▼第十一話
「羽の舞う軌跡」第十一話「羽のぶらり本局 パート3」
四人(三人と一匹)は、はやての案内によってはやての部屋に来ていた。
シュウガは羽に背負われてはやての部屋に運ばれた。
今、シュウガははやての部屋に備え付けのベッドに寝かされている。
部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「お、やっと来たなシャマル、早速なんやけどシュウガさんと羽を治療してあげてくれへんか」
「まっかせてください、はやてちゃん♪」
シャマルは腕をまくり、やる気満々といった様子だ。
「さて、話を始めようか、羽は治療しながら聞いといてな」
「わかりました」
はやてはパネルウィンドウを開いた。
するとそこには制服でいかにも堅そうな人が座っていた。
「クロノ・ハラオウン執務官、お願いします」
(ん? ハラオウン? どこかで聞いたような…)
羽は疑問を覚えたが、クロノは話を始めた。
「それでは始めさせてもらおうと思うのだが、なんだか人数が多くないか?」
クロノは羽だけに説明する気だったのでこの場にアルとワタルがいるとは思っていなかった。
「ああ、そのことなんやけど二人にちょうどよく遭えたしどうせやから聞いてもらおうと思ってな」
「そうか、そっちに寝ているのは魔物か?」
「僕の大事なパートナーですが、何か」
羽はクロノに怒ったように言った。
「これは失礼、だが君にパートナーはいないと聞いていたんだが、説明してくれないか?」
ワタルを除く全員が羽とシュウガの関係を知りたいらしく、羽に目を向けた。
「へぇ〜、そいつは聞きたいもんだねえ、そこの倒れてるやつの正体も含めてな」
「あ、私も聞きたいです、治療が難しいので、参考になることは何でも」
「うちも知りたい!」
「俺も知りたいな」
一気にみんなで羽につっこむ。
「わかりました、こいつはシュウガ、僕の召還獣です。こいつとはある世界で会って、共に戦い、契約を交わしました。その世界ではシュウガのような姿をした人たちが進化していたようです。けがをして外殻が砕けたときには木をはめていました。…僕が知ってるのはこのぐらいです」
「…そいつらはバグサピエンスという種類で虫から進化を遂げたんだ。そいつらは特殊な波長で交信してるから、本来話なんてできるやつは限られてるんだ。治療に使ったと言った木だが、元の世界に生息している種類じゃないと効果がないらしい。契約を交わしたあとは契約主に渡した物に入っていると体は自然と治ると聞いたことがあるな」
横からワタルが説明を付け加えた。
「それなら羽さん、シュウガさんを戻してみてください」
「わかりました」
羽は強制的に、眠っているシュウガを黒い球体の状態にし、右耳のピアスに戻した。
そしてシュウガが戻ったことによりシャマルは羽の足の治療に入った。
「こんなに深いところまでなんて、知りませんでした。どうしてそこまで知ってるんですか?」
「ふ、俺の速さにわからないことはない!」
羽はよくわからなかったが、すごい説得力を感じた。
周りはわかったようで取り残された気がした。
「ああ、羽、気にせんどいて、あれは長生きしとるって意味やから、たしか200歳越えとるらしいよ」
はやてがついていけていない羽に説明をしてくれた。
「え! 200歳ですか、桁が違いますよ!」
「悪魔と人間のハーフなんやて、わたしもずっと若くいたいもんや」
「そろそろ話を戻してもいいか?」
クロノがはやてのボケを流して続きを話そうとしている。
「ボケは拾って欲しいところや」
はやてはむすっとしたがやはりクロノは無視して進めた。
「羽、君に頼みたいことがあるんだ、君は修業のためにいろいろな世界を巡っていると聞いた、そのついでと言ってはなんなんだがこちらからの指令をこなしてくれないか?」
「どんな指令なんですか?」
「そいつは当事者の俺から説明してやろう」
ワタルが横から説明を付け加える。
「指令ってのはな、殺しだよ」
