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二人で飲んだくれて、ぐだぐだ言って、そんで俺は記憶をなくした。つうか眠っちゃたんだろうなこれは。朝起きたら頭も身体もすごい重くて。うげ、なんだあ……?なんて思ったけど明らかに二日酔い。あー、昨夜どのくらい飲んだんだっけ?まあいいやとにかく喉渇いた、水飲みたい。布団にくるまっても水が降ってきてくれるわけなんかないから俺はむっくりと起きあがった。あー、身体が重い。頭が痛い。で、こめかみ抑えながらベッドから降りようとしたその時に。
……隣でぐーすか寝こけているおっさん発見。
じゃなくて上条さんだ。うわ、なんで上条さんが俺の部屋にって思ったけどそれは違った。ここ、俺の家じゃない。知らない天井。でもホテルとかじゃないし生活臭あるしっていうかぶっちゃけ薄汚れてる。ちなみに俺の家は整理整頓されてます。はるかさんが海外暮らしだから、俺、今そこに一人で住んでるんだけど、一応ハハオヤの家だから、掃除は比較的きちんとしています。……っていうか、コドモの時から俺があの家掃除してたようなものだけどね。あ、それは言い過ぎか。はるかさんってさ、その名の通り、頭の中身が遥か彼方に飛んでますから、日常生活なんてまともに営めません。はるかさんの、歴代のマネージャー氏がかなりしっかりしてる人達で、その人達がいたから生きてこられてのかも。少なくとも、俺がちっさい時、ちゃんとハウスキーパーって言うか家政婦さんて言うの?そういう人を我が家に派遣してくれてたマネージャーさんにはものすごく感謝。どんな人だったかは既に記憶に定かではないけれど、足を向けて寝られないよ。って言うかきっと俺の命の恩人だよなあ。俺も小学校高学年くらいになった頃にはその家政婦さんとかに家事習うくらいの知恵ついたけど、ホント幼少期にはるかさんと二人だけの生活だったら、うーん、死んでるかな?だから俺が家事を覚えたのは生きていくため、です、はい。まあ、そんな俺の個人的事情は今はいいか。ええと、もしかしてここ、上条さんの家なのかな?じーっと上条さんの寝顔見てみる。寝顔は天使なんては言いません。やっぱりおっさんはおっさんです。年、ホントにいくつなのかなあ?結婚とかしてんのかなこの人。あーでも女優さんのこと、引きずってたらそんなの出来ないよね。……ん?あれ?何だ女優って誰?なんでそんな単語が思い浮かんだんだ?ちょっと疑問に思って頭押さえたら、断片的にだけど昨夜の酔っぱらって喋り倒した記憶が少し戻ってきた。女優……は、ああ、そうだ。上条さんが圧倒された女、だ。ええと、ニシナキョウコ、とか言ってたような言わなかったような……。もし本当にニシナキョウコなら、あれ?あの「仁科恭子」かなあ?そんなすげえ女優とお付き合いしてたなんて上条さんかっこいいな。美人連れてる男ってそれだけで二割増しくらいオトコマエ見えるよね。なんて戯言。記憶のとっかかり、掴んだらなんか段々思い出し来たぞ昨夜の醜態を。ハハオヤの話、なんて俺、しちゃったし。マザコンとか思われたらどーしよう。ま、いいか。上条さんだし。
上条さんの顔ボケーと見てても仕方がないし、喉渇いてっから水飲みたい。ボーカリストは喉が命。大事に労わらないと駄目。勝手に部屋の中うろつくのも悪いなと思ったんだけど、喉渇いてて。だけど立ち上がった瞬間に、ケイタイの着信音かな?着メロ、響いて。ぐーすか寝こけてた上条さんの太い腕が、がしっといきなりそのケイタイ掴んで「はい、上条で……」って起きても居ないのに反射みたいな感じで返事して。そしたら『テメエ、上条、寝坊かよっ!今日は会議っ!戦略会議っ!社長怒ってるぞっ!』って怒鳴り声が聞こえてきた。誰だろう?
「あー……。すまんが関口、オマエから謝っといてくれや」
『……じーぶーんーでー謝罪しろっ!じゃあなっ!』
って誰からかかってきたのかわからない電話は切れた。
……ってええと、水、取りに行きたくてもどうしようって感じだったから俺は「上条さんオハヨ」ってとりあえず挨拶。
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