▼Simple Birthday At the present time
 今日は泉の誕生日だ。浜田は昨日から下準備をしてこの日を待ち構えていた。一年間繋がりが切れていたこともあって、今年は精一杯泉を喜ばせようとしている。泉は今日も部活だから帰りはかなり遅くなるが、帰りに浜田のアパートに寄るよう言っていた。

 「ふんふ、ふっふふー」

鼻歌を歌いながら卵の白身を混ぜる。ケーキはメレンゲ作りが肝心だ。キメの細かいメレンゲになればなるほどケーキの食感がふんわりする。練習ではこれに失敗して、処理を手伝ってもらった田島から散々からかわれた。残念ながら電動ではない泡立て器をかちゃかちゃと回しながら、浜田は次に作る料理のことを考えていた。今日は泉の好きなオムライスを作って、付け合せに白菜のスープも作るつもりだ。

 メレンゲに角が立つようになったので、かき回すのをやめる。あとはもう一つの生地さっくり混ぜ合わせるだけだ。浜田は溶かしバターをぬったクッキングペーパーをケーキ型にしき、生地を流し込む準備をする。メレンゲを少しずつ混ぜながら入れ、全部を入れ終えてから、へらで下から掬い上げるようにして満遍なく混ぜると生地の完成だ。とろとろと型に流し込むと予熱を済ませたオーブンに入れ、小一時間ほど焼く。

 今は六時なので出来上がるのは七時くらいだ。丁度泉の帰ってくる時間帯に間に合う。浜田は泉が喜んでくれることを期待しながら冷蔵庫から次に使う材料を出す。冷蔵庫は浜田の身長よりずっと小さいので思い切り屈むことになる。

 「痛ててて・・・」

 情けない声を上げながら立ち上がる。こんなんだから泉に年寄りって言われんだよな、と思いつつ近頃体育の授業以外これといった運動をしていないので仕方がない。

  さて、オムライスとスープを作ってしまうと暇になった。生クリームはもう作り終えて冷蔵庫に入っているし、果物も切りそろえてしまった。浜田は泉が帰ってくるまで何をしようかと、たいした物のない自分の部屋でぼんやりしていた。時計の針が泉が帰ってくるまでまだあと三十分あることを告げていた。まだまだ時間がたっぷりある。そのとき浜田は大切な物を買い忘れていたことに気が付いた。

 ろうそくが無い!浜田は慌てて上着を着ると財布を持って家を飛び出した。泉は今日で十六になるから少なくとも十六本のろうそくが必要だ。だが誕生日用のろうそくなどどこで売っているのか、皆目見当も付かない。外を吹きすさぶ風が浜田を弱気にさせる。とりあえず近所のスーパーや、駅前のケーキ屋に寄ってみたが 見つからなかったり、売ってもらえなかったりした。浜田はどうしたらいいか分からず、もうすぐ泉が帰ってくるだろう家に戻ろうとした。

 いつもは通らない裏道を歩いているとそこには小さなケーキ屋が建っていた。浜田は今度も駄目だろうなと半ば諦めながら入ると、中には若い男の人が一人厨房にいるだけだった。

 「あの・・・すいません」
「はい!何でしょうか」

 この人が店主さんだろうか、どうやら一人でこの店を経営しているようだ。浜田は明るく声をかけられて、少し物怖じしていた。ケーキを買わないことがとても恥ずかしいことのように思えたのだ。

 「あ・・・あの。誕生日用のろうそくって売ってますか?」
「ああ!ろうそくですね。ちょっと待ってください」

 店主さんはカウンターの中からろうそくが何本かずつ入った袋をいくつか取り出すと浜田の方を向いた。

 「何本必要なんですか」
「えっと、十六本です」

 浜田がそういうと店主さんは小さな袋にさっとろうそくをまとめ、浜田に手渡した。値段も何も言わずに渡すので、浜田は疑問に思ってきいた。

 「あ、あのいくらですか?」
「御代はいただきませんよ。どうぞお受け取り下さい」

店主さんはそう言うと微笑んだ。じんとしたものが浜田の胸に響いた。外の寒さとは対照的な暖かいものだった。

 「あ、ありがとうございます!」

 浜田は受け取ったろうそくの袋をポケットに入れると、店主さんに一礼して店を後にした。

 急いで家に戻ると鍵が開いていた。中に入ると泉が浜田の雑誌を読みながら食卓に座って待っている。泉は浜田が入ってくるなり睨み付けると不機嫌そうな顔になった。時計を見ると出て行ったときから一時間ほど経過していた。つまり泉を三十分間待たせていたわけだ。

 「遅ぇぞ浜田。今度やったら一生この家には来ねぇからな」

 泉が怒ってそう言う。本気じゃないと分かっていても、かなり怖いものがある。

 「え!いやそれだけは許して!ほらもう用意してあるからさ」

 浜田は泉の機嫌を取ろうとして必死だ。ふんとむこうを向いて了承する泉に安堵しながらどたばたと夕食の支度を始めた。

 一度温め直してから料理を食卓に並べる。泉は浜田が席に着く前に食べ始めてしまった。凄い勢いで食べていくので、思わず食べることを忘れてしまう。まったく可愛い顔して男らしいといったらない。

 浜田は泉が食べ終わる前にと、ケーキのデコレ−ションをするために席を立つ。泉が浜田の方をチラッと見て、そのまま視線を戻した。

 「今日はありがとな」

 誰が言ったのかと思えば泉だ。ぶっきらぼうなその言葉が浜田にとってはたまらなく愛しい。浜田は早くケーキを持ってきて泉を喜ばせようと思った。


『君に一番の誕生日を』





 何かネタがあほっぽいよ・・・!まず前日から準備してんならろうそく買い忘れんなよ!って感じだよ。何だこの浜田。
とりあえず今回のテーマは『はまちゃん初めてのおつかい』なんで。(そんなこと言ってるからアホなんだよ)

2006.11.15
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