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トラブルを、面白がるっていう性癖があるんだよなアイツ……。人生、壁にぶち当たったら面白いほうを選ぶべし。ってのがヤツの口癖だ。壁にぶつかんなくても常に面白いってのを基準に全てを選択する。面白がって煽って盛り上げる。まあそれは、いい。悪いことじゃない。ただ迷惑なだけだ。そんでもってその迷惑の主なる被害者がこのオレだ。たとえば小学生の時、空を自由に飛びたいな、なんて言い出して、人間サイズの凧作って空飛ぼうとして……とかさ。クラスメイトとか知り合いとかみんな巻き込んでわいわいやりだして。結局どうやったらいいかなんてわかるはずかないから「和成ぃ、なあ、空飛びたいんだけど何とかして」ってオレに……。ああ、走馬灯のように鈴原に掛けられた迷惑の山、ざかざかざかざか思い出してきたぞ。アイツの「これしたいんだけど何とかならない?」とかそーゆー言葉に踊らさせて、オレは実現不可能かと思われるような鈴原の思いつきを現実のものにしてきたんだ。さっきの凧だって、紙とか竹とか材料とか集めたのはオレ。巨大凧の作り方とか調べたのもオレ。作って空飛ばしたところまでたどり着けたのはオレの努力っ!まあ、鈴原が「おもしろそーだろやろうぜ!」ってメンバー集めちまうのはオレにはないアイツの才能だけどな。オレはあくまで鈴原の裏方。それが高じて生徒会副会長なんてアイツのサポートしまくって。あー、でも嫌いになれないから困ったもんだ。それにアイツが言いだす夢想みたいなもの、何とか現実にするようにってガキなりに頑張ってきた結果、オレは今のいろんなことに対する処理能力だとか判断力だとかそーゆーもん身に付けた。……感謝、するべきなんだろうか?ああいかん。思いにふけっている場合ではない。
「可能性は、高い、かな?」
しーんと、一瞬生徒会室が静まり返った。トラブルに遭遇しているだけならまだ可愛い。それ拡大して面白くしている可能性大、だ。……誰がそのトラブル処理して納めると思ってんだアイツは。オレか、オレしかいねえよなぁああああ。
「探しに行くか……」
オレがため息をついた途端に桜庭が、「あ、和成先輩はこれ、資料のチェックしててください。まだまだプリントアウトされてきますから。探すのはオレと梶山でいいっすよ。何か起こってたら、何とかします。オレで収まらなかったら和成先輩ご指名に参りますから。えっと、今泉、オマエはここ残って」って口を挟んできた。
「え、俺も会長探しに行くよ?」
「プリントアウトするヤツ大量だからちゃんとまとめてあと誤字脱字チェックよろしく。今泉そういうの得意だろ?オマエと梶山の作った資料はともかくオレが作ったヤツはミスある可能性が高いから」
「あー、うん。わかった」
「じゃ、そーゆーことで。和成先輩と今泉はここ、頼んます。いこーぜ、梶山」
「おー、捜索部隊参りますっ!」
さっすが次期会長候補桜庭隆一、仕切りが早いな。しかも頼りになる。あっという間に二人とも生徒会室から出て行っちまった。あの調子なら鈴原を見つけてくるのも早いだろう。問題なし……。いや、問題ありだ。今この部屋の中にはオレと今泉の二人きり。二人きりだと意識した途端、オレの心臓の鼓動は跳ねた。
……何故跳ねる。
突っ込みを入れたいぞオレの心臓に。今も、プリンターから吐き出されてる紙の山を一つ一つ丁寧にまとめて行って、そんでもってきっちりホチキス止めしていってから誤字チェック。やや下向き加減のうなじなんかにごおおおおおおっと目が吸い寄せられる。
「こっちもオッケイです。最終確認、お願いしますね」
「あ、ああ……」
渡された資料の山を見ているフリしてるんだけど、文字も数字もオレの頭をスルーする。気を抜くと、っていうか抜かなくても、オレの視線は今泉に向かう。
「あーのー、和成先輩?」
ハッと気がつけば、目の前に今泉がいてオレをきょとんと見上げてる。
「あ、わりぃ……」
「あの、ですね。和成先輩……」
言いにくそうに今泉は下を向く。
「この間のコト、気にしちゃってます?」



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