▼第十一章 
魔法少女リリカルなのはStrikerS Death Tear


第十一章「宿敵」


死神二人はミッドチルダ北部廃棄都市区画を、それぞれの自慢の愛車で走らせていた。
それまで区画に入る途中、レリックを持っていた少女を乗せた機動六課のヘリが狙撃されたという通信が入ったが、エース・オブ・エース高町なのはがそれの防衛に成功したという。
しかし、そんなこと二人には、関係もなく、全くといって興味がない。
二人が求めるのは、ただ一つ。
それを求める為に、ただひたすら瓦礫の道を突き進む。
深い闇に紛れた僅かな希望という名の光を得るために、男たちはただ前へ進む。
その時レキが、跨っているバイクが砂煙を巻き起こしながら停車する。
「………、この臭い!」
 声と共に、先ほどの緊張した顔が突如歪む。
 車で先行していたワタルは、彼の異変に少し離れた場所で気付き、同じく停車して窓から上半身を乗り出すと、
「どうしたんだ。何か見つけたのか?」
 ワタルの声は、既に荒狂ったレキの耳には届かない。目は血走り、何か見えない敵に敵視し威嚇して歪んだ顔で、遥か先の瓦礫を睨む。
 まさに、その先に追い求めていた”敵”を察知したかのように。
 激情のレキは、今まで共に走っていたワタルの事など思考から消え去り、その”敵”が居る瓦礫の先へバイクを走らせる。
 おいっ、というワタルの声は言うまでもなく、聞こえてはいない。
 嗚呼、そうだ。自分はただ真実を探していた訳ではない。
そう、戦っていたのだ。
しかし、直接的な戦いは出来ず、憎しみと悔しさは闘争心を爆発させる。
だからこそ、今分かる。この怒り、憎しみ、悲しみ、全ての負の感情の為に、自分は走っているのだと。
そして、その感情を”敵”へ解き放つ為に、ここまで生きていたのだと。
荒ぶるレキをよそに、ワタルは戸惑っていた。
本来ならば、ギンガさんと機動六課のフォワード陣と合流すべきだと考えていたが、レキは勝手に走り出すし、呼び止めるにはもう遅い。
窓から見るに横顔しか見えなかったが、レキは怒っていた。
弟が向かう先に、彼が怒る理由の”危機的何か”があるのなら、兄として付いていく必要がある。
と、その時ワタルの元に通信を知らせるアラームが鳴る。
 通信相手と数回言葉を交わすと、すぐさま区画の地図をモニター上に展開し、何かを確認すると、ワタルは自分が向かうべき場所に向けて、レキが進んだ道とは全く違う道を発進させた。


 機動六課のヘリが狙撃された後、その犯人として追跡された二人の少女。
廃棄都市区画の奥地でエース二人の砲撃の前に、とある姉の救援により九死に一生を得た二人の妹。
 一人は、茶髪に伊達眼鏡。さらに純白のケープを羽織っているのが特徴的な少女。名はクワットロ。胸元にはWという数字が刻印されている。
 そしてもう一人は、ナンバーWと同じ茶髪のロングヘアーを後ろで縛っているのが特徴な少女。名はディエチ。クワットロと同様に胸元には]という数字が刻印されており、彼女こそが機動六課のヘリを狙撃した本人である。
 しかし狙撃した巨砲は、執務官の出現により狙撃現場から放棄している。
 救出され荒い吐息を吐く二人をよそに、Vを刻印されている姉は厳しい顔を見せていた。
「ボーっとするな。さっさと立て。馬鹿者どもめ、監視目的だったが来ていてよかった。セインとタイプゼロはもう、お嬢とケースの確保を完遂したそうだ。合流して、戻るぞ」
 姉の厳しい言葉が吐き終えると、しゃがみ込んでいた二人の妹はゆっくりと立ち上がる。
 そして、姉が言ってい他の姉妹と合流する為に歩き出す。
 安堵した妹二人は安心した顔を見せていた。
 しかし、姉は違った。

