▼第九話 
「羽の舞う軌跡」


第九話「羽のぶらり本局 パート1」


シャーリーにこれでもかというほど怒られ、追い返された羽とシュウガ。

「(まあ、気にすんなよ。)」

「(そうはいっても、あれは僕が悪かったんだ、デバイスに負荷をかける技を使わざるをえない状況だったとしても、それまで自分のデバイスを気に掛けてなかったのは事実だからな。)」

「(そんなもんかね。)」

向かい側から誰かがやってくる。

「…はぁ。」

「はぁ。」

ため息がかぶった。

自分以外にもため息が聞こえたために、ため息を吐いた二人はお互いを見合った。

羽とは別にため息を吐いた人は、流れるような黄金の髪と深紅の瞳が特徴的な女性だった。

彼女の瞳が羽を真っすぐに射ぬく。

「君は、羽君?」

「え?」

「(おい、おまえの名前聞いてるぞ、知り合いか。)」

「(そんなわけないよ、こんなに綺麗な人知らないよ。)」

「あっ、ごめん、わたしの名前はフェイト・T・ハラオウン、執務官です、はやてとは昔からの友達で羽君のことを聞いてたんだ。」

「あぁ、そうだったんですか、それよりため息なんてどうしたんですか。」

自分のことは棚に上げて聞いてみた。

「え、うん、えっと…」

とても答えづらそうにしているので話を変えることにした。

「フェイトさん、これから時間ありますか、もしあったなら少しどこか行きませんか。」

「あっ、ううん、そうだなぁ、仕事も一段落してるし、いいよ。」

「(羽、やるじゃねえかよ、で、どこに行く気だ?)」

「(考えてないけど、どっかに。)」

「(行き当たりばったりかよ!)」

「(まあ、なんとかなるって。)」

「(おまえって奴は―)」

「どうしたんですか、急に考え込んじゃって。」

フェイトはいつのまにか羽の顔を覗き込むようにしている。

「―いえっ、大丈夫です。」

羽は顔を真っ赤にしながら背けた。

「じゃあ、行きますか。」

「しっかりエスコートしてくださいね♪」

「は、はい。」

二人はトランスポートから首都クラナガンに跳んだ。

「わあ、さすが首都ですね、高い建物もあるし広いですね。」

「あれ、羽君来たことなかったの?」

「いえ、何度か来たことはあったんですけど、市街地には寄ることがなかったので。」

「(だめじゃねえかよ。)」

「なら、わたしが案内しようか?」

「どうもすみません。」

「ううん、いいよ。」

フェイトの案内に従うことにして、話をはじめた。

「フェイトさんはさっきどうしてため息なんて吐いてたんですか。」

「……」

「僕はシャリオさんに怒られちゃいまして…。」

「え、シャーリーを怒らせたの!? シャーリーはめったに怒らないんだよ。デバイス関連のことなんじゃない?」

「はい、ずさんに扱っていて、魔法を使ったらぼろぼろになってしまいまして、僕もぼろぼろにされましたよ。」

羽とフェイトは苦笑いした。

「デバイスは万全の状態だったの?」

「ええ、まあ、少しは自分でやってますからね。」

「魔法の反動が大きいのかな、それともフレームが…」

羽が質問に答えるとフェイトはぶつぶつ言って歩きながら考え込んでしまった。

歩きながら考え込んでしまったフェイトにひやひやしているとシュウガが話し掛けてきた。

「(なあ、この人やばいんじゃねえか。)」

「(いや、こんなに無防備で親切な人いないよ。)あの、フェイトさん、これからどこに行くんですか。」

羽の呼び掛けでフェイトはあちら側から戻ってきた。

「ああ、ごめんね、ちょっと入り込んじゃうんだよね、どこに行くかっていうとね、ここだよ!」

市街地の中心から少し歩いたそこには「Shall we sweets?」という小綺麗な喫茶店があった。

羽は反応に困っていた。

見たかぎりではおかしな所はない、正直に言ってしまえばどこにでもありそうな店なのだ。

