▼第六話 
「羽の舞う軌跡」

第六話「羽と修業の旅 森で巻き込まれ編 」


今日はトランスポートから一人で森だらけの世界に来ている。

ここでは、虫のような人類が繁栄しているようだ。

その姿は、目が4つあり、身長は普通の人類と変わらないぐらいで、甲冑のような黒い装甲に覆われていて、虫のような羽が4枚背中から生えている。

右腕に鋭く尖った刺のような突起物があり、手の上を通るように伸びている。

そして今、羽はこの人類に追われている。

「ちょっと待ってくださいよぉぉぉ!!二人とか、ずるいですよぉぉぉ!!!」

「ジジジ、ジジ。」

話は通じず、逃げ回るだけだ。

この虫人は、相当早い。

羽が全力で逃げているが、捕まるのも時間の問題だろう。

虫人の一人が羽に向かって手を伸ばす。

羽の首元まであと5pもない。

「くっそおぉぉぉぉぉ、ハルっ!swift move/スウィフトムーブ!」

羽はあと少しで捕まるというところで高速移動してその場から脱出した。

「ジジ、ジジジジ。」

「ジジジ、ジジジ、ジジ。」

この虫人達は引き上げることにしたようだ。

さっきの場から脱出に成功した羽は、休む間もなく異なる姿をした虫に追い掛けられていた。

今度のは小型だが群れをなしていてがびょうに羽が生えているような姿をしている。

「はやてさん、ボス、シグナムさん、ゼスト隊長、レキさん、誰でもいいから助けてぇぇぇぇぇ!!」


―そのときの本局廊下

パネルウィンドウが開く。

「おー、クロノ執務官どうしたん?」

「はやてに相談があるんだが。」

「なんや?」

「近ごろいわくつきの官僚が次元世界に逃げ込んでいるらしいんだ。だからヴォルケンリッターの誰かを貸してくれないか?」

「いわくつき?」

「ああ、異世界での密輸、現地の種族の無理な研究、異常なまでの干渉をするって具合だな。」

クロノは顔を険しくしながら答えた。

「ええよ、わたしの保護観察官やし貸さないわけないよ、せやけど今度ヴォルケンになんかおごったってな♪」

「わかった。考えておこう。」

クロノは苦笑いをし、パネルウィンドウを消そうと手を伸ばす。

「ちょう、待って。」

「なんだ?」

クロノははやてに急に制止させられたことに驚きながらも手を止めた。

「ヴォルケンよりも目だたんで、それなりに強い人知っとるんやけど、どうや?」

「聞いてみようか。」

「その人はな…」

―「へっくしょんっ、さすがに水のなかに入ってやり過ごすのは無理があったかな。」

羽はずぶ濡れだがなんとか虫たちをまいたようだ。

今はヒメを使って落ちていた木の枝を集めて燃やし、暖を取っている。

「そういえば、あそこのお屋敷ってなんなんだろうな。」

そう言って森だらけの世界に一軒だけ場違いな屋敷に目を向ける。

「誰か人がいるかもしれないな。あったまったら行ってみよう。」

「…ジジジジ、ジジ」

「ジジジ、ジ。」

いつのまにか最初に羽を襲った虫人が現れた。

しかも挟まれている。

「(まずいな、逃げられない。)」

「ジ、ジジジ。」

「ジジ、ジ。」

二人の虫人がにじり寄ってくる。

「言葉が通じればなぁ…そうか!」

羽は何かを思いついたようだ。

(ちょっと待ってください。)

虫人達は驚き、足を止めた。

(おい、あいつしゃべらなかったか。)

(おい、お前、こちらの言葉がわかるのか。)

羽は念話を平行して使い、虫人達と会話ができている。

(どうして襲ってくるんですか。)

(その前に聞かせろ、おまえはなぜ急に我々の言葉を使えているのだ。)

(正確に言えば言葉が通じているわけではなく、イメージを共有しているんです。)

(まあ、いいだろう。)

なんとなくはわかってくれたようだ。

(では、こちらの質問に答えてくれますね。)

(いいだろう、近ごろ急に我々の世界に奇妙な建物を建てたやつがいる。そいつらの姿がお前に似た姿をしている、しかもそいつらは俺たちの仲間をおかしな術を使って倒し、連れていってしまった。だからお前も仲間なのかと思ったのだ。お前はあの建物の中にいるやつの仲間なのか?)

