▼隻眼ヤンキー冷凍オクラに出会う 5
元就は久々の休日を自分の部屋で過ごしていた。補習などはないのだが生徒会の仕事が忙しく休日も学校に通う日々が続いていたのだ。今日の目標を終わらせてしまった元就は、この頃放ったらかしにしていた部屋の整理をしようと思い机から離れた。

 元就の部屋は全く散らかっていない、それどころかもっと物を置いた方がいいのではないかと思えるほどだ。それでも完璧主義者である元就から見たらまだ至らぬところがあるらしい。

 まず箪笥に近寄ると服の処分を始めた。めったに私服を着ないからかあまり数はない。その中でもう着れない物や趣味に合わないものは退けていく。元就は兄が買ってきたフリルの付いた悪趣味なシャツと袖の短くなってしまった黒の長袖を外に出した。

 次は押入れだ。寝る時にだけ出す布団と季節ではない服を入れておくために使われているそこから、面倒臭くて処分を遅らせていた学園での工作物を出す。もっと奥を見ると分厚いアルバムが置いてあった。それまであまり押し入れの奥など覗かなかったからだろう、そのアルバムは元就に存在を知られていなかった。

 アルバムを叩くと置いてあった年月を表すかのようにぼふぼふと埃が出てきた。誰のアルバムだろうとめくってみると、目つきの悪い子供が写った写真が沢山貼られていた。後ろの方をよく見るとこの家のようだ、兄か自分かのどちらかだろうと思い頁をめくっていく。

 写真の中の子供が六歳になったぐらいのところで見覚えのある少女が写っていた。少女の写った写真は一枚だけで、しかも少年の方にピントを合わせていたらしくぼんやりとしか写っていない。そこでその少年が自分だったのだと元就は悟った。

 写真に写っている少女は笑っている、はっきりとした表情は見えないのだが元就のほうを見ていた。対する元就はというとどこか苦い表情で少女と反対の方向を見ている。変わっていないな、元就は苦笑する。

 昔のことなのでよく分からないが多分元就はこの少女のことが好きだったのだ。同年代の子供と遊ぶには大人びすぎていた元就はいつも一人で居ることが多かった。少女はそんな元就に毎日近寄ってきては遊ぼうと誘ってきたのだ。どんな人間を見ても敵だとしか思えなかった元就もこの少女だけは信じられた。そのような存在は後にも先にもこの少女だけではないかと思う。

 元就はアルバムから少女の写真を丁寧に剥がすと、鋏で写真を半分に切る。そして少女の方だけを生徒手帳に入れた。オクラのブローチもそこに入れてあった。最近風紀の乱れが目立つということで服装検査が頻繁にあっているので仕舞っていたほうがいいと判断したのだ。

 元就はアルバムを本棚に片付ける。教科書や辞書しか置かれていない本棚で一つだけ色を放っている。元就はむず痒いような気持ちになった。自分が少女の写真をいつも持ち歩いていたいなどという女々しい感情を抱くとは知らなかった。そういえばオクラのブローチにしてもそうだ。何故あんなブローチを毎日つけていたのかが分からない。

 元就はブローチを見ていてふと元親のことを思いだした。先日の廊下での態度は流石の元親でも頭にきているだろう。その証拠にここ一週間囲碁将棋部に訪れていない。

 あの時の元就はどうかしていたのだ。その前元親にとった行動の意味を考えていると腹立たしいような、それでいて幸せな気持ちになってしまった。元就は本能的にその感情を押し止めていたのだが、あの男の顔を見ただけで甦ってきたのだ。

 だから逃げたのか?元就は自問する。そんなに弱い人間だったのか?元就の冷静な部分がぐさぐさと曖昧な部分を刺してくる。元就は椅子に腰掛ける。あの男のことを考えるといつも疲れてしまう。元就はいまさらながら後悔していた、あの男に出会わなければ良かったのにと。

 元就は手帳の中で笑っている少女を見つめながら、明日こそ元親に謝罪をせねばと思った。筋を通さないのは元就の主義ではない。こちらに非があるのならば年下であろうと頭を下げるのが常識だ。だがとてつもなく気が重くなるのを絵空事だとは思えなかった。

 あの男はどうしてこうも元就を乱すのだろうか、そしてどうして元就はあの男に乱されるのだろうか。元就は日が暮れるまでそのことを考えていた。





 四話目終了です。さて半分が終わったところで、ちゃんと七話で終わるのか不安になってきた。てか松姫楽しいな・・・。いや就→姫かな、過去に思いを馳せるんだよ。(って姫の意味が分からない方にはなんのこっちゃって話ですね。すみません!)そして今回元親出番無し・・・。え?これチカナリじゃなかったけ?というような展開。次は元親目線なんで!元就出てこないんで!それでおあいこにして下さい・・・。

2006.11.12
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