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XXXIX 輪廻

己が健康で居る時なんて病気に為った時の事は考えないよ 況して自分が死んだりしたら残った家族は何を考えるのだろう 誰だっていつかは死んじゃうけど、幸せになってから、頑張って頑張って頑張って生き抜いて、平均的な寿命で、人生を全うして死ぬ冪だよ そして最後は自分の愛する人に最後を看取ってもらいたい

最愛の家族が亡くなってしまいました 動かなくなってしまった京子を見て、何故動かなくなってしまったのか理解出来ません 痩せ細った身体に手を充てる 京子の髪を撫ぜてあげる 止め処も無く流れる涙は彼女と一緒に行動を伴えない事 会話も出来ない事 一緒に買い物に往く事も出来ないし、一緒に御飯を食べる事も出来なくなっちゃったよ これからどうしたら良いのかな? 誰と話をするの・・!? 京子もう一度目を覚ましておくれよ 一緒に遊びに往こうよ! 一緒に家に帰ろう・・!? 黙っていたんじゃ分らないよ 答えておくれ 俺はまた一人になっちゃうよ
結婚式も挙げたいのに、待っていたんじゃないのか パンフレットだって貰って来たんだよ 勝手に居なく為っちゃうから、どれだけ探したと思っているんだよぅ やっと逢えたのに 一方的にお別れなんて寂しいよ 誰もが明日も多分今日と変わらない日々だと思っているんじゃないかな 一年後に、一ヵ月後に、一週間後に、辛い日々が来るなんて誰も思ってはいないよね 明日は未来なんだよ 誰も先の事など解かりはしない

朝、眼が覚めて隣に寝ている筈の京子が居ないんだよ 「多分これは夢なんだ 夢から覚めたらいつもと同じ生活なんだよな」 悲しくて涙が出てくる 夜、寝る時に現実を忘れて床に就く 明日、眼が覚めた時に今日の事が、現実を夢だった事にして ・・・ 今日も俺は生きている 寂しい 
悲しみに暮れる毎日です でも悲しみは当人だけのものです
他の人に、一番身近な人以上の悲しみを解かって貰う事は難しいのですよね 癌が浸潤する事は感染症と同じで抵抗力は低下して行く でも有る意味で放射線・薬・レーザー・温熱療法など癌に対しての治療方法は有るけど、早期癌で無い場合は安楽死の為の対策かもね でも安楽死は酷いよ 最後まで闘うのが生き物の生命力と権利だと思うが、安楽死は人間のエゴなのだろうか? 辛いのは当人しか解らないのだ だとすれば安楽死は望ましいのだよね 痛み止めとして当初は飲み薬だが、強い痛みの場合はモルヒネを使用するんだよ お酒に適量が有る様に鎮痛剤にも適量が有りますし各々で効果も違うけど、少量で飲み始めて徐々に薬の量を増やしていくんだよな 五時間ぐらいで切れる量を確定して、痛みが消える一時間前ぐらいに処方してもらうから廃人に成りづらいけどね でもね、痰に血が混じってから、呼吸困難・発熱・嗄声(しゃがれ声)などの症状が現れてくるのが忍びないよ 
亡くなった方に一番近しい存在の人が、やはり一番悲しいと思うのですが、自分と同じだけの悲しみを理解して貰う事は無理な事です 故人を悲しんでいただける人は、故人の過去を知り、或いは故人に伴う近しい人と境遇が似ているからなのです 誰だって、今現在元気で生きている人達だって、今この世に生を受けた赤ん坊だって、今から100年後にはこの世に多分存在していないでしょうね では、人は死んだらどうなるのでしょうか?
でも自分が死んだ時は向こうの世界に彼女が居てくれるんだよね 現世の時間は短いけれど、向こうの世界では一緒に過ごせるのかな 輪廻転生生まれ変わって新たな人生を一緒に歩むのかな 誰だって命有るものは死ぬ この本を書いている俺だって死ぬ この本を読んでいる貴方もいつかは死んでしまう 自然の流れの中で当たり前の事 抗う事は出来ない 

今は辛い 辛いけれど、亡くなってしまえば仏様です 仏を前にして坊さんが般若心経を唱えてくれる・・
観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。
空即是色。受想行識亦復如是。舎利子。是諸法空相。不生不滅。不垢不浄。不増不減。是故空中。
無色 無受想行識。無眼耳鼻舌身意。無色声香味触法。無眼界 乃至無意識界。無無明亦 無無明尽。
乃至無老死 亦無老死尽。無苦集滅道。無智亦無得。以無所得故。菩提薩。依般若波羅蜜多故。
心無礙 無礙故。無有恐怖。遠離一切顛倒夢想。究竟涅槃。三世諸仏。依般若波羅蜜多故。
得阿耨多羅三藐三菩提。故知般若 波羅蜜多。是大神呪。是大明呪。是無上呪。是無等等呪。
能除一切苦。真実不虚。故説般若波羅蜜多呪。即説呪日。羯諦 羯諦。波羅羯諦。波羅僧羯諦。
菩提薩婆訶。般若心経・・ 意味など解からないが、止め処も無く涙が溢れてくる アレッ!? オカシイな?判っていた筈なのに涙が溢れる 動かないよ 何故なの? 答えてくれないよ これからは独りぼっちだよ これからの時間! 今までの暖かかった身体が冷たく成った時の哀しみは形容し難い、筆舌し難いものである もう笑う事も、怒る事も、言葉を発する事が無い相手を見つめるだけで涙が止まらないよ 生前の面影を回顧して更に泣いてしまうのだよ 未だこれから沢山沢山する事が有ったのに・・一緒に笑い合える人が居ない事は寂しい事です