▼第十六章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS アル=ヴァン編」第十六章「翼、ふたたび」
─────機動六課──
リバルに肩を借りながら、ゆっくり一歩ずつ六課に近づいていくアル。
「良いのですか、もう少し病院に居た方が良かったのでは?」
「身体の完治は、今日中に終える。ならば、少しでも早く現場に戻った方が良いだろう。いつまでも、病院に居ては王の名が泣く。」
アルの心の中は、敗北感と老王に対しての疑。
何故、あの時収束砲が放たれなかったのか。
あの時、一瞬だけ老王の意志が感じれなかった。
考えても、結果的に応えは出なかった。
そして、ケロベロス。
何故、彼がスカリエッティに協力しているか。
そして、あの事件(A,B事件)に死んでいると思っていた。
死んでいなかったとしても、彼とスカリエッティとの繋がり。
だが、やはり彼に対しての敗北感が満ちていた。
敗れる前、自分が勝利に満ちていたあの快楽。
それが、一瞬にして絶望という敗北へ突き落とされた怒りも込み上げてきた。
リバルとふらふらと歩いていると、ティアナが向ってくるのが見える。
「アル=ヴァン教導官。もう身体は?」
「ティアナか。今はこんな感じだが、今日中には完治する予定だ。心配ない。」
「そうですか、良かった…」
曇っていた顔が、少し晴れるティアナ。
だが、アルの表情は曇ったままである。
「今から何処かに行くのか?」
「はい、病院の方に…スバルやちびっ子達の事も気になりますし。」
「そうか、気をつけてな。」 「はい、それでは。」
そう言い、軽く敬礼して走り去っていった。
軽くため息をし、内ポケットから葉巻を取り出して火を点けずに咥える。
そして、ゆっくりと一歩ずつ歩き始めた。
「そう言えば、レキやワタルは?」
「ッ、レキは彼女にやられて、基礎フレームや神経ケーブルが逝かれてるらしい。意識は戻っているから、身体の修理が終わり次第合流するらしい。絶影の修理は完了している。そして、ワタルは特に負傷は無かったから大丈夫みたいだ…」
「そうですか、それは良かったですね。」
「あんな奴らだが、俺の家族だからな…だけど、ヘレンは……」
「……………」
リバルは、ヘレンの名を聞くと軽く俯いてしまった。
そのヘレンは、今……
─────聖王医療院──
「……………」
身体中包帯で巻かれ、ベットで寝ているヘレン。
それを、パイプ椅子に座って見つめるフェイト。
いつも、なのはと一緒に居ないときは常にヘレンが側に居た程仲が良かった為、峠を越えたとは言え不安は消えない。
すると、部屋の扉が突然開く。
ふと、振り返ると一人の女性が部屋に入ってきた。
「騎士ヒカリ!」
そこには、アルが居ない魔界の最高責任者ヒカリ・グラリティの姿があった。
慌てて椅子から立ち上がり、敬礼するフエイト。
だが、ヒカリは慌てず人差し指を唇に合わせて静かにするように合図した。
そして、ゆっくりとヘレンが眠っているベットの近くに置かれたパイプ椅子に座り、眠っているヘレンの顔を見つめる。
「親衛隊の副隊長なのに、随分と酷くやられたわね…」
悲しそうな表情で、左手で口を抑える。
すると、フェイトもパイプ椅子に座る。
「相手が、彼女の父親だったとアルから聞きましたが…」
「ケロベロスね。あの死に損ないが、娘をよくやれるものですね……」
彼の名を聞いた時、悲しそうな表情から怒りに満ちた恐ろしい表情へと変わる。
彼女にとっても、彼の存在は許しがたいものだった。
「ま、アルがやってくれる事を願いましょう。ヘレン、早く治して親父さんにおしよきしてあげてね…」
そう言うと、パイプ椅子から立ち上がる。
「もう行かれるのですか?」
「ええ、レキのところに用がありましてね。それが終わり次第、すぐに戻らないといけませんから。」
「大変なのですね、そっちでも。」
「ええ、まぁ大丈夫ですよ♪」
そして、ヒカリは部屋を後にした。
フェイトは、ヒカリが部屋を後にしたのを確認すると、ヘレンの髪を軽く撫でていた…
─────陸士108部隊隊舎──
「まずは、どっから話したもんかな…」
「三佐が追ってらっしゃる、戦闘機人事件の話からでしょうか。」
隊長室には、ゲンヤとワタル、機動六課からは、なのはとフェイト、シグナムとヴィータ、そしてアルとリバルが横長のソファーに座っている。
そして、魔法のモニターにはモニター越しでクロノと騎士カリムも。
「出来れば、ギンガとスバルの事。奥様の事についても…」
すると、ゲンヤは固い表情で口をゆっくり開いた。
