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ええと、どうしよう。
「もしかしたらとか思いますけど、ヒマワリの精霊とかそんなファンタジー展開は……」
記憶ないなら聞いてもわからないだろうけど、一応口に出してみたら、ソイツもすんごく嫌な顔になった。
「幽霊ならヒトが死んだもの、として受け入れは出来ますけど……。一応人類のカテゴリーに入れることは可能なので。ですが自分が例えば精霊とか宇宙人とか、そういう類の架空の存在……というのはちょっ引きますねえ……。人類外、というのは遠慮したいです。そもそも苦手なんですよ。幻想系のお話とか」
あ、俺と同じ意見の人だ。ちょっと親近感。……って待て、ヒトかどうかわかんねえぞ現時点では。
「あーすみません。記憶ないならわからないですよねぇ……」
「いえ、こちらもお答え出来なくてすみません」
二人でお互いに頭なんかを下げたりして。
黙っているのもアレだからと思って無理矢理会話を繋いでみる。答えられそうなことから聞いてみよう。
「ええと、ずっと長いことこちらにいらっしゃるので?」
「いいえ、多分二・三日前くらいからです。何故だかここに浮いていたんですよね気がついたら」
「はあ……」
気がついたら浮いていた……ですか。ううむ、答えられそうなことから聞こうとは思ったけど、その気力もだんだん低下。逆にこの男のほうはなんだかべらべらと喋ってきた。
「誰も気がついて下さらないので、まあ、私もですね、所謂幽霊かななんて思ってはみたんですが確証はなくて」
「そーですか」
「少なくとも幽霊なら、夜の暗がりとかそういうところに潜んでいるものだと思うんですよね。街中なら電柱の陰だとかならまあ許せます。でも、ですね。私はこんな日差しの強い炎天下で、しかも向日葵なんて明るい花の傍に浮いているんですから。暗さや怖さのかけらもないでしょう」
「そうですよねえ」
「ただ……、私の姿を見て、私の言葉に答えてくれたのは貴方が初めてです」
だんだん単なる相槌打つだけになりかかって、言葉を受け流しそうになったところで問題発言が。えっと、俺がハジメテ……?
「貴方何か特殊能力とかある方ですか?霊感があるとか……」
冗談じゃねええええ!架空の話は嫌いなんだ。俺にそんなもんあってたまるか!フツーに生きてフツーに仕事して。それだけの何の特徴も特長もない一般人の俺になんでそんな特殊能力!ないないないないそんなのないっ!
「そんなのないですよっ!っていうかあなたが幽霊だと仮定して、そんなもの見たの初めてです!もちろん架空の存在なんかこれっぽっちも信じてませんっ!」
「そーなんですか?でも私のことは見えてますよねぇ?」
うっ!何で見えるんだおかしいよ、とは思うんだけど俺はこの男が確かに見えて確かにここまで会話してきている。あー……。
「……夏の暑さで脳が沸いてるんだと思ったんですけど」
「幻聴とか幻覚の類だと?」
「……だけどですね、ヒマワリの、さっきのお話、俺の知らないことでしたから。単なる幻聴って考えるのもどうかと……」
そうそれが問題だ。幻覚だ幻聴だと一言で片付けてしまえないこの事実。
「ああ、そうですねえ……」
俺達は二人して困ったみたいに黙ってしまった。正体不明のゆーれいさん……と言うべきなのだろうか?彼をこの場に放置して俺はとっとと去るべきのなのだろうか?
だけど暑いんですよ。炎天下だし。何にも考えられないまま、眩しいからちょっとだけ目を細めて俺はふわふわ浮いたままのその男を見上げてた。ホント、ぼーっと。どっしよっかなってカンジの顔で。
そしたらその幽霊さん(仮)は「まあ、考えてもわからないモノはわからないですね。とりあえず、出会えてお話出来て嬉しかったです。何せ私の姿を見える人も私の声が届く人も貴方が初めてでしたから」なんて言って、すっと右手を差し出してきた。
「あ、どうも」
なんて俺はほとんど反射で同じく右手を差し出して、平和的にシェイクハンド。
幽霊と握手かぁ……。なんて思ってはみてもこんな炎天下じゃ怖さの欠片もなにもない。それにこの幽霊というかヒマワリ男もねえ、すごくいい人そうな顔つきしてるし。あ、ヒトかどうかは不明だっけ。幽霊かどうかも不明だった。
あ、握手なんてしてみたカンジは単に空気に触れたっていうのと変わらなかった。ただちょっと密度の濃い空気がそこにあるってカンジ?気とかオーラとか?信じてないけどそんな感じで何かはそこにあるってのがわかるカンジ。ふわって包みこまれるような……。……ファンタジー苦手なんだけどな俺。
で、まあ、それはいい。それはいいんだ。
だって、そんなことよりもっと別のことがっ!
「お、おや?」
「あ、あれ?」
ふわふわ浮いてた男がすううううううっと、地面に降り立ちましたよ?
「……下りられたんですね?」
「……ここ二・三日どうやっても浮きっぱなしだったんですが私」
「へー、でも今普通に立ってますよ。身長俺と同じくらいですねえ」
目線が一緒。さっきまで上見上げてたんだけど今はそのままフツーに真正面見ていればこの人と目が合うくらいの位置に居る。
やっぱりどこをどー見てもサラリーマンにしか見えないなぁ。名刺とか茶封筒とかそういうアイテムが似合いそう。営業マン的な愛想の良さがある顔。人がよさそう。でも今は訝しげな顔してるけど。
「……やっぱり貴方、何か特殊能力お持ちなのでは?」
はい?



続く



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