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ま、とにかく。好きなものは仕方がない。だから、好きだって気持ち隠さずに、歌う。
クマちゃんにはさ「ソーヤ、ただ漏れしてる……」とか呆れかえったように言われました。「まー、歴代の彼女に対してはクールというか執着なんて皆無だったのに、変われば変わるもんね」とか言われてさ。うん、そうだねえとか俺笑って答えてんの。「でも、歌以外に執着なんか全然しなかった過去のソーヤに比べれば今のほうがいいとか思っちゃうよ。まともに人間に見えるわー」って、容赦ないなあクマちゃんは。そんでもって「アタシもソーヤに負けないように一生の恋人探そっと!」だからね。うーん、一生の恋人かあ……。現状からすると一生の片思い、かなって思っちゃうんだけど。ま、それも人生。そりゃあ両想い目指して頑張るけどね。
というわけで、俺は今日も歌います。
出来たプロモは無事動画サイトにアップされて、順調に再生回数増え続けてる。そんでもって。それだけじゃなくて上条さん自らあっちこっちに売り込みかけてくれて。
で、とある化粧品会社のCMソングに起用された。UVカット系の系商品のテレビCM。日焼けしてもダメージゼロとかで歌詞が合うとか何とかで。
初めて俺達の歌がテレビから流れてるの聞いた。
コンビニとかCDショップとかでも流れてた。
売上ランキングとか、そりゃあさすがに初登場一位とかは無理なのは当たり前だけど、ベストテン内にランキングされて。
状況が、一気に変わった。
この流れ、断ち切らないで次の曲作れって上条さんから厳命がきて。
俺は必死になってみんなと次の曲完成させて。
それがね、初登場で三位とかになりました。
知名度、一気に上がった感じ。テレビの歌番組とかにも出させてもらった。
俺がはるかさんの息子って言うのも週刊誌とかに取り上げられちゃったとかあったけど、ね。一応あの人法律上は未婚の母だし。だけど今はるかさんイタリアだからなあ、マスコミの人もわざわざそっちまで追いかけるような根性ある人あんまりいないみたいで。それに、はるかさんのコメントが……「えー、葵クンの歌とかCD売ってるの?あら、買わなくちゃー」だもんな……。あの、送ったよ俺。はるかさんのマネージャーさん宛てにっ!はるかさん宛てに送ったんじゃ届かないとか思ってさあああああ。聞いてくれててないのかな?それならいいけど聞いても意識に残らなかったっていうんなら……俺の歌、まだまだってコトだよね。ちょっと悔しい。いやかなり悔しい。
でもまあ全体的に順風満帆。
次はシングルじゃなくてアルバム作るって。それ作ってファーストコンサートだって。
事務所の社長がほっくほくの笑顔で「この調子でバンバン売れろお前らわーはっはっは」って高笑いしてますけど。
俺の歌がたくさんの人に届いたってことだから俺も嬉しくて、ちょっとだけ浮かれたりしたけど。
浮かれ調子なんてね、そうそう続かないんだよね。まあ人生ってそんなもんだなんて言ってなんていられない。だって上条さんが。
「じゃあ、お前らも無事に売れ始めたから後は大丈夫だろ」って……。
なんか嫌な予感のするコトバ。
その先、聞きたくないんだけど。
「後のことは関口に任せてあるから。あいつならオマエらとも上手くやっていけるだろ」って……。
関口さんは羽鳥先輩のマネージャーで。俺達も知らない間柄じゃない。上条さんとも仲良かったと思う。寝坊して会議遅刻した上条さんに『テメエ、上条、寝坊かよっ!今日は会議っ!戦略会議っ!社長怒ってるぞっ!』って怒鳴りながらも電話くれてたくらいに。俺達も何回も一緒に飲みに行ってるし、羽鳥先輩がドラマの主題歌上手く歌えなかった時俺も直接会ってたりする。壁に寄りかかりながら腕組んで、そんでもって眉間に皺なんか寄らせてたけど、羽鳥先輩が歌いだせるようになるまでずっとちゃんと待っててくれた。
知らない、ワケじゃない。関口さんなら俺達と上手くやっていけると思う。だけど。
「だから、オレはオマエらから外れる。また別の新人発掘するっつー仕事に戻る」
「確かに、上条さんのお仕事は新人発掘って知ってるけど……」
だけど、ファーストコンサートやるからってアルバム作ってるこんな時期に?
「……関口さんが俺達のマネージャーとかになるんなら、羽鳥先輩のほうはどうなるんだよ」
「羽鳥には別のマネがつくことになってる」
「で、俺達の売り込みとかスケジュール進行とか関口さんに任せて上条さんは俺らとは無関係になるの?」
「……ま、そういうことだな」
「もう決まったんだっていうかさ、上条さん、もともとそういうつもりで動いてた?」
「新人発掘して軌道に乗せるまでがオレの仕事だ。その後の展開は別のヤツの仕事」
仕事。
そう言われればそうだけど。
「関口はそこそこ売れ始めたヤツを大々的にプロモーションして押しも押されぬ大スターとかにするのが得意でな。俺は原石見つけるのは得意なんだが関口とは得意分野が違う。ソーヤ、オマエ達はもうそこそこ売れ始めてる。だから、後は得意な人間に任せるほうが効率がいいと社長にも承諾貰った」
上条さんは新人発掘が得意で、関口さんは上条さんが見つけてきた新人が売れるとわかったらそれを大々的に売るのが得意ってそういうこと?だから、俺達の歌、売るのに効率のいいルート取ってるってこと?
……なんか嫌だ。むかむかする。
話の筋は通っていると思う。
俺達の歌、本気で売るために一番良い方法取っているんだよってそれはわかる。
だけど。
「……俺の、傍にいるの、そんなに嫌なの?」
上条さんの言っていることは嘘じゃないんだろうけど建前にしか感じられない。それともこれは俺の被害妄想か?俺が卑屈になってるだけ?
言葉には、しない。好きだなんてもう言わない。
想ってるだけ。俺が勝手に上条さんのコト好きなだけ。
フラレても諦めきれないだけ。
なのに、それも鬱陶しい?
後を、関口さんに任せて俺と無関係になりたいってくらいに俺の気持ちは迷惑なのか?
卑屈、ってわかってる。
わかってるけど胸のむかつきは収まらない。

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