「ああ、戦闘機人の大元は人型戦闘機械。これは随分と古くからある研究でな、古くから旧暦の時代からだ。人間を模した機械兵器。いくつもの世界で色んな形式で開発はされたが、物になった例はあんまり多くねぇ。」
「魔界では数多くの発見され、研究もされている。」
「……それが、ある時期劇的な進化を遂げた。25年ばかり前の事だ。」
「機械と生体技術の融合自体は、特別な技術じゃない。人造骨格や人造臓器は古くから使われている。ただ…」
「足りない機能を補う事が目的ですから、強化とは程遠く拒絶反応や長期使用によるメンテナンスの問題もあります。」
と、クロノに続いてカリムが受け継ぐように話す。
「だが、戦闘機人はな、素体になる人間の体の方をいじる事で、それを解決させやがった!」
「「「ッ!?」」」
人間の身体をいじる。
いらゆる、改める。改造する。身体の拒否反応をなくす。
あまりにも、予想外な事が出てきて驚きが隠せないなのは達。
「誕生の段階で戦闘機人のベースとなるよう、機会の身体を受けいられるよう調整されて生まれてくる子供達。それを生み出す技術をあの男は、作り出した…」
「それが、ジェイル・スカリエッティ。」
「11年前、まだスカリエッティなんて男が絡んでいるとは知らなかったが、うちの女房は陸戦魔道師として、捜査官として戦闘機人を追ってた。」
「無論、同じ部隊に所属していたレキも、彼女と共に戦闘機人を追っていた。」
「違法研究施設の制圧。暴走する試作機の捕獲。スバルとギンガは、事件の追跡中に女房が助けた戦闘機人の実験体なんだ…。うちは、子供が出来なくてな、二人共髪の色や顔立ちもなんだが自分に似てるってよ。………はぁ、ともかく俺達の娘として、人間として育てるって言い出してきた。技術局のメンテなど研究協力だの多少あったが、二人共実に普通に育ったよ。女房が死んだのは、あいつらにそれなりに物心が付いた頃だった。特秘任務中の事故とかで、死亡原因も真相も今だ闇の中だ。女房はどっかで見ちゃいけねぇものを…踏み込んじゃいけねぇ場所に踏み込んじまったと思ってる。」
「知ってはいけない真実。踏み込んでしまった場所。今のレキなら、口を開いてくれると思ったが…」
ワタルも、戦闘機人についてゲンヤとは別に追っている。
そう話ながらも、彼は手を顎に当てて考える表情で口を閉じてしまう。
「命を捨てる覚悟で事件を追っかけりゃ良かっただが、女房との約束でなギンガとスバルをちゃんと育ててやるってな。だが、まぁずっと地道に調べてはいたんだ。そのうち、告発の機会もあるかもしれねぇってな。」
そう言うと、目の前に置かれた緑茶を思いっきり載り干して、テーブルに置く。
「八神は、自分のところの事件に戦闘機人が絡んでくると予想して、俺に捜査を依頼してきた訳だ!あのちびたぬきはよぉ…」
はやての目的も分かり、軽く微笑するなのは達。
「ま、うちの女房と娘達についてはこんなところだ。後は、合同捜査についてだが…お嬢。」
「……はい。」
そして、フェイトとの合同捜査について話されて、今後についても話されて解散となった。
─────聖王医療院──
アルは、リバルと共に病院を訪れてヘレンの様子を見に来た。
「……………」
リバルは、険しい表情でパイプに座れながらヘレンの様子を伺っていた。
「なぁ、何故老王はあの時にだけ、俺に応えてくれなかったのだろう…」
何かを呟くように、リバルに問い掛けるがリバルからは反応は無く、応えは帰ってこなかった。
「俺が老王に相応しくないから?」
「ッ、それは違います。あなたは現魔王。魔王は老王に認められて初めてなるものです。だから、そんな事はありません。」
それを聞いたアルは、軽い笑顔でリバルを見つめるが何処か違和感がある。
そして、内ポケットから葉巻に火を点けずに咥えた。
「俺はあの時、一瞬闇に落ちたのかもしれない…」
「ぇ?」
「あの勝利への快楽。自分を少し見失って戦う事にだけしか考えられない自分が居た。だから、老王は応えてくれなかったのかな?」
「闇は、まだあなたの心に残っていると?」
「闇というのは、誰でもある物だ。それが大きいものか小さいかだ。」
窓を見つめ、外の夜景を見つめながら口に咥えていた葉巻を手に持った。
「ヘレンの為にも、俺の為にも、奴は必ず葬る。必ず……」
「その為なら、再び闇に落ちても構わない!あの時のように……」 「………ふへへ♪」
葉巻をへし折り、アルの固い決意を述べながらも、影が微笑する…
次回予告
フェイト「新たなる翼を受け、再び立ち上がった機動六課。」
なのは「決意を胸に、立ち向かう空に現れた物は…」
フェイト「次回魔法少女リリカルなのはStrikerS 第十七章」
なのは「ゆりかご。」
「「Take off!」」