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「そんなん持っていませんけど……」
特殊能力なんて非現実的なもの、持っているのなんてすげえ嫌だ。
「私を見て、私の声が聞けて。それだけならまあよしとしましょう。ですが浮いていた私を普通に地面に下ろしていただいたというのはどういうことかと疑問なのですが」
「そう言われても。俺が何かしたというカンジは全くないですよ」
手、差し出してきたのはそっちが先だろ?俺はその手を取って握手しただけですはいマジで!
「私も貴方に何かされたという感はないのですが、貴方に出会うまで私はただ意味もなくふわふわ浮き続けていただけでしたし。まあ、地面に降りることが出来たのは嬉しいですからいいのですが、こんなモノまで追加されるとですねえ、やはり貴方に何かがあるのかと思ってしまうのですが……」
「は?こんなモノ?」
「はい、これ。何だと思われます?」
「なんだとおもわれますって……、えっ?うわっ!何これいつの間にっ!」
俺はうっかりこの幽霊的ヒマワリ男と握手をした。
それだけなのに、浮いていた男が地面にすうってカンジに下りてきた。
でもそれだけならいい。
それだけなら許容範囲だ。でもそれだけじゃ済まなかった。
いつの間にか俺の右手と男の右手は手首のあたりで赤いリボンなんて可愛らしいモノでしっかりと結ばれていた。取ろうとしても掴めない。すかってカンジで俺の手を通りぬけてく赤いリボン。
ええと……何だよこれ。
「ええと、赤い糸なら運命の相手……でしたでしょうか……?」
「……それ、手の小指とかが赤い糸で結ばれているってヤツでは……」
手首に結ばれているのはリボンであって糸ではない。よってちがああああう!と俺は主張したい。
「これもまた聞きかじりで正確ではないのですが、元々は中国の故事で、月下老という仙人がいましてですね。冥界で婚姻が決定されたら、その月下老が夫婦になるはずの男女の足首を赤いしめ縄で結んでいくので、もう他の人とは結婚できない、というものらしいですよ。それがいつの間にか指で赤い糸に変化していったと」
月下老っておじーさんか。それに赤いしめ縄……。
「ロマンのかけらもないですね……」
「ええ、ですから糸になったのだと思われますが、そうなら赤いリボンというのでもまああり得るのではないかと思われますが」
ありなんですか?俺も貴方も男ですけど。
男女ならともかく俺も貴方も男でしょう!男と結婚なんて大問題。
……逃げよう。
俺は素直にそう思った。この赤いリボンがこのわけのわからないヒマワリ男に憑りつかれた証明でも運命の赤いしめ縄リボンバージョンとかでも大変マズイ。
荒唐無稽な展開なんて俺はごめんだ、冗談じゃない。ホモも嫌だ。
俺は逃げるタイミングをはかるために三・四歩だけ、まずは後ろに後ずさった。
そしたら、ヒマワリ男も、俺が後ずさった分だけ俺に近寄ってきた。
「おや?……何やら貴方に引き寄せられるのですが」
「うへ?」
「今ちょっと後ろに下がったでしょう。そのままもう少し移動してみませんか?」
思いっきりダダダダダダダダと走って去ってみる。そのまま走って逃げればいいやって思ったんだけど……。けど、男は歩いたそぶりも見せないのにすーっと俺の傍にひっついてきた。うわあホントにユーレイっぽいぞ。
「何故……、どうして……」
「この赤いリボンのせいでしょうか?ますます運命の人っぽいですねぇ」
「うそぉ……」
「本当のところはわかりませんが」
「ううううううううう……」
「何やら引力のようなものを感じるますねえ」
しみじみと言われたところですごい脱力感を覚えた。というかリアルにへたり込んだ。ええと、時すでに遅しで既に憑りつかれたのか?わかんねえ。あー、もう仕方がない腹をくくるか。理解不能な出来事はぶっちゃけ苦手だ。苦手だけど、こうなったら気合いでこの現象を解消するために尽力するしかない。このままお盆明けの職場には行きたくない。俺以外の誰にも見えないのかもしれないけれど、こんな幽霊だか運命の相手だかに憑りつかれたまま授業なんかしたらものすごいテンション下がる。
「と、とりあえず移動しませんか?俺、マジで暑いです。頭ぼーっとしてきたのでこのままではぶっ倒れます」
いつまでもこんな炎天下に居ても仕方がない。この男の正体探るんであっても俺から引き離す算段取るにしても現状熱くて頭は飽和容態出し、喉が渇いたし、汗でべったりの身体はキモチワルイ。タバコでも吸って落ち着きたい。というかなんか飲みたい。でも喫茶店で涼むってのもこのヒマワリ男っていうか幽霊を連れて、ではなぁって思って。……多分誰にも見えないんだろうけど。
そういうわけで俺はこのヒマワリのユーレイ男を引き連れて、自分のマンションの部屋に戻ってみた。
寄るつもりだったコンビニにも行くのやめて、とりあえず直帰。タバコのストックはあと一箱あるから大丈夫。明日にはなくなるだろーけど。で、帰る途中の道では誰もこのヒマワリ男に注視するヤツなんて居なかった。うん、オレだけに見えてるカンジだ。……幻覚、かなあやっぱ。


続く



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