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このままじゃ、酷い言葉とか吐き出しちまいそう。言いたくないけど言いたくないんだけど……。
「俺が、側にいるだけでも迷惑?あれ以来上条さんに迫ったことなんてない、だろ?」
「ソーヤ……」
「想ってるだけなら俺の自由だろ?でもそれさえも上条さんにとっては鬱陶しいってこと?」
返事は無かった。……ってことはやっぱ俺、鬱陶しかったのかな?迷惑だったのかな?
思考が、どんどんどんどん暗くなる。
上条さんの顔、見れない。情けないけど涙が滲む。歯を食いしばって拳握っても、駄目。目の奥が熱くて仕方がない。
振られるのは仕方がないって自分に言い聞かせてきたけど、だけど、仕事で傍にいることすら嫌だなんて、それほどまでに俺の気持ちが迷惑だったなんてそこまで嫌がられてるとは思わなかった。
……確かにオレ、卑怯な手、使ったけど。俺にだって非はあるけど。
歌、だけなら。
俺の歌だけなら届いたと思ったのに。
歌があれば、片思いでも側にいるくらい出来るって思ったのに。
「もしかしてさ、俺達のバンド、強引に、売り出したのって……俺の歌が上条さんに届いたからじゃなくて、さっさと縁を切るため?」

――ああ。この歌。オレが世の中に出してやる。

あの言葉は、歌が届いたからじゃなかったのか?

――オレが、個人で勝手に動く。ソーヤのこの歌世の中に出す。売ってみせる。

そうも、言ってくれたのに。必死になって俺達の歌、世の中に出してくれたのに。
それもみんな、俺の歌が上条さんに届いたからなんじゃなくて、さっさとデビューでもさせれば心おきなく俺から離れられるってそういう魂胆だったのか?側にいるのすら不快だったから、さっさと売り出したのか?
ああ、卑屈な思考だなって俺の頭のどこかがそれ以上考えることを止めている。
惨い言葉、上条さんに吐き出して、それでこの一瞬は気が収まるかもしれないけど後でものすごく悔むから止めておけって。
自分に自分で言い聞かせる。
ほら、大人の態度でさ。今までありがとうございましたって言ってさ、それで、どうせ傍に居てもいなくても遠くから上条さんのコト想い続ければいいだけじゃんって……、どうせ、側にいても気持ちなんて伝えらえないし。俺が自分で迫らないとかもう二度と好きだなんて言わないって決めたんだし。上条さんが傍にいようと遠くに行こうとそんなの上条さんの自由だし。俺達売り出すまでが上条さんの仕事なんだろ?俺達が売れた後もその後もずっと仕事だけでも繋がっていられるとか思ったのなんてさ、俺の勝手な思い込みなだけだろって……。言い聞かせようとしても駄目だ。
離れるんだ、上条さんは。
俺から。
側に居たくないから、仕事だって大義名分掲げて角立たないようにしてるんだ。
結局、届かなかったんだ。気持ちも歌も。
歌だけは届いたと思ったのに。
歌だけならって……。
涙が、零れて流れて落ちる。俺の足元に、出来る沁み。
「そんなに、嫌だったんだ……」
オレノコト。後の言葉はかろうじて音にはしなかった。歯を食いしばる。言うな、これ以上。上条さんを責めても仕方がない。
そうだよ、仕方がないじゃんか。
俺はとっくにフラレテル。なのに未練がましくしてるのは俺の方。
上条さんを、責めるなんておこがましい。
俺だってそうじゃんか。仮に俺のコト好きで好きで仕方がなくてって子がいるとして、その子が俺にフラレテも諦めませんって傍に居たらすっげえ鬱陶しいじゃん。なら上条さんが俺のコト鬱陶しがっても当然だろ。
……理性では、わかる。俺が上条さんを責める筋合いは、無い。
わかってる。
だけど悔しい。
何一つ届かない。
悔しくて悲しくて、どうしようもない。
こんなになっても上条さんにコト諦められない俺は馬鹿だって思うけど。
それでも好きで仕方がない。諦めきらない。
なんで、だよ。
世の中にはどうしようもないことってあるじゃねえか。俺の手なんて届いたことなんてないじゃねえかよ。
コドモの時、思い出せよ。
どんなにはるかさんに傍に居て欲しくたって、あの人、歌だけしか見てなかった。
じゃあね、葵クン。ママ、お歌歌いに行ってくるわね。
そう言って、一年とか半年とか平気で音信不通で俺のコト家政婦さんとかマネージャーさんとかまあそういうお世話してくれる人はいたけどそういう人にまかせっきりで帰ってこなかった。
俺のコト、見てくれなんてしなかった。
だから、俺は。諦めた。初めから、追いすがることなんてしなかった。
諦められれば楽なんだ。
期待しなければ楽なんだ。
悲しくも辛くも痛くもない。
今俺の心が痛いのは、執着してるから。
上条さんに。
俺が初めて諦めたくないと思った人だから。
執着。
……されるほうは鬱陶しいよね。
俺は、上条さんにとって……鬱陶しいだけの存在だったんだなあ。
「あ、はははは……」
乾いた嗤い。涙も止まった。
何にもないよ。俺の中、空っぽ。
もう、歌も無い。
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