とある違和感と耳に障る微かな騒音に、理性が警告の鐘を打ち鳴らす。
 
 “敵”が来ると。
 クワットロとディエチを追っていた管理局とは違う、新たな敵が。
 その騒音は徐々に大きくなり、流石の妹たちもそれに気付いて足を止めて音の方を振り向く。
 何かが瓦礫を駆け上がる音に、姉が身構える。
「……来るぞ!」
 その声と共に、太陽の光を背中から受け、バイクに乗った死神が廃棄されたビルの上から飛翔して現れた。
 死神は狂笑の三日月の口を見せながら、その片手には漆黒の大鎌が握られていた。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは─────────────ッ!!」
何かに歓喜の咆哮を上げながら、死神は空中で飛来している途中でバイクを乗り捨てると、三人に向けて両手に握られた大鎌を振り下ろした。
刃は空を切り裂き、轟!という音共に地面に突き刺さり、直径1mほどの凹みが出来た。
姉妹は纏まってその地点から離脱して、それを回避していた。
一呼吸すると、クワットロは目の前に映る死神を見て、
「トーレ姉様、あれって」
 妹が言うトーレは、顔を強張らせ剣のように鋭い目付きを目の前の”敵”に向けていた。
 二人にとって、レキの存在は特別的なものだった。
 『戦闘機人事件』の唯一の生き残りであり、スカリエッティが「プロジェクトFの
残滓」以外に注目していた死神という存在。
 しかし、その目的も達成の寸前に兄の死神の乱入により失敗に終わっている。
 生きているというのは分かっていたが、まさかこうして再び目の前に現れるとは思わなかった。
 だが目の前に映る死神は、当時と比べて明らかに変化を遂げていた。
 トーレにとっては、レキもただ一人の局員に過ぎなかったが、今は違う。
 目の前のレキは、死神ではなく獲物を狙う飢えた獣でしかない。
「まさかな。こうして再び会うことになろうとはな」
戦闘機人の言葉に、それを聞き取ると奥深くに眠っていた記憶が目を覚ます。
あの戦いで聞いた敵の声。
顔、容姿、装備、あらゆる物が同時のものだった。
当時の悪夢が脳裏に蘇り、鮮明な映像が脳裏に流れる。
大量のガジェット兵器と戦闘機人の前に、肉塊となって倒れていく仲間たち。
「ぐぁ……、おわぁ……!」
 顔は歪み片手で顔を覆い、猛烈な頭痛に声を上げる。
 頭の中の自分に亀裂が入る。自分が自分で無くなってしまう感覚に襲われる。
 朱色の魔法陣が足元に展開され、さらにそこから紅蓮の炎が巻きあがり、レキの身体を包み込むと大きな炎の半球体となる。
 危機感を察知したトーレが妹たちに顔向けて、
「二人は下がってろ!」
 声と同時に片手を前に掲げて防御魔法を展開すると、炎の半球体は爆発し、紅く燃え滾った死神が現れた。
──頭の中の自分が、崩れ去った。
 その目は、本来の改造された戦闘機人の瞳とは違い、紅き瞳とギラついた目付き。
 闘争本能を剥き出しにした野生の眼。
 まさしく、竜の眼。
 大きく深呼吸をし、周囲の空気を吸い込み、声を上げた。

