▼第二十六章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第二十六章「初代魔王ブレイ・ガノン」


森林の中に響く爆発音。

空中から降り注がれる魔力槍。ワタルは、絶影を魔力槍の方に刃を振るう。

『影・一閃』によって放たれた斬撃は、宙を切り裂き魔力槍を相殺し、それは爆発となり辺りを煙が包み込む。

一閃と名のつくこの技は、ベルカの騎士烈火の将として知られるシグナムが放つ『紫電一閃』には、威力が及ばない斬撃。

とは言え、魔力槍を相殺するには十分だった。

煙に包み込まれたワタルは、両手で握っている絶影を銀色の脚甲へと形態を変え、両足に装備して周りを見渡して警戒する。

煙が徐々に晴れていくと共に、上空への魔力反応を感知して顔をあげて確認した。

そこには、先ほど相殺した魔力槍が無数に展開されていた。信じられない光景に、顔が歪む。

そして、それらのさらに上空にいるレイルが、ゆっくりと片手を上に掲げてこちら手を振り下ろすと魔力槍が一斉に放たれる。

激しい爆音と共に、辺りに再び煙が立ち篭り、樹木が次々と軋む音を立てながら倒れていく。

だが、レイルが放った場所には既に死神の姿は無かった。

手応えを感じられなかったレイルは、後ろに振り返って防御障壁を展開する。

展開してすぐに、ワタルから無数の蹴りが繰り出され障壁を粉砕する。

それはあっという間にレイル自身の身体まで届き、障壁のかけらをばらまきながらレイルの身体が地面に叩きつけられる。

地面に叩きつけられ、全身に痛みが走るがそれでも、レイルは戦意を失わない。

しかし、ワタルの真の目的はここから離脱し、アルがいる遺跡の場所へと向かう事。その為、あえて戦う必要は無い。

ある程度距離を得たワタルは、飛翔魔法でここから離脱しようと試みる。

(──シャーリーさんにあっちの状況を聞く必要があるな)

今さらだが、シャーリーとの通信を戦闘の事で頭が一杯ですっかりと忘れていた。

上空を高速で飛翔しながら、本局に向けて通信を試みる。

モニターが展開され、彼女の姿が映し出される。

「あ、繋がったっ!ワタル捜査官、聞こえますか?」

「はい、ちゃんと聞こえますよ。どうかしたんですか?」

パネルをカタカタと止まる事無く打ち続けるシャーリー。その表情は、どこか重い。

「こちらから、そちらに通信する事が出来なくて、そちらからじゃないと通信ができない状態で…」

思わず、ワタルの顔が歪む。

本局で通信異常を起こすなんてありえない。ましてや、片方の通信を発信する事が出来ない。

異常すぎると言って良い状態に、本局から妨害されている可能性も考えなれなくは無い。

「そうでしたか。アル=ヴァン三佐とフェイト・T・ハラオウン執務官の居場所を教えてください」

「分かりました。すぐ、データを送信します」

少し時間が経ち、シャーリーによって纏められたデータが届いた。

どうやら、一度回線が開ければデータ送信も可能という事が分かった。

新たなモニターが展開され、彼らの居場所を表示している。

「届きました。有難う御座います」

「今、そちらで二人が危険な状態です。急いでください!」

「了解しました」

心の中で、やはり。と呟きモニターを閉じ、通信を終えた。

そして、二人を助ける為にワタルは彼らの元へ急いだ。

彼を逃がしたレイルは、森林の中から鉛色の空に描かれる紫色の光を見つめていた。


─────エイムズ 遺跡跡地──


対峙する二人。神秘的な遺跡が崩れ、既に廃墟と化したここで二人は対峙する。

アルの後ろには、戦闘不能に陥るほとの傷を負ったフェイトが倒れこんでいる。そして、彼の目の前には神話的な姿を見せるブレイ・ガノンが立ち塞がる。

「許せとは、言わん。だが、逃げる事ができるなら、いますぐ此処から立ち去れ」

ただ一直線、全く動かず静止しながらこちらを見つめる瞳。

『A,V事件』での際、シャドーがテイク・クライアントと共に精製したバンプ・クライアントとは姿はほぼ変わらないが、全くの別人。これが、今までアルが調査してきて全知全能の力を持つ男。

