▼第三十八章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

第三十八章「王は天に落ちた」


「うおおおおおおおおっ!」

幻術魔法を屈してレキの拳は、バンプ・クライアントの顔面を捉え、叩き込んだ。

(っ!?)

バンプ・クライアントの体がぐらりと傾き、握られていた魔剣エクスキューショナーが宙を舞い、床に突き刺さる。

しかし、拳一つで倒せるほどの男ではない。彼は、床を踏みしめて踏みとどまる。

「はあ──はっ!」

踏み止まり、呼吸を整えている最中、新たな拳が彼の顔面を襲う。

そして、レキの左右のリボルバーナックルが交互に彼の頬を殴り、殴り、殴り続けた。

その際に、バンプ・クライアントの体は殴られる方向に振り回される。

(反撃する暇を与えるな。もうチャンスはねぇんだ。これで殺らなきゃ、殺られる!──終わりにするんだっ!)

二人の拳を一つに合わせ、上段からの拳の鉄槌を振り下ろし、後頭部へと直撃させる。

「──かはっ!」

激しい連撃の後の一撃に、床が吐血により赤く染め上がる。

「おおおおおおおおおおっ!」

そして、右の拳を下段からのアッパーを叩き込み、バンプ・クライアントの体は宙を舞った。

その体はゆっくりと床へ墜落し、背中から鈍い音と共に激突した。

「はぁ…はぁ…」

顔面へのラッシュに、最後のアッパーに関して、ほんどん無呼吸での激しい運動のため、息は荒い。

もちろん、それには全身の怪我なども関係しているが、今の攻撃で両手にも相当の負担が掛かっている。

その両手は、構えることを忘れて下に垂れている。

(ちっ、やっぱり魔力ダメージの方がいいか)

心の中で呟いた彼の目先には、煙の中に映るシルエット。

そのシルエットは、ゆっくりと下半身から上半身へと体を動かし、立ち上がろうとしていた。

(レキ君、あきらめないで)

「はい、分かってます。──モード、戦闘機人モードへ移行」

心の中に響く愛しい女性の声に、レキは独り言のように応える。

ゲヘナの魔法陣の展開と共に、紅き瞳は戦闘機人の特徴とも言える金色の瞳へと変わる。

そして、一度は消えた『煉獄の檻籠』を再発動し、本来彼の身を包み込む炎は両手に装備された漆黒のリボルバーナックルに纏わり付く。

カートリッジのシリンダーを高速回転させ、その炎はシリンダーに吸い込まれていき、手甲から燐火が漏れる。

「これで、しめぇーだ」

必殺の技を繰り出す準備は整った。

後は、煙の中から突き刺さるような殺気を放つ、バンプ・クラインアトの様子次第。

その煙の中で、男は殺意を爆発させた。

「貴様…きさまあああああああ!」

(避けてっ!)

