▼第三十章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第三十章「戸惑い」


「あな、たは…誰ですか?」

言葉を聞いた男は、笑みを浮かべてこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。

その手には、魔剣エクスキューショナーが握られており、鋭利の刃が不気味な輝くを放っている。

彼から危険を感じ取ったベアトリーチェは、身体を動かそうして初めて自分が、真っ白な椅子に座っていることに気づく。

しかし、立ち上がろうとも立ち上がれない。迫りくる恐怖感に、身体が恐怖していた。

「私を、殺すんですか?」

威嚇するように懸命に叫ぶ彼女は、まるで一生懸命に吠えている子犬のよう。

男は、彼女のもとへ近寄ると座っている彼女を見下ろすかのように見つめる。

そして、男は不気味な笑みをニコっと見せ、後ろに振り返って彼女から離れていく。

「殺す?貴方を殺しては、ブレイ・ガノンが魔王として君臨できん。貴方は彼の心臓なのですから」

「心臓?」

意味深な言葉を聞き、首をかしげる彼女だが男は話を止めない。

「あなたのここ。心臓は、魔界アルデバランが代々受け継がれてきた『老王』という神器の一つなのです」

男は、エクスキューショナーを持たない右手で胸、心臓辺りを押さえながら説明する。

ベアトリーチェは、老王を知っていた。

とは言え、知っているとしても過去に、様々な遺跡を調査している中で魔界の歴史を知っていく中で、『老王』という物を知っていた。

だが自分の心臓が、その『老王』の一つということに理解できなかった。自分は決して古代の人間ではない。

「私の心臓が老王。どういうこと…?そもそも、あなたは何者ですか!?」

「我は、貴方の心臓に組み込まれた防衛プログラム、バンプ・クライアントと申します。ここで、あなたをお守りするのが我の役目」

心臓、ブレイ・ガノン、彼女は破壊される前の遺跡内にあった壁画の間で見たゲヘナ語で記された壁画を思い出す。

全知全能の力を持つ王が、とある未来へ受け継がれた老王から蘇ると記されていることを。

その老王が、自分の心臓だということによくやく理解するベアトリーチェ。

「えっと、もうブレイ・ガノンは復活してるということですか?」

「左様、貴方がここにいるということは、ブレイ・ガノンが復活したことを意味しておる」

彼女の絶えない質問に、バンプ・クライアントは淡々とそれに応じていく。

それでも、彼女の質問は続く。

「じゃあ、ここは一体どこなんですか?」

その言葉を聞き、突然と彼の言葉が詰まる。

黙っている彼の表情は強張っていたが、苦笑を浮かべながら言った。

「実は、我もここがどこかは、よくわからんのです…」


─────時空管理局 本局 総合病院──


病院の屋上で佇む一人の男。

冷たい風が吹き抜ける中、男は掌に乗せた一つの指輪を見つめていた。

結婚指輪のように見える指輪。その指輪こそ、ワタルが愛武器として長き間共に戦ってきたデバイス『絶影』。

ただ彼は口を開こうとせず、無口のまま待機フォルムの『絶影』をただ、見つめている。

「………」

彼は思っていた。今回の件で出会った一匹の人型悪魔レイルの事を。

彼が今ではブレイ・ガノンの復活する為に、身体その物を利用されてしまったベアトリーチェの為に戦う彼だが、何故自分をブレイ・ガノンの元へ行かせないようにしたのか。

ベアトリーチェとブレイ・ガノンの復活が時空管理局が関与しているなら、知らさせていなくてもある程度、憶測はできるはずだ。

(まさか、管理局に脅されている?)

