▼第二十八章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」第二十八章「現実か、幻か」
「ん、ここは」
レキはその場を左右ゆっくりと見渡す。
自分はエイムズに居て、パンプ・クライアントと戦っていたはずだ。しかし今は、にぎやかな街の一角に自分は居る。
すると、脳裏に瀕死状態の自分が捕縛結界を展開されたことを思い出す。レキは思わず、自分の未熟さに舌打ちする。
今考えるべき事は、ここが何処で、どうしたらここから脱出できるのかということ。
場所については、町並みから見て、ミッドチルダと言って良いだろう。
しかし、捕縛結界に捕えられたのは初めてであり、脱出法など知る由もない。
どうすれば良いのか分からず、苛立ちが募っていたせいか、後ろから近寄る気配に気づかなかった。
「レキくん、なーにしてんの!」
突然背中を小突かれ、レキは二、三歩つまづきながら前に出る。
驚きの表情を浮かべながら振り返ると、その瞳の先には解いたら腰までありそうなすみれ色の髪を後頭部のてっぺんでくくった快活さがにじみ出ている女性。
その女性が作る表情は、にっこりといじわるなモノと可愛らしさが有り余るほどの満面の笑み。
「ク、クイント…さん?」
「どうしたの?らしくないよ?」
とある違和感がレキに纏わりついていたのか、片眉を器用に上げたクイントは彼の鼻を突付く。
鼻を突付かれ、我に帰る。
クイントとは、首都防衛隊のゼスト隊に所属していた頃からの付き合いで、たびたびこんな事をされて驚いていた。
(待て、これは一体どういうことだ?)
この状況が飲み込めず、放心していたレキだが捕縛結界は彼に考えさせることを許さなかった。
あちこち行き交う通行人の異様な力にぶつかってすぐに押し戻されてしまい、彼の思考が途切れる。
「大丈夫?今日はレキ君が一日貸してください!って誘ったんでしょ。ほら、しっかり!」
そう、確かにレキが約束を持ちかけてきたのだ。
一年に一度、嘱託魔導師として継続手続きの書類を持って本局へ出向いた際、偶然に後ろ姿を見つけて声をかけたのだ。
軽い話から始まり、いざ誘おうとなった時の緊張たる冷や汗でシャツがとんでもない事になるほどだった。
ようやく思い出し、思わず苦笑いを浮かべるレキ。
だが、そんな苦笑いを隠すと、僅かな自身が伺える笑みを浮かべる。
「はい、もちろんっ!」
威勢のいい声にほっと、笑みを浮かべるクイントは手を差し伸べる。
それは、エスコートされる女性の仕草。
レキはその手を、がっちりと掴んだ。
しかし、彼は捕縛結界が作り出した偽りの記憶に染まり、底なし沼に足を踏み入れてしまった。
まだ何も気づくことなく…
─────時空管理局 本局 総合病院──
彷徨う意識の中、彼はゆっくりと瞼を開いた。
虚ろな瞳が見たのは、白い天井。
ぼんやりとした視界に、突然女性の顔が目の前に広がる。
「アル君、大丈夫かっ!?」
ブラウン色の髪をした女性が、慌てた表情で声を上げる。
聞き覚えのある声に、ぼんやりとしていた視界が意識がしっかりと戻ったせいではっきりと見える。
「──はやて」
少し涙ぐんだ顔をした彼女を目にし、瞼を閉じてゆっくりと声を上げる。
「ああ、大丈夫だ」
はやてが居て、この天井とベッド。自分は病院に居ることが分かる。
アルのはっきりとした口調に、彼女は胸をなでおろす。
病院に運ばれた時には、一時呼吸困難になった為、心配していたせいかその分彼の口調に安心した。
だが、アルはすぐさま閉じた口を開く。
「はやて、俺がここに運ばれてからどれぐらいの時間が流れた?」
意味深なことを聞かれ、少し眉を傾けながら魔法のモニターを開いて時間を確認する。
瞼を開き、アルは彼女の返答をじっと待っている。
「ええっと、約四時間ぐらいやけど、どうしてそんなことを聞くの?」
(四時間。まだ、間に合うか?)
