▼第六章 
魔法少女リリカルなのはStrikerS Death Tear


第六章「戦友」


「………」

怒声が辺りに響き渡る。だが、レキが呼んだゼストという男は微動せず、ゆっくりと口を開く。

「レキ。生きていたのか……」

 その声は彼が知っている声そのもので、数年ぶりに聴くその声はどこか懐かしく感じる。
 しかし、その彼は嬉しくとも少し悲しげな表情をしている。
 そんな彼の傍には、彼の服を片手で握り締めながら一人の少女がこちらを見つめていた。初めて見る顔だが、髪型や髪の色、容姿からすぐその者が誰なのか分かった。その姿を見て、自然とゼストへの怒りが消えていった。いや、いまこの子の前で彼を殴るような事をしてはいけない。そう思い、握りこぶしを解いた。

「もしかして、ルーテシアか?」
「ああ」

 彼の問いに、ゼストは素直に応えた。仲間であり先輩だったメガーヌの娘である彼女が、どうして彼と共に行動しているのか。死んだはずのゼストと共に居ることから、何かしら『戦闘機人事件』に巻き込まれたのだろう。と彼は推測した。
 俺の事なんて覚えてる訳ないか。確かに事件当時、彼女はまだ赤子で、顔を合わせたのも数回程度で、それ以来会ってもいないため彼女の記憶から自分の存在は消えていて当然だ。
 
「ゼスト。この人誰?」
「……俺の大切な仲間だ」
「仲間、か。ゼスト、あんた今まで何を?」

 沈黙。彼は応えようとしなかった。
 レキは続ける。

「何故黙る?」
「お前には関係ない」
「ふざけんな!なら、ここ一帯のガジェットはなんだ?ここ一帯は、機動六課が警備している。それ以外の人間が居るというのはどういうことだ?」

 それを言えばレキも例外ではない。
 ゼストは迷い、傍に居るルーテシアに視線を向ける。すると彼女は、表情を変えることなくコクリと頷く。

「今回は、こいつの探し物を探しに来たんだ」
「探し物?」

 こんなところに、彼女の探し物があるというのか?オークションに掛けられているのはロストロギアばかりだが、危険性は極めて少ない。となると、やはり密輸品のものか?
 消去法で彼らの目的を探るが、これと言って決定的なモノは分からなかった。
 だが突如、ルーテシアが口を開いて一言呟いた。

「……レリック」
「ルーテシア、それは一体……」

 彼女が発した言葉に、レキは焦りと混乱が渦巻き始める。
 ガジェットが探すものと同じ物。それは一体どのような意味を成すのか、推測だがレキは彼女に問いながらも分かってしまった。

「これ以上は、言えない。ドクターが言っちゃダメだって」
「ドクター……?」

 知らない名前に首を傾げる。
 ドクターという者が何者なのか知らないが、これだけは言えた。
 ルーテシアだけでなく、ゼストもレリック事件に関わっていると。

「そいつが誰か知らんが、結局はレリックを探してガジェットを率いていたのか?」
「いや、こいつらは”はぐれモノ”だ。会場に出品されているロストロギアをレリックと勘違いしたのだろう」
「だが、あんたらの目的はスカリエッティと同じ。ゼスト。あいつの事について何か知っているんじゃないのか?」

 その問いに、彼は沈黙ながらレキを見つめる。その目付きは異様な物で、レキはすぐに聞いてはいけない事を聞いてしまったと悟った。
 しかし、彼の目的はスカリエッティの情報。ここで退く訳にはいかない。

「……知っているんだな」
「さあな」

 適当な返答に、絶影を構えて声を張り上げる。

「答えろゼスト!スカリエッティとどんな関係で、奴はどこに居るかを!!」
「お前一人でどうにかなる話ではない!」
「俺はただ!あの時、どうして皆が殺されなきゃいけなかった理由を、真相を知りたいだけなんだ!!」

 顔を強張らせながら訴えるレキは必死だった。
ゼストは何か知っている。ここで聞き出さなきゃ、折角今までやってきた事が無駄になるのかもれない。そう思えた。

「……俺も、それを知ろうとしているだけだ」
「え?」
「だが、お前と共にいく訳にはいかない……」

 彼はそう呟くと、背中を向けて立ち去ろうとする。
 慌ててレキは、届きもしない彼の背中に手を伸ばしながら声を上げる。

「ゼストッ!!」

 その声に、一度は足を止めるが彼の足は再び動き出す。
 刹那。
 レキを威嚇するように彼のデバイスが起動し、その刃を振り返って向けた。
 刃は額のすぐ間近まで迫っていて、ギロリとその刃が怪しく光る。