バンプ・クライアントは怒りを表す叫び声と共に、無詠唱の収束砲を放った。

筒のように煙から穴が現れ、そこから白の収束砲が轟音と共に迫り来る。

それは、レキに直撃すると爆発によって発生した爆音と共に白煙が立ちこもる。

「はぁ──はぁ…」

苦情で息を荒くするバンプ・クライアントは、その白煙が晴れるのを待った。

白煙が晴れるのに、そう時間は必要としなかった。

だが、そこには爆発によって深く抉られた床と、ぼろぼろになったレキの騎士甲冑のロングコートが無残な姿となっていた。

そう、結果としてレキには直撃していなかった。

「煉獄の…紅砕滅閃!」

どこから聞こえる気合の入った声。

その方向へと顔を真上と向ける彼だが、既にそこには灰燼に帰そうとこちらに炎を纏った拳を振り下ろそうと落下するレキが居た。

そしてレキは、驚きの顔を見せながら後ずさりする彼に、燃え上がる手甲を叩き込み、凄まじい爆発と共に煉獄の劫火を浴びさせた。


─────エイムズ 森林地帯──


男は、大きく凹んだ地面の中心に仰向けに倒れていた。

全身に激痛が走っており、体を動かそうとも微動するだけで、立ち上がることすらできない。

そんな彼の元に同じ爆発に巻き込まれ、騎士甲冑の所々が破損しているワタルが手を差し伸ばしてきた。

「立てるか?」

苦情の表情を浮かばせながら、レイルは手をとろうと手を動かすが、やはり手や腕が微動いるだけで上がらない。

それを見て、ワタルの方から彼の手を取ると、それを後ろに引っ張ってそれを肩にの方へ回し、ゆっくりと彼の体を持ち上げた。

「私の負け、ですね…」

「──ああ」

息を荒くしながら話す彼の声は、残念そうな悲しみに溢れていた。

お互い全力をぶつけ合い、力と想いをぶつけ合い、ワタルはそれを貫き通した。

そんなワタルはただ、頷くことしかできなかった。

「悪いな、このまま王様の元に行くことになるが、大丈夫か?」

「私のことは、気に…せずに…」

言葉を話すと同時に、歪む顔。

その表情からして、ワタルの一撃がどれほどの威力を持っていたか物語っていた。

そんな彼を見て、ワタルは少し姿勢を低くし、余っていた片手をレイルの両足の裏へと回して持ち上げ、俗に言う’お姫様だっこ’をした。

「えっ?あの、ちょっと!?」

思わず動かないはずの体を、バタバタと動かして暴れる。

何故この持ち方をされるのか、レイルには理解できなかった。

「ええい、うるさい。じっとしていろ、すぐに運んでやる。お前に見せてやらないとな、お前が無謀と言った王様の戦いをな」

そんな彼を言葉で封じたワタルは、飛翔魔法を使って強引にその場から飛翔した。

目指す場所はもちろん、死闘を繰り広げているアルの元へ。


─────捕縛結界内──


焼き焦げ、凹んだ床を前にレキは、跡形も無くなった防衛プログラム『バンプ・クライアント』を見つめていた。

息を荒くしながら、何も無いただ凹んだ床を見つめる。激闘を終え、大きくため息をこぼす。

ば ち

突然、左腕が悲鳴をあげる。

「ぐあっ!?」

機械の体をした彼の左腕は、内部から火花を散らしながら小さな爆発を起こした。

両手に装備されたリボルバーナックルのシリンダーからも、小さな爆発が起きる。

慌てて残った右手で左腕を押さえるが、既に爆発によって左腕は動かなくなっていた。

「少し、やりすぎたか…」

『煉獄の紅砕滅閃』を放った彼の腕は、衝撃とで相当な負担がかかり、左腕がそれに耐えられなかったのだ。

その左腕から火花が途絶えることは無く、パチパチと小さな音を立てる。

動かなくなった左腕を垂らしながら、レキは後ろへと振り返り、白の椅子に座って眠っているベアトリーチェの元へと向かった。

彼が振り返ったと同時に、彼女も長い眠りからゆっくりと目を覚まし、瞼を開けた。

「ん…ふぁ…」

ぼやけた視界の中、彼女は左右を見渡す。

殺風景な白の空間に、所々にある焦げ目や傷、凹み、そして血液。

レキとバンプ・キライアントが彼女の目の前で激闘を繰り広げていたとは、想像もつかないだろう。

何事かと思い、目を見開き眠気が吹き飛んだ彼女の前に、レキが迫る。

「大丈夫?」

「あなたは…」

大丈夫と尋ねられる状態ではない彼だが、それでも何処か気遣うような口調で話しかける。

「あなたこそ、大丈夫ですか?こんなぼろぼろで」

「あ、俺は大丈夫です。気にしないでください」

火花を散らし、人口筋肉と強化骨格が露になっている彼を見て、ベアトリーチェは心配そうな顔を見せる。

それでもレキは、残った右手を頭の後ろを掻きながら話す。

「あなたには、色々と聞きたい事があります。まず、ここから脱出しましょう」

彼の誘いに、彼女は頷かなかった。

むしろ、頷くことも首を横に振ることもしなかった。

そんな彼女に、レキは首を傾げた。

「どうか、しましたか?」

「私が眠っている間、私はこの心臓を経由して、あらゆることを知りました」

突然話し始めるベアトリーチェに、レキは口を閉じてそれを聞いた。

「老王のことや、歴代の魔王のこと、私の存在理由…」

「存在理由?」

「私は、魔王ブレイ・ガノンを復活させるだけの為に造られた、人造生命体なんです」

「人造生命体、馬鹿な!管理局が…?」

告白する彼女に、レキは信じられなかった。

彼が知っている人造生命体は、数少ないがまさかまたこのような人に出会うとは、思ってもしてなかった。

「そうです。時空管理局は、あなた達の王様アル=ヴァン・ガノンを抹殺する為に外部からそれを試みた。そのために造られたのが、私です。管理局は’老王の心臓’に付着した僅かな血液からその適合者となる私を造り出し、今回の計画を企てた」

「待て、失礼だがあなたの歳は?」

「16です。ですが、私は幼いころに管理局の手によって急激に成長を強要され、この心臓に合うような歳まで育てられ、今に至ります」

「ということは、管理局は数年以上前から、この計画を企んでいたというのか?」

「そうなりますね。しかし──」

「しかし?」

突然、話題を切り返した。

「──私は管理局の手から逃れた、自力で。そこで私はレイルと出会いました」

「あの銀髪に?」

その問いに、彼女は素直に頷いてくれた。

そして、彼女の話は続く。

「彼は、私を幾たび回収しようとする局員たちから守ってくれました。彼は命の恩人です。ですが、予めあくらが心臓にプロクラムされていたものが作動し、結果的に私はこのように覚醒してしまいました。ごめんなさい」

「なぜ、謝る必要がある?あなたは決して、このような事を望んでいる訳ではない。だからあなたは、悪くありません。真の悪は、あなたを利用した管理局です。詳しい話は、後でじっくりと聞きます。今は、ここから出ることが先決です」

「ですが、どうやって──」

「任せてください!」

手段を知らないベアトリーチェは、戸惑いの顔を隠せずにレキの顔を助けを求めるように見つめた。

そんな彼女に、レキは自信に満ちた表情を彼女に見せ、安心させようとした。

それはもちろん、一時的な安心のためではなく、これからずっと安心させてあげられるために。



次回予告

「天に落ちる時」


あとがき

どうも、ご愛読有難うございます。
今週は多忙でギリギリまで執筆してました(;-ω-)
切羽詰っていたので、今回は内容的にあまり満足していないのが本音。
次回は、しっかりと書いていきたいと思います。
しかし、また数週間したらまた試験がやってくるんですよね…
次回更新したら、またお休みするかもしれません(´・ω・`)
さてはて、どうやることやら…
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