▼第三十四章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」 第三十四章「生きる戦い」
「たった一人で、我に立ち向かうか。老王に選ばれし者ではないお主が、まともに戦えるわけが無かろう」
「こっちとら、死神という名の戦闘種族だ。なめんじゃねぇ」
失笑するバンプ・クライアントに対し、それに反論するレキ。
それと同時に、出撃前ワタルに伝えられた言葉を思い出す。
『死神という生き物は、魔王を殺すために存在するものだ』
『それは、どういうことだ兄貴?』
『第六代魔王、テイク・クライアントは知っているな』
『ああ』
テイク・クライアント。
七代目魔王のアルの義理の父で、魔王の前任者。
しかし、その男は独裁を貫き。魔界に住む人々、悪魔を苦しめてきた。
『彼は暴走した。魔界の人々──いや、魔界に生きる全ての生物を苦しめてきたと言ってもいいだろう』
『奴の暴走と、俺たちの存在する意味と、どう重なるんだ?』
ワタルは、そのまま話を続ける。
『彼を暗殺したのは、俺なんだ』
『どういうことだ?もっとストレートで言ってくれよ』
彼は、暗殺された。
当時、七代目魔王に任命されたアルが疑われたが、当時彼は寝室で親衛隊副隊長のヘレンとリバルと共に、お喋りをしていたと言う。
それは、彼の寝室の外を警護していた騎士も証言している。よって、アルは白となった。
彼の暗殺は、誰がやったのか。長期捜査を行ったが、結局犯人は分からず事件は迷宮入りとなったのだ。
だが、その迷宮入りしていた事件の犯人は、当時親衛隊隊長のワタルが行ったことだった。
『ようするに、簡単に言えば暴走した魔王を止める。それか、その魔王を殺すのが俺たち死神の役目ということだ』
『殺すったって…』
存在意味を知ったレキだが、過去の死神たちはどうだったのか、それにその役目を自分が本当に真っ当できるか不安を感じた。
『俺は、殺したよ。彼の首元をグサっとな。それが、殺すことしかまともにできない俺たち、「死神」の役割だ』
そして今、自分の目の前に映る男。
一人の女性を弄ぶ魔王など、魔王として認めるわけにはいかない。
彼の暴虐を再確認し、気を引き締めるレキ。
お互い床を踏み締め、少しの間が流れる。
そして、二人は一斉に床を力強く蹴る。
「ぬぇい!」
ぎん
レキの気合が入った叫びと共に、互いに横からの一閃を繰り出し、それぞれの刃がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
だが、連撃を繰り出そうとはせず、掌に魔力球を作り出し後ろに飛翔魔法を使って後退しながら、絶影を右手に持つ。
そして、左の掌に作り出した魔力弾を頭上に投げ上げると、絶影を上段から振り下ろしてその刃が投げられた魔力球に直撃させる。
それが砕けると、小さな魔力弾が複数拡散しながら現れる。
その場を離れないバンプ・クライアントは、迫り来る魔力弾に片手で持ったエクスキューショナーを振るう。
複数で迫り来る魔力弾を腕を左右に素早く振り回し、魔力弾を一つ一つ叩き落していく。
「ちっ」
簡単に防がれたことに苛立ちを募らせて、思わず舌打ちをこぼして床を蹴る。
飛翔魔法を使って高速で距離を詰め、近く接近すると絶影の柄を両手で握り締めて上段の構えをする。
そして、上段からの斬撃を放った。
しかし、それを軽いバックステップを踏んで後退し、二歩ほど後退したところからエクスキューショナーを振り下ろす。
刃は絶影の刃が下ろされた状態で絡み合い、斬撃を受け止めた。
「──くっ」
両手で絶影を握っていたレキは、これによって両手が塞がれたと言って良いだろう。
絶影の刃を止めたバンプ・クライアントは、右足を前にして強烈な蹴りを放ち、レキの胸部を襲った。
「ぬあっ!」
胸部から不気味な音が発てると共に苦悶の声を上げる。
戦闘機人の身体とはいえ、生身だったら肋骨を折られていただろう。
彼の蹴りにより、白く殺風景な空間で宙を舞って床に落下して身体が弾み、身体が転がると壁に激突する。
「うっく…」
(たった一蹴りで、なんだこの力量は…)
左手に絶影を持ち、左手で頭を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
後頭部に手を当てると、掌が濡れているのが分かった。傷口が出来ていて、出血していた。
苦しい表情を浮かべながら、体勢を立て直してしっかりと床を踏むと、バンプ・クライアントが余裕に満ちた表情でこちらを見つめていた。
「どうした、もっと足掻いてくれぬのか?」
「なめやがって…」
レキは足元に朱色の魔方陣が展開させ、彼の身体はとてつもない熱気に包まれる。
その熱気は、徐々にその温度を上げていき傷口から出血した血液が炎と化す。
そしてそれは、炎の渦となって彼の周囲を守るかのように纏わり付いている。
「捕縛結界に捕えられる前に見せた、死神特有の力か」
