかったのかと。

レイルは、それに応えることも無くその場から離れる。地面に足をつけたワタルは、足を止める事はなく地面を蹴る。

それに対し、レイルは地面に足をつけると跳ねるように地面を蹴り、後ろにバク転して地面すれすれのあたりで飛翔魔法を使い、低空飛行でワタルに迎え撃つ。

滞空時間を利用し、瞬時にとび蹴りの体勢へと移行してレイルの鋭利な爪と白銀の足がぶつかり合う。

強い衝撃が衝撃波と代わり樹木をさらに靡かせ、それと共に強い光が辺りを照らす。

だが、お互いはすぐに離れあい、ワタルは地面に手をつけて後退しながら着地して顔を上げる。

すると、彼の瞳にすでに体勢を立て直し、右手の手のひらから一本の触手を放っていたレイルの姿が映っていた。

迫り来る触手。脚甲をセンスフォルムの大鎌へと変えて手に持ち、すくざま足を動かす。

呼吸をする暇もない、緊迫した状態。心臓の鼓動が加速し、身体の疲労が溜まっていく。

だが、そんな身体への負担など、ワタルは気にしていられない。貫通性があるのかと思わせる触手に危機感を感じたのか、一直線に迫り来る触手に対して絶影の刃が切り裂く。

肉片と化した触手は、地面に斬り落とされてピクピクと震えている。

レイルは、そんな事に対しては表情一つ変えることもなく、右手を横に振って触手を自在に操る。レイルの意志に応じて自在に動く触手。冷静な彼はその操る操作を謝ったりはしない。

それにより、ワタル視界に映る触手が突如右の方へ外れていく。だが、ワタルはそれに気にする事は無く、そのまま彼に向って直進する。

そして、レイルは横に振るった右手を今度は、その反対に手を振る。それにより、ワタルが手に持っていた絶影の刃に触手が絡みつく。

「っ!?」

突然の事に、足を止める。絶影を引っ張るが、触手が直接刃に絡み付いている為に切り裂く事が出来ない。

思いもしていなかったアクシデントに、思わず舌打ちする。そして、内ポケットに納刀されていたナイフを取り出して、触手を切り裂いて自由を取り戻す。

絶影を握り直し、これでよし。と思ったワタルだが、前に顔を向けると目の前には、すでにレイルが間近に迫っており、爪がこちらに向けられていた。

慌ててデバイスで防御しようとするが、いくら太いとは言え本来の爪と比べて太いだけで、デバイスの柄や刃でそれを受け止める事は困難だった。

その爪は、するりとデバイスに触れる事はなく、右肩へと突き刺さり、紅い血液が爪と肉の間から垂れる。

「があっ!」

苦悶の声が響く。

だが、顔を歪ませながらも左手は傷口を押さえることせず、手に持っていたナイフをレイルの右脇腹へ突き刺した。

ワタルの肩とは違い、彼の脇腹からは鮮血がほとばしり、今までにない顔の歪みを見せる。

「くうっ!」

お互いの刃は、突き刺さったまま顔を歪ませて激痛に耐える二人だが、流石にいつまでもこれが続く事は危険に感じた二人は、一斉に刃を抜いて傷口を余った手で抑えながら離れあう。

呼吸が荒い。傷口がズキンズキンと妬けるような痛みが二人を襲う。肉の間に滑り込んだ刃の感触が、今も鮮明に残っており、熱い。

だが、二人はそんな痛みに対して、目の前に映る相手に向けて無理やり作った笑みを見せた。

お互い握られている拳は、微かに震えていた。



次回予告

「初代魔王ブレイ・ガノン」


あとがき
どうも、ご愛読有難う御座います。
SSを書いているときに、ふとメッセで某ある人のラジオを聴きまして自分のSSについて解説していたので驚きましたw( ・ω・)!
詳細は書きませんが、とても参考になりました。( -ω-)
とまぁ、その話はここまでとしますw
フェイトさん。生きていました。
まぁ、殺したら全国のフェイトさんファンに何されるか分からなかったですからっ!
冗談はさておき、さらなるアルは真実を書きました。
まぁ、今回の作品はアルの真実にも触れるSSですからね。当然ですよねw
ワタルも久しぶりの登場でしたので、自分として人通り納得。
とにかく、次回は書く者として大変そうなので、頑張って行きたいと思います〜
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