▼第四章 
魔法少女リリカルなのはStrikerS Death Tear


第四章「選択のとき」


 指示を受けた二人は、恐る恐る入り口となる扉を開ける。店内に入った二人は、カウンターに設けられた椅子に座り、彼が裏から現れるのを待った。
 少し待つと、バーテンダーの服装に着替えたレキが現れた。しかし、その表情は未だ固く二人を睨む。

「……で、その嬢ちゃんが言ってた話って何だ?」

 レキは早速二人の話を聞こうとした。正直、こんな連中と話すことさえ苛立ちを覚える。
 そんな彼の苛立ちの表情など気にせず、はやては口を開く。

「……レキさんには辛いことだと思われますが、当時の事を詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」

この女……。レキの眉間のしわが濃くなる。
あれについて話せだと?冗談じゃない!
 一体俺がどれほど辛い思いをして、今まで生きてきたと思っているんだ。レキの感情が一気に爆発寸前にまで達した。

「八神二佐、あんた正気で言っているのか?」

問われて、はやては顔を強張らせる。予め予想していたが、彼が怒っている事が直に感じられた。

「大変辛い思いをしたことは分かっています。ですが、私たちには少しでも情報が欲しいんです。スカリエッティの逮捕に協力して貰えないでしょうか?」
「分かったような口で言うんじゃねえっ!」

レキの怒りが爆発する。
辛い思いだと?そんな生易しいものじゃない!
地獄の日々だった。兄に助けられ一命を取り留めたが、その後に残ったものは絶望と孤独だった。もう仲間と呼べる親しい友はこの世に居ず、毎晩同じ悪夢にうなされる日々。
今まで経験したことが無かった、大切な人を亡くす辛さを初めて知った。
そう思うと、管理局に勤める前の自分が恐ろしくて堪らなかった……
怒りを拳に込めてカウンターに殴りつける。彼の怒鳴り声で、店内は重苦しい静寂へ包まれた。
怒鳴られることを予想していたとはいえ、間近で怒鳴りつけられてはやての顔が少しばかり俯く。

「っち!……帰ってくれ……」

 小さく声を震わせながら、レキは呟く。
 はやてが彼の顔を見ると、彼の顔は俯いて見えず、その代わりに身体を震わせながら僅かながらも涙を流しているのが見えた。それは、必死に泣いている事を隠している子供のようだった。
ほんの数秒の会話しかしていないが、いまこの状態で彼に聞くのは、余りにも無理があって酷だ。そう判断したはやては、悲しげな顔でリインに視線を送る。
そして、二人はゆっくりと席を立つとはやてが口を開く。

「……数日後、ホテル・アグスタにてロストロギアのオークションが開かれます。機動六課は、そこの警備を担当することになっています。ロストロギアをレリックと勘違いしたガジェットを迎撃するのが、私たちの仕事です。もし、お話して下さる気になりましたら、そこで私は待っています。」

そう言い伝えると、彼に向かって一礼して店を後にした。
スカリエッティの情報は得られなかったが、唯一あの事件を知っているのは彼のみだ。はやてはいずれ、必ず彼から話を聞きスカリエッティへ繋がる手がかりにすると決意していた。









陸士108部隊のとある給湯室が、男女の会話によって重々しい空気に包まれていた。
そこには、キンガがワタルにとある事について尋ねていた。
それはもちろん、レキについてだ。先日の高官連続殺人事件にて彼の生存を初めて知ったギンガにとっては、それは衝撃だった。
彼女の母親のクイント・ナカジマの同部隊に所属していた彼は、母親同様に『戦闘機人』に巻き込まれ、彼女が知る情報では部隊は全滅したということだった。
もう誰からも、この事件について話をくことはできない。そう思っていたギンガにとって、レキの生存はあまりにも予想外で、嬉しかった。

「何で当時、私やスバルに教えてくれなかったんですか?」

ギンガやスバル、ナカジマ家とレキとの付き合いは長い。
彼がクイントと同部隊に所属してからは、度々家を訪ねてギンガとスバルも彼とよく顔を合わせていた。
だが『戦闘機人事件』後、ナカジマ家と彼との連絡は途絶えていた。ギンガとスバルは、母のクイントと同様に亡くなってしまったのかと思い続けてきた。現に、報告書では殉職と記されている。
しかし、真実は異なっていた。はやてとアル=ヴァンが陸士108部隊を訪れた際に、ワタルが話した通り彼が拉致された弟を助け出したのだ。
その事実も、あの時初めて知ったギンガ。何故、今まで話してくれなかったのか、ギンガは厳しくも悲しげに問い詰めた。

