▼だんだん近付いていく Road is shorter and shorter
 浜田の誕生日まであと五日。まだ浜田は気付かない。もしかしたら今月が自分の誕生日だなんて知らないんじゃないだろうか。余りにも間抜けだが、浜田ならありうることだ。

 授業中気持ちよさそうに寝ていた浜田を起こしに行く。結局何回先生に怒られても熟睡していた。がたがたと激しく揺さぶって起こすと、浜田のおでこにくっきりと跡が残っていた。

 赤くなっているそれは浜田がいままで熟睡していたことを見事に物語っている。泉は吹き出しそうになるのを堪えて、浜田に次の授業が移動教室だということを伝える。見ると田島はもう外で待っているし、三橋でさえ準備が終わったようだ。泉は慌てて教材を揃えると音楽室へと向かった。

 「俺歌って苦手なんだよね〜」
「なんで?楽しいじゃん!」

 田島の能天気な言葉に浜田がため息をつく。俺は浜田が歌を苦手とする理由を知っている。とても他愛のないことだ。それでもいまだに気にしているというのだから可哀想というしかない。

 浜田が歌うのを聞くことは嫌いじゃない。そこまでうまいとも言えないのだが何故か耳を傾けたくなるのだ。この頃は余り聞いていなかったから余計に良いように思い出される。今度カラオケにでも行って歌わせよう。浜田はそんな泉の企みなど知るはずもなく、田島に音痴疑惑をかけられ困っていた。

 「ちょっと泉何か言ってやってくれ」
「ほんとのことなんだし、いいんじゃね」
「いずみぃー」
「ほらねー!!」

 変な声出しやがって気持ち悪い。男らしさの欠片もないやつめ。もっとしゃっきりしたらどうなんだ。あと五日でこいつが急成長とか、ありえないよな。誕生日なんてそんなもんだ。ただ歳を取っただけで後は何も変わらない。

 それでもいい。俺たちはだんだん成長していく。いつか大人になるために。夢をかなえるために。だからいま、目標を探しているんだ。ふと、自分の目標の横に浜田がいることに気がついた。

 否定しようと首を振ってもそれは消えなかった。





 浜田が歌を苦手とする理由は、昔クラスで憧れてた女の子に「浜田君の歌い方ってヘン」って言われたからとかだといいと思います。別にその女の子は特に何も考えずに言ったのにいまだに浜田は気にしてるんだよ。

2006.12.14
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