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木漏れ日から見え隠れする月の光は何故か寂しい 踏みしめる落ち葉 時折足が滑る 
どんどん登る 時折木々の枝葉が顔を刺す 茂みの少無い道を踏みしめる 
通い慣れた道が今日は遠く感ずるのは昨日の一言「人じゃ無いかも・・」

「逢いたかった」「俺も・・」
「これ食べて」一口サイズだが握りたての餅 「美味いよ」
お互いに手を握りしめ身詰合いそして抱擁 胸が高鳴る 誰かに見られていないのか一瞬気になる そんな気持ちが伝播してパッと離れる 
「また来るね」少女は後ろ髪を引かれる思いで来た道を急ぐ
少女が通い続ける山の道 連なる稜線への道 途中の蟻の門渡りさえ注意すればやっとやっとだが通い続けられる 山の向こうには彼が居る 

「おこう 水は汲んできたのか?」「ああ 二斗程」
「あしたは薪を取りに行ってくるからな 遅くなっても心配すんな」

あの尾根を三つ超えればあの人が待っている 逸る気持ちを抑えられない 
途中の難所 蟻の門渡りも怖くない 
「あれ? 源吉さん」「えっ!?」




「左舷に敵機!!」「負傷兵の介護を!! 介護班は、まだかー!!」「隔壁損壊! 一部浸水!!」「上空より敵機」



「あの人を許せば私の心は解放されるのかしら・・」「何もいらない 抱きしめて欲しい」「あの人はもういない」「この闇の向こうに居るのなら一歩踏み出せば会える 波の音が心地良い あっちの世界は寒いかな」「温めてあげるからね・・」




貧しさとは何なのか 貧しくとも清貧 お金が無いから貧しいのか 他人様と比較するから貧しいのではないのか 子供が子供を負ぶって子守をする 膝小僧にアップリケが有ったら可愛いのではないのか 時代が流れる 昔の生活は、高度成長期は、江戸時代は、更に更に大昔は、人が何かにつけて差をつけるのは欲望があり人様に自分を見て貰いたいからなのだ 無視されたら、存在理由を否定されたら心折れ涙する 誰とも関わらず山に住み、孤島に住み、関与せず関与されず末期を迎えるのも精神世界 誰かの為に生きる 誰かの為に死ぬ 誰かの為に盾になる 





暗闇の世界 梟が鳴いている 何処で迷子になったのかな 月明かりの中で周囲を見回すと大きな椚の下で眼が覚めた 「此処は何処だろう・・!?」 月明かりに眼が慣れて暗闇を注視すると何か居る 「ウゥーッ バゥ・バゥッ」俺に向って吼えるのは野良犬だろうか  暗闇の中で蠢くモノは一匹だけでは無い様だ 眼を凝らしてみると野良犬が四頭から五頭ぐらいだろうか、俺じゃあない別のモノを取り囲んでいる こんな時に野良犬に襲われたらひとたまりも無いのだから桑原桑原、逃げるが勝ちさ しかし街の明かりが見えない夜、夜中の状況で一体如何すれば良いのだろう 「ぎゃん!!」 野良犬の悲鳴が一瞬聞こえた 

「スズナ!! コッチだ 飛べ!」 暗闇の中から二人飛び出してきた 俺の脇をすり抜けて別の木立の中に消えていった 大きな野良犬が続けて飛び出してきたのだが、直ぐに後を追うのを辞めた 野良犬の標的は俺に定められた様だ 「おいおい 真夜中の山中で野良犬の餌食かよ あぁ俺の人生もツイテいないなぁ」 黙って食われるわけにはいかない 仕方ない適当な棒切れでも有れば良いのだが、悠長な時間は無いようだ しかし野良犬は暫くすると先程の暗闇の中に消えて行ったのだ 

