▼第二十九章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第二十九章「決意」


鉛色のエイムズの空に翔ける二つの光。

黒と白の光がすれ違うたびに生じる衝撃波が、周囲の雲を吹き飛ばす

かなりの時間がたったにも拘らず、戦いの激しさは衰えることは無い。

「おおおおっ!」

シャドーの気合の入った雄叫びと共に、エクスキューショナーが唸りを上げる。

正面からの刺突に対し、掌を前に掲げて防御障壁を展開して、それを防御するブレイ・ガノン。

激しい火花が散りながらも、意識を魔力弾へと集中させ背後から白い魔力弾を放った。

魔力反応を察知したシャドーは、刺突を止めて飛翔魔法を使ってその場から離脱して距離を空ける。

それを、一発の魔力弾が彼を追いかけるが、離脱して静止すると同時に防御障壁を展開してそれを防御した。

防御されて炸裂した魔力弾は、彼の身体の周りにバインドを発生させ、身動きを封じた。

「ちっ!小賢しい真似を!」

身動きが取れないシャドーに対し、その場から動くことの無いブレイ・ガノンは、魔方陣を展開し掌を彼に向かって掲げた。

彼の周囲に無数の魔力弾が発生して静止している。

「カラミティバレット!」

技の名を叫ぶと、静止していた魔力弾が一斉にシャドーを目掛けて放たれた。

四方八方から弧を描くように魔力弾が注がれていき、爆音と共に白煙が発生する。

自分が彼と同じことをやり返され、白煙の中から怒りに満ちた異様な顔をしたシャドーが現れる。

それを迎え撃つべく柄を両手で持ち、大剣へと形態を変えて空を翔ける。

片手で持ったエクスキューショナーを持ち、上に振りかぶる。

それに対し、彼は大剣の形態となった魔剣の刃に魔力光を包ませた。

そして、魔力光が消えていくと共に、柄が二つに分かれると大きな刃さえも二人に分かれ、それは二本の魔剣と姿を変えた。

「二つに分かれたっ!?」

彼が驚きの表情を見せる彼に、ブレイ・ガノンは表情変えることなくエクスキューショナーを握りなおす。

シャドーが放った上段からの斬撃を、彼は左右のエクスキューショナーを十字に交差させて食い止める。

「──ふん」

刃を絡ませると、すぐに二本の魔剣で弾き飛ばす。

弾き飛ばされてバランスを失ったシャドーは、すぐに防御障壁を不安定なバランスの中、展開する。

それは、一直線の刺突によって砕かれ無防備な身体を晒している彼に、余った残りの魔剣が上段からの斬撃を繰り出す。

その斬撃を何も持たない左手で握り止める。

(止められた!?)