だが、そんな彼に臆する事はない。

「冗談よせよ、今さら逃げようたって逃げれる状況でもねぇ。それに、今ここで引く訳にはいかねぇ!」

自分が今ここに居る理由。

それは、古くからヒカリが望んでいた全ての老王を魔界で確保すること。そして、彼の復活の為に身体を利用されたベアトリーチェと捕らえられたレキを助けること。

その為、ここから逃げる事は許されない。

「そうか。だが、お主に我を越える力は無い。今なら、お主らの雇い主の元まで転送しても良いのだぞ?」

「過分な心遣いありがたいが、そいつは遠慮するぜ。俺の部下やあんたの為に犠牲になった人を助けなきゃならねぇ。確かに、過去に犯した自分の罪を時代を超えて償おうという気持ちには、大したもんだ。だが、その罪を償うために人の命を弄び、その罪によって生まれてきたものを殺すなんて俺が許さねぇ!」

戦いを決意し、足に力が入る。足で地面を擦り、腰で姿勢を整え我が剣に代わる物に相応しきデバイス『バルディッシュ』を構える。

そして、斧刃の鍔は二つに別れ、大きな鍔へと変わってそこから魔力刃が現れそれは自分の身長をはるかに越えるほどの長さまで伸び、大剣へと姿を変える。

「そして、俺は俺の宿命に決着をつけるっ!」

「宿命を断ち切りに来たのか、このブレイ・ガノンの呪われた宿命を、自分を解放して本当の自由を得ようというのか」

騎士甲冑のロングコートを脱ぎ取り、それを遠くへ投げ捨てると軽装な上半身が露となる。

だが、そんな彼の肉体は、強靭な筋肉と鋼の精神が纏わっており騎士甲冑など必要ないほど頑丈に見える。

「面白い。お主もある程度の覚悟で、ここに居るという訳か。ならば、その宿命に決着をつけれるほどの力があるかどうか、見せて貰おう!」

ゆっくりと柄に手を掛け、エクスキューショナーをカタパルトから打ち出されたかのように、瞬時に鞘から抜き取る。

アルが持つバルディッシュ同様、エクスキューショナーの刃が原子レベルまで分解され、緑色の粒子と化してエクスキューショナーの全体を包み込み、それをそのまま横と縦に大きくした大剣へと姿を変えた。これが、ブレイ・ガノンが操るエクスキューショナーの本来の姿。

それを、アルの構えを真似するかのようにゆっくりと構えた。

「アル…」

立つ事さえ間々ならないフェイトは、ただ彼の無事を祈りながら見つめる事しか出来なかった。

そう、何も出来ずただその運命の終結を見届ける事しか…

「老王の呪われた宿命、断ち切れるかっ!?」

「一度死んだ王は、あの世に還りやがれー!」

絶叫に近い言葉を発し、二人は同時に地面を蹴った。

「うおおおおおっ!」

横に構えていたバルディッシュを上段から放つ構えと代え、それを渾身の力で振り下ろす。

「おおおおおおっ!」

一直線に走り迫ってぶつかりあう。その瞬間花火が散り、それは小さな爆発へと変わった。

それでもお互いは離れようとはせず、アルは果敢に前へ押そうと刃を絡ませる。そして、顔を歪ませてさらに前に迫る。

しかし、そんな彼だがブレイ・ガノンは悠々とした顔を見せながら、それを食い止めている。

そして、足に力を入れて威勢を少し低くし、アルを押し返す。それは、プログラムのバンプ・クライアントと同じように圧倒的な力量で簡単に押し返した。

押し返され、少しばかり後ろに後退する。それを受け止め終え、すぐさま前に顔を向けるとその瞳には既に、こちらに向って上段からの一撃を放とうとするブレイ・ガノンの姿が間近に映っていた。


