▼第三十一章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」 第三十一章「レキ」
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「分からない。分からないってどういうことですか?」
ベアトリーチェは、そんな彼のいい加減とも言える回答に対して言った。
そんな彼女の言葉に、バンプ・クライアントは困り果てている様子をみせる。
防衛プログラムとは言え、彼女と共にここに転送された自分には、今持っている知識以外分かるモノはない。
プログラムであるため、多少の思考しかできない彼には、分からないとしか言いようがない。
「我は防衛プログラムであり、情報を得ていない今、我にはどうしようもない」
彼の回答に、肩を落とす。
「だが、情報を整理して推測すれば、ここは捕縛結界の中と思える」
「どういうこと?」
首をかしげる彼女に、バンプ・クライアントは彼女の視界から外し、殺風景な真っ白な空間のはるか遠くに仰向けに倒れている人影が現れる。
遠くて誰なのか分からず、瞼を細めてみるが、それでも誰なのか分からない。
どうしても気になる彼女は、自分が座っている椅子から立ち上がり、その人影へゆっくりと歩み寄る。
その後ろを、ゆっくりとバンプ・クライアントが付き添っていく。
(この人っ!?)
近づいた彼女が目にしたのは、朱色の髪に、黒い騎士甲冑。
所々、切り傷で出血しているところも見られる。
それはまさしく、捕縛結界によって捕えられたレキだった。
「どうして、この人がここに居るの?」
倒れている彼に指を指しながら、振り返りながら問う。
「理由は分からないが、この者は捕縛結界によって捕えられた身。その者がここに居るということは、ここも捕縛決壊の内部と推測できる」
アルを助けるために戦いを挑んだレキだったが、捕縛結界によって捕えられたしまった彼は、今こうして意識を失って倒れている。
しかし、何故この二人が捕縛結界が居るのだろうか。とは言え、ここが本当に捕縛結界なのかすら、分かっていない状況だが。
「この人、どうするの?」
ベアトリーチェは、どんな返答が返ってくるか薄々感じていたが、それでも恐る恐る彼に問う。
「この者は、我が手を出さずともいずれ、永遠の眠りに着き、ブレイ・ガノンの糧となるだろう。そう、良い夢を見ながらな…」
と、素っ気無く既に屍を見るような目つきで見下ろしながら言った。
夢を見る死神を見つめながら…
─────レキ 夢の中──
人混みを難無くすり抜けていく二人。
人混みを嫌うレキは、クイントへ配慮も含めて路地へと入っていく。
大通りから避け、路地に入り少し狭い道を歩いていく。
そして、細い路地から出ると再び通りに出る。
クイントの目に映ったのは、二階建てのデザートショップ『Which sweets?』
バーの仕事中に、女性客からこの店のことを話され、自分はいくことは無いためこういう時にこそ、行くべきだろうと考えていた。
「へぇ、こんなお店知ってるんだ」
「穴場のひとつやふたつ、俺だって知ってますよ」
クイントは局員と言えど、さすが女性といったところか、瞼を大きくして興味津々のようだ。
デザートショップであるため、この店が扱っているデザートは数多い。
その中で、この店がお勧めするのはアイスである。
勧める以上、そのアイスはただのアイスではない。
一階はデザードショップで、二階を喫茶店として購入したデザートを食べることができるように作られている『Which sweets?』ならではの、新鮮な果物を混ぜ込んだ多彩なアイス。
通常のアイスとは比べ物にならない繊細な香りと果物の繊維の食感が、人気の一つだ。
「うん、たまにはこういうのもいいね♪」
「喜んでもらえてなによりです」
笑顔で話すクイントに対し、それを嬉しそうな表情で受け取るレキ。正直、気に入ってもらえるか、とても不安だったのだ。
二階の喫茶店エリアに移動した二人は、机には桃色のアイスとカフェオレ二つが置かれている。
彼女がアイスを食べると、眉尻を下げて幸せそうな顔を見せる。
何もせずとも、凛とした表情が目を引く美しさを持った彼女の笑顔は、どうしてこのように輝いているのだろう。
アイスを口に運んだスプーンを口に咥えたまま、彼女は肘をついて困ったように笑う。
「なんで、レキ君は甘いのが嫌いかね?」
「そう言われても…」
レキは顎に手を当てて考えてみるが、どう答えていいのか分からず、曖昧な顔を浮かべながら首を傾げた。
そんな彼の顔を見たクイントは、一口ぶんのアイスをスプーンに乗せてレキの口元まで運ぶ。
「なら、食べてみなよ、ほら」
「いや、いいですよ…」
首を激しく横に振りながら断るレキ。
窓側に座っていたせいか、横に振るたびに自分の頬が映る。
ふと、なにかに気づいたレキは自分の頬を見つめる。
(っ!?)
彼は自分の頬の古傷を見て、はっとした。
この傷ができたのは、『戦闘機人』での戦闘でできた傷だ。
生きるために戦ってできたこの傷は、治そうとも古傷として治ることはない。
その時に、クイントは殺されてしまっている。そんな記憶が脳裏に蘇る。
そして、目の前に映る女性。
確かに、彼女はここに居る。目の前にこちらを見つめている。
放心している彼を目にして、クイントは不安そうな顔を浮かべる。
「ん、どうしたの?」
(これは…夢なのか?)
そうだとしても、その夢はいずれ覚めてしまう。
なら、少しでも長くこの夢を堪能したい。彼はそう思った。
たとえ、それが夢や幻でも…
─────エイムズ──
荒野に響く喘ぎ声と、大地に向かって吐き出される液体の音。
その液体は、赤く鉄の臭いを放っている。
加速する胸の鼓動。目の前の光景が歪んで見える。
胸が熱い。呼吸を整えるのに精一杯だ。
ブレイ・ガノンは、両手で胸を強く押さえながら荒野のど真ん中で倒れていた。
荒い吐息。禁断の手段によって蘇ったが、その代償は大きかった。
不安定な出力に、常に魔力供給が無ければ生きてはいけない身体。
「こ、こんなはずは…」
完全なる復活を遂げるには、もう少し時間が掛かるがそれでも、このような生命の危険を感じるような状態になるとは予想外だった。
その原因として、シャドーとの戦闘だと心の中で思い立つ。
彼との戦いにおいて、巨大収束砲を頻繁に使用している。
さらに、切り落とされた左腕の再生する際にも、かなりの魔力を使用している。
全知全能の力を持つとはいえ、復活を遂げていないため多量な使用は、流石に応えたか。
苦しみが少しずつ和らいでいき、落ち着きを取り戻したブレイ・ガノンはゆっくりと立ち上がる。
深いため息を漏らし、険しい表情を浮かべながらゆっくりと後ろへ振り向く。
その瞳に映ったのは、銀色に輝く髪を腰まで伸ばしている青年。
その青年が見せる表情は、重苦しい。
(予定通りだな)
レイルの登場に、ブレイ・ガノンは敵意を見せることは無く、ゆっくりと彼に手を差し伸べた。
どこか、誘うように…
次回予告
「男、二人」
あとがき
書きますよ。しばし、待たれよ