▼第八話
「羽の舞う軌跡」第八話「羽と修業の旅 森で奪還バトル編 」
羽が目を覚ましたのは全てが終わった後だった。
―大鎌の男はソリッドを葬ると語り始めた。
「(証人がいるとまずいんだよなぁ、てめえらが生きているんなら片付けねえといけねえ、それじゃあさっき魔力使いすぎで今にも死にかけてるそいつから殺していこうか。)」
「(なんだと!羽か!?)」
「(ふざけんな、あいつを、羽を殺させるかよぉぉぉ!)」
叫びながらシュウガが立ち上がった。
普通なら、外殻が所々砕けているのならば激痛が走り、動くこともままならない。
それでもシュウガは立ち上がった。
「(シュウガ、無茶はよせ。)」
「(うるせえ!俺は羽を疑っちまったんだ、死にかけるほど戦って俺たちを助けようとしてくれたのによ、羽を殺す?それなら先に俺を殺してみやがれ!ガリュー、おまえはそこで待っとけよ、俺が片を付けるからよ。)」
「(おまえも冗談がうまくなったな、おまえだけ暴れさせるわけがないだろうがぁぁぁ!)」
ガリューも激痛に耐えながら叫んで立ち上がった。
「(なんだよ、おまえずるいじゃねえかよ、そんなに熱いとは思わなかったぜ。)」
「(今はそんなことを言うよりもあの鎌のやつを止めるほうが先だ、羽は絶対に殺させない。)」
「(そうか、てめえらから殺されたいんだな。)」
大鎌の男は少し笑っているように見える。
「(いくぞ、ダブルだ。)」
「(OK!)」
「…いいやつなんだな、影、旋風斬。」
ガリューとシュウガは大鎌の男に向けて直線に並び突撃していく。
大鎌の男はすばやく鎌を横に一回転させ、竜巻を作り出した。
突撃していった二人は竜巻に巻き込まれ、天井に叩き付けられた。
しかし、勢いは止まらず天井がへこむ。
風が止むと二人は自由落下を始め、地面に叩きつけられた。
だが、まだ立とうとしている。
「(そんなに死に急ぐな、俺はあまり殺すのは好きじゃないんだ、そんなに元気があるならそこの死にぞこないを助けてやれ、じゃあな。)」
それだけ言い残して影に沈み、消えてしまった。
「(た、助かったのか。)」
「(早く羽を!)」
「(わかってる!)」
―そして羽は集落に運び込まれて介抱を受けた。
運び込んだガリューとシュウガも集落に入ったとたんに倒れて、介抱を受けた。
「(早く羽を…)」
「(俺より先に羽を…)」
このあと二時間、羽は目を覚まさなかった。
「これは?」
いろいろな果物が枕元に置いてあった。
眠っている間に連れ去られていた何人かと長老がお礼にきていたらしい。
連れ去られていた虫人たちは地下に幽閉されていたそうだ。
ガリューとシュウガが治療中に地下の虫人を頼んだらしい。
「ハルとヒメは?」
意識がまだ朦朧としているが、デバイスを探している。
そこに割れた外殻に木を詰めて治療を施したガリューとシュウガが現われた。
「ガリューさん、シュウガさん、僕の剣はどこに?」
「ジ、ジジ?」
「ジジ、ジジ。」
羽は念話を使うのを忘れていたのに気付いた。
「(すいませんでした、僕の剣はどこですか?)」
「(ああ、おまえの剣か…)」
「(どうかしたんですか!?)」
「(おまえが最後になんか撃っただろ、そのときにひびが入ったんだよ、それでどうしようってな、まあ持ってきたが。)」
そう言って渡されたハルとヒメはぼろぼろだった。
ヒメは軽いひびが見られるぐらいだが、ハルは刃がこぼれていたり、欠けていたり、ひびは全体に見える。
「(そうですか、大丈夫ですよ、なんとかなります。)」
「(すまんな、われわれのために…)」
「(いいんですよ、そんな照れます。)」
「(そんなことより謝らせてくれ、俺はおまえを信じられなかった、屋敷に遅れてきたのは俺たちをハメたんだと思った、敵の一人だと思ってたんだ、だけどおまえは俺たちを助けにきた、ぼろぼろのくせしてよ。)」
