▼第三十五章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」 第三十五章「退かず、譲らず」
「うちの馬鹿弟、レキの話をな」
そんな言葉より、レイルは変化した彼の騎士甲冑に身構えていた。
無理も無い。普通ではありえない、ゲヘナ式とは違う魔導式を保有しており、しかもその魔導式が古代ベルカ式となればさらに危機感が増す。
「あの、捕らわれの身の彼ですか」
身構えているせいか、声のトーンが一つ低くして話す。
「そうだ、あの馬鹿だ。あいつはな、たった一人で管理局に喧嘩を売りやがった。たった一人でな」
彼は’たった一人で’を強調するように話す。
たった一人で管理局と喧嘩を売るというのは、局員ではないレイルも十分分かっていた。
「ふっ、たった一人で?自殺行為ですよそれは」
思わず、失笑する。
無理も無い、あまりにも無意味で無謀なことをする彼に、いくらなんで無謀すぎると思った。
それに続くように、ワタルも微笑を浮かべて口を開く。
「確かにお前が言うとおり、それは自殺行為に等しい。だがあいつは、仲間たちと協力し管理局と喧嘩で勝つことはできなかったが、彼の真の目的を達成することに成功した」
「真の目的?」
「彼が喧嘩を売る理由となった、ある事件の真相を得ることさ」
ワタルは悲しそうに話した。
ふと、当時のことを思い出してしまう。
レキをぼろぼろな状態で奪還したこと。真相を得るために様々な人を欺いたこと。
そして何よりも、生きていたと思われたクイントを助けることができなかったこと。
実際、その事件に直接的にワタルは関わってはいないが、弟のことを思い全力で協力してきたが、悔しさ、罪悪感が込み上げてくる。
死神という種族は、’殺し’をする生き物であるが、人間としての理性などは心の隅のどこかにある。
普段、誰かの死について感情が揺れ動くことはない彼だが、時には周りの人たちのことを思い、共に笑い、共に泣き、共に生きる。
「で、私に何が言いたいんですか?」
「管理局なんかにビビってねぇーで、あいつみたいに想いを貫けと言いたいだ。彼女を本当に、助けたいんなら…」
(っ!?)
突然とレイルの顔が歪む。
そして、すぐさま地面を蹴って突進でもするかのような、猛スピードで突撃する。
手の甲に生やされた鋭い爪が、ワタルに襲い掛かる。
彼は、慌てずゆっくりと左手を前に掲げてベルカ式の防御盾を展開する。
それを破ろうと突撃をやめることは無く、爪から激しい火花を散らしながらも防御する。
彼の目線は、ワタルの顔しか捉えていない。
感情的に動いている彼に、ワタルが持つ絶影は視界に入っていなかった。
右手に持った絶影の刃を横に薙ぎいた。
非殺傷設定された絶影の斬撃は、レイルの腹部を捉えると身体が宙を舞い、横に吹き飛ばされる。
それでも、非殺傷設定されていたせいか、涼しげな顔で宙を舞うと綺麗に地面に着地した。
「何故、非殺傷に設定していたのですか…」
「今の俺は、お前と殺り合うつもりはない。無駄な戦いは止めろ。彼女を救いたいんだろ?」
その言葉に反抗するかのように、彼は足元と前に掲げた掌に魔方陣を展開する。
「あなたがそういう考えでも、私は容赦なくあなたの首を跳ねます」
彼の顔は険しい。
ワタルは戸惑った。ここで彼と戦っていいのだろうか。まだ、説得できるのではないか。
しかし、彼には彼なりの覚悟があるのだろう。自分と同じように。
管理局の手駒になろうとも、彼女を救いたいという想いが今の彼を動かしているのだろう。
ならば、自分がすることはただ一つ。
管理局の手駒になるなら、その間違った道を正すのみ。
「レイヌ」
冷たい口調で妻の名を呼ぶと、絶影は無言で石突の部分からカートリッジの装填と共に、蒸気が噴射される。
それは、戦うことを決意するもの。
「いいだろう。ならば、俺は誤ったお前の道を正してやる」
紫色の魔方陣を展開し、二人は対峙する。お互いの想いを貫くために。
二人に、もう退くことは許されない。
─────エイムズ──
「参ったな…」
顔をしかめながら、ぽつりと言葉をこぼす。
目の前には、渾身の斬撃と衝撃波を放ったにも関わらず、防御されたことによって無傷なブレイ・ガノン。
(あれで無傷だと?あんな軽装でどうやったら無傷で済むというんだ…)
ロングコートを脱ぎ捨てた彼の騎士甲冑は無いといってもおかしくないモノだった。
にも関わらず、先ほどの攻撃で宙を舞ったにも関わらず、無傷。
装甲が薄い彼の身を守ったのは、全知全能の力が作った強靭な身体。
直接の斬撃は防御されたことによって、どれほどの威力を発揮されるか未知数。
だが生半可な攻撃では、彼に傷を負わせることは出来ないということだけはわかる。
「次は、こちらの番だ」
そう考えているうちに、ブレイ・ガノンは躊躇なく地面を蹴る。
上段が軌道を描くように放たれる斬撃。
アルは、バルディッシュを横に倒して魔力刃でそれを受け止めると、それをさらに横に受け流すとエクスキューショナーを足元を狙うように横に薙ぎ払う。
斬撃を受け流されるが、足元を狙った斬撃を飛び込み前転のようなものでかわす。
かわされたが、すぐさまバルディッシュを握りなおし、地面を蹴って上段の構えをしてそれを振り下ろそうとする。
(っ!?)
