▼第三十六章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第三十六章「生を勝ち取れ」


我の死は、新暦76年から役2700年前に、魔界アルデバランにて自然死していると記録されている。

自然死?何を馬鹿なことを──

どこの馬鹿が記録したかは我は知らんが、我は自然死などしていない。

自ら、命を絶ったのだ。

何故、という疑問が浮かび上がるだろう。何故か、お主に分かるか?

答えは簡単だ。死にたくないからだ。

矛盾しているだろう。死にたくないに、自ら命を絶つ。可笑しな話だ。

だが、我はこうして新暦76年に復活を遂げた。

全ては、我の計画通り。

我が命を絶つ数年前から、我のリンカーコアは徐々に老衰していた。

気づけば、生命を維持することすら、困難になっていたのだ。

そこで我は、復活が失敗に終わったときの保険として、後世に我が生きた証を残すため、両腕両足に我の力を託した。

そして、肝心の我の完全なる復活。

それには、我の魔力タンクの役割をしていたお主らが言う「老王の心臓」に、特殊なプログラムを施す必要があった。

その心臓にプログラムを施すことには成功したが、当時我の心臓と合う悪魔、魔族の者が居なかったのだ。

結果、我の心臓は生体ポットに入れられたまま、魔界の奥深くに放置された。

時は過ぎ、新暦63年。第七代目アル=ヴァン・ガノンが時空管理局との問題を引き起こした。

管理局の局員が、魔界の地を踏んだ。

その局員の一人が、心臓の存在に気づいた。

心臓は局員によって回収され、管理局がそれを保管・管理した。

管理局の上層部の者たちは、2700年前に施されたブログラムを簡単に解析してみせた。

その内容を利用して我の心臓は、とある女の心臓の代わりとして使われた。

その女というのが、今我の目の前で七代目が必死に助けようとしている女。

ベアトリーチェ。

何故、この女と我の心臓が合ったのかは知らん。

だが、我の心臓のプログラムはその者の魔力を使って、我を復活させるもの。

そして最終的には、心臓に吸収したその者の肉体を魔力に変換し、我のリンカーコアを精製するもの。

罪悪感?そんなものあるわけが無かろう。

もともと、そういうつもりでブログラムを施したのだからな。

管理局が我を利用して、七代目を葬ろうとしているようだが、管理局には管理局の計画があり、我には我の計画がある。

我の母体となる者を見つめてくれた礼だ。管理局もいっその事潰してしまおうと考えていたが、それは止めておくとしよう。


そして、今こうして剣を交えている男。


アル=ヴァン・ガノン、何故だ、何故そこまで魔界の者たちを守ろうとする。

所詮お主など、我が完全なる復活を遂げてしまえば、すぐに終わらせられるというのに。

ちっ、あの女を完全に魔力化できていないからか、出力が安定しない…

「ぬああああああああ!」

様々な思考を巡らせているなか、白銀色の刃が縦に一閃する。

激しい剣戟の中の一閃、ブレイ・ガノンはそれを後ろに後退して回避する。

回避を終えると、そのまま飛翔魔法で上空へ上昇していく。

「逃がすかっ!」

アルが足元に黒の魔方陣を展開する。もちろん、手のひらにも。

左手を上昇していくブレイ・ガノンに向け、収束砲を放つ。

(無詠唱か、ならばっ!)

上昇を止め、左手を迫り来る収束砲へ掲げ、防御盾を展開する。

黒色の収束砲は、その防御盾で防御しながら、左右に分かれるように彼の横を通り過ぎていった。

(くるか?)

アルは、収束砲を撃ち終えるとすぐさま飛翔魔法を使って、鉛色の空に向かって飛翔し始めた。

飛翔速度を上げていき、雲の中に入るとその姿を隠した。

「逃れられるとでも思ったか!」

防御盾を展開していたブレイ・ガノンは、その防御盾を収束砲を撃つ為の魔方陣へと変え、足元にも魔方陣を展開する。

そして、さきほどの彼が放ったと同じように、無詠唱のロード・オブ・ブレイカーを放った。

白色の収束砲は、雲に大きな穴を空けてその中に隠れたアルを撃ち抜こうとする。

収束砲は消えることなく、巨大な剣のように彼が隠れていると予想される場所を薙ぎ払った。

雲が一部分なくなり、久々に綺麗な青空が顔を出す。

その青空が注がれる太陽の光。

その光を浴びながら、一つの影が彼の元に高速に接近する。

その顔には、瞼の部分に刺青が生えているかのような模様が施されている。

「ほう、本当の自分を手にしたか」

それは、収束砲に薙ぎ払われた雲の残りの中に、アルはひっそりと姿を隠していたとき。

「はぁ──はぁ…」

収束砲を放ったことにより、いくら無詠唱とは言えぼろぼろの身体で収束砲を撃つことはかなりの負担がかかる。

騎士甲冑を新たにしたが、出血が酷い。息も先ほどから荒い。

視界が時々、ぼんやりと曇り始めたりする。

まずい。このまま戦いが続けば、やられるのも時間の問題。

そんな焦りを感じている中、ふと心の中にいる男の声が響く。

「なっちゃいないな、王様」

(っ!その声は──!)