何が何だか分からない中で、俺は取り敢えず野良犬の来ない安全な場所を探す事にした 何だか身体が軽い 足が地に付いて居ないようだ 不思議な感覚 先程の二人は何だったのだろう 身のこなしが軽いサーカス団の曲芸士みたいだったが、何故に山の中に、それもこんな時間帯・・っうか、今は何時なんだろうか 時計を見たものの時間が止まったままだ 「あれ!? 何だか俺の身体がオカシイぞ」

「スズナは注意が足りないんだよ 笠間の奴らだったら死んでたぞ」
「だって撫子が水を汲みに行ったまま消えちゃうんだもん」
「だからって月光浴なんかしているなよ!!」
「お前達の喧嘩はイイから、明日はドクダミの根と桑の実を調達しておいで。母衣(ホロ)はナズナと一緒に、来月から里に降りるから後はホトケ頼んだよ」
「分かった 何か有ったら呼び出してね」

「しっ 誰かいる・・」

「何の臭いだろう!? 堆肥の臭いだろうか・・」
草露の甘い香りと樹々の青い香り 道に沿ってどれくらい歩いただろうか
月明かりに照らされたお地蔵様 「ん!? 川のせせらぎ・・?」「喉が渇いたな」
川の流れはこっち方向 っう事は川下に行けば民家があるかもしれん
青木ヶ原の樹海じゃないが、警察官は四人一組でお互いにロープを結び合った状態で、道路から樹海の奥に進むらしい 殆どが道路から200から数百メートルの地点で遺体となって見つかるらしいが、道路も登っているのか下っているのか感覚が不明だ

薄暗い中で朧気乍ら民家が見えた 「助かった・・ 少し休みたい」声を掛けるのは躊躇うものの行方不明の俺の心を聞いて欲しい 都会の深夜なら寝てもいまいが、真夜中山中見知らぬ馬の骨が突然ドアを叩けば、、待った無しで警察通報厳重注意 注意で済めば御の字で、不法侵入迷惑防止条例違反なんやかんやで逮捕も有得る 

コンコン 「深夜に申し訳ありません」コンコン 「人が住まぬ廃屋なのか・・? すみません」

誰も居ないのか返答がない 「すみません…」恐る恐る引き戸を開く
誰も居ない だが人が暮らしている形跡がある 月明かりも小窓から僅かに差し込む
少しずつだが目が慣れて更に辺りを見渡す 先程まで人が居たのか底冷え感が無い

「うっ・・」左足に激痛が走る 
足に目をやると血が滲んでいる 更に右腕に激痛が走る 
「んー なんだこりゃ」咄嗟に後ずさりし扉の外に出るが体が思うように動かない
危ない ここに居たら殺されるかもしれん 一瞬判断は逃げる事 
扉から、小屋から離れたものの意識が朦朧としている ヤバい 心臓が躍る
前のめりに倒れた 這い蹲って小屋から離れようとするものの意識が遠のく


「アレは何なのか・・!?」
「物の怪の類?」
「そもそも実体が無いではないか・・」
「だが存在は感ずる」

気が付くと鳥小屋に居た というか、若しかして牢屋? っうか、傷はどーなった!?
痛みは無いし傷跡も無い 

こんな小屋簡単に壊せるだろうが音がすれば見つかるかも知れん 何時頃だろうか 時計は・・ 10時過ぎか そー云えば時計止まっていたな 外の様子が知りたいが天窓?
ん!? 改めて周囲を見渡せば出入り口が無い・・!? 鳥小屋?  雑草? 何か臭い 鳥小屋じゃない 何だここは…?

