▼オレンジ色の呪文
 いつもと同じ装いで始まる学校、ただ違うところが一つある。それは今日がハロウィンだってところ。朝から田島に熱烈アタックを受けて、いつもの倍は体力を消費している。あんなのによく毎日付き合ってられるよな、と花井に感心を抱きつつ、教室に入った。三橋がどもった口調でお決まりの台詞を口にしている。

 「と、トリック・オァ・・・トゥリィト!?」
「お前さもうちょっとすらすら言えないわけ?」

 なんだ阿部が居たのか。相変わらずきついな・・・って人のこと言えねーか。ほらよとお菓子を差し出す阿部と、阿部からお菓子を貰えた嬉しさでぱぁっとなっている三橋の横を通って自分の席まで行く。

 「い、泉くん、おはようっ。えっと、トリック・オァ・トゥリィト!?」
「おはよ。阿部もおはよ」
「おう」

 来た来た、お菓子が貰えるって張り切ってんな三橋、さっき田島にねだられたときに出したチョコレートを出す。スーパーなんかで売ってあるあの大きな袋に小さくて四角いチョコが沢山入ったやつだ。質より量ってことで、田島にもごそっとあげてきた。

 「三橋ー、手ぇ出せ」
「う、うん」

 ぐしゃっと鷲掴みにして取ったチョコをそのまま三橋の手の平に乗っけてやると、三橋は凄く嬉しそうに礼を言った。そんなに喜んでもらえるならもっといろんなの買ってくればよかったと泉は後悔した。だが昨日はそんな余裕が無かったのだ。部活が終わって帰ってきたと思えば明日は十月三十一日で、慌てて近所のスーパーまでお菓子を買いに行ったのだ。

 「おーい。阿部はいらねーのか」
「・・・もらっとく。Trick or treat.・・・一応言ったからな」

 俺が阿部に聞くと律儀にそう言ってチョコを取っていった。三つ、阿部らしい貰い方だ。多すぎも少なすぎもしない。もう周りにあげる奴がいなくなったので鞄の中にごそごそとチョコを押し込む。すると手に、こつんと何かが当たった。手探りで確かめるとそれは箱の形をしていた。

 「あれ?俺こんなん入れたっけ?」
「どーしたの?」

 うわっ。ビックリした・・・。いつのまにか横に浜田がいた。遅刻まで五分前のぎりぎりの時間だ。驚くとともにこの箱の正体を思い出した。この男のために買ったものだ。

 「浜田、遅ぇーよ。で、勿論お菓子は用意してあんだろうーな?」
「え、あ!うん、ちょっと待って。奥に入って・・・」

 浜田の言葉が途中で途切れる。目の前に置かれたオレンジ色のパッケージに気付いたらしい。浜田がこちらを見ているのに気付くと何故かそっちを向けなくなった。

 「そ、それお前食いたいって言ってただろ?だから買ってきたんだけど・・・」

そう、昨日チョコを買ったときにふと目に入った季節限定を謳うパッケージが、あいつが食べたいと言っていたお菓子だと気付いた。手作りにかなうなんて思ってないが、それでも少しは浜田のことを考えたと言うことを示したかった。我ながら子供っぽい自己顕示欲だと思ったが、自分の体は素直にそのお菓子を一つ掴むとレジへと向かっていた。
 家に帰って渡したときの浜田の反応を思い浮かべて、うきうきしながら鞄につめたのだがすっかり忘れていた。ちなみに俺の予想では十中八九浜田は狂喜して、キモい発言をする。

 「うっわ!やった!泉、もしかして覚えててくれた?すっげぇ嬉しい。一生食べないでとっとく!」
「・・・何言ってんだよ。バカか、お前・・・」

 恥ずかしい。昨日の予想と大差ないリアクションだったが、想像と実際に言われるのとは恥ずかしさの度合いが全然違う。

 「おっ。田島ー!これ泉がくれたんだぜー!いいだろー」

 バカ浜田・・・、そんなに嬉しそうに言われると殴れねぇじゃんよ。しょうがねーな、今日は許してやっか。ただし明日はいつも通りだかんな。

 俺は田島たちがいる方へ叫んだ。いつもと同じ日常に戻るために。

 「田島ー。戦利品見せろよ!」
「おう。これが花井で・・・これが・・・」

 Can I give happy Halloween for you?






 うわうわうわ。泉くんがおかしなことに!てか途中で微妙に書き方変わったの分かりますか?分かんないといいな。

2006.10.31
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