ぎん


凄まじい衝撃波と共に鈍い音が、響いた。

衝撃波により地面の砂や塵が舞い、辺りを覆い尽くし外部から見ていたフェイトは、二人の姿を捉えることが出来ない。

遠くから微かに聞こえる金属音。そして、その音と共に砂煙は徐々に風に流されていき、二人の姿が現れた。

そこには、ブレイ・ガノンから放たれた上段からの一撃を、両手でバルディッシュを盾が代わりにして防いでいるアルが、そこにはいた。

地面は大きく凹み、左膝が地面を突いて必死に一撃に耐えているアルと共に、バルディッシュの魔力刃が軋む。

まるで、世界の重力がここ一点に集中しているかのような重い一撃。アルの顔が今まで以上に歪む。

「うむ。流石は七代目」

(ふ、ふざけんじゃねぇっ!たった一太刀、一撃でこれほどの威力…!ブレイ・ガノン、こいつが全知全能の力を持つ男の力という訳かっ!)

先ほどと変わらず、相手を褒めながらも悠々とした顔で魔剣に力を入れ続ける。

それに対し、アルの骨はバルディッシュと共に軋み、筋肉が悲鳴を上げ、心臓の鼓動が暴走するかのように激しく打ち続ける。

指一本、筋肉の筋一本たりとも力が抜けない状況。

どれだけ長く耐えたか分からないが、潰されるのも時間の問題だった。この状況から脱さない限り、彼に勝機はない。

「う…うおおおおおっ!」

意識を身体以外に集中させる。とは言え、身体の力を抜く事は決して許されない。

そして、一撃に耐えながらもブレイ・ガノンの後方にある森林の闇の中から黒き魔力球が現れる。

それが彼に迫ってくるのが分かり、力を加え続けていた魔剣を後ろへ薙ぎ払い、黒い光を切り裂く。

それは、わざと隙を作った事になる。それでも、自由を取り戻したアルは、その隙に喰らいつき片手でザンバーフォルムのバルディッシュを持ち、横に薙ぎ払った。

彼に対して後ろを向いて剣を振るっていたブレイ・ガノンは、地面を蹴って飛翔し金色の光が来る前に宙に浮いた。

瞬間的に宙に静止している間、身体を正面へ直して斬撃を放ったアルの隙を、右手で保持したエクスキューショナーで刺突を放つ。

後ろにバックステップを踏み、刺突を回避するが刺突したエクスキューショナーは、そのままアルの身体を貫く事は無く地面に突き刺さって衝撃波を放ち、アルの身体が吹き飛ばされる。

「く──」

軽い衝撃波だった為、手をついて停止する事が出来たが、すぐさま地面に突き刺さったエクスキューショナーを抜き取って地面を蹴る。

(呼吸すらも、間々ならねぇ…。一瞬で、潰されるっ!)