妬けるような激痛と共に、赤い液体が迸る。

刃を使って防御するという手段もあった。

だが、圧倒的な力量を持つブレイ・ガノンの力を前に、ただ地面に叩きつけられ上空からの追撃が来ると分かりきっていた。

だから、ここでリスクを負ってでも彼を無防備にする必要があった。

そしてシャドーは、そんな痛みに対して笑みを浮かべて、今までどれほど同じ斬撃を放っただろう、上段からの斬撃を放つ。

刃は彼の腕の肌を切り裂き

続いて肉を断ち切り

そして、骨をも砕き

結果、彼の左腕を切り落とした。

「なっ!?」

切り落とされた痛みよりも、その驚きの方が大きく傷口から大量の出血をしながら地面へ落下していった。

落下していく彼をただ見つめることは無く、その場を静止して魔方陣を展開し、出血した掌を掲げて収束砲を放った。

虚ろな瞳で落下していたブレイ・ガノンは迫りくる黒き光を目にし、戦意を取り戻すと体勢を立て直す。

「ええい!」

魔剣を腰の鞘に納刀し、残った右手を収束砲に向かって掲げて魔方陣を展開し、シャドーと同じように白い収束砲を撃ち返す。

二つの光がぶつかり合い、大きな爆音と衝撃波が二人の身体を吹き飛ばす。

衝撃波により地面へ吹き飛ばされたが、そのまま地面へ着地し左右を見渡す。

切り落された左腕を慌てた表情で捜す。

少し離れた場所で、遺跡の瓦礫の上に切り口から少量の血液を噴き出している左腕が、二本分かれた一本を握ったまま痙攣を起こして転がっていた。

飛翔魔法を使って、低空飛行でその場へ急ぐ。

切り口から噴き出る血液。速まる心臓の鼓動。常人なら魔法すら使うこともできず、緊急処置が必要だ。

しかし、彼はそんな状態でもはっきりと意識を持って、生きている。

飛翔魔法のおかげで、そこにはすぐに着き、切り落とされた左腕をしっかりと手に取る。

すると、上空から魔力反応を察知する。

上空には、既に足元に魔方陣を展開しており真上に左手を掲げて、今にでも振り下ろそうとしているシャドーの姿があった。

彼の周囲には、無数の黒い魔力弾が静止しており、彼の合図を待っていた。

「ほらよ、お返しだっ!」

彼の叫びと共に、左手がブレイ・ガノンが居る地上へ向けられ、その方向へ魔力弾が一斉に放たれる。

直射型の魔力弾は、黒い雨のように地上に降り注がれ、地上に達すると同時に小さな爆発を生み、それと同時に爆音と白煙を生んだ。

白煙と白煙が混じり合い、大きな白煙となってエイムズの地上を覆いつくした。

そしてすぐに、魔力反応を白煙の中から察知し、顔が強張る。

白煙が一つの筒となり、その筒の中から白煙の色に似た白い収束砲が放たれる。

砲撃を前に、瞬時に左に飛翔して、それを回避する。

筒と例えるに等しいほど、白煙の中からできた大きな穴からには、左手をこちらに掲げているブレイ・ガノンの姿が確認できる。

「ちっ、再生能力なんて反則だろ…」

思わず愚痴を零すシャドーだが、そう話すとすぐに真上を見上げた。

その瞳には、自分の真上に展開された大きな魔方陣が映っていた。

「シュタルケル・クラーゲ」

そして、彼の呟きによって頭上を目掛けて巨大な収束砲が放たれる。

瞬時に防御障壁を展開するが、魔方陣からあふれ出す光は、荒れ狂うかのようにシャドーの身体を飲み込んだ。

その身体は、凄まじい圧力により地面に押しつぶされ、彼の周りが大きく凹んでいた。

それでも彼の戦意は消えることは無かった。

しかし、身体を動かそうとするが、微動するだけで立つことすら出来なくなっていた。

収束砲が直撃する前に防御障壁を展開していなければ、この程度では済まなかっただろう。

そこへ、地上から砲撃を放っていたブレイ・ガノンが歩み寄る。

間近まで迫り、倒れている彼を厳しい表情で見下ろす。

(こ、こいつ…)