(少なくとも今は仲間ではありませんね。)

二人の虫人達との緊張感が増す。

(どういうことだ?)

(まだあの建物の中にいるという人とコンタクトを取っていませんから何とも言えないということです。)

いきなり一人の虫人の緊張が緩んだ。

羽は仕掛けるチャンスだったが、向こうにその気はなさそうなので待ってみた。

(そうか、ならば我々の集落にきてもらおう。)

先程まで追われていたのに、なぜか今は集落に招待されている。

わけがわからなくなり、質問をしてみた。

(集落に行って僕をどうしようというんでしょうか。)

(お前が勝手に逃げ回って怒らせた同胞へ謝ってもらう。)

(怒らせた同胞というのは小さくて集団で襲ってきた虫ですか。)

(やはりお前だったか、我々の制止も聞かずに走り回るからだ。)

羽は驚かされた。

最初の手荒い歓迎が自分を傷つけるものではなかったことにだ。

(もしかして最初に僕を捕まえようとしてたのって注意するためだったんですか、すみませんでした、…付いていくので案内をお願いします。)

(あまり勝手に動き回るなよ。)

羽はヒメを回収し、火を消した。

羽と虫人達は集落に向かって歩き始めた。

(でも、どうして僕を助けようとしてくれてたんですか? 僕はあなたたちの仲間を連れ去った人たちに似ているんでしょう。)

(我々の一族は他の生命を尊重して生活している、それが移民であろうがなんであろうがだ。)

(ということはあの屋敷の人たちのことも最初は歓迎していたんですか、その気持ちを踏みにじるなんて。)

羽は怒りをあらわにした。

手には握りこぶしを作っている。

(お前はいいやつだな、名前はなんというんだ、俺の名前はガリューという、そしてもう一人がシュウガだ。)

(僕は羽といいます、よろしくおねがいします。ガリューさん、シュウガさん。)

(よろしく。)

(……)

(すまんな、シュウガはやつらに恋人を連れていかれたんだ。)

紺色のスカーフをしている方がガリュー、リング状の腕輪やピアスをしている方がシュウガというらしい。

先程からシュウガは一言も話していない。

何かを考えているようだ。

そして時折、羽に殺気のこもった目を向けてくる。

(おい、シュウガ、どうしたんだ、さっきから落ち着かないようじゃないか。)

(だってよ、ガリュー、もしこいつがあいつらの仲間だったらどうするつもりだ、また仲間を失うことになるんだぞ。)

(一族の掟を忘れたのか。)

(そうじゃない、だが掟にしたがってばかりでは自分達の身は守れないだろう、それを知ったばかりじゃないか、それなのにこいつを集落に連れていくのか!)

(落ち着け、シュウガ! もしそうなったならば俺がけりをつける。だが俺は、この羽というやつは信用に値する人物だと信じている。)

(そこまで言うならいいだろうよ、だけどな、俺はまだそいつを信用したわけじゃねえからな。)

二人の口論が終結を迎えた。

羽は戦いに発展したらいつでも仲裁に入れるように構えていたが、杞憂に終わり

ほっとした。

そうこうしている間に彼らの集落に着いた。

(着いたぞ。)

(へえ、ここが。)

(ようこそ。)

確かに集落とは言ったもので、わらぶき屋根に土壁の家が立ち並んでいる。

ガリューやシュウガと似た姿の虫人達が出迎えてくれた。

だが装甲が薄い者や、右腕の刺が長かったりと個人で少し違っている。

(まずは長老の家へ迎う、話はそれからだ。)

長老の家へ着いた。

長老の家というのだから少しは大きいのだろうと思っていたが、この家はその気になれば100人は収容できるのではないかという平屋だった。

(大きいんですね。)

羽は面食らったように言った。

(今この中には我々の一族の長老とお前が怒らせたところの長老が待っている、しっかり謝ってこい。シュウガ、頼んだぞ。)

(…わかりました、いってきます。)

(やれるだけな。)

そういって羽とシュウガは入っていった。
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