▼第三十七章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第三十七章「死神の役目」


人間や物には、それぞれ役割というのが存在する。

人間同士の戦でも、それぞれの兵士には役割がある。

この男にも、役割があるのだろう。

元々は、ブレイ・ガノンを倒し、魔王を助けるという役割があったのだろう。

しかし、今は違う。

おのれの考えで、自分の役割を決め、それを実行する。

この女、ベアトリーチェを助けるという役割を。

だがそれとは別に、この男は何かを求めている。

そう、例えるなら、『生』

この男は、生きようとしている。

死と隣り合わせの戦いの中で、生きようとしている。

まるで、あの男のように…


目の前に、横に投げられた数本の投げナイフを捉える。

それと同時に、投げナイフを投げたレキが絶影を持って突撃してくる。

バンプ・クライアントは、エクスキューショナーを横に一閃なぎ払う。

その刃は全ての投げナイフを弾き飛ばす。

彼の身体はそこで止まることなく、そのまま身体を横に回転させる。

そして、迫りくる死神に回転して同じように横の一閃を放つ。

レキは、その横からの一閃に対して、地面を蹴って飛び上がる。

身体はバンプ・クライアントの頭上を通り過ぎ、彼の背中をぽんっと蹴る。

それを利用して前に回転すると共に、絶影の刃が後方から襲い掛かる。

バンプ・クライアントは背中を蹴られると、すぐさま後ろに振り返る。

振り返ると共に、エクスキューショナーを横に一閃。

刃と刃が丁度く絡み合い、火花を放つ。

斬撃同士がぶつかりあい、お互いの刃を受け流す。

床に着地したレキは、中腰の体勢から身体を反転させる。

繰り出そうとするのは、両手で握られた絶影の斬撃。

だが、それは空を切っただけで彼の身体を切り裂くことはなかった。

「王牙──一閃」

既にバンプ・クライアントも身体を反転させて、後ろに後退していた。

そして、白の魔方陣を展開し右手に持たれたエクスキューショナーを上斜めに掲げ、石突の部分からカートリッジをロードする。

それを終えると、エクスキューショナーを構い直し、魔力が乗せられた刃を横に薙ぎいた。

その斬撃は白の衝撃波となり、床を抉りながらレキの元に凄まじい音共に迫る。

「ええい!」

攻撃をかわされ、そこからすぐに砲撃級の衝撃波。

苦情の顔を見せながら、防御盾を前に掲げて展開する。

その前に、自分を包む煉獄の檻籠が作り出す炎の壁が作られ、それを防ごうとする。


ど ん


バンプ・クライアントの一閃は、レキの防御盾と衝突して大きな爆発へと変わる。

その爆発の中から、レキの身体が宙を舞いながら現れる。

彼の身体は床に叩きつけられ、彼の纏わり付いていた炎は消えていた。

彼の防御盾は、バンプ・クライアントが放つ斬撃を防ぐことができず、それどころか防御盾はあっさりと粉砕されていた。

それでも、彼は戦意を失うことなくその場から立ち上がろうとする。

そうだ、生きるんだと自分に言い聞かせるように。

しかし、立ち上がる途中に身体がぐらっと傾く。

荒い呼吸。体中からの出血。ぼろぼろな騎士甲冑。

外見から見れば、絶望的な状態立たされている。圧倒的な力量と技量を持ち、再生能力を持つバンプ・クライアントに死神という種族というだけの彼が正面から適う訳がない。

