▼第七話
「羽の舞う軌跡」第七話「羽と修業の旅 森で奪還バトル編 」
長老家―中
(連れてきました。)
(ごくろう。)
そこにはガリューやシュウガよりも一回り大きな虫人がいた。
(シュウガ、そいつは話せるのか。)
(はい、こいつは特殊な方法を使って我々と会話ができるそうです。)
(そうか、ではそこの者よくきたなゆっくりしていくといい、本来はそう言うところなのだがそなたがいろいろやってくれたのでな、協力してもらう、と代えさせてもらおう。)
てっきり謝らせられると考えていた羽は突然の提案に、いや命令に驚かされた。
(それは連れていかれた人を助けだせということですか。)
(そういうことになるな。それに見たところそなたはやつらと同じ種族のようだからな、やつらと話し合いもできるだろう。)
(そういうことならわかりました、お任せください。)
見かけよりもずいぶん平和主義者のようだ。
(シュウガ、こやつに付いていってやれ、ガリュー、おまえもそこにいるのだろう。)
(…はい。)
ガリューが外にいるのに気付いたようだ。
(おまえも行ってこい。)
(わかりました。)
(わたしからの話はこれまでだ、行ってきてくれ。)
(了解です。)
羽とシュウガは家を出た。
(ガリューさん、いたんですね。)
(長老にはかなわないな。)
羽とガリューは軽く笑っている。
(お前達、笑ってないで行くぞ。)
(はい。)
(わかった。)
(こんなやつらで大丈夫なのか?)
―そのときの本局 情報室
「フェイト執務官♪」
「あれ、なのは、どうしたの。」
「もう、フェイトちゃんてばつれないなぁ、せっかくフェイトちゃんに会いにきたのに。」
「え、そんな、え!?」
「にゃは、冗談だよ♪」
「もう、なのは!」
「怒らないで〜。」
「それで、何をしにきたの。」
少し怒ったように言う。
「うん、それなんだけどこの前はやてちゃんが言ってた羽君のことなんだけど。」
「覚えてるよ、元首都防衛隊でランクAA、氷結系の魔法が得意、それにはやてが楽しそうに話してたからね。」
「そうそう、最初から最後までにこにこしてたもんね、で、その羽君が次元犯罪者を捕まえにいろいろ回るらしいよ。」
「へ〜、それなら仕事中に会うこともあるかもね。」
「フェイトちゃん、うれしそうだね。」
なのはが寂しそうにフェイトを見る。
「心配しないでなのは。」
そう言ってなのはを抱き寄せる。
「あ、」
「安心してくれていいよ、なのは。」
「うん。」
抱き寄せられたなのはは腕を回し、幸せそうな顔をしている。
―屋敷までの道程
(出たな。)
(一人一殺でいくぞ。)
(殺さないでください、一人一倒でいきましょう、では散開して屋敷で落ち合いましょう。)
(いいだろう。)
(わかった。)
三人はそれぞれ相手を見つけて飛んでいった。
「あなたは管理局の人ですか。」
「まあそうなるんでしょうかねえ。」
「連れていった人達を帰してください。」
「わたしにその権限はありませんのでご自分でお願いします。」
「わかりました、力ずくでも通らせてもらいます。」
「果たしてあなたにわたしが倒せますかね。」
「いきます。空閃剣っ!」
「せっかちですねえ?」
羽は真空波を出して牽制する。
しかし、敵は軽く避けたと思ったらコンバットナイフのようなデバイスを発動してすぐ近くまで寄ってきている。
そしてそのままの勢いで羽に切り掛かる。
「ちっ!スピードタイプか。」
「おや、案外避けるのはうまいんですね、それならこれでどうですか!」
羽は最初の攻撃はギリギリ服一枚でかわした。
だがその動きを見ると対応が早く、いくつか魔力刃を作り出した。