「―ど、どうかな、普通に見えるけどすごいメニューばっかりなんだよ。」

「甘いものが中心なんでしょうか?」

「苦手だった?」

「いえ、大好きですよ。」

「(人は見かけに寄らないっていうんだけどな。)」

「男の人って甘いもの苦手だと思ってたんだけど羽君は大丈夫なんだね。」

なぜか二人に感想をもらいながらフェイトを先頭に中に入る。

「いらっしゃいませ」

ウェイターの元気のいい声が響く。

フェイトは常連のようでウェイターとも親しそうだ。

そのウェイターに窓側の席に案内された。

「フェイトさんよくここに来るんですね。」

「な、何で知ってるんですか。」

わかりやすい反応で助かる。

「さて、じゃあ何か頼みますか。」

「うぅ〜、遊ばないでくださいよ!」

「メニューだそうですよ。」

「もう決めてますから。」

フェイトはしまった、という顔をして固まり赤くなっている。

ばれていないつもりだったのだろうか。

「フェイトさんて墓穴を掘る人だったんですね。」

「うぅ〜、」

赤くした顔をさらに赤くし、うつむいてしまった。

「(あ〜あ、泣〜か〜せた〜。)」

「(やりすぎたかな?)フェイトさん、僕にここのおすすめを教えてくれませんか?」

「う、いいですよ、ここはパフェがいいです、他にはケーキもおいしいですね、それに合うのは…」

最初はいやいや言っていたようだが、途中から乗ってきたようで目を輝かせながら話している。

「ありがとうございます、じゃあ、パフェをください。」

フェイトは少し話したりなそうだったが自分の頼みたいものを頼んで納得したようだ。

「そろそろいいですかね。」

「なにがですか?」

ちょうど頼んだものが来た。

「ありがとうございます、じゃあいただきましょう。」

「え、あ、はい。」

ウェイターは注文の品を置いて下がった。

羽はパフェをつつきながら言う。

「うん、おいしいですね、それと話に戻りますけど、さっきのため息ってどうしたんですかね。」

「(そろそろしつこいんじゃないか。)」

「(自分でもそう思うよ。)」

フェイトもケーキをつついていたが、重そうに口を開けた。

「羽君ばっかりにしゃべらせるのは悪いからね、実は引き取った子が心を開いてくれなくて困ってるんだ。」

「男の子ですか?」

「二度も引っ掛かりませんよ。」

「ということは男の子ですね。」

「う、」

「まあ男の子ならそんなときもありますよ、向き合っていけばきっと心を開いてくれます。」

フェイトはあっけにとられたような顔をして羽を見ている。

「偉く言いすぎですよね、すいません。」

「(ほんとだな。)」

「いえ、参考になりました、あきらめないでがんばってみます。」

それからはお互いの仕事などについて話し合った。

羽はパフェを、フェイトはケーキを食べおわり店を出た。

ちなみに料金は羽が払うことになった。

「ごちそうさまでした、今日はとっても参考になりました。」

「いえ、甘いもののレベルも高くてよかったです、また誘ってください、僕はシャリオさんのとこに行かないといけないので、ありがとうございました。」

「うん、それじゃあ。」

トランスポートで本局に戻ってきた。

羽はフェイトに礼をして別れた。

「(明日って言われてなかったか?)」

「(ああ、そうなんだけどちょっとした言い訳とお願いがしたくてね。)」


―デバイス修理工房


「シャリオさーん、いますかー?」

「はーい、どなたですか〜?」

シャーリーが笑顔で出てきたが、羽の顔を見ると嫌そうな顔に変わった。

「ああ、羽さんですか、まだデバイスは治ってませんよ。」

「ええと、そうですよね…」

「(おい、言い訳とお願いがあるんじゃなかったのか?)」

「(そうなんだけど、こうも露骨に嫌がられると言いづらいんだよ!)」

「(俺にあたるなよ。)」

「羽さん。」