「え?」
「聞こえなかったか? 殺し…」
「馬鹿なことを言わないでください!」
「馬鹿なことでも冗談でもない、真実だ」
「そんな、管理局の仕事は殺すことじゃないでしょう!」
「落ち着いてくれ、羽」
「!」
クロノが羽を制止させた。
「ワタルさん、今のは言葉が抜けています、いいか、羽、殺しが全てというわけではないんだ」
「どういうことなんですか」
「指令にはいろいろなものがある、ロストロギアの捜索や奪取、次元犯罪者の逮捕などだ」
「なら、さっきワタルさんが言っていた殺しってなんなんですか!」
羽はいまだに怒りを抑えられない。
「殺しの指令は…確かにある、だがワタルさんにしか認められていない」
「そんな、なんで…」
「管理局もきれいなだけじゃないんだよ」
ワタルは少しあきらめたかのように言った。
「だからって殺すなんて…」
「なあ、クロノ、そんなことより俺はこいつに指令をこなす強さがあるかが気になってるんだが」
今度はアルが羽の言葉をさえぎり、疑問を口にした。
「それには僕も同意見だ」
「ちょ、何言っとるんや!? クロノ君やって「ええ」って言っとったやないの!」
「話で強さを知るよりも見て知ったほうが確実だからね、依頼はあとで検討させてもらうよ」
「なら俺がやったっていいよな?」
アルが立候補する。
「いや、まずはザフィーラが戦ってくれないか」
「俺じゃ役不足だってのか!」
「いや、そうじゃないんだ、ザフィーラは盾の騎士だろう、その防御を砕けるかどうか、砕けないにしてもどこまで傷を付けることができるかが見てみたいんだ、アルさんはできればその後に戦ってほしい」
「ちっ! わかったよ!」
渋々ながらアルはザフィーラに先を譲った。
「ちょっと待ってくださいよ、僕はやるなんて…」
(羽、やってみろよ)
(シュウガ!? 気付いたのか!)
(俺のことはいいからやってくれ、マスターだろう?)
「羽、ちょっとだけでええから、な?」
「…わかりました」
二人の説得によって羽は戦闘を行なうことを了承した。
「羽さん、治療終わりました、皮膚だけを切ってたみたいでもう完璧に動けますよ」
「…ありがとうございます」
「よし、ならとっとと訓練室でぶっ放そうぜ!」
「戦技教導官のくせに訓練室を壊さないでくれよ」
「ふっ、アルさんは魔王ですよ?」
「だから心配なんだ…、一旦切るが、訓練室に着いたら呼び出してくれ」
「わかった、俺が呼んでやるよ」
クロノとの接続が切れ、ウィンドウが閉じられた。
訓練室へ行くためにアル、ワタル、ザフィーラ、はやて、羽、シャマルの順で部屋を出た。
「羽さん、治療終わりました、皮膚だけを切ってたみたいでもう完璧に動けますよ」
「…ありがとうございます」
「よし、ならとっとと訓練室でぶっ放そうぜ!」
「戦技教導官のくせに訓練室を壊さないでくれよ」
「ふっ、アルさんは魔王ですよ?」
クロノは頭を抱える。
「だから心配なんだ…、一旦切るが、訓練室に着いたら呼び出してくれ」
「わかった、俺が呼んでやるよ」
クロノとの接続が切れ、ウィンドウが閉じられた。
訓練室へ行くためにアル、ワタル、ザフィーラ、はやて、羽、シャマルの順で部屋を出た。
(なあ、羽)
「羽さん、無理はしないでくださいね」
シュウガが念話で、シャマルが普通に羽に話し掛けた。
(なんだ?)
「え、治ったんじゃないんですか?」
(お前、あの形の武器使ったことあるんじゃないか?)
「はい、治ってますよ、でも羽さんが前に医務室に担ぎ込まれたときのデータを見せてもらったんです」
羽はシャマルを一瞥した。
念話と同時に話すのには慣れていないせいもあるのか少しにらむ形になったかもしれない。
(そう、なのかな…)
「あ、いえ、データは全体で共有されているんです、それで羽さんの名前を見つけたので、それで…」
次第に声が小さくなっていって、ついにはうつむいてしまった。
(おい、フォロー入れといた方がいいんじゃねえか?)
(わ、わかった!)
