▼とある冷えた日に
 いかに東北より四国の方が暖かいとはいっても、この寒い中を上掛けだけで過ごすやからの気が知れぬ。長曾我部はもとよりその配下までも腹を出した格好で、見ているこちらの方が寒々しい。
 だがそんな格好をしているにもかかわらず、長曾我部等は笑いながら外で何かの組み立てをしている。

 我はその作業現場が丁度見える一室の窓辺にいた。外をずっと眺めていると我の視線に気付いた者が一人いる。ああ、またあの男だ。

 「元就。こっち来ねえのか」

 長曾我部がこちらを見上げて声をかける。莫迦だとしか思えぬ、なぜこんなにも寒い日に外に出ねばならぬのだ。

 「・・・我は行かぬ」

 そうか、と納得して長曾我部は作業に戻っていった。まるで何の会話もなかったかのように。


 自分が望んだことの筈だったのに何故かとても置いていかれたような気持ちになってしまった。我は何を考えているのだ、外に出ずとも長曾我部は見えるのだし、そもそも何故我は長曾我部を見ているのか。問答はとまることを知らない。我はそれを振り切るように、いま自分のいる部屋の探索を始めた。

 どうやらここは長曾我部の部屋らしい。書き損じの設計図や、飲みかけの茶、ありとあらゆる物が煩雑に、それでいて規則的に配置されている。部屋が汚いと落ち着かない我にとっては非常に居心地が悪い。
 長曾我部はこの様な部屋でよく作業が出来るな。妙な感心を抱きつつ歩き回っていると一つの設計図が目に入った。

 整っているような、崩れているような、どちらともいえぬ文字がぐねぐねと四角や三角の周りを囲んでいる長曾我部の字だと思うと不思議な感情が胸ではじけた。
 長曾我部はいつもこのようなものを考えているのだろうか。そこに我の入り込む隙間はないのかと思うと酷く寂しくなった。

 設計図の周りに丸めてある紙も広げて見る。雑多なことが書いてある紙が多い中でその中に数枚、誰かにあてた手紙があった。宛名は書いておらず、本文も途中でわっと消してある。
 我は少し笑いそうに、そして泣きそうになった。長曾我部に手紙を書こうとしてこんなことにしてしまうときが幾度かあったからだ。一体誰に宛てた物なのかと苛立ちを感じながら手紙の内容を読む。季節の挨拶から始まり、本題に入るとやがて長曾我部がこの手紙を宛てた人物が思い浮かんできた。これはもしや・・・。

 手紙を読んでいると誰かが廊下を通ってくる音がした。慌てて手紙を袂に隠すと、何食わぬ顔で窓辺に戻る。部屋に入ってきたのは長曾我部だった。かあっと熱くなる頬を冷えた手で冷やしながら、ぼんやりと長曾我部の挙動を見る。

 長曾我部はいまさっきまで我がみていた辺りをがさごそと何かを探している。我が加勢をしようと腰を上げると、どうやら見つかったらしい。設計図を嬉しそうに持っている。

 長曾我部は我の方に近付いてきてぐいと手を引っ張った。我は歯向かう暇もなく長曾我部に連れ出されていた。

 「元就。やっぱ一緒に行こうぜ」

 何と自分勝手なのだこの男は、我の都合など一つも聞かずに外へ連れて行くなど。まあ長曾我部の部屋にいようが外にいようが何もすることがないのは同じだが。

 「・・・、元就。顔赤いぞ。どうかしたか」
「黙れ。気にするでない」

 この男には我の入る隙間などたくさんあるらしい。寂しさなど感じるだけ無駄だというものだ。我が長曾我部のことを考えているくらいには、この男も我のことを考えているのに違いない。証だってきちんとあるのだ、間違いはない。袂の中の手紙に触れて、我は少し満ち足りた気分になった。





 証拠が欲しいナリさんと、何も知らないチカさん。元就はそういうのを求めそうだと思って。愛に飢えてるんです。チカは皆に愛されるし皆を愛してるから時々自分が特別じゃないんじゃないかと疑ってしまうんだ。誤解だけどね。
ちなみに一番きになるのはちょかべは冬の間もあの格好なんだろうかってこと。寒いよ・・・。

2006.12.06
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