突然、目に強烈な痛みが奔る。
その前に一瞬だけ見えた、砂。
ブレイ・ガノンが彼に対してすかさず、エクスキューショナーを地面を沿って切り上げたことによって舞った砂が目に入ったのだ。
おもわず目を覆って怯む。
怯んでいる彼に、ブレイ・ガノンはエクスキューショナーを大剣へと形態を変え、両手でそれを握りなおす。
そして、上段からの斬撃を放たれ、アルはバルディッシュを片手で横に倒して受け止めようとする。
しかし、両手でも防ぐことができるかどうかの重い斬撃に、中途半端な防御で防ぎきれるわけがなかった。
叩き落されたバルディッシュ。無防備となったアルに、ブレイ・ガノンの’魔の手’が襲い掛かる。
「ああっ!」
顔面を左手で掴まれ、ブレイ・ガノンはそのまま前に直進して、遺跡の瓦礫の中にある崩れ切れなかった壁にアルの身体を衝突させる。
リンゴを握りつぶすと同じように、強靭な手がアルの顔を握りつぶすかのように力を入れ続ける。
それに対して、自己防御本能が働いて両手で必死に彼の手を何とかしようとする。
それでも、その手は顔から離れることはない。
「ふふ、ここまでだ。所詮、我に傷すら負わせることすら出来ぬお主に、己の宿命を断ち切ることなどできんのだ。」
「ぬああぁぁぁ!」
勝ち誇った笑みを浮かべる。
それに対して、必死に耐えながらも悲鳴をあげるアル。
「そして、我は再び魔界で再臨を遂げる!再臨すれば、全てのものが我のもの。魔界に居座る魔族など、我の敵ではない!そんな弱者のお主らに、我を止める権利などない!弱者は弱者なりに、すんなりと我に殺されればよいのだ。そして、あの世で魔界で再臨を遂げる我の姿を指を咥えて見てるがよい!」
(アル=ヴァン!アル=ヴァン・ガノン!!)
突然、大量の血が迸る。
それと共に大量の返り血がアルの全身に浴びる。
彼の目に映るは、大量の血液と共にブレイ・ガノンの左腕が切り落とされる様を。
そんなアルの右手には、魔剣エクスキューショナーが握られていた。
「誰が弱者だって──ぁん?」
「き…きさ、まぁ…」
おもわず、顔がとてつもなく歪む。
数歩よろめきながら後退する彼に、アルはすかさず前蹴りを繰り出して彼の腹部を捉えて蹴り飛ばす。
「かはっ!」
傷口からの大量の出血をしながら、苦悶の声をあげて蹴り飛ばされて地面に仰向けに倒れる。
「はぁ─はぁ…」
蹴り飛ばしたアルは、息を荒くしながらずるりと壁に沿って下に身体を落とす。
そして間近に放置されたブレイ・ガノンの左腕を手に取る。
それを強く握り締め、黒の魔方陣を展開させる。
すると、腕から物質変換魔法を象徴させる緑色の粒子が現れ、握り締めている左腕にそれが纏わり付いていく。
粒子は、一つの鎧へと姿を変え、老王の左腕に再び強靭な甲殻が蘇る。
それは、魔王の再臨を意味した。
第七代目魔王、アル=ヴァン・ガノンの。
「老王…」
力は取り戻した。あとは、決着をつけるのみである。
突然、握っていた腕が灰と化して風に流されて消えていった。
視線を蹴り飛ばしたブレイ・ガノンの方へと向ける。
そこには、すでに立ち上がり切り落とされていた左腕が緑色の粒子と共に復活を遂げていた。
(ちっ、再生か…)
「おのれ、なぜだ!なぜ抗う!なぜ、そこまで戦おうとする!気に入らん、気に入らんわー!」
「老王、アグトレットォー!」
老王の力を奪われたこともあるが、彼は苛立ちを隠せない。
それに対し、目に向けずに叫ぶと、黒の魔力光に包まれる。
それが球体へと変わりそれが粉々に砕け散ると、血が付いたりぼろぼろだった騎士甲冑だったが、マントが腰マントへと変化する。
上半身が軽装のアグトレット形態と新たな騎士甲冑へと変わり、わずかだが左頬まで鎧化される。
両手でしっかりとエクスキューショナーを握り締め、お互い睨み合う。
そして、お互い雄叫びをあげながら地面を蹴る。
「「ぬあああああああああ!」」
二人の死闘は、まだ続く。
次回予告
「生を勝ち取れ」
あとがき
どうも、ご愛読ありがとう御座います。
今回は、前半が会話で、後半が戦闘になりました。
ワタルの方も、戦わせようかなと思いましたが、あまり余裕がなかったので、こうなりました(;-ω-)
今回の更新で、そろそろ試験がやってくるので少し、更新を休止しようかなと思ったりしてます。
まぁ、そう言っても二週間程度ですけどw
普段とあまり変わりないじゃないか!と思うひともいるかもしれませんが、そこは突っ込まないでくださいw
今回の試験は、それなりに重要なものなので、気合を入れて頑張りたいと思います。
さて、10万HITのことですが、もう予告編はできましたが、まだ絵ができてないんですよね。
まぁ、たいした絵ではないので、皆さんは予告編の方を期待するなら、そっちのほうがいいかもしれませんw
では二週間のお休みをいただきますが、適当に日記を更新するので覗きにきてください〜