それは、竜王の咆哮。

 咆哮は衝撃波として一瞬で周囲へと行き渡り、あらゆる物質を破壊した。
 廃棄されたガラス張りのビル群が、一斉に悲鳴を上げた。
 崩れた瓦礫は、塵となって遥か彼方へと消え去る。
 咆哮が止むと、彼の周囲には何も残ってはいなかった。乗り捨てられた愛用バイクも咆哮により粉砕されていた。
「がっ───う、ア!?」
 気が付くと”自分が直っていた”。
 息が荒く、今の咆哮がどれほどの体力を使ったのか実感する。
 だが、今の咆哮は何だったのだろうか。
 自分にあんな広域魔法のような技や魔法は心得ていないはずだ。
 ならば今のは、何だ?
 そうして訳が分からない状況に、レキは思い出したように目の前の敵に再び顔を向ける。
 敵は、一人が金色の半球体の防御魔法を展開し、後ろの二人を守っていた。
 予想外な事態に困惑するトーレに、クワットロが声をあげる。
「トーレ姉様、大丈夫ですか!あれは一体何なんですの?あの忌々しい死神が現れたと思えば、急に吠え出して……」
「……どうやらあの男は、死んでいった仲間の仇でも討ちに来たのだろう。お嬢たちと合流するはずだったが、仕方ない。二人は下がっていろ。私が片付ける!」
「わざわざタイマンでやんのかよ?いっそのこと、三人纏めて殺ってやるよォ!」
 その言葉に、後ろに下がっていたディエチが自分の拳を見つめる。
 装備である巨砲は、既に狙撃現場に捨てられている。
「私のイノーメンカノンがあれば……」
「心配ないわよディエチちゃん。あの時にディエチちゃんは居なかったけど、トーレ姉様一人であんな死に損ないなんて、すぐよ」
「あの糞眼鏡……それより、まずはテメェだこの野郎。俺は見たんだ。テメェが仲間たちを次々と、……殺すのを」
 悔しそうに犬歯を剥き出して怒りを露とするレキに、腕を組んで対峙するトーレは彼の言葉など聴いてもいないような素振りで、魔法陣を展開し始める。
「IS発動。ライドインパルス」
 事件当時にも見た魔法陣のような陣形。
 その発動と共に、手足に8枚の羽に似たエネルギー翼が現れる。
 昆虫のように羽を擦り合わせたような音を響かせながら、姉は腕組みを解く。
「そんな仲間たちの元へ行きたければ、すぐに連れてってやる。それとも、我らの軍門に下るのであれば、また貴様にとって幸せなのかもしれんな」
「何を言ってやがる……」
 細かいことはどうでもいい。こいつらが言っていることなんて、ろくな事に違いねェ。
 とりあえず、こいつら全員殺してスカリエッティの在り処を吐かせればそれで全てが終わる。
 敵の訳の分からない戯言に耳を貸すこともなく、レキも対抗するように右親指の先を食い千切り、切り口から鮮血が垂れ落ちるとそれが導火線のように炎に変化する。
 炎は切り口から龍が天に昇るかのように大量の炎が燃え上がり、それがレキの身体に纏わりついて、大鎌の絶影を構える。
 両者の距離は10メートル強。装備を見る限り、どちらにも間に合わない距離だがトーレは軽く膝を曲げる。
 瞬!という、空気を裂く音がした時には、トーレは目の前から消えていた。
 その次には、レキの反応を置いて煉獄の炎が一つの壁となって、トーレのエネルギー翼を受け止めてよく工事現場で聞く、鉄を削るような音と共に火花を散らしていた。
(………見えなかった。だが!)
 呆然と立ち尽くすレキに対して、彼を守る炎はただ攻撃を受け続ける。
 その間を好機をと見て上段から大鎌が振り下ろされる。
 しかし、刃は空を裂き、トーレは背後へ瞬時に移動して新たな攻撃の一手を繰り出していた。
「く────ッ!」
 振り向く途中に、エネルギー翼はレキの肩に深い切り口を刻み、妬けるような痛みが走る。
 最初の一手とは違い、反応することはできたがそれでも、受けきること適わない。
それは煉獄の炎も同様で、壁の構成にも間に合わなかった。
 ここでレキは、思考を一転させる。
 膝を折りしゃがみ込むと、煉獄の炎が竜の咆哮の前のように、紅蓮の球体となってレキを包み込む。
 それを前に、何事かとトーレが上空で足を止める。
 次の一手を思考するが、あの未知数の塊を前に何をすべきかを模索する。
 刹那、炎の球体から炎の柱がトーレに目がけて吹き溢れる。
 火山が噴火したかのように、マグマにも似た火柱は轟音と共に空の彼方へ突き抜けていく。
 その火柱の中に、トーレの姿はない。背中が瞬間冷凍されたような悪寒に襲われながら、とっさにISライドインパルスの能力によって回避していた。
 火柱という名の炎属性を持った砲撃。
 火球の中で絶影の一閃を繰り出し、その衝撃波を砲撃として放ったが、レキの狙いはそれではない。
 砲撃に続いて、火球から孔を描きながら新たな火柱が現れる。その数は2つ。
 2つは10メートル程離れたディエチとクワットロに向けて放たれ、トーレの戦いを見守っていた二人は、ある意味未防備だった。
 とはいえ、高速で迫り来る火柱でも二人は上空に飛翔してそれをかわす。
 レキは一人、呟く。
「一つ目は牽制。二つ目は誘導。そして、三つ目は───ッ!」
 言葉を発しながら、火球は爆発し中にいたレキが姿を現す。その手には、真っ赤に熱しられた絶影が紅く輝いており、それを二人に向けて大きく振りかぶる。
 繰り出すは、必殺の技。
 影さえも捉えることが出来ないほどの瞬間の速さ。
「影─── 一閃!!」
 上段から繰り出された斬撃は、三日月の衝撃波となって妹二人に放たれた。
 ドン!! という壮絶な爆発音。
 直撃した場所から黒煙が巻き起こり、敵の状態を確認することはできない。
「三つ目は、本命。ということだ。クソったれが」
 勝利を確信し、生を実感して三日月の笑みを浮かべる。たとえ死んでいなくても、直撃さえしていれば流石の戦闘機人とは言え、ひとたまりもない。
 しかし、異変にはすぐに気付いた。
 レキは犬歯を剥き出して見上げる。
 晴れかけた黒煙には、トーレが多少身体に焦げつきながらも両手を掲げて二人を庇っていた。
「──あぁっ、トーレ姉様っ!申し訳ありません私たちが不甲斐ないばかりに、こんな……」
 トーレは話を聞かない。
「いいかお前たち。今すぐに離脱して、セインたちと合流しろ!お前たちを庇いながら戦わせるな」
「あァ?今更逃げようってのか。この俺が目を瞑って見逃すとでも思ってのかァ!んァ!?」
 レキは右の掌に火球を生み出す。それを絶影の刃に、油を塗るかのように粗く、適当に炎を塗ると先ほどと同じように絶影は、真っ赤に燃え滾る。
 再び、必殺の構えを取る。
「させん。────ッ!?」
 レキの砲撃級斬撃を繰り出される前に、飛翔しようとするトーレだが、目の前の光景に思わず足を止めた。
 地上で大鎌を構えるレキが、ぼんやりと曖昧な形でしか捉えることが出来ない。
「……蜃気楼、だと?」
 正確に敵の居場所を把握できず、顔を歪ませる。
 敵の居場所が不確定の場合に攻撃を仕掛けるのはリスクを伴う。彼女には人間の視認速度を凌駕するほどの速さを持つが、ここからレキまでの距離はおよそ15メートル弱。
 いくら音速とも言える速度と言えど、一度相手の斬撃が繰り出されれば、それは衝撃波となって二人の妹へ襲い掛かることになる。
 たとえ相手を倒すことができたとしても、それにより妹達にどれほどの被害が出るか分からない。
 しかし、いまこうして戸惑っている時点で、死神の一撃を未然防ぐのは不可能。
 蜃気楼など、接近すれば確実に相手に狙いを定められるというのに、通常では有り得ない場所で自然現象に見舞われれば、誰もが戸惑うだろう。
 ならば、ここは撤収の延長線として、セインたちをいち早く合流して帰還するのが最優先だろう。
 苦渋の決断を迫られ、悔しがるトーレに念話が突如入る。