彼は決心した。多少の時間が流れていようとも、まだ間に合うなら今すぐ戻ろうと。
そう考えたアルは、上半身を起き上がらせてベッドから降りようと身体を動かす。
「ああ、まだ動いたらあかん!フェイトちゃんだって、さっき目を覚ましたばっかやし」
はやては慌てた表情で、両手を使って彼の両肩を掴んで止める。
彼は、フェイトという言葉にはっと、我に帰る。
そして、彼の頭に浮かんだものは、フェイトの容態だった。
ブレイ・ガノンとの激闘により、戦闘不能にまで陥った彼女の容態が気になる。
「あ、フェイトは…フェイトは大丈夫なのか?」
「うん。命に別状はないけど、しばらく入院やって」
彼女の言葉に、ほっと安堵する気持ちに対し、落胆する思いもそこにはあった。
入院となれば戦うことは出来ない。例え、入院でなくても自分は彼女をここに留まるよう勧めているだろう。
それ以前に、彼女をそこまで傷つかせてしまった自分の未熟さに、ただ瞳を閉じて悔やむことしか出来なかった。
「俺は、守ることが出来なかった。」
瞳を閉じて後悔する彼に、はやては悲しげな表情で口を開いた。
「アル君、任務前に本局でフェイトちゃんの事について話したやないか」
「あ、ああ」
その言葉に、少し驚いた表情をみせる。
そして、そんな彼に彼女は、ある問いをぶつける。
「アル君はフェイトちゃんのこと、好き?」
「え?」
アルは、思わず耳を疑った。
先ほどの会話と、関連性があるとは思えない予想外な言葉に、言葉を詰まらせる。
彼女が言いたい事は何なのか、今の彼にはその言葉により状況すら分からなくなっていた。要するに、混乱している状態だ。
はやての問いは、続く。
「悔やむ気持ちは私も十分分かるよ。けど、フェイトちゃんがどうしてここまで、アル君と一緒に居て戦っているか分かる?」
その言葉に続く言葉は、分かっていた。けれど、アルは口を開こうとしなかった。
「──好きだからや」
今まで共に戦い、時間を共有してきた。
友として、戦友として、しかし、彼女は違った。
決して、彼女自らの口から出ることは無かった好きという言葉。
それをはやての口からの告白され、赤くなって眉をひそめて視線を下に落とした。
はやての独り言のような質問は、終わることを知らない。
「アル君がフェイトちゃんのことが好きというのは、前々から分かってたことやけど、アル君自身フェイトちゃんのことは分かったの?」
確かに、はやてが言うとおりフェイトの自分に対する行動で分かっていた。
しかし、それが本当のものなのかという、不安の思いが彼の心を包み込んでいた。
そのため、結局このような形で確信を得ることになる。
フェイト本人からの言葉ではないが、彼女が自信に満ちた顔で言っているのだ、間違いない。
「分かっていたけど、なんか恥ずかしくてな…」
彼らしくない言葉に、はやては不意を突かれたように表情が固まる。
少し間が過ぎ、我に帰るとプッと表情が解けてクスクスと笑い始めた。
「な、何が可笑しいっ!」
「ああ、ごめんなー。つい」
謝りながらも、笑顔を消すことは無く両肩を掴んで、その場を凌ぐというより誤魔化している。
そんな意味の持たない言葉に、何処か気に障ったのか眉をしかめる。
無理も無い。恥ずかしい気持ちを抑えて、自分の本音を喋ったのにも関らず笑われたのだから。
すると、突然とモニターが展開されてアラームが鳴る。仕事と合間に病院に来たため、彼女がここに居られる時間は多くない。
「仕事か」
そのアラームによって、赤くなっていた顔も落ち着きを取り戻す。もちろんそれは、はやても同様である。
モニターに表示されているアラームを確認し、モニターをタッチしてそれを閉じると座っていたパイプ椅子から立ち上がる。
「うん、ごめんな。でも、アル君も大丈夫そうで良かった。あとは、私らに任せとき」
「おい、別におれは」
彼女、いや時空管理局にこの事を任せるわけにはいかなかった。
既に、この事は上層部は知っていると思われるが、それでも公で組織を動かすわけにはいかなかった。
「ええんよ、今は休んで。ほな、また来るね」
断ろうとしたアルを無理やりベッドに沈ませ、身だしなみを整えると笑顔を見せながら病室を後にした。
ベッドから横目で見送っていた彼は、一人となるとゆっくりと瞼を閉じる。
「悪いな、はやて」
無理をして、再び戦うことを決意した事に、すでにここに居ない彼女に対し謝罪を述べると瞼をゆっくりと開けて、ベッドから降りる。
すると、彼の目に入ったのは、パイプ椅子の上に置かれた自分の制服とその上に置かれた紙。
それを手にとって、目を通す。
そこに書かれていたのは、自分への応援の言葉とフェイトの病室の場所が書かれていた。
予想外な事が書かれており、どこか恥ずかしさを覚え、自然と頭を掻いていた。
その紙をベッドの真横に置かれている小さな机に置き、気を失っている間に着せられた入院服を脱ぎ捨て、包帯が巻かれている傷だらけの身体が露になる。
魔界での戦いは、魔法での戦闘は少ないため、実際に傷となって身体に痛々しく刻み込まれている。今回でも魔法での殺傷もあるが、魔剣での斬撃がアルの身体を切り裂いている。
その上に制服を着ていき、身だしなみを整える。
そして、先ほどはやてが残した紙に書かれていたフェイトが居る病室へ向かうべく、アルは病室を後にした。
次回予告
「決意」
あとがき
ご愛読、ありがとう御座います。
今回のタイトルなのですが、前半しか絡んでませんでした。すみませんっ!w
自分としては、大失敗です…
もう少し前半の方を長く書いた方が、自分としては良かったなと思ったりしてます(-ω- )
レキのサイドは、まだまだ始まったばかりなので、これから少しずつ話が進んでいくと思います。
クイントさんも出てきたことですし、どうなることやら