▼第三十三章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」 第三十三章「決戦」
「かはっ!」
荒野の崖の上で再び響く喘ぎ声。
ブレイ・ガノンは、しゃがみ込んで再び大地が血の色に染まる。
胸が急激に熱くなり、たまらない。目は見開き、充血している。
荒い息を吐き続けながら、足を震わせながら立ち上がる。
身体中が悲鳴を上げている。
それでも、落ち着きを取り戻し平常心を保つ。
じゃり
すると、後方から砂利を踏む足音が聞こえる。その音にゆっくりと振り返る。
「ふっ、また会いましたね魔王様♪」
そこには、軽く手を上げて満面の笑みを見せるアルの姿があった。
アルは、上げていた手を下げると、アサルトフォームのバルディッシュを片手で構える。
もはや、何も語ることは無い。と思わせるように、ブレイ・ガノンは腰の鞘に収められていたエクスキューショナーを抜き取り、構える。
お互い、微笑を浮かべる。
そして、一斉に地面を蹴る。
ぎり
刃と斧刃が火花を散らしながら絡み合う。
「まさか生きているとは、だがそんな身体で何ができる。自分がしている事が、分からなくなったか?」
出力が低下しているとは言え、力量的には圧倒的にアルを上回っているおり、彼に身体に刃を詰め寄せる。
「ぅっ!」
思わず声を上げるが、身体全体の体重を使って体勢を立て直し、刃を押し返す。
「そう言うあんたも、調子悪そうじゃないか。口に血が付いてるぜ。身体でも壊したか、ぅん!?」
「それはお主のことだろうが!」
声を荒い上げるブレイ・ガノンは、残った左手を縦に並べまるで刃のようにして、アルの右肩に突き刺す。
苦悶の声を上げると共に、清血が迸る。
肩の痛みに、思わず握っていた手の力が無くなり、慌ててその場から離れて距離をとる。
余った左手で傷口を押さえる。息が荒くなり、呼吸が荒い。
今こうして刃を交えているが、実際自分の身体はエクスキューショナーの斬撃や収束砲でぼろぼろ。
まともに戦える身体ではない。
「ふん、そんなので声を上げるとは、大して身体は回復していないようだな」
ご名答だった。だが、今更後に下がるわけには行かなかった。
こうしている間に、レキやベアトリーチェは苦しんでいるのだろう。
それを考えれば、後に下がるわけには行かない。
「バルディッシュ!」
アルの叫びに、バルディッシュは無言に応えて長い柄を短くし、リボルバーカートリッジシステムがグリップエンド部分に移動する。
そして、斧刃が変形して金色の細身の魔力刃が姿を現す。
変形を終えると、すぐに地面を蹴る。
再び、刃が火花を散らしながら絡み合う。
だが、絡み合ったのは一瞬。エクスキューショナーの刃を滑るように流れるバルディッシュの斬撃は、するりと魔剣の刃から抜けてブレイ・ガノンの頬を切り裂く。
頬から、少量の血が迸る。
先ほどのアルと同様に、後ろに後退する。頬の傷を手で拭い、その手に付いた血液を見て、微笑を浮かべる。
そして、雄叫びと絶叫が混ざった声を上げながら、アルに斬りかかる。
繰り返される同じような剣戟。激しい火花を散らしながら、命のやり取りを繰り返す。
両手で精一杯の力を使うアルに対し、片手でエクスキューショナーを握っているブレイ・ガノン。
左手が残っている彼は、彼の斬撃を受け止めると、その場から飛翔魔法を使って後ろに下がりながら上昇していく。
左手をアルに向かって掲げて白の魔法陣を展開し、数発の白い魔力弾を周囲に精製する。
「行けっ!」
掛け声と共に、白い魔力弾は一斉に放たれた。
直射型の魔力弾に対し、アルは自分に当たると思われる魔力弾のみを意識し、バルディッシュの魔力刃で叩き切る。
それ以外の魔力弾は、彼に直撃することはなく周辺の地面に直撃し、白煙が立ちこもる。
(追尾型じゃない?)