様々な憶測が浮かび上がるが、答えへ導くものはない。

軽いため息をこぼす彼を目にした絶影が声を上げる。

「考え事ですか?」

「ああ、あの悪魔についてな…」

自分はどうすれば良いのか、彼に何をすれば良いのか、間違った道を進んでいるのなら正しい道へと進んで欲しい。

まるで、その思いは『J,S事件』でのレキに対する想いに似ていた。

だが、いくら想いが似ていようと、事情が異なると思える以上自分がするべく事は変わってくる。

「なら、もう一度聞いてみては?」

「いや、きっと彼女の為に戦っているんだろうが、前と同じように彼は口を割らないよ。多分な」

彼から事情を聞くのは困難を極めるが、やはりそれ以外の考えは思いつかなかった。

最悪の場合、彼と戦って無理やりでも聞き出す必要がある。

戦う理由を知らない以上、彼と戦うことに戸惑いを感じて顔をしかめるワタル。

「お困りのご様子だな、魔王親衛隊隊長ワタル・ゲルンガイツ」

自分の名を聞き、思わず全身に震えが走った。
 
そしてすぐに、慌てた表情でその名を呼ぶ後ろへ振り向く。

そこに居たのは、企みを秘めている様な怪しい笑顔。

その姿を確認して、どこか安心したのか軽いため息をもらして口を開いた。

「本名で呼ぶのは止めてください、王様。盗聴されてたらどうするんですか…」

「そういうお前も、その呼び方はやめろ」

お互い嫌味を込めた呼び方をする二人。

「なら、お互い止めましょう」

ワタルの提案に、目を閉じて笑み浮かべながら頷く。

それを見て、外していた絶影を左手の薬指にはめる。

それを目にしたアルが言う。

「さっき、絶影と話していたみたいだが、それは薬指にはめる物じゃないだろ」

腕を組み、しかめた顔で話す彼の言葉を聞き、はめた絶影を再び外して手に取る。

「いや、これは実際に結婚指輪で、デバイスでもあるんですよ」

(──は?)

アルは彼が言っていることが理解できなかった。

結婚指輪でもあり、デバイスでもある。

ということは、彼は結婚していることになる。

陸士108部隊のギンガ・ナガジマ捜査官にまるで別人のように猛烈なアタックしていたにも関らず、結婚しているとはどういうことだろうか。

それはいわゆる、不倫なのか?いや、違うか…

「お、奥さんは?」

そんな質問に、ワタルは首に掛けていた銀色のペンダントを手にとって、彼へ手渡した。

手渡されたペンダントを手に取り、それを開けると一人の女性の顔が現れた。

その顔は、どこかで見たことがあるような、似ているように感じた。

「この女性、ギンガ捜査官にそっくりじゃないかっ!」

彼が目にしたのは、ギンガ・ナカジマ捜査官にそっくりな顔をした女性の顔だった。

彼女が成人し、凛々しくなるとこんな顔になるのだろうと思わせるほどだった。

このような’そっくりさん’と言えるぐらいの顔を見たのは、初めてだ。

ワタルがこのような美人の女性と結婚していたとは、思いもしていなかった。

「そんなに似てますか?」

疑いながらも、とても嬉しそうな笑顔を見せる。

「ありがとう御座います。王様」

王様という言葉に瞬時に反応して、ペンダントからワタルの方へ顔をあげるが、今の声は彼の声ではなかった。

どこか、機械音に似たデバイスの声と言うべきだろうか。

まさか、という思いを抱きながら、アルは彼の指にはめられた絶影を覗き込むように見つめる。

「おい、これって…」

「初めまして、というべきでしょうか王様。死神ワタルの妻、レイヌ・ゲルンガイツです。主人がお世話になっております」

この状況をどう飲み込めば良いのか、彼には分からなかった。

ペンダントに映っていた女性が、デバイスになったとでも言うのだろうか?

(ふん、そんな馬鹿な…)

