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……いや、その。別にそれほどまでにあのヒマワリが気になっていたわけじゃないんだけど。めちゃめちゃこだわっている人みたいだなあ俺。ちょっとうっかりおやぁ、あんなところにヒマワリが、って思っただけの、出来心なだけなんだけど。こんなところにまで歩いてきたから脳が暑さにやられてんだってことにしておこう。あー、夏期講習の疲れもあるかもな。先日までぶっちぎりで講習会真っ最中。朝から晩まで喉が枯れるまで授業授業授業授業アンド生徒対応保護者対応していたから。今はほんのちょっとのお盆休みで、これ終わったらまた夏期講習後半戦で突っ走るっていうそういう時期。どっかに遊びに行く気力も体力もなくて、歩いて十五分の所にあるコンビニに往復するだけでもう一日の仕事終わった気になる怠けモード。まあいいだろう。どーせあと少しでこの盆休みも終了する。そしたらまたお仕事に全力投球。休暇をどう使おうと俺の自由。だらだらしようがしゃきしゃきしようが河原でヒマワリ見ようが俺の勝手だ、よな?なーんてぶつぶつ言いながら右左右左脚を交互に出してさ、つまりは歩き続けていたら、はいようやく到着〜。
いやあ、ずいぶん立派なヒマワリだなあ。俺の身長は百七十五くらいなんだけど、その俺がちょっと上を向いて眺めるくらいにでっかいヒマワリ。だけど頭重そうに下向いてる。
「ヒマワリっていうから太陽のほう向いてるんだろとか思うのになあ。コイツ頭下げちゃってんじゃん。あー、ヒマワリさんも暑くてダレてんのねー、俺と一緒〜」
なーんて誰も居ないのをいいことに独り言ぶつぶつ。誰か居たらアヤシイ人だろうけどね。ヒマワリに「さん」までつけて喋る男なんてさ。せめて小学生くらいの男の子だったら可愛い発言かもしれないけど。二十歳なんてとっくに通り越して、煙草まで咥えている俺には可愛げの欠片もねえよなあ、なんてぼけぼけ思う。あー、暑い。
「向日葵はですね、太陽を追うのは芽生えからつぼみをつけた頃までで、後は次第に首ふりが小さくなってですねえ、完全に開花したときは運動をやめてしまうそうですよ?」
「あーそうなの、へー、初めて聞いたよそんなこと」
「ええ、私も聞きかじりの知識でしかないのでホントのところはわかりませんですけどね」
「あーでも暑くてダレてるってよりも正確っぽいじゃんそれ」
講習会後半戦始まったら理科系の講師の先生に聞いてみよっかな?そうしたらほんとかどうかわかるだろうし。なんてうっかり返事をした俺は絶対のこの炎天下で脳ミソ湧いていたんだ。
だって。
だってさ。
国道から斜面降りて河原まで俺は下りてきた。一本だけぽつんと立ってるヒマワリがうっかり気になって。川の中には釣り人が確かに居た。でも、一本だけぽつん、なんだよ?ヒマワリの傍になんて誰も居なかったはずだ。誰も居ないのをいいことに独り言ぶつぶつってさっき俺考えてたんだよ?
ええと?
ちょっと待って。
なんで声がするんだ?
慌ててきょろきょろと周りを見る。右を見ても左を見ても誰も居ない。
「暑過ぎて幻聴まで聞こえたのか……?」
熱中症とかの前兆か?とかも思ってみたところで。
「ああ、すみません上です上」
さっきの声がしたりして。
恐る恐る上を向く。
見上げたら太陽の光が眩しくて思わず目を瞑った。そんでゆっくり目を開けたら……、開けたらそこに、男が、いた。ヒマワリの花の周りにふわふわと漂っているカンジのサラリーマン風の男。にっこりと俺を見下ろしている。
「あ?」
思わずあんぐりと口を開ける。
炎天下の河原。ヒマワリ。サラリーマン風の背広の男。まあそこまでは許そう。
だけどなんでそんなのが浮いてんだっ!


続く



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