シュウガに急かされ、うつむいたシャマルに声をかける。
「…違うんです! 別に見られたことは気にしてないですよ!?」
「本当ですか?」
(ま、いいだろ)
やはりシャマルは涙目になっていた。
「はい、本当です、だから泣かないでください」
(…なんか体が勝手に動いたんだよ)
「そんな、泣いてなんて…」
(勝手に? ふーん)
「目に涙が溢れてますよ」
羽はシャマルの目から溢れんばかりの涙を拭ってあげた。
(キザ野郎め)
「ありがとうございます、この分なら心配することはないみたいですね。」
(そうか?)
お返しにシャマルは羽の頭を撫でた。
羽は顔を赤くさせながら質問をした。
「と、ところで心配してたことってなんだったんですか」
(へ、声がうわずってるぜ?)
「いいんです、もう治ってたみたいですから」
「?」
シャマルは微笑み、羽の頭から手を退けた。
―訓練室へ行くために部屋を出た。
「なあ、アルさん、やっぱりフェイトちゃんのことなのか?」
ワタルが口を開いた。
「な、ま、まあそれもあるけどクロノがあいつの強さを確認したいかな〜と思ったんだよ、それに俺は戦技教導官だからな、色々考えたんだよ」
「見事に結果オーライやったね」
殊勝な台詞ばかりのアルは後ろからのはやての突っ込みには耐えられなかった。
「おいおい、それを言うなよ」
「ほんとのことやろ」
はやては悪戯っぽく笑った。
「かないませんね、アルさん?」
「まったくだな」
二人は乾いた笑いを浮かべ、肩をすくめた。
「そうや、アルさん、何でさっき止めてくれへんかったん?」
思い出したようにはやてがくってかかる。
「うん? なんのことだ?」
「とぼけんといて!」
後ろの二人はまったく気付いていないがはやては怒り続ける。
羽は会話と念話でいっぱいいっぱい、シャマルは泣きそうな状況であるから、襲われでもしない限り気付くことはないだろう。
「わたし、アルさんに言ったやんか、なんで羽を止めてくれへんかったん!」
「いいじゃねえか、生きてたんだからよ」
はやての怒りにアルがおどけて言う。
「いいわけないやろ!ワタルさんが本気になっとったやん!」
「いや、面目ない、俺の速さに付いてきたことにカチンときましてね」
「このスピード狂め」
「そうゆうことやなくてやな〜」
ワタルの話を出したがためにおかしな方向に向かいそうだ。
はやては自分が怒っているのが馬鹿らしくなったのか頭を抱えて首を振っている。
「わかってるよ、次はしっかりやるからよ」
「いや、もうええよ」
「なんだ、そうか」
そんなこんなで訓練室に到着した。
「さて、始めるか、羽」
「ええ、やりましょうか、全力で行きますよ、それより素手でやるんですか? 怪我しますよ」
「ふっ、いらぬ世話だ」
ザフィーラはそう言うと狼の姿から人型に変わった。
犬耳と尻尾を生やして、がっちりとした体型である。
その腕には頑丈そうな手甲も装備している。
「なるほど」
「(は、ゲテモノ野郎が)」
「誰がゲテモノだ!」
「わかるんですか!?」
波長の合わない人にはジジ、とノイズのようにしか聞こえないはずだ。
「そのようだな、こんなことでわかりたくはなかったものだ」
「(こんな奴に俺の声が聞こえるってのも…)」
「貴様の相手をしてやろうか」
「(やってやろうじゃねえか)」
「ザフィーラ、今は羽との勝負に集中してくれ」
二人がいがみ合っているとクロノが仲裁に入った。
だがシュウガの声は聞こえていないようで、ザフィーラだけに注意を促した。
「すまない」
「(は、ざまあねえな)」
「シュウガ…魔力を止めることもできるんだよ」
「(ちょ、待て、わかった、俺が悪かった)」
さすがに治療に使っている魔力を切られると辛いものがあるので、シュウガは渋々ではあるが素早く謝った。
二階席の様な場所からクロノが説明を始める。
「ふう、仕切り直しだな、それじゃあ魔法の使用は自由、ザフィーラも攻めていってくれていい、もちろん倒してくれてもかまわない。羽の方も同じでいいな」
「了解した」
「はい、わかりました、いくぞエルス、セット!」
「ふん!」
羽はエルスを展開して、ザフィーラは魔力を流し始めた。
「それでは、行きます!」
「来い!」