敵は相当な手練のようで魔力刃をデバイスと同じく使ったり、かと思えばデバイスを投げてきたりと羽を翻弄している。
すでに羽は避け切れなくなっており、あちこちに切り傷ができている。
「うっ、」
羽の右足に敵の魔力刃が刺さった。
「おやおや、これではもう避けるのは無理なんじゃないんですか。」
「なめてもらっちゃ困るね。(とは言ったもののどうするかな、あいつの速さについていけてないし右足もやられたからな…そうか)」
「何をぶつぶつ言っているか知りませんがこれで終わりですよ。リミテッド・ナイフ」
目の前が魔力刃で埋め尽くされる。
そしてすべての刄が一点に収束され、爆発する。
「ふふふふ、もう終わりですかあっけなかったですねぇ、ふふふ、はははははは…何?」
そこには羽が変わらない姿で立っていた。
「なぜだ、どうしておまえがそこにいる!」
「マジックの種を明かすマジシャンはいませんよ、それではさようなら、夢幻、一閃っ!」
そう言って目の前にいる羽は突進していった。
「なんですか、あれだけもったいぶってただの突進ですか、そんな技で私が倒れるわけがないでしょう!」
最後の方は怒っているような、焦っているような声をしていた。
怒鳴りながら、目の前に突進してくる羽に向かって魔力刃を飛ばした。
魔力刃は目の前の羽を貫いた。
羽は一瞬止まった、だがまたゆっくりと歩いてくる。
「なぜ、手応えはあった、なのになぜむかってくる、来るな、来るなぁぁぁ!!」
「はい、終わり♪」
羽がそう言い、一撃を加えると敵は前のめりに倒れた。
「いやー、おもしろいくらいうまくひっかかってくれたな。」
うまくいったことを一人で苦笑いしている。
だが、羽はスウィフトムーブなどの魔法、肉体的なダメージによっていつもの半分ぐらいしか動けなくなっている。
「そうだ、早く屋敷に行かないとな、ガリューとシュウガは無事かな。」
―屋敷
(くっ、強い。)
(大丈夫か、シュウガ。)
二人は羽よりも早く相手を片付け、屋敷に集まっていた。
だがそこに男が一人来襲した。
はじめは敵が一人ということもあり、楽に済むと思っていた。
だがそれが甘かった。
こいつがガリューとシュウガの一族の仲間を連れ去った張本人だったのだ。
「まったく2対1なのだ、もっと頭を使って戦ってもらいたいもんだ、まあ馬鹿であったほうが奴隷として使えるがな。」
「ジジ、ジジジ。(まずいな、外殻が砕けちまいそうだ。)」
「ジ、ジジジジ。ジジジ、ジジジジ。(そうか、なら早めに決めるぞ。それにしても羽はまだこないのか。)」
「ジジ、ジジジジジッ!(まだ気付かねえのかよ、あいつがおれたちをハメたに決まってんだろ!)」
「ジッ、ジジジジ!(馬鹿を言うな、羽が敵であるはずがないだろうが!)」
「わからない言葉で口論をされても暇なものだ、そろそろ終わらせるか。」
男は、ガラスの欠片のような物を投げた。
「ジ、ジジジ。(来るぞ、散開してクロスだ。)」
「ジジッ、ジジ。(くそっ、わかった。)」
二人は散開し、男へ突進した。
それを見て、ガラスの欠片を二人に投げ付けた。
「ジジジ。(当たるわけはないだろう。)」
「ジッ、ジジ!(当たるか、この野郎が!)」
二人は回避し、男を貫く。だが、後ろからガラスの欠片が無数に飛んでくる。
「ジジ!?(なんだって!?)」
「ジッ、ジジジ。(くそっ、かわしきれねえ。)」
二人にガラスの欠片が突き刺さり、外殻が所々割れ、体の節が動かなくなり倒された。
「ジジ、ジジジ。(シュウガ、生きてるか。)」
「ジ、ジジ。ジジ、ジジジジジ。(ああ、なんとかな。ほらな、あいつは来なかっただろう、やっぱりあいつは敵だったんだよ。)」