それでも、彼はあきらめない。必ず勝機があると信じて渾身の力を振り絞り、やっとのことで立ち上がる。

「もう、あきらめたらどうだ。お主に勝ち目はない、どんなことがあってもだ」

爆発がなくなり、シルエットとして映っていたバンプ・クライアントの姿がはっきりと現れる。

その表情と口調は、まるで勝利が自分の手中に収まっているかのよう。

そんな言葉に、もはやレキは反応する余裕はなかった。

彼は無言で足元に紅い魔方陣を展開する。

「ほう、まだやる──」

まだやるつもりか。と言おうとしたとき、レキが叫ぶ。

「絶影っ!」

「──なにっ?!」

彼がこの手で掲げたのは、対峙しているバンプ・クライアントの遥か後方。

予想もしていなかった叫びに、驚きを隠しきれずに思わず振り返る。

そこには、全身茶色のマントに包まれた男か女すら区別が付かない何者かが、大鎌を持ってこちらに高速で迫っていた。

その姿は’偽自精製’という絶影を人型戦闘機人として精製する魔法で、精製された絶影のもう一つの姿。

「雑魚があ!」

叫び声と共に、エクスキューショナーは大剣の形態へと変わり、それを握りなおして迫り来る絶影に対して、上段からの一直線の斬撃を放つ。

その絶影も同様に上段からの構えをするが、バンプ・クライアントの一閃によって胴体を切り裂れた。

だがそれは、紅い魔力の光と変わり、一瞬の閃光を見せると共に消える。

(これは──幻術魔っ!?)

突然、背中から迸る血液と共に、妬けるような痛みが走る。

刺突された時の感覚や、複数の痛みからして、確認せずとも投げナイフによってだと推測し、すぐに振り返る。

「おおおおおおおお!」

雄たけびとも聞こえるような叫び声と共に、絶影を変形させて黒のリボルバーナックルを装備したレキが突撃する。

より速く、より正確にこの拳を叩き込む。

レキはただそれだげを念じて、こちらの作戦にはまったバンプ・クライアントに向けて渾身の拳を叩きつけた。

「隙だからだぞっ!」

横からの一閃が、レキの突撃を阻んで胴体を切り裂いた。

今の彼の突撃は、投げナイフを投げたせいでバンプ・クラインアントにこの突撃が本命だと、いち早く教えていた。

けれど、レキは諦めない。諦める必要は無い。

切られたレキの身体は、先ほどの幻術魔法の絶影と同じように、魔力となって消えた。

「な──に?」

「幻術魔法は、俺ら死神の十八番だ」

その幻術魔法が消える時に見せる、花火のような一瞬の閃光。

その閃光の向こうから現れる一つのシルエット。それは、間違いなく正真正銘のレキである。

「うおおおおおおおおっ!」

三段構えとは知らずに、思わず驚きを隠せない。

それでもレキは、幻術魔法のレキと同じように腕を後ろに引きながら真となる突撃を敢行する。

そして、その拳はバンプ・クライアントの顔面を捉え、叩き込んだ。

(生きるんだ!そして、俺は俺の役目を果たす!)


─────エイムズ 森林地帯──


ついこの前までは、神秘的な景色と自然で溢れていたエイムズ。

だが、それは今や神秘的な自然を象徴するこの森は、二人の男の戦いによって薙ぎ倒されていた。

目にも追えぬほどの速さでぶつかり合う二つの光。その度に発生する衝撃波によって、森が悲鳴をあげる。

それでも、二人はそんなことを気にすることはなく、己の想いをぶつけ合う。

するとそんな中、ワタルが足を止める。

(そろそろケリをつけて、王様のところへ行かないと──)

