▼第七章 
魔法少女リリカルなのはStrikerS Death Tear


第七章「レイブン」


「親父……」
「久しぶりではないか、息子よ」

レキが‘親父’と呼ぶ男は、彼の言葉を聞いて満面の笑みを見せる。
そして、ゆっくりと近寄って床へ胡坐をかいて座り込む。

「ど、どうして……あんたが、こんな世界に居るんだ……?」
「なんだその言い方は。まるで会いたくなかったような口ぶりではないか」

男は息子の言葉に不満の顔を見せる。
この兄貴と同じオールバック野郎は、死神レイブン。このレキ・ゲルンガイツの父親である。
遥か昔に俺達兄弟を置いて魔界を飛び出し、管理外世界で活動家して戦争をしていたと聞いていたが、どうして今現在俺の目の前にその男が現れたのか分からない。
こうして会うのは、何十年ぶりだろうか?

「だって……管理外世界で活動していたんじゃないのか?」
「ん? あー。あそこでの活動は終わったのだ。戦争も終わり、俺がそこに居る必要も無くなったのだ。だから、折角だから久しぶりに息子達に会おうかなと思ってな。それに、ワタルにも一度会っておく必要があるからな。レイヌさんの時にわしは、仕事で遠征していたからな。どうしても会う必要がある」

 恐る恐るここへ来た理由を問うと、レイブンは悲しそうにその理由を答えた。
 これまた昔に遡るが、兄のワタルの妻レイヌさんは魔界で感染病に侵されてしまった。そこで、死神たちは長だけが知る特別な方法で、彼女の魂をワタルの絶影に宿らせることで彼女は人間の身体を失ったが、命を失うことは間逃れたのだ。
 その後、ワタルも親父同様に魔界を去るのだが、それまでの間に親父は魔界に帰ってくることは無かった。親父はそれを悔やんでいるんだろう。

「──ミッドに来た理由は分かった。だが、どうして俺の家に居るんだよっ!?」
ある程度の事情を知り、先ほどの怯えていた恐怖は消えて普段の彼へと戻る。
それに、ここの入口には厳重の鍵が施されているが、親父のことだ。簡単に開けて入ってきたんだろう。
しかし、家へ侵入した理由を怒鳴りあげながら問い詰める。
 その問いに、レイブンは眉間のしわを寄せながら黙って懐に仕舞っていたタバコを取り出すと、その中から一本取り出して咥えると口を開けた。

「……それは、お前の身体についてな」





同日の昼頃。陸士108部隊の隊舎での一室で慌てた物音が響いていた。
 同時に、その原因の持ち主であるワタルの近くで警報が鳴り続けている。

「あなた。慌てすぎですよ」
「分かってる。だけど、ちゃんと綺麗にしてから行かないと!あーでも、これでいいか!」

レイヌから助言を受けながらも、多少散らかった部屋を片付けていた。というより、片付けていたというべきだろう。何故なら、鳴り始めるまで長い間掃除をしていなかったせいで散らかっていた部屋を片していたからだ。
とりあえず、掃除を中断し制服に’光の速さ’と言えるほどとてつもない速さで着替えると、慌てて部屋を後にした。
部屋から出ると、向かう先は隊員の個人で所有している車を駐車する事が許可されている駐車場だ。その理由は、そこに他の隊員の車の中に、彼の愛車も駐車しているからである。
そんな彼が部屋から飛び出すところを、廊下の遠くからギンガが見ていた。
彼が現場に向かって姿を消すと、恐る恐る彼の部屋の扉の前に立つ。
ギンガが見ていた時、彼は部屋に鍵をせずに出て行った。
すると、先日彼の部屋に会った一冊の本が彼女の脳裏に蘇る。あれはなんだったのだろうか。あの時は緊急時に彼に聞くことが出来なかったが、あの本から不思議に引き寄せられる感じがした。
何度の聞く機会はあったが、理由ははっきりとしないがあれについては聞いてはいけない気が不思議とした。
辺りを見渡して誰も居ないことを確認すると、ゆっくりとドアノブに手を伸ばした。
扉を開けると少しばかり散らかった部屋が、彼女の視界に飛び込んできた。
この前覗いたときには綺麗に片付けられていたはすにも関わらず、何かあったのだろうきか?そんな気にすること無い事を考えながら、ギンガは部屋へ踏み入る。
少し中へ進んでいくと、彼女は机に散乱した書類に目が留まる。

