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「おお、イメージ通り完璧だなあ……」
「ありが…、はい?イメージ?」
俺が震えそうになる声、頑張って出したっていうのに。言いかけて、言い終わらないうちに上条さんがっ!振り向いたらなんか空気読まないこの人がっ!
なんか、デジカメの液晶モニターのタッチパネル、ぽんぽん弄って……ナツ君の頬からすうっと流れて零れて落ちた涙が、何度も繰り返し再生されてますけどっ!アンタ今ここでれーせーに撮影とかしてたんですか上条さんっ!
「後は、少し歩いてもらったり立ち上がるとか、そういうところだけ撮ればナツ君の撮影終わっちまうな」
確認するみたいにぼそっと言って。あの、あのですね、上条さん。俺の渾身の歌も聞かずに冷静にナツ君の撮影しますかアンタっ!
ナツ君が泣いてくれちゃうくらい魂込めて歌ったのにさあっ!
睨むくらいしてもいいよね睨むくらいっ!
「……ホント空気読まないよね上条さんてば。それに俺の歌も、全然聞いてなかったのかよっ!」
俺、すっげえ憤慨してます。なのに、上条さんは涼しい顔。
「商売優先。チャンスは逃すか」
視線を、俺に向けもしない。デジカメ弄って、何度も何度もナツ君の画像再生して、メモ用紙取り出してなんか書いて。なにそれ、編集用のメモ書きですかね?補正とかかけるんですかねふーんっ!
「…………知ってるけど。で?俺が歌ってる間、上条さんは俺の歌そっちのけでナツ君の撮影しとかてたんだ?」
「おお、見るか?いいぞこれ、このまま使えそうなくらいのクオリティだ。ま、多少編集必要だが、ああ、音声は消さないとな。まあ、元々合成だの編集だのはかける予定だったし素材としては完璧だろう。……いいものが出来そうな予感がする」
うわー、すげえムカツクっ!でも上条さんがいいものっつったらホントに良いんだろっ!今すぐみたいじゃんかそれ完成したところっ!
暴れてやるーっ!も、じたばた暴れますよ俺!
半分は上条さんへの文句で、もう半分はイメージ通りの映像出来そうで嬉しいからっ!あーもうっ!
「あ、あのっ撮ってたって……今、おれ、撮影とかされちゃってたんですか?」
ナツ君が、真っ青になって「うわああああああああ」と叫んだ。
「そ、そんなもの撮らないでくださいっ!け、消してっ!消して下さいいいいいいいっ!」
必死になって叫んでるけど消されたら困る。
じたばたしてた俺、ちょっと冷静さを取り戻したカンジになりかかったんだけど。けど……。
「あーこれ、パソコンにデータ落としといてくれや。間違っても消すんじゃねえぞ、同じもん二度も撮れるとは思えねえからな」
上条さんは俺のこともナツ君のことも意に介せずってカンジで。俺らをキレイに無視して上条はスタッフさんと思われる人にデジカメをひょいって渡してるし。
低い声にスタッフの人は「はいもちろんっ!」と威勢よく答える。
……俺も、ナツ君も無視、ですか?シカトですか?そーですかっ!ねえ上条さんっ!アンタの視界には今そのデジカメしか入ってないだろうっ!目の前で大きな声で叫んでるナツ君も、暴れてる俺も目に入ってないだろうそうだろうっ!
なんて言うのかなあ、この感情。怒り?やるせなさ?憤怒?憤慨?立腹ですか?
羽鳥先輩は「諦めなねナツ」って、慰めるみたいにナツ君の頭を撫でてますけど。上条さんなんて俺の方視線すら向けてくんねえですよっ!あああああああもうっ!怒鳴っていいよな良いよなああああぁっ!
「上条さんの馬鹿ーっ!超すげえムカツクーっ!」
「ウルセエ。でけえ声で怒鳴るなソーヤ。それからな、馬鹿っつうほうが馬鹿なんだよ」
呆れたように目線ちらっとだけ俺に向けて。
俺のほうに向けてくれて。
……あー、こっち向いてくれたー、俺のコト見てくれたし名前も呼んでくれたー……とか思っちゃったよ。
馬鹿だ……。
すげえ馬鹿だ。俺のが上条さんより百倍馬鹿!……ああ、もう、ちっくしょうっ!いつか、俺の方振り向かせてやるばっかやろおおおおおおっ!

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