▼第二章 
魔法少女リリカルなのはStrikerS Death Tear


 一台の乗用車が、陸士108部隊の隊舎の入り口前に停車した。それに乗車していたアルとはやてが後部ドアから出てくる。
 何度かここを訪れたことがあるアルだが、いつもとは増して険しい顔で佇む隊舎を眺めた。
 また、彼と会うのか。
 そう考えただけで、16年前の彼の不気味な笑みが脳裏に蘇る。
 ここに来るときに限らず、何らかで再会する可能性はあったが、彼が所属する陸士108部隊の部隊長室まで移動するその度に。’もしかしたら’と少し怯えていた自分がいた。

「アル君」

 自分の名を呼ぶはやての声に、ふと我に帰ってはやてに顔を向ける。

「……大丈夫?」
「──ああ、すまない。大丈夫だ」
「さあ、行きましょう。ナカジマ三佐がお待ちです」

 そして、運転していたリバルが運転席から降りてきて二人を促した。二人はコクりと頷いてゆっくりと歩き出した。


第二章「再会」


 応接室の扉が開き、三人はゆっくりと入室した。
 部屋に入ると、アルの目に飛び込んできたのは、微笑を見せながらこちらが到着するのを待っていたゲンヤ・ナカジマ三佐。
 そして、16年前の微かな記憶にあるワタルの姿と、その弟の姿があった。

「よし、全員揃ったな。適当に座ってくれ」

 それを聞き、三人は一礼をして近くのソファーに腰掛ける。
 一息つくと、早速アルがワタルに向かって口を開いた

「久しぶりだな。ワタル」
「はい。しばらく御会いしていない間に、随分と大きくなられましたね」
「そういうお前は、あの頃と全く変わらないな」

 16年ぶりの再会に、軽く言葉を交わす二人。16年前に知る彼の顔は全く当時のままだった。
 アルの言葉に微笑を見せるワタルだが、それでもアルの顔が笑顔になることは無かった。
 その二人の会話に、隣に座っていたギンガが口を開く。
 
「アル=ヴァン教導官とお知り合いなんですか?」
「まあ、昔にちょっと…」

 ギンガに魔界のことや自分が’死神’だと伝えていない今、彼女にそう詳しく話すことはできない。ましてや、自分が裏社会に生きる者と知られたら、見せる顔がなくなってしまうことをワタルは恐れた。
 再会の会話を終え、ゲンヤが口を開く。

「さて、こうして皆に集まって貰ったのは他でもねぇ、ここ最近起こっている高官連続殺害事件についてだ」

 アルはこの男がレキ、とワタルの隣に座るブラウン色の髪をした青年へ視線を向けた。108部隊に向かう前に、リバルから彼の情報を写真つきで見せられたが、やはりワタルと関係を持っていたアルだが、彼とは初対面だった。
 それはレキも同様だった。魔界で生活をしていた頃は、一週間に一度ゲヘナ城前に開かれる行事を偶然目にした際に、まだ幼かった彼の姿を見ただけである。
 
「この二週間余り、連続に高官が殺害されたことについて、全面的に認めている。それについてだ──」
「ナカジマ三佐。それらについては、そちらに向かう前にひと通り把握しています。もう本題入ってもよろしいのでは?」

 と、話していたゲンヤの言葉を切って、リバルが割り込んだ。

「ぁ、ああ。皆分かっているなら良いんだが。なら、本題に入るとしよう」

 そう話すと、突然と彼の表情が強張り始めた。

「……二人は戦闘機人事件というのを、知っているか?」
「──はい」
「自分も存じています」

 戦闘機人事件。それは、フェイトが追いかけている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの話を聞いた際に、その事を知った。
 しかし、何故自分とリバルに問われたか分からず、はやてに視線で問いかけるが彼女はコクりと頷いて応えた。
 どうやら、この事についてはやては、前からゲンヤと話していたのだろう。

「なら話は早い。皆も疑問を持っているはずだ。何故、死んだ事にされた彼が、今此処に居るのか」
「……それは、彼は事故で亡くなった訳でもなく、ましてや誰かに殺された訳でもない。自分が助けたんです」

 ゲンヤの言葉の答えを、ワタルが補うように話した。

「どういう事だ、ワタル」
「事件の際に彼は拉致され、その事件を偶然目にしてしまったワタル君が必死で、弟であるレキさんを助けたんや」
「──ぇっ」

 はやてから話された事は、彼と関わりの深いギンガでも初耳だった。
 だが、これで今回の高官連続殺人事件との関係が薄々分かった気がした。

「なるほど、殉職となっている彼を、今回の事件で公に出すわけにもいかず、無かったことにしようと?」
「まあ……現時点では、そう考えている」

 その答えに、アルは片手を顎に当てて考え込んだ。
 確かに、彼を公に出す訳にはいかない事は分かる。
 しかし時空管理局局員として、このような殺人事件を見逃しても良いのだろうか?
 しばらく考えたが、答えは導き出せなかった。