それでも、アルは柄を握っていた。しっかりとそれを握り締め、構えた。

小刻みで走るブレイ・ガノンは、凄まじい速さでアルの間近まで迫ってただ単調な横の斬撃を放った。

迎え撃つアルだったが、バルディッシュの魔力刃でその斬撃を防御したが、圧倒的な力量にバルディッシュを持ったまま遠くへ吹き飛ばされた。

身体は宙を舞い、一旦地面に叩きつられ再度地面を跳ねて、遠くの樹木に身体が激突した。

「──ぐっ!」

苦悶の声を上げつつも、すぐさま立ち上がろうと顔を上げるが、すでに目の前にはエクスキューショナーの剣先がこちらに向けられていた。

「アルっ!」

渾身の力を振り絞り、足元をガタガタと震わせながらも立ち上がるフェイト。

「来るなっ!」

動かそうとしていた身体が、ピタりと止まる。

「何で来ようとしてんだ。早くワタルと合流して、此処から逃げるんだよ!」

「駄目だよ、アルを置いて逃げるんて…そんなのできないよっ!」

戦う力が残っていなくとも、共に居たいという気持ちがフェイトを此処に立たせている。

だが、ここから彼を置いて逃げる事は、自分の心が許さなかった。例え、力になれなくても。

「フェイト、逃げてくれ。お前に何かあったら俺は、絶対後悔する。だから…」

傷だらけになりながらも、笑みを浮かべるアル。

そんな彼の言葉にフェイトは涙を流していた。彼の心からの思いに。

だが、彼の身体は一発の魔力弾によって吹き飛ばされた。そう、ブレイ・ガノンの至近距離からの射撃。

たった一発とは言え、彼の魔力弾は小型のバスターに匹敵するほど。至近距離で撃たれれば一溜まりも無い。ましてや、戦闘不能状態までに陥っていたアルが耐えられるとは思えない。

思わず両手で口を覆ってしまったフェイト。絶望が彼女を包み込み、思わず涙がこぼれる。

寄りかかっていた樹木に大きな穴が出来、ゆっくりとその穴から亀裂が走って樹木は地面へと倒れていった。

地面との衝突により、激しい地響きが辺りに響き渡ると同時に、砂煙が舞い起こる。

風によって流された砂煙。アルは少し離れた場所で、全身血だらけで倒れていた。

しかし、それともう一人倒れている彼の前に立つ一人の男が居た。男の足元には黒き魔法陣が展開されている。

「えっ?」

そして、砂煙が全て流され視界が完全に回復したところで、その男は軽く弾むように地面を蹴ると、彼の前方に映るブレイ・ガノンに迫った。

「お、お主は!?」

彼が驚いたときには、すでに彼は間近まで迫って姿勢を低くし、柄に手を掛けて居合いの構えをしていた。

ブレイ・ガノンは、慌てて魔剣を握り直して振ろうとするが、その時にはすでに彼は鞘から剣を抜いて彼の胸部を切り裂いていた。

胸部に妬けるような痛みが走り、血潮がほとばしる。

「っ!?」

驚きを隠せない顔で、ゆっくりと仰向きになって倒れた。

その彼を斬った男の手には、彼と同じ魔剣エクスキューショナーが握れており、その顔と姿は紛れも無くアル本人だった。

そして、彼の瞼から生えているような刺青。それは、アルが意識を壁画の間で意識を失っている時に再会したシャドーの刺青。

彼は、顔にほとばしった血液を余った手で取って見ると、口まで手を持っていき舌で血液を舐めて口に含んだ。

鉄の味が口に広がり、三日月のような笑みを浮かべる。

後ろに倒れているアルに目を向け、傷だらけのフェイトにも視線をやり、そんな二人を見て顔をしかめる。

気付くと、ブレイ・ガノンと同様に仰向けに倒れているアルには、もう既に瞼からの刺青は消えていた。

「ったく、だらしねーな…」

「まさか、再び我が前に立ちはだかるとはな」

胸部を切り裂かれて倒れていたブレイ・ガノンが、魔剣を杖代わりにして立ち上がる。

彼の表情が険しい。それほど、シャドーに対し危機感を感じているという事だ。

そんな表情とは打って変わり、彼はそんな表情を見てエクスキューショナーを肩に担ぎ、勝ち誇った笑みを見せた。



次回予告

「光と影」


あとがき

どうも、ご愛読有難う御座います。
今回は、前週自分のせいで更新ができなかったのですが、ようやくできました。
ワタルとレイルとの戦いは、短すぎたかなと少し後悔気味です…orz
で、アルもちゃっと臭いなぁ…と失敗した感じがしてならない…。・゚・(ノД`)・゚・。
とまぁ、久しぶりのシャドーの登場です。かなり久しぶりです、はいw
昔の作品で登場したキャラですから、当時の事についてはノータッチでいきますが、まぁ今回の話で彼の登場は自然かと思います( ・ω・)
少し読み返してみましたが、やはり最初のワタルのところが酷いw(汗
今回の更新で、二月は終わりですっ!
次回は、三月の最初の土曜か二週目の土曜だと思います。
詳細については、後日更新される日記にて。
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