ある違和感を感じたが、戦いおいて迷った瞬間勝負が決まる世界。
そんな考える余裕は、今の彼には無かった。
それに反撃するように、左手をブレイ・ガノンに向かって掲げて黒の魔法陣を展開する。
放つのは、必殺の一撃。ロード・オブ・ブレイカー。
アルが最も得意とする魔法の一つであるが、この身体に掛かる負担は半端な物ではない。
しかし、その一撃を直撃することが出来れば、勝負は大きくこちらに傾くだろう。
彼は迷うことなく、無詠唱のロード・オブ・ブリイカーを放つ。
黒き収束砲が放たれると、防御盾を展開してそれを受け止める。
防御盾がたわんと悲鳴を上げる。だが、流石は初代魔王、そう簡単に防御盾を破ることができない。
結果、収束砲が止んでも防御盾を破壊することは出来なかった。
ブレイ・ガノンは、防御盾を解くとアルに目掛けて飛翔魔法で突撃する。
思いもしていなかった事態に、慌てて魔方陣を展開し、彼に目かげて手を掲げるて黒い直射型の魔力弾を無数に放つ。
バイオレット・シュート。
一発の消費魔力は少ないが、放つ魔力弾の数において消費魔力は収束砲並にもあるが、今放った魔力弾は十数発。
先ほどのブレイ・ガノンと変わらない直射型の魔力弾。
だが、それも突撃しながら左手を前に掲げて防御盾を展開し、全て防御されてしまう。
そして、上段から振り下ろさんとする右腕。
その様子を見て、飛翔魔法を使用して後ろに後退して上段から放たれる斬撃を回避する。
縦の一直線の斬撃の後は、彼を追いかけながら水平線を描くかのような横からの斬撃。
アルはそのまま低空飛行を続けながら後退し、徐々に上昇し迫り来るブレイ・ガノンに対して左手を掲げる。
「ちっ!」
舌打ちと共に、掌から黒の魔力弾が弧を描きながら複数放たれる。
追尾型の魔力弾を放つ射撃魔法『スピリットブレイカー』は、ブレイカーと名の付くほどの威力は持たない。
だが、直撃後バインドを発生させることができる為、次の一手に繋げることができる。
それはもちろん彼も知っていて、それに直撃する訳には行かない為、すぐさま後退する。
迫り来る魔力弾に離れるように、後退しながら左手を前に掲げて手のひらサイズの魔方陣を展開する。
そこから、アルが先ほど放ったバイオレットシュートと同じ白い直射型の魔力弾を複数放つ。
マシンガンのように大量に放たれた魔力弾は、迫り来る黒い魔力弾に複数命中し、相殺して小さな爆発が所々発生する。
(殺されたっ!)
嫌そうな顔を見せると、飛翔魔法によって加速して一気に詰め寄る。
「バルディッシュ、カートリッジロード!」
アルの叫びに、バルディッシュは無言に応えてリボルバーカートリッジのシリンダーが回転してカートリッジをロードする。
片手で持っていた柄を両手で持ち、上段からの一直線の斬撃を放つ。
(まずいっ!)