「……それについては、三佐にお任せします。確かに彼は魔界出身です。だからと言って、わざわざ我々を呼び出す必要は無いのでは?」
「それはな、アル君」

 はやてが口を開き、理由を話そうと続けた。

「機動六課がこれから担当することになるレリック事件。それと三佐が今、お調べになっている戦闘機人事件が関係しているからや」
「──何っ!?」
「ガジェット事のなんやけど、実はあの内部にある男の名前が記されていたんや」
「まさか……ジェイル・スカリエッティだと言うのか?」

 ジェイル・スカリエッティ。
 様々の分野で数多くの事件を起こし、広域指名手配されている次元犯罪者。今回のレリック事件で関与してくる場合があるかもしれないと、フェイトは呟いていた。

「──ご名答や。ガジェットと戦闘機人。これは偶然と言うんやろうか?だから、これから六課が108部隊とどうやっていくか、決めようというわけで集まったんや」
「未だ彼が戦闘機人について研究していると?」
「25年ほど前から、彼の技術によって飛躍的に進歩した戦闘機人やけど、進歩しただけで研究が終わると思う?」
「……いや」
「だから、これから私たちは、六課としてレリック事件を捜査するとともに、ナカジマ三佐は今後とも捜査を続けて貰えませんか?」

 はやての頼みに、ゲンヤはしばし考え込んだ。
 闇に葬られたこの事件を捜査し、妻であるクイントが亡くなった真相を得るためなら、命を捨てる気持ちで捜査するが、家族が居る。
 ギンガとスバル。妻から頼まれたこと。二人をちゃんと育ててくれと。
 その頼みを断る訳には行かない。だが、今までのように地道に捜査を続けていけば、真相を知ることができるかもしれない。
 複雑な思いが、心の中で交差する。

「悪いが、今すぐOKは出せねぇ。もう少し、考えさせてくれ」
「……分かりました。では、後日にまた」

 結果的に、高官連続殺人事件でレキは逮捕されることはなく、実際メディアを通して公開されている事件ではなかった為、公開されず処理されることが決定された。
 しかし、レキがこの事件を起こした理由。戦闘機人事件を知る高官たちを脅迫して、その情報を得るために聞き出していた事が、その後の話から分かった。
 そして、死神との再会は、何か起こるのではないかと身構えていたアルだったが、決してそのような事は起こらず終わった。
 しかし、これから108部隊と協力していく上、でレキが必ず関係してくるということは、同時にその兄のワタルとも関わっていくことになる。
 これからも、彼らを警戒する必要がありそうだ。 



 ◇



「あまり結果は出なかったな」

 帰りの廊下を歩きながら、ぼそっと言葉をこぼすアル。

「そやね。でも、レキさんは逮捕されずに済み、戦闘機人事件という新たな捜査口を見つけたんやから、良しとしよう。」

 笑顔で話す彼女の横で、アルの顔は曇っていた。
 死神たちの再会に今回は何も無かったが、いつ彼らが動き出すか分かったものじゃない。
 そして、まだ皆は彼らの本当の姿を知らない。
 故に、皆が彼らの手によって傷ついてしまうのではないか?
 アルの脳裏に、返り血に染まった16年前のワタルが蘇った。

「それとも、あの二人が心配?」
「……ああ。何か仕出かすのではないか、不安で仕方ないよ」
「しかし、私たちがどうこう出来る事ではありません」

 リバルの言うとおりだった。
 今の自分に、彼らを止める力も無ければ、彼らの動きを知ることさえも出来ない。
 だからこそ、彼らが心配であり、恐れている。

「ワタルとレキ、か……」

 レリック事件と戦闘機人事件。そして、ジェイル・スカリエッティ。
 まさか、死神たちが機動六課に大きく関わる存在になろうとは、まだ誰も知らない。





あとがき

どうも、ご愛読有難う御座います。
そして、お久しぶりです。と同時にすみませんでした。
ダラダラ更新を引き伸ばしした結果がこれです。
1月は予想以上に忙しく、少しずつ書く日が続きましたが、今回は会議みたいな会話ですので、どう書いたらいいのか非常に悩みました。
というより、どう書いたらいいのか分からなかったですorz
流石に、これ以上引き伸ばすのもあれかなと思ったので、場面的に区切りが良い所で更新するのがいいかなと思って、更新しました。
後日、もしかしたら改稿する場合があるかもしれませんが、その時はTOPでお知らせします(-ω-)



2010/2/13 改稿



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