「これは……?」

 目にしたのは見たことがない言葉の列。
 見たこと無い文字ね。どこの言葉かしら?
 散乱した中から数枚手に取るが、どれも知らない文字で書かれていて読むことは出来ない。
 分からないのなら見ていても仕方ない。書類を適当に散乱していたかのように元の位置に戻す。
 そして、彼女の探し物。ワタルが机の上に置いていた本。しかし、その本は見る限りこの机には置かれていないようだ。どこかの棚にあると思い、一冊ずつ手に取って確認しようとする。
 だが、とは言うものの、彼の部屋に設けてある棚には本は数冊しか無く、わざわざ手に取るまでもなかった。
 残りの選択しは、机に設けられている引き出しだ。しかし、手を伸ばしても鍵が掛けられていて開ける事は出来ない。
 
「どこにあるのかしら……」

 顎に手を当てて考え込むが、考えられるのはやはり鍵が掛けられている引き出しだろう。
 それ以外に隠している場所は考えられるが、万が一彼が慌てて何らかの原因でここへ戻ってくるとこの部屋は修羅場と化してしまう。
 それは避けたい事態だ。ギンガは今回は諦めて再度’あの本’を捜索する事に決めた。


 それからしばらく経ち、任務から戻ってきたワタルが部屋に戻ると。
 何らかの違和感を察したのか、部屋の中心で一人佇む。
 何かを確認するかのように、目を左右に振って至る所に目を通す。さらに大きく鼻で深呼吸。
 そして、険しい面持ちでポツリと呟く。

「………ギンガ、か」

 ポケットの中から一本の鍵を手にして、机に設けられていた引き出しの鍵穴に差し込んで鍵を解除する。
 その中を開けて確認すると、そこにはギンガが探していた’あの本’が保管されていた。





 夜のミッドチルダ。摩天楼が聳え立って夜を明るく彩る中、買い物を終えたレキは買い物袋を持ちながら繁華街を抜けて、人気の無い路地を歩いていた。
 そこから通る道は、自宅への近道としてよく利用としている道だ。だが、路地ということもあり、廃棄物がどこかしら目に付く。
 それに目もくれず真っ直ぐ自宅へ向かう。その途中、彼は父親のレイブンの話を思い起こしていた。


「──お前の身体についてな」

 まさか、俺の身体について知っているって言うのか!?

「俺がお前の身に起こった事を知らないとでも思ったか?」
「……どこから知った?」

 自分の身体が機械の身体になったことを知っている事を知って顔を強張らせる。

「それは教えられない。何事も情報の仕入先は明かさない。それは隠密として生きる、死神の基本だ」

 知っている。だが、とは言えタイミングが良すぎる。
 俺が『戦闘機人事件』について本格的な行動を始めてすぐに、こいつは現れた。
 あいつが活動していた世界からミッドまでは、高速船に乗ったとしても数日は掛かるほどだ。
 もしや、仕入先の者は俺や時空管理局を知り尽くしている者なのか?戦闘機人事件についても闇に葬られた極秘の事件だ。なのに、どうして俺の身体について知っている?

「……不思議か?俺がお前の身体について知っていることが」
「当然だ。ということは、『戦闘機人事件』についても話を聞いているんだな」
「もちろんだ」

 親父は頷いて見せた。

「あの事件は普通の奴は知らないはずだ。誰にそれを聞いたかは知らんが、俺の身体を知っているという事は、かなり管理局中で権力がある奴とみた。あんたの目的は何だ。あいつらから雇われたのか!?」
「ふっ、それは教えられんな。なに、いずれ教えやるから今は父親の話を聞け」

 この男は意地悪な男だ。大事な事はすぐには教えず、自分の思い通りに話を進めていく。面倒な奴だ。

「大体の話は知っているから、いきなり本題から入るぞ。正直身体について、今はどうでも良い。今はスカリエッティの捜索が最重要だ」

 そう言って、口を開くとレイブンは淡々と話を続けた。

「管理局の上の一部は、スカリエッティの存在を危険視している者が多数存在する。密かに機動六課以外の部隊でも、彼について捜索しているところもある。そこで……」
「お前は機動六課で八神はやて三佐と共に、スカリエッティの捜索をして欲しい」

 暫くの沈黙。
 彼の言葉が理解できずに、ただ唖然とした表情を見せるレキ。
 冗談にも程がある馬鹿げた話だ。そんな事がありえるはずが無い。それに、俺は既に死人扱いだと言うのに、機動六課に所属して捜索をしろ、だと?