「うおおおおおおおお!」
危機感を感じたブレイ・ガノンは、驚いた表情を浮かべながらエクスキューショナーを両手で持ち、盾代わりにしてそれを受け止める。
重い衝撃が、刃を通して両腕に響く。
全体重を掛けて放たれた一閃は、小さな火花を散らすと刃は離れて次の一撃を繰り出す。
身体と共に横に曲げながら、円周力を受けた横からの一閃が放たれる。
その一閃も両手で持った魔剣を盾代わりにして、盾にして防御する。
カートリッジや円周力、全身の筋肉を使って放たれた一撃は今まで放たれていた斬撃とは比べ物にならないほど。
防御していたブレイ・ガノンだったが、彼の身体は斬撃と共に放たれた衝撃波によって宙を舞う。
吹き飛ばされた彼は、地面に叩きつけられると砂煙を立ちこませながら倒れる。
『やった!』
本局からの通信で、様子を伺っていたシャーリーがモニターを展開して思わず声を上げる。
「いや、まだだっ!」
モニター越しで吼えるアル。その表情は険しい。
衝撃波と彼が吹き飛ばされたことによってできた砂煙で見えなかったブレイ・ガノンだったが。
その砂煙が風によって流されると、無傷な身体をして立っている彼が目の前に現れた。
─────レキ 夢の中──
あれからレキは、落ち着かない様子でクイントと時間を過ごして店を出た。
「さて、お次はどこに連れてってくれるのかな?」
「そうですね…」
正直なことを言えば、レキは次のことは考えていなかった。
ここだけしか、考えていなくこの店でクイントと共に時間を過ごせたらな、と思っていた。
「じゃあ、次はレキ君のお店がいいな」
どこか悲しそうに、残念な顔をしながら彼女は言う。
レキは、その言葉に彼女もこの夢のことを自覚しているのか、と勝手な想像をしていた。
何を根拠にそんな考えが生まれたかは分からないが、自分の店を指定されたことで俺と決別しようとしているのではないか、と思ったりしていた。
その言葉に、レキはコクりと頷き、あまり交わす言葉も無くレキの店『Devil Tear』へと向かう。
レキが外出している為、店は当然開いているわけが無く、レキの持っている鍵で店側の入り口から入った。
カウンターの入って四番目、真ん中の椅子にクイントを座らせるとレキは自分の低位置の、向かい側へと入る。
定位置に着いたのは良いが、どう話を切り出して良いのか分からなかった。
だが、レキは少し戸惑いながら思い切って口を開いた。
「クイントさん。これは夢、なんですよね?」
悲しげに話すレキに、それを聞いたクイントは目を閉じて微笑浮かべながら、一滴の涙が流れる。
その涙に、思わずレキの身体が化石の様に固まる。泣いている彼女に、どう話を進めれば良いのか分からなかった。
「思い出したんだ。あなたが、殺されてしまった『戦闘機人事件』の時にできたこの傷。これを見たとき、はっとしました。あなたはもう、この世には居ない」
彼が話している最中、クイントはうん、うん、と頷きながら涙を流していた。
それを話すレキの声も、微かに震えていた。今にも泣き出してしまいそうに。
「うん。私はもう、レキの居る世界には居ない。私は死人。でも、夢だとしてもこうして会えた。私はそれで十分だよ」
「クイントさん…」
クイント自身から、夢であると告白されるとレキの瞳からも涙がぽろりと流れた。
分かっていた。分かってはいたが、それが確信となると同時に悲しみが込み上げてくる。
やっぱり、これは夢なんだ。
やっぱり、クイントさんはもう生きていないんだ。
嫌だ。別れたくない。一緒に居たい、ずっと!
