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XLIII あとがき

この作品は先回書いたノンフィクション小説 「令子」(ISBN4-925047-71-X) から令子が健常者で頼もしく、其れでいて優秀な一方的な思いの丈を勝手に作り上げたフィクションです 実際の人物や設定は架空の物ですので御了承ください 
中国に関しての記述は、参考文献に有る中国ビジネス成功の秘訣を特に参考としましたが、敬意を込めて著者の苗字を文中で活用させて頂きました 尚「令子」に関して巻末に掲載出来なかった私個人の妻に対しての手紙を、この場を借りて書き加える事をお許しください

   
令子へ
寒い日は嫌いだ お前の具合が悪くなっていくんだもの 病院の中は暖かいのに、何で分かるのかな?
ずっうと天井を見ているお前の目が、俺を見てくれなくて悲しかったよ
少しでも長く生きてくれると信じていた人工呼吸器は、今でも良かったのか悪かったのか悩んでいます
だって嫌がったじゃないか でも最後まで直る事をお互いに信じていたのに、最後まで諦めなかったのに、あの時
俺が手を離してしまった、たった数分の間に逝っちゃうのはひどいよ
会社から病院に着いた時に血圧が50から60ぐらいでしたね
朝からずぅーと手を握っていたのに、夜の十一時頃だったかな うとうとする俺の周りで看護婦さんも気を掛けてくれてさ 朝の四時頃に血圧が13から15くらいまでで、それ以上下がらなくなって俺は最後まで信じていたんだよ
ずぅーと ずぅーと もう少し経ったら良くなるから、もう少し過ぎたら先生も来てくれる

二人で居ても好きとか嫌いとか言わなかったけど、だって普通男は黙って女を守るものだし、信じる事が正義だと思っていたし、言葉にして伝えなくたって分かるだろ・・? 怖くないよ 俺の腕の中へおいで 抱きしめてあげる 知人に「何故 指輪をしているの?」と聞かれたんだよね 何故って、俺がヨボヨボのシワクチャの顔になってお前の所へ逝った時に誰だか分からなかったら困っちゃうもんね 好きになる人は多いけど愛する人は一生涯に何人居るのだろうか 多分一人か二人だと思うよ 一緒に旅発つ事が無かったから指輪は目印なんだな 傷だらけだよ

パンジーの花が咲いている お前が「可愛いね」と声を掛ける 今は、お前の姿が無いので寂しい お前の声が聞きたいよ 何をするのにも、お前が居たから俺も頑張った 励みになった 何時も仔犬の様に纏わり付くお前も喧しく思った事も有ったけど、お前のおっとりとした行動とチョッとだけ甲高い声が懐かしい 俺が先に死んだら生きていけないと泣いていた お前が先に死んじゃって、毎日目的も無く惰性で生きています お前の声が聞きたいよ 逢いたいよ 辛い事も、逢いたい気持も俺一人のものだよね でもね寂しいよ 写真の中のお前の笑顔が辛いけど、でもね話を聞いておくれよ 泣いたらイケナイと思うけれどね いい年扱いたオジサンの哀しみは、表面張力のコップの水ですよ 悲しみは俺だけのモノなんだけどね 独りは寂しいよ 幽霊でも良いから逢いに来ておくれ  会いたい 会いたい 声が聞きたい 話がしたい 令子 お前じゃなければ駄目なんだよ 悲しくて、辛くて、毎日が寒い 凍えそうだよ 取り残されたみたいだ 独りぼっちの時間がつらい 話をするお前が居ないから部屋が静かだよ 無機質の家具は冷たい おまえが居ればテーブルの上に小瓶に入った花があって、一緒に御飯を食べてお茶を飲んで、一緒にテレビを観て、一緒に笑って楽しい時間が在ったのに、今は何も残っていません 白い時間だけ 移り変わる季節も自分の周りだけを通り過ぎてゆく 

今お前の声のしない寂しい部屋で、独り寂しく手紙を書いています 朝起きたらいつもの様に「おはよぅ!」と声を掛けてくれると思いながら今夜も床に着きます 今は寂しいけれど、この次に逢う時も笑って逢いたいな 人生最良の時を一緒に過ごす事が出来た事を感謝します どんなに姿が変わっても、歳月が流れても一生で一番大切な女性は令子、お前だけです 
妻である令子へ 今だったら言葉にして言える・・  “愛している“ と

                                                     秋山真人

2003年 8月15日 自宅にて