「それはあいつが、そうするよう俺に頼んだからです」
「────えっ?」

 コーヒーが入った紙コップを持ちながらワタルは話した。

「あいつは、ボロボロの状態で助けられ、おまけに機械の身体に改造までされて、『俺はもう、死んだも同然だ。生きる屍だよ』と言って、その事実をギンガさんやスバルに喋らないでくれ、と」
「でも!せめて、生きていることだけでも……」

 余りにも衝撃の事実の連続に、言葉が詰まる。
 昔から親しんできた人が、生きていたとはいえそんな身体になっていたことに、ギンガは耐えられなかった。そう、自分やスバルと同じようになるなんて……

「知りたかった……」

 声を震わせる彼女に、ワタルは紙コップに入ったコーヒーを飲み干し、ゴミ箱へ投げ込むと口を開いて再び話し始めた。

「すみません。時が来るまで、この事は伏せておきたかったんです。スカリエッティが開発したガジェットドローンが現われ始め、彼がずっと思い続けてきた事を知ることができるかもしれない。だから、この時になって明かしたんです」

「これから、ワタルさんはどうするんですか?」
「あいつの為にも、自分がやれる限り独自に『戦闘機人事件』を捜査したいと思います。もちろん、彼へのバックアップも」

 すると、彼へメール受信を知らせる着信音が給湯室に響く。
 ぁ、すみません。とメールを確認すると、彼は突然驚いた表情を見せる。反射的にギンガの顔を見ると、必死にその表情を無くそうとするが、ギンガから見れば余りにも不自然で怪しく見える。

「どうかしたんですか?」
「あ、ああ……いえ、何でもないです。えっと、これから会わないといけない人が居るんで、失礼しますね」
「ぁ、はい。気をつけて…」

 明らかに今のメールの件を隠すような話し方で、ワタルは給湯室を後にした。
 ギンガは適当に言葉を返して彼を見送ってしまったが、先ほどまで話していた彼の様子の違いに不信感を抱く。
 何か隠しているのだろうか?と、心の中で呟いて彼女も仕事に戻るべく、給湯室を後にした。









 はやてたちが帰っていって少し経ち、店内ではレキがようやく涙を止めていた。
 あの事件から、つい感情的になって涙を流すことが多くなっている。昔の自分と比べると信じられない変化だ。
 涙をしっかりと拭き取るとレキは、最後彼女が残した言葉を思い起こした。
 ホテル・アグスタ。彼女はそう言った。スカリエッティと『戦闘機人事件』を追い続けて数年。彼が集めた情報は限りなく少ない。
 しかし、今回はやてとの会話で、少なからずガジェットが出現するだろうという情報は得られた。あとはそう、そこからどう真の情報を得るかである。
 先日『高官連続殺人事件』で、これ以上荒い情報収集はできない。そうなると、後は独自に地道に捜査するか、同様に捜査を進めているであろう八神はやてを利用して情報を集める他に無い。
 地道に捜査するという手もあるが、それは事件当初からナカジマ三佐がし続けていること。きっと何かあれば自分に知らせてくれるだろう。ならば、残る手は……
 八神はやてを利用する。不本意だが、他に手は無いのかもしれない。いまの彼に考えられる手段はそれぐらいしか存在しなかった。
 ならば、後は実行のみだ。
 レキは数日後に開催される、ホテル・アグスタへ向かうことを決意する。
 そして数日後、ホテル・アグスタに『戦闘機人事件』に関わる者達が集結する……


あとがき

 どうも、ご愛読ありがとうございます。
 そして、前回の二倍となる二ヶ月ぶり更新となりました。本当にすみませんでした……
 新生活が始まってそろそろ慣れてきたからやるかー!と言ってすぐ体調を崩し、治ったと思いきやぶれ返して再度ダウンしたり酷い状態でした。
 今回の話なんですが、レキとはやての会話がほんの少ししか無かったんですけど、あそこが一番苦労しました。
 ホテル アグスタまでの話なんで、どうするか迷ったんですけどこんな感じになりました。
 次回からようやく話が進展しそうなので、頑張っていきたいと思います。
 なるべく、なるべく遅くならないよう頑張ります……w(滝汗

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