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XIX ステップ

彼女との八度目のデートでホテルに誘った・・
彼女も二十八歳と大人である 女も三十歳前後と成れば、子供の付き合いでは無い
「whether it is able to be together until morning today?」(今日は朝まで一緒に居られるのかな?)
「Obtaining it is !?  It is so. Please wait a little bit.」(えっ!? そうだね。ちょっと待ってくださいね。)
「Reserving hotel it exists」(ホテルを予約して有るんだ)
「After it does communication to mother」(母親に連絡をしてから・・)
彼女との中で、照れ隠しに為りえる部分は英語で会話をする様になった 格好つけてるが、恥ずかしかったりする でも、何と無く外国語だと他人になれると云うか、現実逃避出来るのである 基本的に小心者なのだろう・・

スカイラウンジの名前は “SAIGNANT・DEGLACER” なのだがフランス料理の用語を意味する
「 “セニャンは料理人の解釈で多少の違いは有るものの、肉の焼き加減で所謂レアーからミディアムレアー程度の状態の事・デグラッセは、肉・魚などを調理した後の鍋やフライパンに液体を入れて、鍋底にこびり付いた煮汁や焼き汁を煮溶かす事である” つまりは互いの関係を、加減を見ながら調理する場所でも在るのだ 」
(料理の関係は男と女なんだよなー 入れたら味わいが生まれるんだよ)
「イギリス料理に較べてフランス料理は、ソース本位なので材料を何でも油で炒めてしまう中国料理に近いかも知れないし、逆にイギリス料理の方がイギリス独特の食材を活かす為に日本料理に近いものがあるだろうと思われる とは言え、フランス料理を作るに当たって料理人は、動作はゆっくりでも一瞬の間に素材の特性を効果的に引き出すべきかを考え、思慮深いものなのである」(深くて浅いんだよ 快楽だからねー) 「しかし食べ慣れてくると、何故伝統的なフランス料理は沢山のピュレや柔らかい食べ物が、或いは煮込み過ぎた肉が有るのかな 現在の料理はキュイジーヌ・アクテュエルだけど、祖父の時代は皆が若くして老人の様な状態で、歯が悪かったり歯が無かったりしたからなんだよ」(マンネリは駄目だよー 若い時は我武者羅だけどね)

早口で色々な事を捲くし立てる自分とは対照的に、彼女はノンビリと会話を楽しむ

「噛む事が出来ない人達の為の料理だったの!? キュイジーヌ・アクテュエルに望まれるのは、細部への注意、料理に関しての聊かの素養、忍耐力、清潔さと順序だった仕事の進め方、そして上質の材料で、素材の旨みと、味と香りを見出せる料理を提供する事なのね」
「レストランでは、メニューと言うのは一つの拘束なんだよね、其の日良い材料が手に入らなくても、料理を作る気分で無くてもメニューに掲載されていれば、お客様に提供しなければならないし、美味しい料理は楽しい時間を共有する事だからね 飾り気の無い暖かさや自然な振る舞いがそうだけど、多くの場合が楽しい食事を経験した遥か後に、其の食事が素晴らしく有意義だった事に気が付くものだったりして・・!」 と、話をしながら彼女をチラッと見た

さぁ常套句のオンパレードだぞ みんな聞いて! 聞いて!! フランス料理フルコースの献立は料理の提供順序が細かく取り決めているけど(ディナー)、本来正式のフルコースはオードブル、スープ、ポワソン(魚料理)、アントレ(肉料理)とサラダ、ソルベ(シャーベット)、ロティ(ロースト、肉の蒸し焼き料理)、アントルメ(デザート)、チーズ、果物、コーヒーの順で、アントレが主菜ですよね 一般のフルコースの場合はアントレとロティのどちらかを省略する事が多いし、この時にはソルベをポワソンの次に提供する場合も有るんだけど、簡単なコースでは魚料理か肉料理のどちらか一品だけを主菜にする場合もある
(美味しい 美味しい・・ 楽しい 楽しい・・ 選ぶ事も優越感なんだよ ドキドキ感も嬉しく感じるんだな)
 オードブルは前菜です(食欲を増進させるための軽い料理) キャビアなどのカナッペ、カーキのカクテル、魚の酢漬けなどの冷製とコキール(グラタンの一種)、串焼き等 スープは澄んだスープのコンソメと、濃度のあるポタージュ・リエの二つですね ソルベは口直しの為 フランス人にはチーズはデザートで有り欠かせないメニューなんだよな 各地の豊富なチーズから3〜4種類選び、適度の熟成のものを楽しむのが良いと思う
(こってりした物が良いのは嗜好にも選るけどね サッパリした食材本来の味を引き出す事が日本食かな)
これらの料理をさらに楽しむために食前酒(アペリティフ)や食後酒(ディジェスティフ)が供され、食前酒にはシェリー、ベルモット、マデイラなど、食後酒にはブランデー、ウィスキー、リキュールなどを用いています おめでたい席でスパークリングワインを飲むが、スパークリングワインの製法は二つに大別され、一方は普通のワインをビンに詰めた後、其処に酵母と糖分を加えて二次発酵させるか、密閉タンク内で発行させる方式で、前者の代表がシャンパンで有り後者の代表が、アスティ・スプマンテなのだ 葡萄の香りを大事にしたいなら後者の方が理想的らしい・・ ハァー 疲れた 料理は苦手だ でもね今日はノリノリ!? チョッとだけ贅沢を チョッとだけ優雅に チョッとだけ甘い世界を 二人の世界に踏み込めるのか否か・・だな

「今日の料理は鴨のフレッシュ・フォワグラのテリーヌと鶏肉のクラポディーヌ炭火焼マスタード添えとラタトゥイユ、それと新鮮なハーブのサラダ、フランボワーズの小グラタンですよ 最初はアルザス地方の白ワイン、ゲヴュルツトラミネールで始めて、鶏肉と一緒にボジョレーを楽しみ最後は二人の為にピンクのシャンパーニュで締めくくりましょう でも、食事の後でナイトラウンジでのカクテルも有りかな・・!?」 と、彼女に目線を送ると彼女は軽くうつむいた表情を見せた
 
「ソーテルヌも良いが、ゲヴュルツトラミネールも遅摘みも中々良いかもしれないね」
「このフォワグラは絹の様に滑らかで、口の中でビロードに似た感触があるわ」
「最上級の鴨のフォワグラと同時に、苦味が感じられないので仕事が丁寧なのだろうね」
「この鶏肉は、皮はカリッと香ばしく焼け、肉はシットリと柔らかいよ」
「何故クラポディーヌと言うのか知っているかい? 鳥を半分に割り、平たく押し潰した形がヒキガエル(クラポー)に似てるからなんだって!」
「マスタードを塗る代わりに、ハーブとパルメザンチーズ、バターを混ぜた物をまぶしてオーブンで焼き上げても美味しいよね」
「いやいや、オリーブ油とニンニク、レモン汁、ハーブを混ぜた中にマリネして、フルーティーな若い赤ワインも捨て難いわ」
「このラタトゥイユも些細な事までに注意を払って作られているね!?」
「新鮮なサラダは色々なハーブが入っているのね セルフィユ、セージ、エストラゴン、ディル、バジリコ、チコリ、トレヴィーズ、タンポポ・・」
「グラタンの表面は熱くて、冷たく甘いフランボワーズのコントラストが絶妙だね」