しかし、この男のことだ、何かあるかもしれない。そう思い、冗談半分で彼へ言った。

「これは、どういうこと、かな?」

しかめた顔をしながら話す彼に言葉を受けると、ワタルはその目線を落とした。

何かを気にしているような顔をしているが、彼は頭を掻きながら言った。

「妻は、病で亡くなりました。ですが、その時の身体と心は、この『絶影』に宿っています。だから、妻と俺は常に一緒です」

少しばかり悲しげな表情も、話しているうちに徐々に明るさを取り戻していた。

そう、妻の身体が滅びようと、こうして夫婦として共に戦い、生き続けているのだから。

どのようにして、そうなったのかは分からないが、常に共に居る二人を見て、アルはフェイトのことを思った。

自分は、これから彼女と共に一緒に居続けることができるのだろうか。彼ら夫婦のように、共に生きていくことができるのだろうか。

そんな思いに、おもわず俯いてしまう。

「フェイト執務官のところには、行ってきたんですか?」

手渡したペンダントを返すように要求する素振りを見せながら言う。

「ああ、まぁな」

手渡されていたペンダントを彼に返しながら、アルはその問いに応えた。

ワタルは、返されたペンダントを首に掛けなおしながら言った。

「では、行きましょう。あまり時間がない」

足元に魔方陣を展開する彼に、アルは頷いてそばへ歩み寄る。

そして、腕を組みながらこう言った。

「ここに来る途中、ヒカリにお前の限定解除を頼んだ…今回きりだぞ」

限定解除。数多くの魔導式を取得し、その膨大な魔力から管理局から、そして魔界からもリミッターを掛けられているワタル。

今回の魔界での限定解除は、魔力上限の開放とは違うものだった。

今回きりだが、その分限定解除するということは彼へのリスクや危険性が高まる。すなわち、彼の内に潜む死神という本能を呼び覚ますということになる。

その大きな決断をした二人に、ワタルは自然と感謝の笑みを浮かべた。

「ありがとう御座います」

目を閉じながら、感謝の言葉を伝えたワタルはそのまま、転送魔法を使ってエイムズへ転送した。


─────時空管理局 本局──


薄暗い一室に灯っている一つのライト。

それは、ひとつの机とそこで作業をしている一人の男を照らしていた。

パネルを叩く男は、次々と現れるウィンドウにはゲヘナの言葉が次々と映し出されている。

そして、バネルにある大きなボタンを強く押して、通信を試みている。

しかし通信は、繋がらない。

何度も、何度も試みる通信だか、決してそれが繋がることはない。

何故なら、現在上層部が一時的に内部から外部への通信を禁止している為である。

この男はしばらくここの部屋に篭もっていたため、通信ができない理由を知らなかった。もちろん、それを知らない局員も大勢いるだろう。

「どうして、繋がらないんだ…」

どこか不信感を抱きながら呟く。

繋がらない苛立ちで、自然と顔が歪む。部屋の床には、書類と思われる紙片が散乱している。

部屋の周りには、様々な大きさをしたウィンドゥが展開されており、自動に何か文章を映し出しているようだ。

そんな酷く散らかった部屋だが、部屋の外にある廊下から複数の足音が鳴り響く。

男は、何度も通信を試していたため、その音には気付かなかった。

部屋の扉が開く。

その音に驚いたのか、扉の方を振り向く。その目に映ったのは、四人の武装局員とその前に佇む制服姿の男。

「誰だ君たちは!?」

男は慌てて開かれていた多数のウィンドゥを次々と閉じていく。しかし、制服姿の男は無言で歩み寄ってくる。

床に散乱した書類を踏みしめながら、こう言った。

「個人情報窃盗や諸共で、貴様を逮捕する」

男がそう言うと、扉の近くにいた武装局員たちが一斉に床を蹴る。

彼らには、支給される杖のデバイスは起動せずに、四人掛かりで取り押さえる。

何をするか、と必死に抵抗する男だったが、武装局員たちに押し付けれた。

「貴様の計画も、ここまでだ」

「計画?それは、あんたら上層部のことだろっ!」

「私は、ただ上からの指示を受けたまでです」

必死に反論する男に対し、制服姿の男は彼を下ろしながら勝ち誇った顔でいう。

そして、顎を上げて武装局員に無言の指示を飛ばすと、局員は男を立ち上がらせて、部屋の外へと連れ出し連行した。

「余計な邪魔者は消えた。あとは…」

(レイル君、すまない。アル=ヴァン三佐、どうか生きてください…)

連行されいく男の姿を見つめる彼は、狂気の笑みを浮かべ、部屋には彼の高笑いが響いていた。

それに対し、連行されていく男は無念の思いを抱きながら、連行されていくのだった。

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