彼が思っていたことは、ブレイ・ガノンに再戦しているアルのことだった。

レイルに対して、彼一人でも大丈夫だろうと話したが、そんなことは決してないと心の中では思っていた。

あれはただ、レイルをその気にさせるための嘘と言ってもいい。

ワタルは彼を、アル=ヴァン・ガノンを信じている。それでも、あの身体で勝利しようとしているのは、不安で堪らない。

今すぐにでも、目の前に映る悪魔を薙ぎ倒し、応援に行きたい。

しかし

「レイヌ」

紫の魔方陣を展開し、絶影は何も応えることなく、柄を伸縮しカートリッジシステムを露出する。

そして、そこからカートリッジをロードすると、魔力が斧刃を覆うように紫色の魔力刃が現れる。

「Sonic Move.」

さらに、ワタルはフェイトの高速移動魔法『ソニックムーブ』を発動し、地面を蹴る。

それは、高速でこちらに刃を向けて突撃してくるレイルを迎え撃つため。

刃と刃がぶつかり合う。お互いの高速な突撃により、小規模な衝撃波を放つ。

お互いの刃が悲鳴をあげる。

これはただの力と力の押し合い。

「どうした、結構辛そうだな?」

「そういうあなたこそ」

二人は苦しそうに笑みを浮かべながら、さらなる力を加える。

鋭利だった爪は刃こぼれし、絶影はあらゆるところにヒビが入っており、互いの武器は限界に近づいていた。

互いの武器がさらに悲鳴をあげる。

その不気味な音に、二人は一斉にその場から離れ、地面に着地する。

「レイヌ、平気か?」

「大丈夫です」

それに対し、レイルは自分の爪の様子を確認する。

鋼鉄のような強度を持った鋭利な爪は、、すぐに構えなおす。

「お互い、そろそろ限界のようですね」

「そのようだな。決着、着けようや」

自分の体力ではない。自分の命と言ってもいい、互いが持つ武器。

その武器が破壊された時、使用者が得るものは’死’

その命が壊れかけている今、これ以上の長期戦は望めない。

よって、次の一撃で二人は決着をつける。

もちろん、互いが繰り出すのは必殺の技。

ワタルは魔方陣を変え、ミットチルダの円形の魔方陣を展開する。

絶影の柄を両手で持ち、先ほどのようにカートリッジをロードし、絶影の魔力刃はさらに輝きを増す。

「魔導式が変わったにも関わらず、騎士甲冑は変わらないんですね」

「この騎士甲冑は、ゲヘナ式のモノ以外の魔導式に対応した騎士甲冑だからな」

なるほど、と頷くレイル。

すると彼も、足元と前に掲げた手中にゲヘナの魔方陣を展開する。

そのもう片方の手中には、小さな魔力弾が精製されている。

お互い、技を出す準備は整った。

微かな風が、森の中を駆け巡り、自然の声が鳴り響く。

二人は目を閉じ、その声に耳を傾けた。

そして、風が止み、二人は目を見開く。

「影──一閃!」

「デアボリック・ゲブレェール!」

横からの一閃によって現れた、紫の衝撃波と手中の魔方陣から放たれた収束砲。

互いの必殺の技は、周囲の樹木や植物を抉り倒しながらぶつかり合う。

爆発にも似た衝撃の中、二人は己の体が傷つくこともいとわず、爆心へと飛び込んでいった。

「「おおおおおおおおおっ!」」

レイルは、再構築した鋭利な爪を前に掲げながら突撃をする。

その先には、自分と同じように突撃するワタル。

その爪は彼よりも先に、体を貫こうとしていた。そう、貫こうと…

だが、それは死神であるワタルが許さなかった。

そのワタルは、爪が体に触れた途端に紫色の魔力光となり、閃光を放ち消えた。

「げ、幻術魔法?何処に!?」

「悪いな、正々堂々の戦いの中でも騙してでも勝たなきゃならないときもある」

その声に、レイルは頭上を見上げる。

そこには、本来のゲヘナの騎士甲冑を身に纏い、銀色の脚甲を装備したワタルが、そこにはいた。

彼は、どこか申し訳ないと言ってるかのような表情を見せ、レイルに向かって渾身の蹴りを叩き込み、それは小さな爆発となって二人を包み込んだ。



次回予告

「王は天に落ちた」


あとがき

どうも、ご愛読有難うございます。
今週少しばかり忙しく、SS更新の間に何も更新できなかった一週間でした( -ω-)
とは言え、今日は久々に遊戯王で遊んできました。
それについては、日記の方で…w
で、今回のSSを機にして終盤に突入ですかね?
まぁ、最後まで暖かい目で見守ってくださいw
しかし、左足の親指の爪が巻き爪になって痛い…
なんとか、ならないだろうか…近日病院に行きます(´・ω・`)
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