煉獄の檻籠。
『戦闘機人事件』に際、レキが覚醒して得た能力。
血液を炎に変えるこの能力は、数々の戦いにおいてレキ自身を助けてきた。
それと同時に、それによって戦いに勝利したことも少なくない。
レキは、掌に燃えている血液を絶影の刃全体に塗りつけると、刃全体が炎に覆われる。
両手で炎剣の如く赤く燃えている絶影を持って構える。
それを見て、何かしてくれるのではないかと、ワクワクとした表情を見せながらエクスキューショナーを構えるバンプ・クライアント。
僅かな間が流れ、床を踏みしめる二人。
互いの技は、必殺の技。
力量的に遥かに劣るレキだが、生命体を殺すには十分な技。
そして。
切り上げられるように放たれた煉獄の一閃と、横からの一閃によって放たれた白光の一閃が絡み合う。
衝撃波を放つ爆発は、二人の騎士を容赦なく飲み込もうする。
「くおっ!?」
だが、レキに対しては彼の纏わり付く炎は、爆発が来ると同時に彼の目の前に炎の壁を作り上げてそれを防いだ。
爆煙が消えると、騎士甲冑や顔の所々が焦げているバンプ・クライアント現れる。
二人の表情は、変わらず厳しかった。
─────エイムズ 森林地帯──
ワタルの黒い乗用車は、魔力反応を頼りに森林の中へ車を走らせていた。
車をゆっくりと減速し、停車させた。
辺り一面森林に囲まれ、ここはどこなのか目視だけでは把握できない。
魔力反応は、丁度ここから発せられている。
車からゆっくりと制服姿で降り、絶影を起動させて騎士甲冑を身に纏う。センスフォルムの絶影を持つと、辺りをゆっくりと見渡す。
そんな中、森林の奥からゆっくりとした歩調でレイルが両手から鋭く太い刃を生やしながら現れる。
(確か、ベルカでは和平の使者は槍を持たない。と言ったな)
交渉にするために来ただけで、戦うつもりはないワタルは、センスフォルムの絶影を待機フォルムの指輪に戻す。
「管理局は、本気で王様を消すようだな」
「その為に、ブレイ・ガノンと私、ベアトリーチェが利用されているんです」
「ブレイ・ガノンも所詮は利用される側、か」
ワタルが苦笑する。
臨戦態勢のレイルだったが、彼を襲う様子は無い。
「その王様が、今ブレイ・ガノンと戦っている。あなたの相方、ベアトリーチェを助けるためにな」
「助ける?ベアトリーチェは、ブレイ・ガノンの完全なる復活と共に、助かります」
その言葉を聞き、眉のしわを一瞬寄せて首をかしげる。
「まさか、本当にそれで彼女が助かると思っているのか?」
「私が信じられるのは、それしかありません」
「保障はあるのか?」
その問いに、レイルは答えることはできなかった。
彼も、それに対して疑っている部分があるからだ。
「安心しろ、王様が必ず助け見せる」
「無理です。ブレイ・ガノンに適う相手なんて、いるわけがありません。殺されますよ?」
「いいや、彼ならやれるさ。それに、俺らも加わるからな」
レイルの身体が硬直する。ワタルの言葉を信じられなかった。
’俺ら’ということは、自分が含まれているということだ。
だが、もし彼を倒して彼女を助けることができなかったらどうすると言うのだ?
今までに感じなかった不安に、突然と襲われるレイル。
「それでも、私はブレイ・ガノンを信じます。貴方達より、全知全能の力を持つ彼の方がよっぽと信用できます」
「何が全知全能の力だ。彼が人の命を助けるとでも?──いや、これも管理局の命令か」
思わず、目を細めてワタルをじっと見捉えている。
顔を強張らせ、レイルはゆっくりと手の甲に生えた刃を彼に向ける。
それが意味するモノなど、今更問うまでもない。
「それがお前の答えか──ならば、ある男のことを教えてやる」
ゆっくりと『絶影』を起動し、紫色の魔方陣を足元に展開する。
その形は、正三角形の中で剣十字の紋章が施されている古代ベルカの魔方陣。
「レイヌ!」
妻の名を叫ぶと、絶影は無言でそれに応えて身体全体を魔力光に包まれる。
魔力光が球体へと膨らんでいき、それが粉々へと砕けると紫色の騎士甲冑を身に纏ったワタルが魔力の破片と共に現れる。
そして、その手に握る絶影の長い柄の先には、死神の武器として印象付けられていた大鎌の刃はない。
代わりに、少し大きめな白銀に輝く斧刃が備わっていた。
その自分の姿を見て、ワタルは実に嬉しそうに笑ってみせた。
次回予告
「退かず、譲らず」
あとがき
どうも、ご愛読ありがとう御座います。
久しぶりの更新になったわけですが、その理由となった体調不良はすっかり良くなって、元気ですw
煉獄の檻籠。
ようやく、レキの能力について説明することができました。
次回作がレキの話ですから、すぐにそれが登場するのですが、まさか煉獄の檻籠がここまで遅くなって登場するとは思いませんでしたw
あとで、設定集に追加しておかなくては…
試験が近づいてきたら、また更新が途絶えるかもしれませんが次週の更新まではしっかりとしますので、ご安心を( ・ω・)
では、また次回をお待ちくださいー