「親父……それは笑うところか?」

 こちらも冗談半分に訊ねる。

「俺の顔を見て、冗談で話していると思うか?」

 彼の瞳には、鋭い目付きでこちらを見つめるレイブンの姿。
 その真剣な面持ちは、とても冗談で話しているとは思えないものだ。

「今回、俺がお前の情報を得て此処へ来た訳ではない。身体についても、この任務を受ける時に始めて知った。管理局のある男に頼まれて此処へ来た。だが、その男は決してお前が知る局員とは違った正義に忠実な男だった。それ以外にも彼についての話を聞いたが、俺は彼がどれほどの覚悟でこの任務を俺に頼んでいるのかが分かった。だから信じて欲しい。そして、八神はやて三佐と共にスカリエッティを捕まえて欲しい。」

 レキは、どう答えていいのか分からなかった。
 正直、情報がきちんと整理できてないというのが正しい。
 簡単に言うと、要するに親父は管理局の’とある男’に雇われて、俺に機動六課で働けと指示しに来たという事だ。

「これは父親の俺の頼みでもある」
「えっ」
「俺は……お前が知らないところで魔界を飛び出して、一人ミッドで暮らしていることも知らず。ましてや、こんな事件に巻き込まれている事も知らなかった!俺も出来る限り協力する。だから頼む!」

 その場で座り込み、両手に持ったボトルを置いて土下座して頼み込んだ。
 レキが知る父親ではあり得ない姿だ。

「──頼む!!」

頭を下げ続けながら、レイブンは頼み続ける。
だが、そう簡単に決めることなんて出来るわけがない。

「親父。いきなりそんな事言われても困る。ましてや俺は、管理局を信用しない。俺は、いや俺たちゼスト隊は、管理局に裏切られたんだ!そんな事、あんたや管理局の知らない奴の頼みなんて受けない!」

 息子の言葉に、レイブンもまた沈黙する。
 彼の憤り、悲しみ、憎悪、様々な感情が言葉となって直接耳を通して感じさせた。
 今まで何も知らずに居た自分が恥ずかしく、情けない。
 そして彼は、頭をゆっくり上げると口を開けた。

「分かった。だが、忘れないで欲しい。八神はやて三佐もまた、お前の協力を待っているんだ」

 そして、そう話すと立ち上がって一階へと続く階段へと歩き始める。
 それにすかさずレキが声を上げる。

「親父!」
「……あんた、本当に管理局に雇われて俺に会いに来たのか?」

 息子の問いに、背中を向けたまま足を止める。
 少しの沈黙が経つ。

「この事件が終われば、出来る限り話そう」

 そう言い残すと、部屋を後にして階段へと向かった。
 慌ててレキが階段まで追いかけるが、既にレイブンは既に姿を消していた。

 路地を俯きながら歩きながら思い起こしたレキは、八神はやてについても考えていた。
 親父にはああ言ったが、やはり協力すべきなのではないかと。
 ホテル・アグスタでは偶然、ゼストと再会できガジェット・ドローンとの戦闘もあった。
 だが、これ以上情報を得るのは容易ではない。
 
「やっぱり、機動六課に協力するしかないのか……」

 その時、はッと我に返ったかのように顔を上げる。
 すると目の前には、ブラウン色のフード付きのマントを身に纏って佇んでこちらを見つめている者が一人。フードが顔を隠して顔は窺えない。
 その者は、無言のまま袖の中から一本のナイフを出して手に取って構える。
 思考は完全に停止し、本能的に買い物袋から手を離して拳を握る。
 正体不明で性別も分からない未知なる敵は、殺意を剥き出しにしてこちらに歩き寄ってくる。
 一歩一歩、確実に。

「お前は、誰だ……」

 問いながらも、迫り来る敵に思わず構える。
 だが、その者は何も応えず、地面を蹴ってレキに刃を向いて襲い掛かった。



あとがき

どうも、ご愛読ありがとうございます。
以前とそれほど間が空くことなく、更新できたと思います。
休日を利用として一気に書いた感じですが、如何でしたか?
今回はオリキャラがほとんどのシーンでした。
ワタルサイドでは、ギンガが少しずつ話を進めていきますが、これからという感じですね。
レキは、相変わらずの戦闘モードです。
父親のレイブンについてももう少し書きたかったんですよね。少し変な終わり方をしていないかと心配です。
とりあえず、この調子で書けたら良いと思っています。
でも、一週間毎の更新は厳しいかな。うん、厳しいと思う。
まあそれでも、エルシャダイのMADを聞きながら執筆すればホイホイ書けるから頑張りますーヽ(`Д´)ノ
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