「(ハハハ…)」
羽は引きつった笑顔で答える。
「(何であそこまでできたんだかな。)」
「(僕はあなたたちを傷つけたあいつが勝手なことを言っていたから許せなくなったんです、思ったことには一直線に進んでいって自分の体もまわりも見えなくなっちゃうんですけどね。)」
「(フッ、そうか。)」
軽く笑いが起こった。
しかし、その中でシュウガは一人深刻な顔をしている。
「(どうしたんですか?)」
「(羽、実は俺たちの一族は召喚獣の一族のひとつなんだ。)」
「(そうなんですか、道理で速いし強いと思いましたよ。)」
「(そうか、シュウガ、おまえ…)」
「(黙っとけよ、ガリュー。)」
羽が相づちをうってもシュウガは真剣さを崩さない。
ガリューはことの終始がわかっているようだ。
「(話を続ける、俺たちが契約を結ぶとき、契約主が望んだものを献上することになっている、それが身につけているものだろうが腕だろうが感情だろうがだ、そこでだ、おまえは俺の何が欲しい?)」
「(それは僕と契約を結ぶということですか。)」
「(そうだ。)」
「(僕はまだ半人前です、強い人も他にたくさんいます、僕との契約はデメリットしかありません、だめですよ。)」
「(羽、おまえの言い分ももっともかもしれない、だがシュウガはおまえを選んでいる、おまえに契約の重さがわかるか?契約というのはさっきもシュウガが言ったがこちらが主人の望んだ
ものを献上するんだ、これだけのリスクがある契約をなぜ結ぶのかわかるか羽。)」
「(…主人に従わざるをえない、または掟でしょうか。)」
「(それもあるな、だが…)」「(ガリュー、しゃべりすぎだ、その先は俺に言わせてくれ、いいか、俺はおまえが弱いとは思ってない、たとえ弱いのが本当だとしてもそんなことは関係ない、
俺は、俺にないおまえの強さが気に入って契約を望むんだ。)」
「(おいおい、それじゃあわからないだろう、つまり羽の気持ちに引かれたということだ。)」
「(そういうことですか。)」「(ああ、ったくよ、説明ばっかでかっこわるいじゃねえか、で、どうなんだ、羽。)」
「(本当に僕なんかでいいんですか。)」
「(さっきからそう言ってるだろ。)」
「(なら、シュウガさんのピアスを片方ください。)」
「(ピアス? 耳飾りのことか?)」
「(そうです、それの片方をください。)」
「(ああ、わかった、マスター。)」
「(シュウガさん、今までと変わらなく羽と呼んでください。)」
「(わかった、羽、だけどそのまえに俺のこともシュウガって呼んでほしいんだけどよ。)」
「(俺もガリューと呼んでくれ。)」
「(わかりました、でも僕は相手を名前だけを呼ぶと話し方が崩れるんですけどいいですか?)」
「(羽の思うようにすればいいさ。)」
「(無論だ。)」
「(わかった、ありがとうシュウガ、ガリュー、シュウガはこれからもよろしく。)」
「(ああ。)」
「(よろしく頼むぜ、羽!)」
シュウガは右の半径1pほどのリング状のピアスを外して羽に渡した。
そのピアスを羽は右耳に付けた。
羽の血がピアスをつたう。
「(やっぱり痛いな。)」
「(おまえばかかよ、一気に貫くなんてよ!)」
「(相当痛いはずだろう。)」
「(そういえばシュウガって彼女いたんじゃないっけ。)」
「(ああ、それならいいんだ、もう夫婦になったから。)」
羽は一瞬止まった、しかし頭が回りはじめる。
「(ええぇぇぇぇぇ!!)」
「(そうか、羽にはまだ言っていなかったんだな。)」
「(まあずっと寝てたしなぁ、知るわけないよな。)」
「(シュウガ、そういうことは先に言うもんだろ!?)」
「(まあ、言わなかったよっかいいだろ。)」
「(聞かなかったら言う気なかっただろ。)」
「(まあまあ。)」
「(旅行に行ってくるって言ってきたよ。)」