「(羽、本当にそうなのか?)」
「さて、商売の品を運ぶか。」
男が二人に近寄ってくる。
「[その二人に近づくな!]」
「ジジ!(羽か!)」
「ジジ!(羽だと!?)」
やや遠いところから声がした。
羽が現われ、男に向かって歩いていく。
一足で相手に切り掛かれるところで止まった。
「よくきたな、おまえも奴隷を買いにきたのか、今活きのいいのを連れてくるからそこで待っていろ。」
敵の男は地下らしき所へ向かおうと背を向けた。
「[……けるな…ふざけるなよ、奴隷だって?あんたの金のために集落の人を連れていったっていうのか!]」
羽は怒りに声を震わせ、傷だらけの手でハルとヒメを握り締めている。
「当たり前だろう、そうでないならこんなところに、来ないからなっ!」
敵の男は体を羽に向けようとする振り向きざま、ガラスの欠片を投げた。
「[ハル、swift move/ スウィフトムーブ]」
羽はつぶやくようにハルに話し掛け、高速移動し、ガラスの欠片をかわした。
「ほう、少しはやるじゃないか。」
「[あんたには手加減なんかしてやらない、喰らえ、龍騎閃っ!]」
羽は踏み込み、男に連続で切り掛かった。
しかし、男はガラスの欠片を集め、厚い層にして剣を弾いている。
「[うおぉぉぉ、裂っ竜っ刃っっ!]」
渾身の力を込めてガラスの層を切り裂いた。
しかし、斬ることによってガラスが体を傷つけ、すぐにガラスはまた集まり、層を成していく。
さらに高速移動の魔法が渾身の力を込めたために切れかかってしまっている。
心を折らず、手を止めないのは意地だろうか。
「[はぁ、はぁ、くっそぉ。](限界が近い、どうやって破る、こいつはじっくり待って僕を殺す気だ。)」
「どうした、俺の仲間にでもやられたのか、辛そうじゃないか。」
「[うるさい!](手はないことはないけど魔力が足りないし時間もどうやって稼ごう、でも、やるしかない。)」
「何かするのか、そんな体で。」
その通りだった、羽の体はすでにぼろぼろで大技は撃てそうになく、普通の技でも倒れてしまいそうなほどである。
しかし、羽は打ち込みを止め、飛び退き、詠唱を始めた。
「全ての時を永遠へと導く絶対の力、ぐぅっ!?」
「命知らずめ、馬鹿なことを。」
「…はぁ、はぁ、残酷な運命を、受け入れぬ者にっ、静かなるっ、くっ、終焉を…ぐぁぁ。(あと一言っ!)」
「こちらも一応準備をしようか、クリスタル・サークル。」
羽が詠唱を進めている間に男はガラスを円盤状に作り替え、羽の魔法を受けてたとうとしている。
「…も・た・ら・さんっ、アブソリュートッ・ゼロォォォォ!」
羽は魔力によって凝縮された冷気の球を撃った。
冷気の球は男の円盤状のガラスにぶつかり、はじけた。
するとぶつかったガラスが凍り付いた。
「ふん、最後の技がこんな凍らせるだけの技だとわな、興醒めだ、すぐに殺してくれよう。」
男はガラスを動かそうとするが、動かない。
それどころか砕け始めた。
「なんだと!?」
羽の撃ったアブソリュート・ゼロは物体を凍らせるだけでなく、原子を完全に停止させる技だ。
そんなものに力を加えれば砕けてしまうのも当然だ。
「この野郎がっ、俺のガラスを殺してくれるとはなっ!」
羽は全ての力を使いきり、気絶している。
「こいつは驚いたな、ソリッド執務官補佐のガラスを殺せる奴がこんなところにいるなんてよ。」
大きな鎌をもった男が物陰から現れた。
「誰だ貴様は…まさか、その大鎌は、沈黙の…」
「おまえに必要なのは話すことじゃねえ、死ぬことだよ。」
いつのまにかソリッドの後ろに現われたかと思うと、そう言って永遠の眠りを与えた。