『トーレ、いま助けるわ。そこに居て』

 レキが必殺の一撃を繰り出そうと、絶影を振りかぶる時。
 右の視界から、突如とナカジマ姉妹が使用する移動魔法『ウイングロード』が瓦礫の上からこちらに向けて現れる。
 藍色のウイングロードの出現に、思わずレキの攻撃が中断される。
 そして、それを辿って高速に迫る”敵”。
 戦闘機人をイメージさせる青色のボディスーツ。
 両手にはシリンダーが回転する轟音に、その者の象徴と言えるリボルバーのシリンダーが組み込まれた拳装着型アームドデバイス。
 
二人は、互いにその目を見合う。

 その者の出現に、レキは幻を見ているかのように呆然とする。
 夢の世界、幻想の世界にでも来てしまったかのような、非現実的な感覚に襲われた。
 まるで今この瞬間が、現実ではないかのように。
「……く、……クイン、とぉ……?」
 自分で確認するように、相手の名前を呟く。
 その彼を置いて突如現れた介入者は、握られた右の拳をレキの顔面に突き刺した。
レキの身体は、殴られた方向に沿って竹とんぼのように回転し、後頭部から瓦礫の山に激突した。



あとがき

どうも、ご愛読有難う御座います。レキです。
ついて、再会してしまいました。
自分のSSを読んで頂いている素晴らしき人たちは、この展開は分かっていたと思いますが、初めての人にとっては、どういうことなの?という感じですかね。
まあ、今回の設定はですね……と色々と説明したいんですけどね。出来ればSS内で説明できたらいいと思います。
とりあえず、これだけ言うと。本来のリリカルなのはStSの本編とは違う内容になっていますので、ご了承ください。
久々の戦闘シーンで、レキの戦い方も、これリリカルなのは?と疑問が出る感じでちょっと不安を感じます(´・ω・`)今更だけど(汗
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