「(具体的にどうやって呼び出すんだ?)」
「(それは羽に渡した物による、まあピアスだな、ピアスに魔力を流し込んでくれれば出てくるさ。)」
「(そのときはどこにいるんだ?)」
…
……
………
「(と、こんなもんかな。)」「(羽、質問多すぎだよ。)」
羽達は質問を繰り返しながら外に出た。
「(それじゃあ本局に戻るよ、じゃあなガリュー、縁があればまた会えるよ。)」
「(それじゃあなガリュー、俺の奥さんをよろしく頼むぞ。)」
「(じゃあな羽、シュウガ、また会えるのを楽しみにしている。)
―本局
「(シュウガ、おまえちょっと中入っとけ。)」
「(は? なんで?)」
「(周りの目がすごいんだよ。)」
「(気にすんなよ。)」
シュウガがもどってくれなく、しかたなくそのまま本局の部隊の受け付けを尋ねた。
「(八神はやて指揮官候補生に会いにきました。)」
「(少々お待ちください。)」
受け付けの人が調べてくれている。
しかし後ろから話し掛けられた。
「あれ、羽どうしたんや、それにそのひとは誰なん?」
「ええと、この人はシュウガって言って僕の召喚獣なんだ、今日はデバイスに詳しい人を紹介してもらえないかと思ってきたんだけど。」
「へぇ〜、わたし召喚獣って初めて見たわ、話せへんの?」
「念話を使えば話せるよ。」
……
「無理なんやけど…」
「(どうしたんだ、シュウガ)」
「(何が?)」
「(はやてが念話送ってきただろ。)」
「(来てねえけど?)」
(回線が開かないのか?)
「羽ぇ、わたしのやり方があかんのかなぁ?」
ちょっと涙目になりながら上目遣いで羽を見る。
「い、いや、そんなことはないと思うよ、シュウガとは回線がつながる人とつながりにくい人がいるみたいなんだ。」
「な、なんや、そやったんや、もう早よ言ってえや。」
はやては涙目をこすりながら照れ臭そうに言った。
「そ、それでデバイスに詳しい人紹介してもらえないかな?」
はやての行動がいちいち可愛く見えてどもってしまう。
「そうやな、シャーリーかな、あ、ほんまはシャリオ・フィニーノ言うんやけどね。」
「わかりました、シャリオさんにちょっと会ってきます。」
「あの、羽、シャーリーに会ってきたらもう一度来てくれへん。」
はやては顔を赤らめ、右斜め下を向いて言った。
羽もどぎまぎして顔を赤くする。
「わ、わかりました、用事が終わったらまた来ます、そのときに念話を送りますよ。」
「そうか、待っとるから。」
「それじゃ、またあとで。」
「うん。」
本当にうれしそうに返事をしてくれた。
―デバイス修理工場
「すいません、はやて指揮官候補生の紹介で来ました、シャリオさんお願いできますか。」
「(がんばれ〜)」
「(シュウガ、楽しんでるだろ。)」
もはやシュウガはピアスの中に入っている。
「はいはい、なんですか?私がシャーリーことシャリオ・フィニーノです。」
いやにテンションが高い人だと感じた。
「この二つのデバイスをお願いしたいんですけど。」
「じゃあちょっと起動してみてください。」
「ハル、ヒメ、セット。」
ぼろぼろのハルとヒメを起動させる。
それを見てシャーリーは表情を変えた。
「いったい何をしたんですか、デバイスがこんなになってるなんて、あなたは本当にこの子たちのマスターなんですか!?」
「魔法を使ったらこうなりました。」
「ふざけないでください! デバイスだってただの機械じゃないんですよ、デバイスにも機能の限界はあるんです、使用者と一緒に成長させなくちゃいけないんですよ、何でデバイスを痛
め付けるようなことをするんですか!」
「す、すみませんでした。」
「ふぅ、しっかり直しておきますから明日また来てください。」
「わかりました、おねがいします。」
シャーリーは渋い顔をしながらハルとヒメを受け取り、奥に戻っていった。
羽は工場をあとにした。