必死に身体を動かそうとするが、やはり身体は微動するだけで、まとなな行動が取れない。

それを目にし、ブレイ・ガノンはそんな彼の胸にエクスキューショナーを突き刺した。

「ああっ!」

心臓を貫く刃。妬ける以上に’痛み’というモノが全身を震わせ、顔が歪む。

呼吸すら出来るかどうか危ういほど、その痛みに耐えるに耐えられないものだった。

いくら数多くの戦を乗り越えてきた魔王の影と言えど、この痛みは我慢できるものではなかった。

もがき苦しむ彼を見て、エクスキューショナーを引き抜く。

その際に肉体を切り裂く刃。それと同時に吹き出る血液、薄れ行く意識。思わず、喘ぎ声がこぼれる。

「これで我の勝利だ。悪いな」

「へ、まだ…勝負はついていないぜ」

朦朧とした意識の中でも、彼は決して強情を崩さない。

「何を今更」

その言葉を嘲笑うように、笑みを浮かべる。

「光が消えない限り、影が消えることは無い。その光が、てめぇを──」

突然噴き出る血液。彼の首元には、エクスキューショナーが突き刺さっていた。

それを機に、彼の身体はピタりと止まり、やがて心臓も止まった。

そして、彼は無数の緑色の粒子となって、消えていった。

この命を賭けてでも助けた光に、希望を残して。

「ふん、これで邪魔者は消えた。これで…」

と、その場を去ろうとした時、食道を通してくる吐き気。

それは、口に達して赤い液体を吐き出し、思わず口を手で覆ってしまい手のひらに赤みが広がる。

それを目にし、苦笑いを浮かべるとゆっくりとその場を去っていった。


─────時空管理局 本局 総合病院──


アルは自分の病室から出て、廊下を歩いていた。

彼ははある病室の前に、足を止めた。

その入り口には、『フェイト・T・ハラオウン』と書かれていた。

はやての置き手紙に書かれていた為、真っ直ぐフェイトがいる病室の場所に辿りつくことが出来た。

軽く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて無言で病室の扉を開ける。

扉を開けるとすぐに、ベットから上半身を起こしているフェイトが、窓から外を見ている姿が目に入った。

アルが入ってきたことに気づいた彼女は、微かな笑顔を見せた。

しかし、包帯やガーゼにせいで痛々しく見え、何よりも少し無理して笑っているかのようにも見えた。

彼は改めて、自分が関係する問題に彼女を巻き込んでしまった事に罪悪感を感じた。

思わず、視線を落とす。

そんな彼の顔を見て、フェイトは小さく言った。

「──行くんだね」

「ああ…」

彼女の言葉に、視線を彼女へ向けてゆっくりと頷いて応える。

フェイトは、予め片手に握り締めていた物を彼へ差し出す。

「これを、持っていって」

(っ!?)

彼女が差し出したものに、アルは驚きを隠せない。

それは、フェイトの大切なデバイス、バルディッシュ・アサルトだった。

驚いている彼に、彼女は言った。

「アルのエクスキューショナーは、持って行かれちゃったんでしょ。だから、貸してあげる。だけど、今回だけだよ?」

「フェイト…」

「だからお願い、絶対帰ってきて。そして、二人を助けてきてあげて」

アルは、彼女の言葉に頷くことが出来なかった。

老翁の心臓の防衛プログラムによって、ベアトリーチェの身体を使ってブレイ・ガノンが復活を遂げている。

二人で挑んだにも関わらず、彼を倒すことは出来ず、捕えられたレキとベアトリーチェを助けることは出来なかった。

本当に、彼を倒すことが出来るのだろうか。そんな不安が頭に過り、思わず俯いてしまう。

浮かない顔で俯いている彼にフェイトの顔が歪む。

彼女の目には、涙が浮かんでいる。

そして彼女は、彼の腰に腕を回して抱きついた。

「フェイト…」

「──で、そんな顔しないでっ!」

フェイトは、彼の腹部に顔を押し付ける。

「そんな顔されたら、アルを、送り出せないよ…」

アルは、涙声で声を震わせる彼女の肩が震えていることに気づく。

彼はふと、我に帰った。

決意したはずだ。再びエイムズに戻って奴を倒すと。

そう決意したはずなのに、大切な人と約束できずにブレイ・ガノンに勝てる訳が無い。

彼はフェイトの両肩を押さえ、ゆっくりとその身体を離して言った。

「約束する。絶対、帰ってくる」

「約束だよ…」

「ああ、約束だ」

そう約束を交わしたアルは、彼女が差し出したバルディッシュを受け取り、それを握り締め、病室を後にしようとする。

最後、後にしようとする彼にフェイトの口が開く。

「アル」

その言葉に、立ち止まって振り向く。

振り返った彼が見たのは、涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべたフェイトの笑顔だった。

「気をつけてね」

「──ああ」

彼女の笑みに、微笑みながら言葉を返したアルは、病室を後した。

改めて誓った大きな決意と共に。


─────        ──


彷徨う意識。身体を包み込む暖かさ。

ベアトリーチェは、ふと何かに起こされるように目を覚ました。

「ぅん…ここは?」

ぼやける視界。時間と共にゆっくりと意識と共に視界がはっきりとする。

目の辺りを手で優しく擦る彼女は、擦り終えると再び瞼を開ける。

その瞳に映ったのは、真っ白な空間に佇む一人の男。

「あな、たは…誰ですか?」

質問する彼女に、男はただ笑みを浮かべて何も応えようとしなかった。

そして、その男の手にはエクスキューショナーが握られていた。



次回予告

「戸惑い」


あとがき

どうも、ご愛読ありがとう御座います。
今回は戦闘がメインになってしまいましたね。
でも、自分にとっては後半がメインだと思ってたり…w
まぁ、ある人にお礼を言わないといけませんね( -ω-)
話が少し変わるとして、シャドーが倒れてしまいましたね。というか、死んでしまいました…orz
人が死亡するシーンは、初めてという感じなので少し苦戦しましたが、これは練習を重ねて自分なりの書き方を見出さないといけませんね(゚д゚)
で、最後のシーンなんですが、場所について何も書かれていないのですが、書こうも書けない感じなのであえて、何を書かないというのにしました。
まぁ、このような書き方が良いのかどうか分かりませんけど…w
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