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VII 競争

休日出勤 彼女に会えないと思ったら今日も彼女が乗り込んできた 何故なの?
電車に揺られている彼女は終始無言だった
いつもの駅、雑踏、本当なら今の通勤時間は人が溢れ返っているはず
会社とアパートの往復の中で、変化の無い毎日が続く・・
今日は居る 今日は見当たらない 今日は・・ 何時からだろうか、彼女の存在に気がついたのは!?
最後尾の車両、後ろから数えて参列目のシートに腰を掛けている
何を見ているのだろうか
俯(うつむ)いた侭、顔を上げ様ともしないで気怠い症状が、余計に気がかりにさせるのだ

あぁーッ! 自己鬱だなぁ 俺は一体何をやっているのだろう・・
毎日会社で怒られる事も、電車で彼女の姿を見掛けるだけで、気持ちが晴れるというか、嫌な事も忘れるのだ
でも、彼女の姿を見つける事が出来ない時は・・ 最悪だ 四百四病だと分かっちゃいるんだが溜息ばかり・・
自分の為体(ていたらく)を棚に上げて、会社の非難も上司の批判も出来る筈もあろうか
努力を怠る人間に、人並みの時間と給与を会社は宛ってくれる訳が無い!
今の会社が嫌いになった訳では無いけれど、目標となるものが見当たらない
売り上げ目標は当然有るし、変な話だが人を出し抜く事で一部だがポストは用意されている
会社に入社してからは、出世の道を考えるのは男として当然の様に思っていた
地位と名誉、会社が大きければ大きい程、自分の価値も上がるのは当然の様に思っていたのだが、今は違う
残念ながら自分はこの会社の中で敗北者である
新入社員の中で、また新規雇用枠を広げた中途採用者の中で、競争に敗れたのである
会社は信用が第一になる 社員の適当は会社の適当だよね 会社に居る間は会社が100%で有って、自分の生活は100%では無いんだよ 無論ワーカホリック(workaholic)に成れっう事では無いけどね 息抜きも必要だしね
銀行でも、出版社でも、工務店だって、町工場だって何処の企業でも、納期から始まって金銭の授受まで、
間違いは望ましくない 当たり前の事である
でも、会社が大きくなって信用が出てきた頃に、株式会社となれば決算書を株主に提出しなければならない 無論、株主だけではないがまず、株式会社とは多額の資金調達を行う際に発行するものが株式であり、
集めたお金を資本金として生産・販売・サービスに役立てるのである
しかし、景気動向・金利水準・内外の政治、社会状況等の外部要因や、株式の需給関係・機関投資家の動向・
信用取引の売買状況等の内部要因、または新技術・新製品の開発動向等に因って株価は変動する
早い話が自分は信用を繋ぎ止めておく為に、粉飾決算を提案してしまったのである 夜遅くまでの残業・・!
決算報告書は学校の通知表みたいなものなので、出来れば親に良い面だけを見せたい 努力が足りないから数字が付いて来ないのだ でも頑張った 結果が全てだから株主様にはお詫びをしなければならない 会社が株主に還元するものに配当金が有る でも今会社は配当金を支払い、更に税金を取られる二重課税なのである
まぁそのくらいなら、自社株を買い戻して内部保留にすれば流通量が減るので(使わず企業内キャッシュとする)
一株辺りの株価上昇に結びつく筈(株価は将来のキャッシュ・フローの額で決まる Irrelevance Theory理論)
経営陣が会社の利益に損害を与える事を認識した上で、役員達の利益の為の役員賞与とか配当金を違法に払ったりした場合は当然背任罪が適用されるのだが、場合によっては特別背任罪と罰則が強化されるかもしれないね
大体株価なんっうものは、時にいい加減に動く場合も有るのに・・!
有名なケインズの株式市場の予測なんだけど、美人投票を例にとって説明しているのが有る
ケインズの想定する美人投票とは、美人投票に参加した人の内で、美人に選ばれた人を選んだ参加者(此処が大事!)には賞金を与えると云うものであるのだが、この場合参加者は、ホンとの美人に対してではなく、投票者の内で最も多くの人達が美人であると思う人に投票する事となる訳なのだ
他の投資家の行動によって、非合理的な場合もある訳だしお互いの予想連鎖に因って、本来の水準を超えた場合も、他の投資家が株価上昇或いは下落を予想する限り長期理論値から、懸け離れる場合もあると云う様な事を書いていたと思う
情報の非対称性(Asymmetric Information)と云う意味でも、資金の貸し手と借り手の情報格差の違いが結果として(劣悪な借り手に因って)貸し倒れが発生して、貸し手の損失増大=金利水準上昇=危険度合い小さく低金利を求める良質な借り手の減=金融市場縮小・崩壊と繋がって行くのである 負のスパイラルだよな
まぁ、そこで非対称性緩和が証券市場なのだけど、格付け機関の評価・財務内容の公開等を基に、債券や株式等証券の発行・流通条件が決定されるのだが、銀行等の金融仲介機関に因っても投資プロジェクトの収益性・進行状態等を監視して、適切な経営努力をする様に注意喚起させなければ駄目なんだよ
しかし、保有資産の多様化ないし分散投資はリスク負担の軽減も出来る筈なのだが、金融資産の中には期待収益率の分散がゼロの安全資産と、収益が不安定な(収益の分散がゼロではない)危険資産とに分かれるのである
尚、決済勘定資産(現金・要求払預金・定期或いは定額預貯金)は全て安全資産とされているが、投資勘定資産(借入証書・既発の公社債・銀行引受手形・外貨預金・証券投資信託等)は危険資産だな
残念ながらゼロの安全資産(インフレの目減り別にすれば元本が保証されている)に較べて、危険資産は期待収益率(リスク・プレミアム)が高いので、資産の期待収益率の加重平均となるものの相関度(共分散)は、正の場合も負の場合も存在してしまう 銀行間に於いても、都市銀行は恒常的に与信(貸し出し)超過の状態が続いていたが更に、業務の多様化(多角化)に因って利益獲得へと動いていったのは当然だよね
各種金融取引の斡旋・仲介活動(スワップ・証券・M&A等)に伴う手数料の獲得、マネーマーケットにおける運用(資金ディーリング)・為替・債券の売買等、多様化の利益は結果として本業である預金貸出業務の利益を低下させる事となってしまうのだが、好調な時は全て安全・安心に見えて心の隙間が判断基準を曇らせるのである
そして情報の公開制さえも結果として片隅に追いやるのだが、片隅に追いやられた自己規律の確立が火種として燻り続け、表面化した時は誰かに責任を負わせなければ為らない事も、大きな企業の中では当たり前の事なんたな 銀行マンでも証券マンでも、また一企業人で有ったとしても、お互いは人間なのだから企業を越えて本音で語り合いたい処だが、変にプライドが高い職業なので偶に遭った時などはお互いが気を抜かない様にして、騙し騙されるのが通例である 見栄と外聞が全てでは無いのだが、心が病んでいる仕事かもしれない・・!?