「聞こえるかい!?」「誰だ」「おー 声は聞こえど姿は見えず」「助けてくれ」「わはは 面白いな」「なんか気持ち悪いよ」「おぃ 誰か そこにいるんだろ ここは ここは穴倉だ 出られない ロープか何か無いか!?」「ロープって何だ!?」「分からんが面白い んで不思議だ」「もういいよ でもホトケが喜ぶな 帰ろー」


何なんだ なんか良く分からん 分かっているのは逃げられない隔離された状況 周りにあるものは雑草 牛の餌? 喉が渇いた 腹も減った こんな雑草ベットにもならん しかしどーするか・・ 落ち着け落ち着け 取敢えず落ち着け 俺は何故ここにいるのだろう んー 今考えてもどーにもならん まず今生きているっうのは殺す気が無いから或いは興味を持たれたか、いつでも殺せるから役立つと思ったか、よー分からん 今現在持っているものは何だ ポケットの中を探す ごそごそ探しても出て来たのは右ポケットに部屋の鍵 左ポケットにハンカチとティッシュ 右後ろが財布 左後ろがiPhone携帯 後は胸ポケットにボールペン 後は・・ 腕時計だけ 武器になるものは無い 携帯は・・!? 使えないっうかアンテナが立っていないわ 穴の中じゃ電波の状態が悪いから仕方ないな 逃げても捕まるかも知れんが逃げる術が無い 周りの雑草に火を付けたら俺も火だるまだな ん? 何故酸欠にならんのだ それに何故か完全な暗さが無い 見上げた状態天井に四角い穴!? 完全に乾ききっていない半乾きの雑草 椎茸の原木でも置いといたら生えて来るんじゃねーの てか壁が何で光っているの? 近づいてみると苔みたいのが光っている 壁は・・竪穴式洞窟?? 壁には四角三角の文字が彫られている 何だろう 迷路でも刻んで遊んでいたのかな ん まてまて まずは相手の考え方行動言語を理解し話し合うべきが、相手に対する敬意だよな 相手に敬意をもって接すれば現状が変わるかも知れん いやいや一旦は見知らぬ俺を殺そうとしたわけだ 話してどーにかなる相手じゃなかろう しかし今は捕らえられて生きている 逃げて救助を待つ方が得策ではないのか・・? 周囲をあら捜ししながらいろいろな考えが頭に浮かぶ 小部屋!? 最初は鳥小屋かと思った鉄条網は鉄格子に変わり、土壁と思ったら岩肌に変わった どーなっているんだ 俺は夢を見ているんだ 多分こんなシリアスな夢を見ているけど、眼が覚めれば母ちゃんが朝飯を片付けながら言うんだよ 「もっと早く起きな みんな食べ終わったからおにぎりだけ持って行きな」って、ね 多分夢だわな だって俺何かに打たれて刺さって血が出たのに痛くないし傷も無い 夢だからコロコロ変わるんだよ 俺は分かっている だからこの壁を殴っても痛くない・・はず んー 壁か・・ んー 夢でも殴ると骨が折れちゃいそうだし・・ やめとくか しかし妙だな あっちの壁は濡れているのにこっちは乾いている 一つの同じ部屋なのに別の部屋 んー夢だから当然可笑しな事があるんだよな んー例えばこの壁を叩いたら別の部屋が現れたりとか・・ コンコン 


まぁそんな漫画や映画じゃあるまいし訳分らん事は有る筈無いわな しかし奇妙な部屋だな 竪穴式に掘ったとしても中の空間が約10畳っうか俺の部屋より広い・・ これは祭壇か何か? え!? 先程はこんなの無かったよな あれなんか変だな 部屋が広く感ずる ん〜いやいやそんな事は無い 先程と同じだ 一瞬の出来事 あれ!? 祭壇が無い 有るのは干し草・・ 何故ここには干し草が有るのだろう 良く見れば何種類もの草がある これはクヌギの樹皮だな 桑の根皮 ホウノキの樹皮 朝鮮五味子果実 升麻の根茎 高遠草 淫羊藿(カク) アケビの茎 オオツヅラフジ根茎 ドクダミ 細辛 芍薬根 牡丹の根皮 弟切草や虎耳草 ゲンノショウコや杏の種 当初は気付かなかったがこれらは全て漢方薬の材料 しかし現物を見るのは初めてだな