「は、はい!」

羽はいきなり呼ばれたために声が裏返ってしまった。

おかげで顔が赤い。

「大丈夫ですか?」

軽く咳をしてごまかす。

「大丈夫です、なんでしょうか。」

「少し聞きたいことがあるのでちょっと来てください。」

「わかりました、いいですよ。」

羽は冷静を装っているが、びくびくである。

シャーリーに連れていかれたのはハルとヒメが修理されている部屋だった。

「(おお、すげえな、ばらばらだ。)」

「わたしがばらしてみたんですけど、なぜか魔力回路が遠回しに繋げられてるんです、知ってましたか?」

シャーリーはハルとヒメの魔力変換回路を指差した。

「え、この繋ぎ方ってダメだったんですか!?」

「あなたがやったんですか?」

「いや、繋いだだけですけど…」

「どういうことですか、はっきりしてください。」

シャーリーがイライラし始めたようだ。

「わ、わかりました、その回路は僕がパートナーに言われて繋いだんです。」

「そうですか、ちなみにいつからこうしてるんですか?」

「そうですね、訓練校時代からですから…4年前からですかね。」

明らかにシャーリーが呆れた顔をしている。

「僕、おかしなこと言いましたか?」

「ええと、どこから話せばいいかなぁ、まずこの回路はリミットをかけてるようなものなの、そしてこの回路はまともな人はやらないわ、あなたにこの回路を組ませた人はよほど羽さんを強くしたかったのね。」

羽は顔を曇らせた。

「羽さん?」

「また、あいつにしてやられたと思いましてね…」

「どうしますか、取りますか?」

「いえ、そのときになるまでこれでいいです、繋ぎ方だけ教えてください。」

「わかりました。」



……

………

「…です、わかりましたか?」

「まあ、なんとか、わからなくなったらまた聞きに来ます。」

「あとですねぇ、もう一個ほど聞きたいことがあるんですよ。」

シャーリーは先程とはうって変わって生き生きしている。

「なんですか?」

「羽さんて一刀流できますか?」

「はい、昔は一本でした。」

「じゃあ薙刀は使えるかな? 両方に剣がついてるのなんだけど。」

「いえ、それは使ったことがないですね、なんなんでしょうか。」

「私の勝手なんだけど、この子達を強くしてあげたいの。」

「具体的にはどうするんですか?」

「あなたのデバイスに変形機能を付けます、今考えているのは、このまま使うデュアルモード、さっき言った薙刀状でハルとヒメが逆さに付いているスラッシュモード、魔力を使って二刀を一刀に合体させるリミットブレイクのレイヤーモード、この三つを考えてます、さらにフレーム強化、カートリッジシステムを追加します。」

「なんかすごいことになってますね。」

今のシャーリーのデバイス強化の話は羽を興奮させるのに十分なものだった。

「その話、とても魅力的ですね、でも、いいんですか?」

「なにが?」

「僕のこと、デバイスの扱いがなってない奴だと思ってるんでしょう?」

「いいえ、それは私の誤解でした、羽さんが今までこの子達を整備していたのがわかりましたから、そのお詫びも兼ねてるんです、あんなに怒っちゃってごめんなさい。」

「いえ、もう気にしてませんし、ぜひお願いします。」

「まかせてください、じゃあこれから一週間この子を預けておきますから形だけでも扱えるようになっておいてください。」

そう言って渡されたのは薙刀のようで二つの剣が逆さに付いているものだった。

「これがスラッシュモードの大まかな形です、この子を使えないとどうしようもありませんからね♪」

「わかりました、一週間で形にします、だから強化の件、よろしくお願いします。」

「まかせてください♪」

そうしてデバイス工房をあとにした。
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