夢だとしても、ずっと居たい。こうした楽しい時間を一緒に過ごしたい。
涙と共に、そんな思いが湧き出てくる。
涙が止まらない。
俯いて涙を流す彼に、クイントはそっと指で涙をふき取り、椅子から立ち上がってレキの背中に腕を回して抱きしめた。
「駄目だよっ!レキは、ここに居ちゃ駄目。生きて、約束したでしょ?」
約束。
そう、『J,S事件』での最後に、クイントとレキが最後に交わした言葉。
『私の、分まで…生きて』
レキは、強く、強く頷いてそれを約束した。決して破らないと。
「クイントさん…」
涙声になって声を震わせる。それをクイントも涙を流しながら受け止める。
そして、ゆっくり身体を離して見つめあう。
「忘れちゃ駄目だよ。レキ君は、ブレイ・ガノンの捕縛結界でここに捕らわれているんだから。だから、ここから抜け出して!」
涙を流し、息を荒くして必死に呼吸を整えようとしながら話を聞くレキ。
「また、会えるわよ」
「──はい」
レキは、戦意を取り戻していた。
彼女より遥かに人生を長く生きているとはいえ、戦いにおいては彼女に勝るものは無かった。
そんな彼女に一喝に、彼の乱れていた呼吸はあっという間に落ち着きを取り戻し、涙も止まった。
自分が何をすべきなのか、よくやく見つけることが出来たレキは、コクりと頷いて応えて見せた。
そして、クイントはなんとも美しい笑顔を見せると、目を閉じてレキの唇と唇を重ねた。
「んっ」
驚いた表情をみせるレキ。柔らかい唇の感触に、思わず胸の鼓動が跳ね上がった。
しかし、彼女からの女性の香りと温かさが伝わり、それが安心感へと変わる。
唇の部分的な暖かさと、身体を包むように抱きつく身体の温かさ。
まるで日向ぼっこをしているかのように、ゆっくりとレキは目を閉じて昼寝をするかのように意識を途絶えた。
「っ、あ?」
うつ伏せに倒れていたレキは、眠りから覚める。
記憶が少し、寝起きのせいか曖昧になっている。
そんな彼の瞳に映ったのは、少し離れた場所で人形のように、力がないように座っているベアトリーチェの姿と、その横に佇む一人の男。
バンプ・クライアント。
その男を捉えた瞬間、レキの戦意が爆発的に生まれる。
生きるんだ。彼女の分まで、生き抜いて見せるんだ。
その為にも、この男には絶対負けられない。そして、自分がせねばならない事を考える。
意識を失っているようにも見えるベアトリーチェを助け、捕縛結界から脱出すること。
「おや、まさかあの夢から目覚めるとは…」
「まだこの世に未練があってね、まだ死ぬわけには行かねぇよ」
ゆっくりと立ち上がり、片手が何かを握っていることに気づいて開いてみる。
(っ!?)
そこには、待機フォルムの絶影と、腕に付けていたクイントのリボンが握られていた。
彼女のリボンは、『J,S事件』の最後に彼女から肩身として貰った大切な。物
レキは目を閉じてそれを強く握り締めると、それらを真上に高く投げた。
「さあ、行きましょうクイントさんっ!」
「何だ?」
真上に投げられた絶影とリボンは、物質変換魔法の緑色の光を放つと、一つの大鎌の形態へと変形する。
それは、輝くが止むとセンスフォルムの絶影がゆっくりと落ちてくる。
それを右手でしっかりと掴むと、両手で柄を持ち構える。
絶影は通常の黒のメタリック色から、所々すみれ色に塗り替えられている。
握っているレキは、握っている柄から暖かさ、安心感が伝わってくるのが分かる。
「この我と殺りあう気か、小僧」
彼に対し、バンプ・クライアントも静かに腰の鞘からエクスキューショナーをゆっくりと抜き取り、構える。
「俺は、戦う。生き抜くために!」
次回予告
「生きる戦い」
あとがき
どうも、ご愛読ありがとう御座います。
前は、平日に更新したという珍しいものでしたが、内容というより量が少なかったと思います。
で、今日ですがまさか局ラジが金曜にやるとは知らなかったので、少し急いだのですが、補足されるのやらw
まぁ、されなくても頑張るだけでけどねっ!
とまぁ、遂に最終決戦みたいのが始まったわけですが、どうですかね。一気に三人分!と思いましたがワタルの分は次回にすることになりましたw
アルが量を取りすぎや!(`・ω・)
シャーリーを登場させるのを忘れていたので、最後慌てて登場させたのは内緒です('A`)
さてはて、次回はどうなることやら…
=追記=
レキとクイントの最後のシーンが抜けていました。
大切なキスシーンだというのに、自分は何をやっているのなら…
名古屋に行く準備もしていたので、それで雑な更新になってしまいました。
申し訳御座いません。