自分と同じ声、だが、そんな声でもどこか自分とは違う口調。

自分を犯罪者に陥れ、そして自分を本局まで転送し助けた男。

シャドー

「シャドー、シャドーなのか!?」

「折角、俺の身体と引き換えにあんたを助けてやったというのに。なんだ、この様は。ぼろぼろじゃないか」

「シャドー、お前はあれから…」

「んっ、ああ殺られたさ。惜しくもな」

殺られた。ということは、彼はもう存在しない。

だが、アルはある言葉を思い出す。


光が消えない限り、影は消えることはない。


「そうか、死して尚、お前は俺の中で生き続けるのか」

「ああ、もうあの時のように俺だけでは戦えない。だから──」

俺はお前となって、共に生きる!

お前は俺、俺はお前。だから、いまこそアル=ヴァン・ガノンという男に二人でなろうではないか。

本当の自分に!

そして、アルはシャドーと共に瞼からの模様を施しながら、ブレイ・ガノンの前に現れた。

それは魔王アル=ヴァン・ガノンの真の姿。

その彼の手に握られた魔剣エクスキューショナー。

その姿は、今までのシンプルな刀剣の姿は無く、鍔の長さが伸び変わらない刀身に、鍔から黒い魔力刃が刀身を覆っている。

それは切先まで覆い、今まで一回りほど大きな黒の魔力刃。

「うおおおおおおっ!」

アルの気合の入った叫びと共に、エクスキューショナーが唸りを上げた。

両手で作られた上段からの構えから放たれたのは、今までの斬撃を超える渾身の一撃。

その斬撃に、ブレイ・ガノンも上段からの構えから放った斬撃を放つ。

刃と刃が絡み合う。

じり、じりと互いの刃が悲鳴を上げる。

魔力によって強化された、エクスキューショナーの刃。

とは言え、実際圧倒的な力量を持っているブレイ・ガノンだったが、長距離からの加速などもあり、アルの斬撃は出力が安定していない彼と同等と言っていいだろう。

この状況においては、アルの方が仕掛ける体勢で上段からの全体重を掛けていることもある。

ブレイ・ガノンは、そんな斬撃を受け止めることしかできなかった。

(こやつ…!)

そして、アルは左手を離し懐に隠していた待機フォルムのバルディッシュを手に取り、起動する。

激しい剣戟の中、予め待機フォルムに戻すように命令し、さり気なく回収していたのだ。

そのバルディッシュは、ザンバーフォームへと姿を変え、巨大な大剣が姿を現す。

(っ!?)

ブレイ・ガノンは、驚きを隠せない。

何故なら、ザンバーフォームのバルディッシュを片手で握り締め、今にもこちらに振り下ろさんとしているからだ。

アルは、左腕の筋肉に命令を送り、柄を握りなおす。

ぎし、という鎧化された左腕の筋肉が悲鳴をあげる。

なお、それでもアルは、それを渾身の力で振り下ろした。

「おおおおおおおおっ!」

がん

じり、という刃が交わる音はせず、鉄を打つような鈍い音が響く。

その際に、バルディッシュの刃がエクスキューショナーの刃に食い込む。

激しい衝撃と共に、ブレイ・ガノンはエクスキューショナーと共に地上へと叩き落された。

「かはっ!」

地面と衝突した際の衝撃に、地面は多く凹み、目を見開きながら吐血する。

この時、彼に反撃の術はなかった。

だが、アルの攻撃は終わらない。

バルディッシュを待機フォームに戻し、懐にしまう。

そして、足元に魔方陣を展開する。さらに、魔方陣はそこだけではなく、落下したブレイ・ガノンの真上の上空にも巨大な魔方陣が展開される。

それは、ブレイ・ガノンがフェイトとアルに放った遠距離発生の収束砲。

「シュタンケル・クラーゲ!」

巨大な魔方陣は、一瞬閃光を見せると黒い収束砲がまるで、滝のように放たれる。

爆音と共に、砂煙が大きく発ちこもる。

彼に魔力ダメージを与えるには、この魔法しかないと考えていたアル。

だが、予想以上の魔力消費に身体がぐらりと傾く。

「──ぬぁ」

それでも、アルは踏みとどまった。

意識を滾らせろ。生きろ…生きるんだ。

そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと飛翔魔法で地上に降下していく。

しっかりと地面を踏みしめ、未だ発ちこもる砂煙の奥を見つめる。

そんな中、その砂煙の中から一瞬、一筋の光が放たれた。

何かと思ったときには、もう遅かった。

「おあっ!」

突然、左肩に妬けるような痛みが走る。

大量の鮮血がしぶき、アルは苦悶の声を上げた。

(っ!?)

その左肩に目をやると、肩には白銀の刃が生えていた。



次回予告

「死神の役目」


あとがき

ご愛読ありがとう御座います。
前回で、しばらくお休みと書いていましたが、コンプエースを見て少しみなぎったものですから、つい勢いで書いてしまいましたw
今回はの最初は、ブレイ・ガノンの語り、そして後半は戦闘という感じに仕上げてます。
次回に関しては、死神という単語が出ているので、ワタルかレキのサイドになると思います。
そろそろアルの戦いもクライマックスに近づいてきたかなと思いますが、気を引き締めて頑張りたいです( ・ω・)
その前に、試験があるのでそちらのほうを頑張りたいですねw
では皆さん、二週間の間しばらくお休みです。
SSなどに関しては、後日更新される日記をご覧くださいー

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