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XXXVIII 破壊

卓(ツォー)朋子は京子の母親でした 会社で働いている時から風邪の症状が続いていたけれど、流石に血痰が出た時に慌てて病院へ来て診察後直ぐ入院だったのです 入院先の病院で朋子さんの話を訊いた時は唖然としたのですが、京子の母親もともすれば義理の母親に成る訳ですから家族同様です 結果は悲しいかな 京子は癌に侵されていました 京子は母親にも俺にも心配を掛けるまいと思ったのか、以前から自覚症状が有っても我慢していた様です 現在の多くの癌細胞は第17番染色体に存在するP53遺伝子が関連付けられているそうだが、 B型肝炎とか煙草・紫外線が原因とされる癌細胞はP53遺伝子異常なのだ 当然だが、正常なP53遺伝子を特定ウィルスに組み込み癌細胞に注射をするとP53たんぱく質が生産され癌細胞は抑制される 塩基配列異常が早期に発見されれば、更に素早い適切な処置が可能であれば助かったでしょうね 日本では薬剤も対処方も直ぐには認可されません 全て海外の処置方が望ましい訳では無いですし、新医薬品の承認審査にも時間が掛る事は認めます 理化学試験及び動物試験による前臨床試験から始まって、第一相臨床試験で少数の健康な人間を対象として安全性を、第二相臨床試験で少数の病人を対象に有効性と用法・用量をチェック、更に第三臨床試験で多数の病人を対象として薬剤の効果とか副作用をチェックし更に既存の薬剤との比較試験・・新薬の承認まで幾重にも規制・再審査が必要だし、承認された薬剤でも新たな適応を受ける為に・・云々 長いよ 少し長過ぎると思う 日本で認可されない薬は不安な面は有ると思います でも癌に侵されたら助からないと思った方が良いと自分は思います 余程早期発見で有れば好いけど、乳がんや舌癌が「しこり」を触れて解かるか或いは、肺がんで影が映る様になるまでは、癌の病巣がおよそ1p以上まで育っているのだ 直径1cmの癌細胞は、最初の一個の癌細胞がたった30回分裂を繰り返しただけで、約10億個まで増殖するのである 食欲不振・貧血・発熱・倦怠感・体重の減少などの癌の初発症状も、診断可能な大きさの癌が見付かった時は、供に進行が進んでいるのである 癌患者になる前に正常な状態の自分の骨髄から骨髄細胞を採取し冷凍保存して置いて、癌治療を受けて治療の一段階終了後に、保存骨髄細胞を体内に取り込む事によって骨髄や免疫力の回復させる方法も有ったらしいのだが、まさか自分が癌になるだろうと思って自家骨髄移植をする人は少ないでしょう 別の治療方法としてはガン細胞の近くに微粒子の鉄粉を集めて電波を照射して熱によって焼き壊す方法もありますが、今はまだ実験段階です 集団検診も受ける事が少ないでしょうが、結局は通常の生活から自己防衛を心掛けるしかなかったのかも知れませんね
癌の死因に寄与する割合は、食生活が35%・喫煙が30%・職業が4%・飲酒が3%・自然環境が3%・環境汚染が2%で、残りの23%は生活環境によって変化すると思われるが、食事の際の過食や逆に低栄養食品摂取・食塩や脂肪分の取り過ぎは癌に掛かり易く、ビタミンA・C・E・βカロチン・セレン抗酸化剤などは癌の発生を抑制するらしい 喫煙については言わずもがな・・ 肺がん・口腔癌・食道がん・膀胱がん・咽頭癌・腎癌などの発生頻度が高い事や、心臓と呼吸器系疾患の要因でもあるからね でもね 原因が不明の場合も有るんだよ 判らないだけかな

「卓さんの家族の方ですか!?」
「えぇ そうです 京子の状態は如何なのでしょう?」
「失礼ですが京子さんのお父様でしょうか・・!?」
京子は肺癌に侵されていました ウィルス性の肺癌で今までに存在しないタイプの病気でした 京子自身は煙草を吸いませんが母親の朋子さんは喫煙者でした 喫煙量が増えれば肺癌の罹患率が増加しますし、喫煙期間が長ければ長いほど肺癌に掛かり易くなりますね 京子は母親の受動喫煙の被害者だったのでしょうか? 母親を責める訳にはいきませんが、京子の容態を見る都度切なくなるのです 交感神経に病巣が浸潤しているのでしょうか京子が、手の痺れを訴えます 
「彼女の検査は胸部X線写真と痰の中の癌細胞診断、気管支ファイバースコープにて観察と生検と進めた結果、彼女は肺門型の癌で脳をはじめ肺門部リンパ節・肋間神経など様々な臓器に転移していました」
「助からないのですか? 私の血でも臓器でも何でも使って下さい 助けてください 京子を助けて下さい お願いします お願いです・・」
「彼女の病名は肺癌ですがインフルエンザウィルスが作用した可能性が有ります」
「インフルエンザが癌の原因なんて、そんな事が有り得るんですか? そんな事聞いた事無いですよぅ・・」
「B型肝炎ウィルスとか、ヒトT細胞白血病ウィルスとか乳頭腫ウィルス等が有るのですが通常ウィルスに感染してから数年から数十年の長い潜伏期間で腫瘍が発生するんですよね しかし彼女の場合は人間以外の動物インフルエンザが発見されたんですよ」
「じゃあ俺が感染していて京子にウィルスを媒介したっう事!? 俺自身も保菌者なら隔離されなくっちゃ・・」


「ひろしぃ 逢えて良かった・・ょ 寂しかった」 
掠れた声が、痩せ細った体が痛々しい 何もしてやれない 病気に為らなければ今頃は・・・!
「京子ッ!!」
何故連絡を寄越さなかったのか? 何故俺は京子の事を健康面まで理解していなかったのか? 何故もっと会話をしなかったのか? 何故もっと早く気が付かなかったのか? 込み上げる気持は結果論でしか無いのですね
どんなに待っていた事か 逢いたかったのに何故知らない内に去ってしまったの?
苦しい思いを何故話してくれなかったの? 俺達は結婚する約束を交わしたんじゃ無かったの?
「京子! 結婚しょう」
俺は京子の手を握りながら、京子の弱いけどシッカリと俺を見つめる瞳を感じながら言葉を発した
「うん 一緒になりたい 退院して二人で一緒に生活がしたい」
京子と俺の年齢はふた周りも違うので、他人から見たら親子だったと思います でも恋愛に年齢差は無いと思います 極端な話し中国だと本人同士の年齢が、両方合わせて50歳だったら望ましいとか聞いた事が有ります
15歳と35歳で有ったとしても互いが協力し合う事で絆を強固にするのだそうです
「俺直ぐに戻ってくるよ 渡したい物が有ったんだ」
恋に年齢は有りませんが、お互いが死ぬ時を考えたら、少しでも独りの時間を過ごしたく無いのなら、互いの年齢は近い方が望ましいのかも知れませんね でもね 自分の存在自体を全て受け入れてくれるのが、恋愛から結婚に変わる時なんじゃないのかな 
一時間後、ICUに戻ってきた時に京子は少し疲れたのかウトウトとしていた しかし俺が戻って来た事に気が付くと声を掛けてくれた
「おかえり 」
京子が精一杯の声を発してくれる 息も絶え絶えだけど、俺を見つめる目は優しい
「京子俺と一緒になって欲しい 結婚届を持って来たんだ そして・・」
俺は京子の手を静かに取って、京子の左手薬指にユックリとEternitymarriageringを・・