「ッ!?」
「お前とは行けない。無理に付いて来るのであれば……」

 後の言葉は言われずとも予想は着く。
 どうしてだ?どうしてなんだ!?
 やり場の無い怒りに、歯軋りする。
 彼と共に行けば、事件の真相への道が近くなるような気がする。
しかし、そうしようとすれば彼と戦う事になってしまう。
彼とは戦いたくは無い。生きているとは思っていなかった仲間が生きている。そんな素晴らしい事にも関わらず、刃を向けるなんて出来るはずがなかった。
俺はただただ、その場で身構えながらルーテシアと共に去っていく彼を見つめる事しかできなかった。

「……どうして!どうしてなんだ!ゼスト!!」

 森の中に消えいく仲間。
 彼はレキの言葉を無視するように、淡々と森の中へ去っていった。
 レキは一人、仲間の姿が消えると地へ膝をつき。

「くぅぅぅ……くっそぉぉぉぉぉ!!」

 涙を流しながら、天に向かって咆哮した。
 それには怒り、悲しみ、悔しさが表れていた。
 何も出来なかった……
 糞!糞!!クソ!!ちっくしょおぉぉぉ!!
 その泣き声は、いつまでホテル・アグスタへ響き続いた。





 気付くと俺は、店へ帰っていた。
 店へまでの間は、何を見て何を考えたのか全く覚えていない。
 しかし、やはり仲間の生存は飛び跳ねるほどの嬉しさだが、何も得ることなく分かれるのは余りにも辛かった。
 二階の自室で床に座り込むと、近く置かれたボトルを手に取る。
 酒を飲まずにいられなかった。とりあえずのこの悪夢のような現実から逃げ出したかった……
 しかし、ボトルを咥えながらレキは想う。

──俺も、それを知ろうとしているだけだ。

 何故同じ思いを抱いているのに、共に歩めないんだ……
 ボトルは次に次に空けられ、空となった数本のボトルが床に転がっていた。
 そして体は横になり。
 どうして、どうしてなんだ。
 ……ゼスト……ゼス、とぉ……
 彼の意識はゆっくりゆっくりと確実に薄れていき、ついには眠りについてしまった。





 眠っている彼の耳元に微かな音が入る。
 それと同時に、嗅覚が’その臭い’を覚えていたのか瞬時に意識が覚醒する。

「ん……んぁ……?」

 昨日の出来事について意識には無いが、本能的にある危機感を察知した。
 だが、意識が朦朧としていてまだ状況が把握できない。
 ゆっくりと瞼を開けると、目の前に空のボトルが転がっていた。
 どうやら、床で寝てしまったようだ。
 体を起こそうとした時、彼の体が硬直する。
 眠っていた時に感じた’ある臭い’。意識が覚醒した今、その臭いが何の臭いなのかがはっきりと分かる。
 足音が響く。
 そして、ゆっくりとその音が大きくなる。
 何が迫ってくるかを理解してしまった彼の全身から冷や汗が溢れ出す。
 突然、足音が止まる。すると、その足音の持ち主が口を開く。

「おー、ようやく起きたか」

 その声に、レキは体を震わせながら声の方へ振り返る。
 そこには、勝手に自分が仕入れてきたボトルを片手に持ち、もう片方には既に蓋が開けられたボトルを持つオールバックの中年男。
 彼の姿に怯えているのか、竦んでいるようにも見える。レキは泣きそうな顔で彼に向かって口を開いた。

「お、親父……」



あとがき

どうも、ご愛読ありがとうございます。
今回は久しぶりの更新という訳ですけど、ちょっと無茶して書いたので正直内容が何ともいえない感じですが、如何でしたでしょうか?
最後に新キャラが登場しました。
それについては、次回詳しく書かせてもらいたいと思います。
んで、今回三ヶ月ぶりということなんですけど、随分と放置してました。
というより、大学の方が忙しくて、実際休日も少ない時間しか書く時間が無かったのでこういう結果になりました。
まあ、色々と犠牲にすれば書く時間はあるんですけどねェ……(滝汗
とりあえず、長い目で見ていただけると幸いです。
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