▼隻眼ヤンキー冷凍オクラに出会う 2
姿形なら今さっきの男に似ていないともいえない男だった。どうみても真面目とか地味とかいう感想は持てない格好をしている。だが雰囲気の点で行くとどちらかといえば元就に近い感じを受けた。酷く冷たい雰囲気を、細い針のような、をまとっているのだ。男は元就の視線に気付くと驚いた顔をした。入ってきたときよりも少し和らいだ顔をした。
「Excuse me.ここに左目に眼帯をした男がこなかっじゃなくて、きませんでしたか?」
言葉の途中で元就のネクタイの色が上級生のものであると気付くと、さらりと敬語を使い直す。先程の男よりずっと分別を弁えているようだ。
男のことをばらしてしまおうか、ふと元就は考えた。それもいいかもしれない。非礼を詫びぬ者は嫌いだ。だが元就が口にした言葉はその考えとは正反対に位置していた。
「そんな者は来ておらぬ、他をあたれ」
侵入者はその言葉に心からは納得していないようだったが、頷き礼を言って去った。やはり先の男より格段に良い男だ。
「ありがとな」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、いつの間にか隙間からあの男が出てきていた。男は元就を見てふわっと微笑む。
「ふん、礼など要らぬ」
そう、礼など要らぬのだ、我が我の口が勝手にしたことなのだから。男は元就の隣に立ち碁盤を見ている。
「・・・お前、碁初心者なのか?」
何を聞くかと思えばそんなこと。確かに元就は碁よりも将棋のほうが得意だ。だからこそ苦手な碁を上達しようと練習していたのだ。だがしかし、傍目で分かるほど下手な腕前ではないはずだ。
「俺も碁、始めたばっかなんだ。こんどやろうぜ」
そう誘う男を複雑な目で見ていた。油断できないと思うのは疑いすぎなのだろうか、この男は本質が掴めない。
「あ!そういえば自己紹介してねぇや。俺、長曾我部元親。一年二組。今さっき入ってきた男は同じ中学校だった伊達政宗。ちょっと揉めちまってな・・・」
男はいまさらながら自己紹介をする。・・・何なのだこいつは。だが名乗られて名乗り返さないようでは、品位が下がる。そんなことはしたくなかった。
「毛利元就。二年三組だ」
元就がそういうと元親はあからさまに驚いた顔をする。
「え、俺オクラさんは同い年だと思ってた」
案の定勘違いされていた。もはや腹も立たない。勝手に驚いていろと放っておくと、元親が目の前に居た。
「悪ぃ、じゃなくてすいませんでした、先輩だなんて気付かなくて」
すいませんじゃなくてすみませんだろうと心の中で思ったが、正直この男にこんなことができるとは思ってなかったので見直した。
「気にするな。許す」
元就は自分なりに努力して精一杯笑顔を作った。たぶん相当ぎこちないものだっただろう。だが気持ちは元親に伝わったようだ。心なしか元親の顔が上気して見えるが元からそんな顔だったと思いなおした。
キーンコーンカーンコーン。六時のチャイムがなった。部活生でないものは帰らないとならないのだ。無論一年の元親はまだ部活に入れないので規則に従がって下校だ。
「じゃあな!」
もう敬語を忘れている元親に元就はなぜか不快感を感じなかった。面白い男だ、と今日二度目の感想を抱いた。元就の退屈は何処かへ消えた。